ゆきと着せ替え
ラーグルング国に保護をして貰い一か月が経ったある日。ゆきはターニャ達と服選びの為に街へと出掛け、服と睨めっこしている。
「んー、やっぱり麗奈ちゃんにはもっと可愛い服を着て欲しいから………このフリルのはどう?」
ターニャに見せて来たのは薄い緑色のフリルスカート。そのフリルの部分にリボンが付いた可愛らしいデザインのものであり、上着もセットである。それにターニャは「えー」と拒否を示される。
「ダメでしょ。もっと攻めようよ!!!」
どうだ!!と言ってゆきに見せたのはピンク下地にレースのフリルがデザインされたスカート。ゆきが見せたのもターニャが見せたのも、どちらもスカート丈がかなり短くなっている。
「それ攻めすぎ!!麗奈ちゃん慣れてないんだから、最初は軽くで良いのにー」
「ちっ、ちっ、ちっー。ゆき、それだと麗奈の奴は一生着ないよ。いつも一緒に居るんだからそう言うの分かろうよ」
「う、うぐぐぐ」
何故か唸るゆきに勝ち誇ったようなターニャは、えっへんと胸を張る。
サティーは白のワンピースにリボンの髪留め、ウルティエはピンクのキャミソールに水玉の下着を買っていた。
彼女達は麗奈の着る服を買う為に、時間が会う日は必ず街へと出掛け今日も服選びでどちらが麗奈に似合うかの勝負をしている。
「まーだ掛かるわね」
「そうね。まっ、麗奈ちゃん………いつも同じ服しか着ないし。思わず他にないのかって聞いたら魔道隊の服を取り出されたわ」
はぁ、と溜め息を吐くのはサティ。
その時の衝撃を彼女は忘れる事は無い。なんせ、麗奈の着る服は決まって魔道隊の用意された服を着ていおり、気晴らしにワンピースなども着ないのかと聞いてみたら――
「柱の見張りで忙しいから、そんなの要らないですよ?」
ガクリ、となったのは仕方ない。その後ろでは清が『うう、麗奈ちゃん………』と涙を流しておりオシャレをしない彼女を悲しんでいるのが分かる。ウルティエも言葉には出さないが、麗奈の服の種類のなさに驚きを隠せず同じ物を何着も着て過ごしていると聞いて失神しかけたのだから。
「………気を抜くって言うのを知らないんだろうね。麗奈は」
「そうね。どうも、向こうでも相当厳しい所みたいだったようだし」
彼女達も麗奈とゆきが異世界から来た事をラウルから聞いており、女友達はゆきしか居ないのも友達を作らない理由も聞いていた。魔物と似た存在である怨霊と呼ばれる存在を退治する力を麗奈は有している。
その力に着目し、今も騎士団と混ざって魔物を退治している。この場に麗奈が居ないのは今日も退治しに出掛けているからだ。
「………大変、よね、あの子も」
ポツリ、とウルティエは呟く。
今も言い合いをしているゆきとターニャ。年が近いからか仲良くなったのは早く、麗奈も最初こそは話しかけないまでも……ターニャの熱意にやられたのか、感化されたのかで話しかけるようになった。
「……力のある子と無い子の差………なのかな」
サティは悲しそうに言う。麗奈は魔物を倒せる力を有している。ゆきも最近では魔法を学ぶようになってきている。
こうして街に出かけるのも……段々と少なくなるのを寂しく思う。しかし、ラウルは構わずゆきと麗奈を誘って欲しいと言っていた。
「特殊な力はあってもサティ達と同じ女性だ。男である俺が分からないような些細な事は……同姓でしか分からない事がある。その場合は相談に乗って欲しいと思うんだ」
彼女達は力はあってもただの少女だ、と優しく微笑むラウル。彼は麗奈と会ってその雰囲気を変えた。纏う空気が誰も近付かせないでいたようなものが、今では彼に集まる騎士団の人達も多く、サティ達も以前より話しかけるようになったのだ。
「不思議な子達だけど、ラウル様はそれでも女の子として扱っている。ふふっ、雰囲気を変えてくれた麗奈ちゃんには感謝しないとね」
「……そうと決まれば、今日も麗奈を捕まえるのに大変になるわね」
麗奈は何故か察知が早い。
服のきせかえと言うのは建前で……サティ達の選んだ服を着せて、周りをあっと驚かせよう、魅力的に写そうと画策する。それが何故か、早めにバレており着せ替えをさせる為に部屋に突撃すれば風魔を使って逃げているのだ。
「んー、やっぱり風魔を使うのがねー」
「でも彼は麗奈の味方よ?嫌がるような事はさせないでしょ」
「……あの子、味方に引き込ませれば………」
思案するサティを他所にゆきとターニャは「こっちが麗奈に似合う!!!」と互いの服を買いどっちが可愛いと言わせるのか、と言う勝負へと持ち込まれていた。
その夜、風魔に「麗奈ちゃんに可愛い服着せたら一番に見せるから♪」とお願いするサティに二つ返事で尻尾を振りキラキラとさせた目で『お願いします!!!』と頼まれた。
「ちょっ、裏切ったわね。風魔!!!!!」
『可愛い服来た主………見たい』
「うぐっ………」
主の事を第一に考える風魔のお願いに何故かダメージを受ける麗奈。その風魔の後ろでは買って来た服を広げて笑顔で迫るゆき達。……恐怖しかない、と感じた麗奈は窓から逃走を計る。
即座にイーナスにより怒られ「危険な事しないで!!!」と言われてしまい、ユリウスに頭を撫でられる始末。うぐぐぐ、と納得しない麗奈と今日も服を着替えさせられなかったと悔しそうなサティ達。
別の日、また別の日と。着せ替えを実行するサティ達と逃走し続ける麗奈の日々が始まった。