第一話 かわいそうなカカシ
オルティス魔道都市は魔導士たちにとっての楽園と呼ばれている。
オルティス魔道都市は魔導士たちにとっての楽園と呼ばれている。
なぜならここでは魔力を持ってさえいれば魔力を持たない者にどんな行為をおこなっても罪に問われることはないからだ。
その財産を奪いあまつさえその命を奪ったとしても、それを裁く法律はオルティスには存在していない。
魔力を持っていないのが悪い、それで終わりとなってしまう。
そんなオルティスに暮らす総勢1万人もの魔導士の生活を支えているのは、魔道士の10倍以上にもなる先住民―――魔力を持たないカカシ人と呼ばれている―――たちの無償の奉仕によるものであった。
このオルティスはもともとカカシたちの国だったのだが、人智を超えた力を持つ魔道士たちに襲撃され彼らは瞬く間に征服されてしまった。
その後はカカシとして奴隷以下の扱いを受けている。
魔導士の気まぐれで殺されるなどは日常茶飯事であり、新作魔法の実験体にされて四肢が爆散したり怪し気な魔法薬の治験体にされて獣から二度と人の姿に戻れなかったりと、考えうる全ての非人道的行為がカカシたちに対して日常的に行われている。
カカシたちは魔導士の機嫌をそこねないよう、従順に、いつ果てるとも負えない死の恐怖に耐えながら過ごすしかなかった。
そんな肉体的にも精神的にも追い詰められていたカカシたちだが、中にも気骨のある者もおり、そういった連中が蜂起することも時たま起きた。だが、その反抗はいつも日をまたがずに鎮圧されるのが常であった。
なぜなら魔導士とカカシの戦力差を埋めるための「武器」を彼らは手にすることが出来ないのだから。
オルティス全域には武器を検知する特別な魔法が張り巡らされており、カカシたちの蜂起を不可能なものとしていた。ナイフの一本でも手にしようものならすぐさま異常を察知した魔道憲兵が押し寄せ捕らえられてしまう。
そのあとに待ち受けているのは死よりも過酷な拷問だ。
武器検知魔法の精度は非常に高く、武器以外の凶器とみなされるような刃物、鈍器、ありとあらゆる道具にも反応する。そのためこの都市からはおおよその道具が一掃されていた。
そのためカカシたちは獣のような生活を送ることを余儀なくされ、まともな思考と人間としての尊厳までも奪われていく。
オルティス魔道都市は魔導士たちにとっては至上の楽園である。
そして魔力を持たないカカシたちにとっての地獄でもある。
だがそんな魔力至上主義者たちの楽園をおびやかす、ある事件が起きようとしていた。