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第十話 人違いからはじまる伝説


 グラムの提案の意味は聞かなかった。


 ラグネイトにとって過程ではなく結果だけが重要なのであったから。


「それにしても一晩で大した変わりようだ」


 ここレンブラント統括地区にいる魔導士はすべからくカカシに害をなす悪しき魔導士ばかりである。


 それらを手当たり次第に駆逐しろということは、とりもなおさずレンブラント統括地区にいる魔導士全員がターゲットと言っているようなものだ。


 昨日まで日和見的な弱音を吐いていた男の発言とは思えない強気の発言にラグネイトは兜の奥で苦笑する。


「まったく簡単に言ってくれる。秘面の性能を知っているヤツだからこそ言えることか――――ん!?」


 その時、ラグネイトは気づいてしまう。

 この作戦の根底にある重要な問題に―――


「……魔導士とカカシの区別なんてどうやってつければいいんだ……?」


 エンドバーのようなアルティメイツ級ならば服装で見分けはつく。

 だがそれ以外の格下の魔導士となると外見で判別することは容易ではない。

 研究に明け暮れその他のことには無頓着な魔導士は、ボロ布をまとったカカシとそう大差ない格好をしているのが常であるのだから。


「この暗さじゃヤツらの星もろくに確認できない……困ったな……」


 道の往来で途方に暮れるラグネイト。


 そんな彼の思案はすぐ近くから聞こえてきた争い声に吹き飛ばされる。

 そしてその直後に夜の空がオレンジ色に染まり、閃光と共に降ってきた激しい爆風が秘面をカラカラと揺らす。


「…今のは爆発か!?……考えていても仕方がない、とりあえず行くか!」


 大きく上がった煙の柱を目印にラグネイトは駆け出していく。


 その焔の中心に自らの運命を変える出会いが待っていることを彼はこの時まだ知らなかった。


―――――――――――――



「パパ!! パパ!! 死んじゃやだよぉ!! お願いだから目をあけて!! パパ!!」


「……………………」


 黒焦げになった男の傍らで、ボロボロの衣服をまとった幼い少女が悲痛の叫び声を上げていた。


「パパ!! パパ!!」


「……………………」


 少女は何度も呼びかけながら小さな手で何度も何度も男をゆすっていた。

 だが、男は覚醒するどころか反応すらみせなかった。


 それでもあきらめずに彼女は何度も何度も同じ行為を繰り返す。


「ハハハハ馬鹿かこのカカシは!? レンブラント様直伝の爆裂魔法フレア=レイを直撃させたんだぞ。生きている訳がなかろう」


 少女は数人の魔導士たちに取り囲まれており、その内の一人が少女の愚直な行為をせせら笑う。


「四肢が吹き飛んでいないのが不思議なくらいだ。さすが筆頭反乱者と呼ばれていた男だけのことはある」


「パパ!! パパ!! 目を覚ましてよぉ!!」


「ムダだと言っているのに愚かな娘だ。やはりカカシは生きるに値せん存在といえよう」


「おいウルシどうするつもりだ」


「どうするだと?」


 ウルシと呼ばれた魔導士は、少女に向けて右手を掲げる。その手の平から魔法の光が迸る。


「燃やすつもりだが」


「ちょ、ちょっと待てって!?」


「なにを待つ必要がある? レンブラント様はこの統括地区の反乱者をすべて滅せよと仰せだったのだぞ。この娘もそれに連なる者だ。禍根は一匹残らず燃殺するのみ」


「だけどよぉ」


「なんだ? 貴様、下らん博愛主義に殉じていっしょに消されたいのか?」


 ウルシの手のひらが自分へ向けられたのを見て男は大きくかぶりを振る。


「そっ、そんなワケねぇだろ! ちょっと待て、やめろ!」


 ウルシと他の魔導士たちにはどうやら実力差があるようで、ウルシの一挙手に彼らは明らかにビクついていた。

 さもありなん、ウルシの胸に輝く星の数は他の魔導士たちよりも2つも多かったのだから。


「すぐに殺しちゃつまんねぇだろ。ちょっと愉しんでからにしようぜってことさ」


 ウルシは同僚たちが何を言っているのかすぐに理解できなかった。

 そしてその意図を察しあきれてしまう。

 

「愉しむだと……?…………まだ子供だぞ」


「おいおいだからいいんじゃねぇかよ、それに死んだ父親の前でなんて最高に燃えるシチュエーションじゃねぇか、お前も分かってねぇな」


 ニヤついた際に同僚たちの黄ばんだ歯が垣間見え、ウルシは眉をひそめる。


「まったく貴様たちとは趣味が合わん! 始末さえしておいてくれればあとはどうでもいい! 好きにしろ」


 そう言うとウルシは男たちに背を向けスタスタと歩いて去ってしまう。

 その瞬間を待ちわびていたのか、魔導士たちはいっせいに少女にとびかかりその自由を奪おうとする。


「きゃ!! な、なに!?」


「ホラおとなしくしろ! チッ、なんだこのガキ、スゲェ力だぞ! オイ!」


「ああ分かってるよ、ホラ」


 魔導士の一人が印を結ぶと緑色の輪が現れそれが少女の首と腕に巻き付く。


 光の捕縛魔法、暴徒鎮圧用に編み出された魔法であり、オルティスの魔導士が日常的にカカシに使用している魔法である。


「ゥゥゥゥッ!!! ウゥゥゥッ!!!」


「さすがに魔法は力じゃどうにもできねぇだろ、ほら、おとなしくしやがれ」


「ゥゥゥゥゥゥゥッッ!! ゥゥッ!!!」


 自由を奪われた少女はさるぐつわをされ、その奥から怨嗟の声を上げる。


 まだ何も知らない彼女は、それが男たちの嗜虐心を刺激するだけの行為だという事を知らなかった。


「へへっ、たまんねぇなぁ。オイ、脚を押さえておけ、まずはどんなのを履いてるか見てやるとしようぜ」


「ゥゥゥゥゥゥッ!! ゥゥゥゥッ!!」


 男はおもむろに少女のスカートに手をかけそして一気にまくりあげる。

 そしてそこに現れた光景に目を見開く。


「……おいおいなんだよなんだよ、最近のカカシはよぉ、準備万端ってワケか? それとも下着も変えられねぇほど貧しいのかねぇへへっ」


「オ、オイ、はやくしろよ」


「分かった分かった、さもしいねぇ。オイお嬢ちゃん、おじちゃんがすぐに気持ち良くしてあげるからねぇ」


 そう言うと男はズボンに手をかけベルトを緩めていく。


 少女はまだ何も知らない乙女であったが、本能がなにか危険を察知したのかとつぜん全身をよじり今までで最大の抵抗をはじめる。


「フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!! フゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」


「あわてんなって、もうすぐだからよぉ」


 首を押さえられているため少女の角度からは男が何をしようとしているのかが見えない。

 ただ自分の股間のあたりで男がかがみ込んだところまでは見えた。


「フゥッ!! フゥッ!!」


「ほぅら女になる瞬間だ、パパにしっかり見ててもらえよ」


「ウッ、ウッ~~~~~~~!!!」


 少女の下半身を男が抱え込み、股間に異物をあてがう。

 そしてその異物がちょっとづつ自分の中へ侵入しようとしているのを少女が感じた。


 いったい今何をされているのか、分からなくて、痛くて、怖くて、恐ろしくて、そして誰の助けもないことに絶望して、少女は思わず叫んだ。



 自分の信奉する勇者の名を――――




ファンフヘイフ(ザンブレイブさま!!)~~~~~~~~!!」





 ビュンッ





「はがっ」




 風がうなる音が聞こえ、その後になにか生暖かい液体が少女の胸元へ降り注ぐ。

 そしてそれと同時に少女が股間に感じていた圧迫感が遠ざかっていく。

 

 いったい何が起きたのか、訳が分からず少女が薄目を開けるとすぐ真横に男の顔があった。


 だがその表情は先ほどまでの下卑たうすら笑いではなく、目を見開き何かに驚いているような表情であった。

 

 そしてその首から下には何もない虚空が広がっていた。

 


「な、なんだっ!!?」


「ゴ、ゴーガンの首が飛んで、死、死んだ」


「だ、誰がっああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


「おわぁぁぁぁぁ!!!!」


「な、なんだおまえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



 その後に悲痛な叫び声が続き、少女は思わず身体を縮こまらせる。


 そのままじっと耐えていると、しばらくして悲鳴は鳴り止んだ。


 そして少女は自分を縛り付けていた戒めの魔法が解けていることに気付き、ゆっくりと起き上がる。



 いつの間にか周囲には死が充満していた。



 首のない死体、血まみれの死体、関節があらぬ方向へ曲がっている死体、彼らの襟元にいまいましい星が輝いていなければそれが先ほどまで自分を取り囲んでいた魔導士たちの慣れの果てだと分からなかっただろう。


 それほどまでに変わり果てた死体、あまりの凄惨な光景に、取り乱し泣き叫びそうになる。



 だが、そうはならなかった。



 彼女はその時、恐怖以上にときめいてしまっていたのだから。


 おとぎ話の存在だと思っていた伝説の勇者が、敬愛してやまない彼女にとっての神が自分を見守るように立っていたのだから。



「ザンブレイブさま―――」



 秘面の角を天に突き立て仁王立ちするラグネイトを見て、少女は心の中でそうつぶやいた。

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