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虚弱な魔王様は今日も女騎士に抱っこされています  作者: 風嵐むげん
第一章 虚弱魔王と最強女騎士
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第四話 大出世! サラリーマンから魔王さまになっちゃった!

「……ハルトムント様は十年前のある事件がきっかけで、ずっと眠っておられたのです」

「ある事件……怪我をした、ってこと?」

「怪我も負われましたが、それよりも精神的なショックの方が大きかったのだろうと思います。何せ、その時にお父上を亡くされましたので――」

「ロレッタ!」


 ロレッタ先生の話を遮るように、シオンさんが声を荒げた。なるほど、よくわかたないけど大変な事件があったらしい。全く実感が湧かないので、お父さんが亡くなったとか言われてもピンと来ないが。

 とにかく、この世界の僕は十年間眠り続けていた。身体が上手く動かせないのも、それが原因だろう。

 異世界転生でよくある、前世と今の記憶をいい感じに思い出せるっていう状態にならないのも、十年眠っていたことが原因なのだろう。

 ある事件……気にはなるが、正直今は気持ちがいっぱいいっぱいで余裕がない。だから事件についてはまた今度聞くとして、僕はもう一つ気になることを聞くことにした。


「えっと、それならもう一つ教えて欲しいんだけど。僕の名前がハルトムントなら、さっきからちょこちょこ二人が言ってる『ヘイカ』って何?」

「ああ、そうですね。それは最初に説明しておくべきでした。ロレッタが申し上げた通り、十年前の事件でお父上……つまり、先代の魔王陛下が亡くなられた後、ハルトムント様に王権が引き継がれていたのです」

「いや……そうじゃなくて」


 シオンさんは当然のことのように話してるけど……どうしよう、わからない単語が増えただけだ。

 ええっと、つまりお父さんが亡くなったから、僕が代わりに魔王さまになったってことかな。


「……えっ、魔王? 王権を引き継いだって、僕が魔王様になったってこと?」

「はい。先代にはお子様がハルトムント様しか居られなかったので、陛下が眠っている間に手続き等はとっくに終わっています。権力争いも特に無く、スムーズでした」

「いや、いやいやいや! 王さまって、あの王さまだよね!? しかも魔王ってことは、魔界でなんか悪いことをしたり、人を困らせたりしなきゃいけないってこと!?」

「ええっと、確かにここは魔界で、ハルトムント様は魔界の主ですが」

「なぜ陛下は、悪いことと人を困らせることについて義務だと思っていらっしゃるのでしょうか?」


 首を傾げる女性二人。どうしよう、転生したことと身体のことだけでも理解が追いつかないのに、魔王さまって! 元会社員に出来る仕事じゃないよね!?


「ええぇ……そんな、無理だよぉ。僕が魔王さまだなんて……」


 思わず掛け布団を頭まで被る。もういっそのこと、転生のことも全部話してしまおうか。今の僕はハルトムントではなく、小幡光春であるということがわかって貰えれば、魔王さまになんてならずに済むかもしれない。でも、どうやって説明すればいいのかもわからない。

 ピラミッド並みに積み上がる無理難題の山にうんうん唸っていると、温かい手が布団越しにぽんぽんと頭を撫でてきた。


「大丈夫ですよ、ハルトムント様。あなたは私が必ず護ります」

「シオンさん?」

「シオン、と呼んでください。私はハルトムント様を護る為に存在し、この十年間は一日も欠かさずに鍛錬を続けて参りました。反乱軍であろうが勇者であろうが、陛下を害する者は私が始末します」


 恐る恐る、布団から顔を覗かせるとシオンさん……いや、シオンと目があった。優しく微笑む彼女に、なぜか胸がじんわりと温かくなった。十年間、僕が眠っている間も彼女は傍に居てくれたのか。

 少しだけだが、気持ちが上向きになる。彼女が傍に居てくれるのなら、何とかなる気がしてきた。


「うふふ、こんなに嬉しそうなシオンの顔は初めて見ました。でも陛下、シオンは本当に陛下の傍に居たのですよ。眠っている間も話し掛けたり、抱っこでお散歩に行ったり。それはもう甲斐甲斐しく尽くしていたのです」

「ちょ、ロレッタ!」

「冗談ですよ。それでは、わたくしは一旦失礼しますわ。夕食の後のお薬をお持ちしますので、しっかり飲んでくださいね」


 口元を手で隠しながら、クスクスと笑うロレッタ先生。一礼してから、僕に背を向けて部屋を出て行く後ろ姿を見送る。階段とか昇れるのかな?

 不思議に思っていると、シオンが僕の肩を軽く押した。


「夕食までは時間があります。お疲れでしょうから、少しお休みになってください。大丈夫です、私はずっと傍におりますので」

「……うん、わかった。ありがとう、シオン」


 シオンに促されて、僕は目を閉じる。彼女の言う通り疲れていたらしい。心地良い眠りに落ちるまで、そう時間はかからなかった。

 



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