表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚弱な魔王様は今日も女騎士に抱っこされています  作者: 風嵐むげん
第一章 虚弱魔王と最強女騎士
5/7

第五話 わんわんわん!


 翌日。やっぱり僕は豪華なベッドの上だった。結局昨日は熱を出して寝込むだけで終わったが、今日は何かしら建設的なことをしていきたい。

 というのも、どうやら僕は魔王らしいので。魔王ということは、王様だということなので。全く想像出来ないが、仕事は何かしら色々あって大変なのだろう。

 まだ前世の未練とか後悔とか色々残ってるけど、気持ちを切り替えないと!


「ハルトムント様、お目覚めでしょうか。シオンです、お部屋に入ってもよろしいですか?」

「あ、えっと……ど、どうぞー」


 頬をペシペシと叩きながら自分に言い聞かせていると、ノックの音と共にシオンの声が聞こえてきた。

 ああ、まだ着替えどころか顔すら洗ってないのに。初っ端からつまづいてしまったことに軽く落ち込みつつ、笑顔でシオンを出迎える。

 寝起きの僕とは対照的に、シオンはビシッと身支度を整えていた。時間はわからないが、まだ早い時間だと思うんだけど。


「おはようございます、ハルトムント様。ロレッタは後で参りますが、お体の具合はどうでしょうか?」

「うん、もう大丈夫だよ」

「そうですか、それは良かったです」


 ほっと胸を撫で下ろすシオン。ほんの少しだが、顔を綻ばせる彼女に不思議と胸がじんわりと温かくなってくる。

 彼女が笑ってくれたら、きっと凄く綺麗なんだろうなぁ。


「ハルトムント様、本日より側仕えを一名配置いたします。このお部屋の外に待たせているのですが、お会いして頂いてもよろしいでしょうか?」

「え? うん、どうぞ」

「ありがとうございます」


 一礼してから、一旦シオンが部屋の外へ出た。そしてすぐに戻ってくると、彼女の後ろに一人の少女が居た。

 ベッドの前で立ち止まり、にっこりと笑いながら少女がはきはきと言った。


「初めまして、魔王さま。今日から魔王さまのお世話を担当します、キナコ・ダイフクと申します、わん!」


 セミロングの亜麻色の髪に、黒色の瞳。ロレッタさんのことがあったからちょっと身構えたけど、メイド服を着た十代後半くらいの普通に可愛らしい女の子だった。

 ……ふっさふさの尻尾と三角の犬耳がある少女を『普通』って思ってしまう辺り、この世界に馴染んできたって思ってもいいのかな。

 いや、ていうか。


「……きなこ大福?」


 うーん、美味しそう。この世界にもきなこってあるのかな?


「じゃあ、キナコちゃん……で、良いのかな? よろしくね、キナコちゃん」

「わんわん! 魔王さまにお名前を呼んで貰えて嬉しいですっ、末永くよろしくお願いします、わん!」

「わん! あはは、元気で良いね」


 嬉しそうに耳と尻尾をパタパタさせるキナコちゃん。柴犬みたいで可愛い。撫でまわしたい。でも、手を伸ばそうとしたところで気難しい咳払いが割って入ってきた。

 目を向けると、何やら文句でも言いたげな表情のシオンと目が合ってしまった。


「……キナコはこんなですが、手先が器用で体力もあります。何でもお申し付けください」

「は、はい」


 な、なんか、怖い。文句は言われなかったが、絶対に何かに苛立ってる。僕、何かした?


「……わふふっ、シオンってばヤキモチ焼いてるわん。わかりやすいわん」

「や、ヤキモチなど誰が焼くか! 変なことを言うなキナコ!」

「きゃうーん! シオンが怖いわんっ。魔王さま、助けてわん!」

「うわわっ!?」


 ガバッと逃げてくるように、キナコちゃんが抱き付いてきた。

 ち、近い! お花みたいな良い匂いがするし、何かはわからないがとても柔らかいものが当たっている。


「こ、こらキナコ! ハルトムント様から離れろ! ご迷惑だろうが!!」

「わふふん。これでシオンよりも一歩リードだわん。キナコの身長を吸い取ったのが悪いんだわん!」

「吸い取ってない! お前の背が低いのは好き嫌いばかりするせいだ!」

「あわわわ……どういう状況なの、これ」


 ぎゅうぎゅうと抱きついてくるキナコちゃん。シオンが彼女を剥がすまで、僕には慌てることしか出来なかった。



「失礼しました、ハルトムント様。キナコには、私なりに厳しく言い聞かせたつもりだったのですが……何か不愉快なことがあれば、すぐに言ってください。ビシバシ指導しますので」


 あれからしばらく。キナコちゃんは僕の朝食の準備をしてくれるということで、部屋を出て行った後だ。


「えっと、ちょっとびっくりしたけど大丈夫。元気いっぱいな感じが良いと思うし、子犬みたいで可愛いよね」

 

 物凄い疲労感に辟易しつつ、僕は笑って答えた。結構強烈だったけど、シオンやロレッタ先生とは違う親しみやすさがあるし。彼女のような存在は、周りも明るくしてくれる。

 光春の時、近所の家で飼われていたワンコを思い出す。懐っこくて可愛かったんだよなぁ。


「子犬……ハルトムント様は、小さい方がお好きなのか」

「へ?」

「い、いえ! 何でもありません!」


 気まずそうにシオンが視線を逸らす。そういえばキナコちゃんと争っている時、身長がどうとか言ってたっけ。


「ねえ、シオンって凄く背が高いけど……エルフの人って皆そうなの?」

「うぐ! その……確かにエルフは高身長の者が多いですが、私はその中でも特に大柄な方で……幼い頃からずっと剣の修行をしていたからだと思うんですけど」


 今までの凛とした彼女はどこへやら、ボソボソと最後の方は消え入るように話すシオン。

 これは、どうやら自分の体格の良さを相当気にしているらしい。アラサーの僕が立って並んでも、頭一つ分は負けてるかもしれない。

 でも、自分の見た目を気にする彼女はただの可愛い女性だ。


「うーん、でも気にしなくて良いとおもうけどな。モデルさんみたいで格好良いよ」

「モデル? モデルってなんですか?」

「あ、いや、なんていうか……とにかく背が高いシオンは格好良いんだよ!」


 誤魔化すように捲し立てるが、シオンが格好良いのは本当だ。今の僕が病み上がりだからか、彼女の健康的な格好良さが際立って見えるのだ。


「そう、ですか。ま、まあこの身は陛下をお護りする為にあるので……き、気に入って頂けたようです何よりです」

「言い方もう少しどうにかならない?」

「と、ところでハルトムント様。魔界を治める王として、貴方の役目をお話させて頂きます」


 急に話の流れが変わった。未だにベッドの上でパジャマ姿だが、大事な話なので背中を伸ばしてシオンの言葉を待つ。


「昨日も申し上げたように、今の魔王はハルトムント様です。魔界における主導権は貴方の手の中にあります。ですから、ハルトムント様には自覚と責任を持って頂く必要があります」


 真剣な面持ちのシオンに、どうしても緊張してしまう。ただの会社員だった僕に務まるかわからないが、こんな身の上になってしまっては嫌だとは言えない。

 ……流石に人間界を滅ぼせとか、お姫様をさらえとか言われたら無理だけど。思わずごくりと喉を鳴らして、シオンに続きを促した。


「わ、わかった。全然想像出来ないし、色々迷惑をかけると思うけどやってみるよ。それで、僕は何をすれば良いのかな?」

「何もしなくて良いです」

「……へ?」


 きょとんと、僕は首を傾げた。あれ、聞き間違えたかな? そう思ってしまう程、シオンの言葉は予想外だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ