エピローグ
ーー2年前ーー
「まだ見てるの。仕事に遅れるわよ」
シャワールームから出てきたエレンがタオルケットで濡れた髪を拭きながら、リビングのソファーに腰掛けテレビのニュースを見ていたチャールズに声をかけた。
「今日は午後からなんだ」
チャールズはテレビの画面を見ながら返事を返す。
「そうは言っても、もう10時よ。私、明日から研修だから、あなたが帰ってくる頃には居ないからね」
「ロスだっけ。1週間?」
「すんなり終わればね。それより、私の居ない間もちゃんとした食事するのよ。ジャンクフードばかりじゃ駄目だからね」
「料理は得意じゃないけど、何とかやってみるよ」チャールズは苦笑する。
テーブルのカップを持ち上げると中が空なのに気付いた。コーヒーのお代わりを注ごうとソファーから立ち上がる。
キッチンに向かいかけたとき、エレンに呼び止められた。
「チャールズ、これ」
エレンが棚の上に置かれていた、綺麗にラッピングされた小さな包みを取り上げてチャールズに差し出した。
「なんだい」
「昇進のお祝い」
チャールズが包みを受け取る。
「正確には今度の新学期を迎えてからだけどね。でも、ありがとう」
「開けてみて」
綺麗なラッピングを破かない様にと丁寧に開き、中に包まれていた小さな箱の蓋を開けた。
「これ、僕が欲しかったダイバーズウォッチじゃないか。 いいのかい?」
「先行投資。後で何倍にして返して貰うから」
「それは怖いな。お手柔らかに頼むよ」
チャールズはエレンを優しく引き寄せてキスをした。
「……さあ、もう準備しないと。テレビを消して」
「ああ」
『……次のニュースです。本日午前7時頃、太平洋のサイパン島沖で珍しい巨大な魚が現地で操業中のトロール船の網に捉えられました。新種と思われるこの生物は……』
ーーーープツン。