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第二十一話 マッドサイエンティストテリトリーその4

 アルティメイツであるレンブラントは、自らが得意とする炎の魔法のように激しく憤っていた。


 先ほどこちらに向けた疑いのまなざしを隠すそぶりすら見せなかった警備隊の小僧。

 一刻も早くスペアの眼球を手に入れるため単身魔道研究所へ足を運ばなくてはならなくなったことに対する焦り。

 それらが原因ではない。


 怒りの矛先はオルティスを縛りつけている根源的な害悪「エクスディアス法典」に向けられていた。


 経典にしるされた魔導以外は使用することができないという制約。

 それは魔導の探求を志す者にとってそれは耐えがたい屈辱そのものであった。

 未知なる魔導を生み出すことこそが魔導士として生を受けた者が目指す唯一絶対の真実であるというのに。探求を怠った魔導士に、生きている価値は無いというのに。


 それなのにエクスディアスは、この鳥かごに我々魔道士を閉じ込めて自由の翼を奪ったのだ。


 だというのに他のアルティメイツをはじめ、ほとんどの魔導士はそれを受け入れている。真実からは目を背け、ただただ既存の魔道をこねくり回し誤差とも呼べる変化に耽溺している。レンブラントはそんな仲間たちの体たらくにも腹がたっていた。


 かつて魔導士たちの楽園を作ろうと誓い合った高い志はいったいどこへ消えてしまったというのか。この現状が魔導士にとっての楽園だと本当に思っているのか。


 もしエクスディアス法典が存在していなければ、オルティスの稀有な環境を最大限に活用し、後天的に会得することは不可能と言われている治癒の魔導だとて自らの研究で生み出せていたかもしれないというのに。


 だからレンブラントは魔導研究所をつくった。


 他のアルティメイツ達とは違い、自分は魔導士の本分を忘れることはなかったことの証明のために。


 その甲斐あってか、すでに治癒魔法の前提となる領域には到達出来ているとレンブラントは自負する。

 あとほんの少しの応用で無から生命を生み出せるようになるはずだ。

 そしてゆくゆくは全魔導士の悲願でもある不老不死の秘術へと至る。あのエクスディアスですら到達することはかなわなかった神の領域だ。


(だいたいこのオルティスの地でいったい自分以外の誰に失った光を取り戻す術があるというのだ。たまたま治癒の力を持った小娘たちにも不可能であろうが)


 オルティスの治癒を寡占している癒しの魔導士たち。それらに頼ることなく自らの力で人を治す。


 このオルティスを真の魔導士の楽園にできるのは自分しかいない、自分だけなのだ。 


 レンブラントはそうやって溢れださんとする怒りを中和しながら、闇と同化する魔導に身を包んで研究所への道をたどっていた。


 その道筋を、後から辿っている者の姿にも気付かずに―――



―――――――――――――――――――――――――


 魔道研究所という名前の割にその内部はいたって平凡でラグネイトは拍子抜けした。


 廊下にはじゅうたんが敷かれており両側にドアが等間隔で並んでいる。その他よけいな装飾はいっさいなく簡易的な宿泊施設といった印象だ。


「元々は異国の客を止める宿泊施設だったようです。払い下げられて公的にはレンブラント特務隊の宿舎となっておるようがな」


 小癪な偽装ですとバアトルは鼻白らむ。


「まあ研究所と看板を掲げるワケにはいきませんからなあ。ガッハッハ」


 笑うバアトルの目は、しかしまったく笑ってはいなかった。


「分かるよ。ここに漂う匂いは本物だ」


「…そうですな」


「急ごう。さっきの音が聞かれた可能性もある」


「ごもっともで」


 バアトルはそう言うと廊下を突っ切って奥の階段へと向かった。

 

 最初ラグネイトは昇っていくのかと思ったが、バアトルはその逆、下り始めた。


 そして2フロアほど下ったところで、唐突に階段は終わった。

 先ほどのように客室に通じる通路はなく、棚やその他の雑多な道具であふれている物置きのようなスペースだった。


「……おい」


「慌ててはなりませんぞ。ここからが本番です」


 バアトルは巨体を丸めて床に這いつくばると鼻先を地面にすれすれまで近づける。

 照明もなく、ただでさえ秘面で視界が奪われているラグネイトには、バアトルが何をしているのかサッパリ分からなかった。


「ありましたぞ。少し下がっていてくだされ」


 バアトルが言い終わらないうちに床の一部がスライドして新たな階段が姿を現した。

 その奥は黒で塗りつぶしたかのような漆黒が広がっており、たとえ秘面を被っていなかったとしてもその奥を見通すのは困難に思えた。



「ようこそ魔導研究所へ」


 暗闇の中でバアトルがおどけてみせる。

 その目が怪しい輝きを放っていた。ラグネイトがよく知る光だった。


「ここから先には敵しかおりません。何かがおりましたら躊躇なく刃をふるって下されよ」


 バアトルはそう告げると先立って階段を下っていった。


「……敵しかいない? いったいどういうことだ」


 ラグネイトの内に生まれた違和感は、戦場の空気の前ではささいなことだったので、そのまま捨て置かれた。

 

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