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虚弱な魔王様は今日も女騎士に抱っこされています  作者: 風嵐むげん
第一章 虚弱魔王と最強女騎士
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第六話 堂々と引きこもることが出来る状況って物凄く貴重では?

「ハルトムント様は、何もしなくていいのです。惰眠をむさぼるのも良し、妄想にふけるのも良し。このお部屋から出ないようにして頂ければ、お好きに過ごしてくださって頂いて構いません」

「ええ? でも、魔王って色々とやることがあって忙しいんじゃないの? ていうか、魔界の主導権が僕にあるって言ったばかりじゃないか」

「ええ、確かにそうです。ですが、ハルトムント様が十年間お眠りになっていた間に、魔界の政治のあり方が変わったのです。簡単に説明させて頂きますと、それぞれの種族の中から選ばれた代表者が会議を開き、政策などを決めるのです」


 シオンの話を纏めると、僕が眠っている間に日本でいう国会のようなものが出来たんだって。

 今の僕は、言ってしまえば天皇陛下みたいなものということか。魔界の象徴という立場らしい。だから政治に関わることは出来るが、何もしなくても政治が滞ることはない。

 ……だとしても、公務とか視察とか色々やることはあると思うんだけど!


「ですので、ハルトムント様は政治なんかに関わる必要はありません。あんな複雑で面倒なものは、考えることが得意な者に任せるべきです」

「いや、でも」

「そもそも、ハルトムント様はまだ病み上がりです。今は元気になることだけをお考えください」


 彼女がまるで、子供に言い聞かせるように言うものだから。反論する余地がなく、結局僕は何も言えずに黙るしかない。

 すると、シオンがふっと表情を和らげた。


「心配は無用です。何が起ころうとも、ハルトムント様のことは私が護りますから」

「……ねえ、シオンはどうしてそこまでしてくれるの?」


 ふと思う。彼女は十年間も、僕の傍に居てくれたと言っていた。どうして、そこまでしてくれるのだろう。

 僕が忘れてしまっている記憶の中に、答えがあるのかもしれないが。でも、僕の問いかけにシオンは表情を引き締めて言った。


「もちろん、私はハルトムント様の護衛騎士ですから。命をかけて貴方をお護りする、それが私の約目なんです」

「本当に、それだけなの?」

「ええ。さあ、朝食を済ませましょう。キナコを部屋に入れますね」


 半ば一方的に会話を切られてしまった。今はこれ以上話を聞くことは出来ず、僕は頷くしかなかった。まあ、誰にでも話し難いことはあるからね。日を改めるか、彼女の方から話してくれるのを待つことにしよう。

 それによく考えれば、日本ではずっとゴロゴロしていて良いなんて言われたことなかったし。王様なんて大変なことをしなくても良いなら、この部屋でずっとゴロゴロのんびりしよう。



 ……そう決めたのだが。


 ゴロゴロ生活、三日で挫折しました。


「くぅーん。魔王さま、ゲーム強いわん。盤面真っ白だわん。どのゲームでもキナコじゃすぐに勝てなくなっちゃうわん」

「う、うん。そうだねー……」


 チェスに似たボードゲームの盤面を見ながら、ぺたんと悲しそうに犬耳を寝かせるキナコちゃん。僕が魔王だから接待プレーをしているのかもしれないけれど、彼女はカードゲームもダイスゲームも弱かった。いや、勝ち負けは関係なくゲームは楽しいんだけど。

 ……飽きが、凄い。


「わん? 魔王さま、このゲーム飽きちゃったわん?」


 盤面に散らばった駒をガチャガチャとかき集めながら、キナコちゃんが首を傾げる。シオンに部屋で引きこもるように言われてから、早くも三日が経ってしまっていた。

「次はどのゲームにしようかわん」と言いながら片付けるキナコちゃんから目を離し、部屋の中を眺めながらこの三日間を思い返す。


 一昨日、ひたすらベッドで寝た。

 昨日、ベッドの中からずっと窓の外を眺めた。

 そして今日、ベッドの上で朝からずっとキナコちゃんとゲームをしている。


 以上。お風呂とトイレ以外、ベッドから一歩も動いてない。


「魔王さまはどんなゲームがお好きだわん? あ、それともお茶の時間にしましょうかわん? ハルトムント様は甘い物がお好きだってシオンから聞いたわん」

「え、まあ好きだけど」


 どうしよう。このまま食っちゃ寝してたら運動不足な上に確実に太る。シオンは本当に僕にこんな生活を続けさせるつもりなのか。

 もしかして、シオンの真意は別にあるんじゃないだろうか。


「はっ! ま、まさか……皆で僕を太らせて食べる気なんじゃ!?」

「わおん? 魔王さまみたいな悪魔は、太らせて食べても美味しくないわん」


 辿り着いた仮説にひえっと声を上げて震えるも、キナコちゃんがさらっと否定した。良かった、食べられることだけはないようだ。

 ちなみにキナコちゃんの言い分は僕をディスったわけではなく、今の僕が『悪魔』という種族であるという意味だ。見た目としては頭に羊のような角が生えていること以外、人間の頃と大して変わっていない。

 悪魔は魔法に長けているっていうけど、魔法の使い方なんて全くわからない。わからないことだらけなのに、何も知ることが出来ないまま時間を消化している感じが物凄く苦痛だ。

 せめて、外に出られたら良いんだけど。


「それでは、キナコは別のゲームとお菓子とお茶を持ってくるわん。ハルトムント様はここで良い子で待ってるわん」


 キナコちゃんがゲームを片手で抱えたまま、ぴょんと立ち上がる。なぜだか年下の彼女に子供扱いされているが、気にしないでおこう。

 それよりも、いいことを思いついた。


「ねえ、キナコちゃん。僕もゲームを選びに行って良いかな?」

「え?」

「何度も往復させちゃって申し訳ないからさ、僕が直接選びに行った方が早いかなって思って」


 振り返ったキナコちゃんが、目をぱちくりと瞬きさせながら僕を見た。

 あれ、そんなに変なこと言ったかな。それとも、ゲームを選ぶついでに部屋の外に出るっていう目論見がバレたのかも。


「えっと……だ、だめかな?」

「くうん……シオンには魔王さまを外に連れ出すなって言われてるのわん。約束守らないと、夕食にピーマンを食べさせられるんだわん。ピーマンは苦いからイヤだわん」


 キナコちゃんがさっき以上に耳を寝かせて、尻尾までだらんと下げてしまった。うう、そんな悲しそうな表情を見せられてしまっては、これ以上食い下がることは気が引ける。


「すぐに戻ってくるから、ここに居てくださいわん」


 黙った僕を置いて、キナコちゃんが部屋を出て行った。仕方ない、女の子を困らせるわけにはいかない。

 一回死んだし、世界も変わってしまったが。お婆ちゃんから教えて貰ったモットーを変えるつもりはないからね。

 とは言っても、このままこの部屋での生活が続くのかと思うと不安しかない。変わらない景色に、一人でゴロゴロ食っちゃ寝で過ごすなんて。


「いや、待てよ。今、この部屋には僕一人しか居ない……ちょっとくらい、外に出てみてもバレないよね?」


 ナイスアイデア! 自分で自分を褒めながら、ベッドの上を這って床へと降りる。先日の失敗を踏まえて、今回は落下せずに無事に床へ立つことが出来た。

 けど、ここからが難題だった。


「う、うわわわ! たたた、立てない! 歩けない! 歩くのってどうやるんだっけ!?」


 歩く為に片足を踏み出そうとすれば、バランスを保てずその場に倒れ込んでしまう。立つだけなら、ベッドやサイドテーブルに掴まれば何とかなるけど。歩くのは無理だ。

 ……今までのお風呂やトイレはシオンに支えて貰って何とかなってたけど、一人で歩くことも出来ないなんて。


「うう、情けなさすぎる……いや、でもここで挫けちゃ駄目だ。諦めたらそこで試合終了だからね!」


 どこかで聞いた気がする名言を口にしながら、四つん這いでドアまで何とか辿り着く。大きくて重そうな両開きの扉だが、僕が通るだけなら片側だけでも開けられれば十分だ。

 


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