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虚弱な魔王様は今日も女騎士に抱っこされています  作者: 風嵐むげん
第一章 虚弱魔王と最強女騎士
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第二話 まさかアラサーになって美女に抱っこされるとは思わなかった


 次に目を覚ました時、僕は全く知らない場所に居た。溺れるのではと錯覚するくらい柔らかなベッドに、頭上で輝く豪華なシャンデリア。ホテルみたい。

 でも、確か僕は仕事終わりに田島さんと一緒に外に居た筈。それで暴走トラックに衝突された気がする。よく覚えてないけど。

 ということは……病院、だよね?


「病院にしては豪華な部屋だな……特別室ってヤツかな」


 大部屋が満室だったら、特に希望していなくても特別室をあてがわれることがあるって聞いたことがある。

 それに、部屋だけじゃない。着ているパジャマも凄く豪華だ。シルクのような黒い生地に、金や銀の糸で細やかな刺繍が入っている。

 あれ、でもテレビとか冷蔵庫は見当たらないや。まあ良いか。


「僕、どれくらい気を失ってたんだろう。あ、でもマズい! 居間の石油ストーブ点けっぱなしにして……うぅ、めまいが」


 思わず飛び起きるも、ぐらつく視界のせいで再び倒れ込む。ベッドがふかふかなお陰で身体を痛めずに済んだけど、頭の中はぐるぐるだ。

 自分が思っている以上に重傷だったりするのだろうか。いや、それよりも田島さんは大丈夫だっただろうか。考えれば考える程、不安になって仕方がない。


「と、とにかく誰かに話を聞かないと……病院なら、お医者さんとか看護師さんとか居るよね」


 ナースコールが見当たらないので、部屋から出て人を探すしかない。僕は四つん這いでベッドの縁まで行って、両足からベッドを降りる……つもりだった。


「うわ、うわわ! いたた、脛打ったぁ……」


 ベッドが意外と高かったのと、足に力が入らなかったせいで床に転げ落ちてしまった。しかも、ここまで移動しただけなのに息が上がった。

 一体これはどういうことだろう。思うように身体が動かない。打った脛を擦りながら息を整えようと深呼吸を繰り返していると、不意に部屋のドアが開いた。


「陛下、シオンです。お散歩の時間ですよ……って」

「え、あ……」


 お医者さんかと思ったけど、違った。ていうか、誰だろう? 知らない女性だ。褐色の肌に、ポニーテールに結われた長い銀髪。妙に尖った耳と、ルビーのような紅い瞳が印象的な綺麗な人だ。

 ……でも、病院なのに凄い格好。自分自身もそうだが、彼女もファンタジーに出てくる女性騎士のような格好をしている。鎧とか甲冑姿ではなく、露出度が高い系の。豊かな胸元とか引き締まったお腹とか、目のやりどころに困る。でも洗練された佇まいと、腰に差した剣が正に騎士っぽい。

 凄い、格好良い。コスプレイヤーさんかな。え、でもここ病院だよね?


「え、えと……こんにち――ぶべあっ!?」

「陛下ッ。ハルトムント様! 目を覚ましてくれたんですね!?」


 まるで疾風の如く駆け寄って来た女性に、凄い勢いで抱き締められた。そういえば生まれて初めて、おばあちゃん以外の異性に抱き締められたような。

 しかもこんな綺麗な人に抱き締められるなんて、男としては至福以外何でもないんだろうけど。石鹸の香りとか温かくて柔らかい感触を堪能出来たのは、ほんの一瞬だった。


「ぐ、ぐるじぃでぶ……息が、息が出来な……」

「良かった……この十年間私は、シオンはずっと貴方の傍に居たんですよ。もうずっと目を覚まして頂けないのかと……って陛下? 陛下!? お顔が真っ青ですよ! そもそも、どうして床に居るのですか。まさかベッドから落ちたんですか!?」


 力強い抱擁に呼吸が止まった僕に気がついたのか、女性が僕の肩を掴んでぐわんぐわんと揺さぶった。

 これはこれで息が出来ない! ていうか酔う!


「うぷ、それやめてぇ……き、気持ち悪い……吐きそう、吐く」

「吐きそうですか!? 大事なお身体にこれ以上何かあったら大変です、すぐに医者を呼んできます! いえ……ロレッタは足が遅いので、このまま連れて行った方が早いですね!」

「へ? うわ、わわわ!」


 僕の身体を軽々と抱き上げる女性。あれ、僕の身体縮んでない? それとも、この人の背が高いのかな。

 いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない。


「あの、それよりもここがどこなのか教えて欲しいんですけど。あと僕の家が――」

「全速力で行きますので、大人しくしていてくださいね!」

「お話聞いて!? って、何これジェットコースター!? いやああぁあ怖いいぃ! 止まってええええ!!」


 アラサーの男を抱っこしているとは思えないくらいの速さで、女性が駆ける。一体僕に何があったのか、ここはどこなのか、この人は誰なのか。

 謎は山積みだったけれど。とにかく今の僕に出来ることは、特急列車の如く駆け抜ける彼女から振り落とされないように、しがみつくことだけだった。


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