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虚弱な魔王様は今日も女騎士に抱っこされています  作者: 風嵐むげん
第一章 虚弱魔王と最強女騎士
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第三話 美女に抱っこされていたのを不特定多数に見られていたことは全力で忘れることにした


 気が付くと、僕はまた豪華なお部屋のベッドの上だった。おかしい、確か銀髪の女性に抱っこされて部屋の外を駆け抜けたところまでは覚えているんだが。どうやら途中で気絶してしまったらしい。

 ていうか、このベッドから脱出するの結構大変だったのに! 釈然としない心境だが、どうやら文句を言って良い状況ではないようだ。


「陛下がお目覚めになったというのは本当ですか!?」

「ひと目だけでもお目通りを! 自分はまだ一度も陛下のお姿を拝見したことがないのです! 一分、いや十秒で良いので!」

「陛下、どうかお声だけでも聞かせてくださ――けばぶっ!!」

「ええい、やかましいぞ貴様ら! 陛下はお休み中だ、蹴られたくなかったらさっさと仕事に戻れ!!」


 何故だか、この部屋の前に大勢の人が殺到しているらしい。そりゃあ、アラサーの男が美女に抱えられてたら話題になるだろうけど。

 ていうか、ちらっと見えたけどクマみたいな屈強な男の人を銀髪の女性が片手で投げ飛ばしたような。幻覚かな。


「え、えっと」

「ふふ。皆、陛下がお目覚めになったのが嬉しいのですよ」


 僕が何か言うよりも先にベッドの脇に立つもう一人の女性が話しかけてきた。シニヨンに纏めた深い緑色の髪に、涼し気な灰色の瞳。白衣を着ており、年齢は……よくわからないが、大人の女性って感じの美人さんである。

 上半身だけ見れば、の話だけど……。

 

「とにかく陛下、ご無事で良かったですわ。全くシオンってば、病み上がりの陛下を抱えて城内を全速力で駆け抜けるだなんて」

「うう、すみません……ハルトムント様が目を覚ましてくださったことが嬉しくて、気が付いたら風になってました」


 無事に、って言って良いのかわからないけど、部屋の前の人達を全員追い払った女性がベッドまで戻って来た。

 怒られてしゅんと肩を落としてはいるが、その肩が何人もの男性を投げ飛ばしていた光景はしばらく忘れられそうにない。


「ところで、あなたは? なんか、足がヘビみたい――」

「あら、これは失礼しました。わたくしはロレッタ。ロレッタ・ヒバカリと申します。八年前から『魔王城』に雇用されましたので、陛下とはほとんど初対面ですわね。今までもそうでしたが、今後は陛下専属の医師として尽力いたしますので、よろしくお願いしますね」


 艷やかな笑みで軽く頭を下げる。この人がお医者さんなのか。ロレッタ先生……ということは、僕を抱っこしたまま爆走した彼女がシオンさんか。

 ……いや、違う。そうじゃない。二人の名前を知ることが出来たのは良かったけど、それよりもずっと気になって仕方がないことがあってね?


「あの……ロレッタ先生の足、なんですけど。か、変わったお洋服ですね?」

「あら、陛下はラミア族を見るのが初めてですか? これは服ではなく、自前なんですよ。ラミアは半分は人で、半分は蛇なので」


 にょろりと腰から下を揺らしながら、ロレッタ先生が蠱惑的に微笑む。なるほど、そういう服なのかと思いたかったけど、生々しい動きは間違いなく本物だ。それなら、シオンさんの尖った耳に関しても聞くまでもない。

 ラノベやゲームは好きだから、相応のファンタジーの知識はあるから悟っちゃったけど。これは……異世界転生、というやつだろうか。


「ハルトムント様……大丈夫ですか?」

「えっと……すみません、ハルトムントって僕の名前ですか?」

「え? ええ。あなたはハルトムント・ノア・ティアミスト様。『魔界』の王にして、この『魔王城』の主ですよ」


 困惑顔のシオンさんの話に、思わず言葉を失った。なんてこった、名前まで変わってしまった。もう認めるしかない。僕は、小幡光春は暴走トラックの事故で死んだのだ。

 そしてこの異世界で、ハルトムント……なんだっけ? とりあえず、別人に転生してしまった。元の世界に戻ることは、多分無理だ。

 ……田島さんが無事かどうか気にかかるけど、元気でいてくれることを願うしかない。あと、仕事を真面目に頑張れるようになってくれ、本当に。


「ハルトムント様、どうされました?」

「う、何でもないよ。ただ、名前が長すぎて覚えられる気がしなくて……はっ、しまった!」


 言いようのない喪失感を慌てて誤魔化そうとしたら、別の本音が飛び出してきた。どうしよう、やらかした。自分の名前を覚えられないなんて、別人だって言ってるようなものじゃないか。

 何とか解決策を考えようとうんうん悩むしかない僕に、シオンさんが怪訝そうに目を細めてロレッタ先生の方を見た。


「名前が覚えられない……? どういうことだロレッタ、陛下に何が起きているのだ? 頭を抱えられてしまったではないか」

「……そうですわね、十年間も眠っておられたので、記憶が混乱してしまっているのかもしれません。興味深い症例ですわ」

「え、十年間……寝てたの、僕。何で?」

「あ、ええっと」


 言葉を詰まらせたシオンさんが、ロレッタ先生と顔を見合わせる。話そうかどうか迷っている様子だ。こういう時って、僕の方から問い質すべきなのかな。

 二人の顔を交互に見比べていると、やがてロレッタ先生が口を開いた。



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