表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に誘われた陰陽師・番外編  作者: 垢音
~本編の裏話~
4/27

無関心から興味へ変わる楽しい出来事

ラウルが1週間謹慎処分を受けていた間の話になります。

ー麗奈視点ー



 ラーグルング国。


 魔法と呼ばれる不思議な力を駆使する中で、優れた技術を持ち合わせ、他国よりも魔力の保有する量が多い事から魔法国家と呼ばれている。目に見えない存在の精霊が多く住まう事から第2の精霊の国と言う2つの呼び方をされている。


 ラウルさんと宰相のイーナスさんから聞いた話を頭の中で繰り返す。




「はぁ……もう、朝か………」




 眠気を逃がそうと溜め息をし窓から見える空を見る。

 異世界に来て既に5日が経とうとしていた。ついこの間までは卒業式に出席し、街に封じられていた大蛇が暴れる前に倒す事が出来た。


 その影響かは分からないが、自分とゆきは知らない世界へと来ていた。

 しかも、少し気を失っていた間にゆきが危ない目にあい、反射的に防いで反撃に転じようとしていた。親友を傷付けようなんて許せると思う? 


 私の場合は許せないからやり返すよ!!!

 

 その矢先、緑色の活発そうな男の子のリーグ君が間に入り場を収めてくれた……らしい。あの時、気絶とは違う感じで眠らされたに近いのかな。そんな感じで意識がなかったから詳しくは分からないから確かめようが無い。

 




「……ヤクルって言ったかな、あの団長さんは」




 恐らくは自分とゆきと同い年っぽい男子。仕事とは言え、いきなり斬り掛かった。……仕事として何割かは許すけど、ゆきに謝る様子がない。だからなのかイライラする。


 宰相のイーナスさんからは課題に近い事をしている。今、5日間滞在している分も含めての2週間で功績なり何かしらの証明を……力を示す必要があるんだって。


 どうもこの世界では常識になっている魔法と私が扱う陰陽師術とは原理が違う。でも、陰陽術は通じたのか魔法に対抗するように弾いた。




(魔法について詳しい人が居るけど、今居ないから判断材料が少ない。……戦力が欲しいとイーナスさんは言ってたから、その証明も欲しいって事だよね)




 国の防衛をする騎士団の人達に認めて貰う為、イーナスさんの興味を引けなければ……私とゆきを処分する気でいると思う。



──あの人は元暗殺者だ。気を付けろ。



 ラウルさんに言われたからか、イーナスさんと接するのが怖い。ゆきは知らないから普通だけど……。ラウルさんは私の味方でいるってはっきり言ってくれたから安心しちゃう。

 

 あんなに真剣に、親身になってくれた人は居ないなぁ。裕二さんは察するから言わなくても実行している恐ろしさはあるけど。




「やる気に満ち溢れてますね、麗奈さん」

「わああっ、ベールさん!!!」 




 気配なく現れ耳元で囁かれた。

 バッと耳を抑え、赤くなる顔を必死で押さえていたら相手は口に手を当て「シー、ですよ」と微笑みかけてくる。


 あっと気付き、慌てて口を塞ぐ。

 今、居るのは城の敷地内であり図書館にいる。学校同様に騒いだらダメだと思っていたら、目の前の相手はからクスクスと笑われる。




「………」




 もしかして……からかわれた? 面白がられた?

 キョトンとする私にベールさんは「すみません、つい」と悪びれも無く答え、思わずむっとなる。




「本当にすみません。可愛い顔が台無しになりますよ」  



 

 そう言いながら隣にちゃっかり座り、頬を突いてくる。反省してないと思って睨むも、気にとめずにプニプニと白い手袋越しに触られる。




「ベールさん、暇なんですね!!!」

「はい♪」



 

 嫌味を言っても効果なし。

 ベールさんはずっとニコニコであり、ラウルさんのニコニコとはちょっと違った感じにも思えた。


 まぁ、ラウルさんは初日から色々とお世話してもらって……弱い所も見せてしまい、泣いてしまったし………うん。ラウルさんには色々と自分の弱い的な部分を見せしまっている。


 あれかな、クールなお兄さん的な感じだからかな? 不思議な安心感があるからなのかとも思う。




「……」

「考え事、ですか?」



 

 チラッと見るつもりが、がっつりと見ていたのだろう。手を握られたその優しい手つきに、カッと赤くなり否定するように首を振れば「そうですか……」と残念がる様子。




「……ふふっ、陛下と髪の色が同じなのも不思議ですね。何だか落ち着きます」

「そう、ですか」




 そんなに珍しい?

 陛下さんも同じ黒髪?

 あれ、私は見た事ある? え、なんかいつの間にか握りしめられてて、逃げるに逃げれないんだけど……。




「見る前に眠らされましから気付かないですね。ゆきさんは見たかも知れませんが……あの緊迫した中での出来事を思い出させるのは厳しいですよ。戦いに慣れた様子はなさそうですし」

「……心の声、読まないで下さい」

「表情で大体は分かりますから。これでも麗奈さんよりは長く生きてますから」

「わわっ」




 ゆったりと話していた隙なんだろう。ベールさんに引っ張られそのまますっぽりと抱き締められる。




「ふふっ、顔が真っ赤ですかね? 見せて下さいよ」

「嫌です。絶対に、嫌。……ベールさん、の、所為……です」



 顔を上げたらからかわれる。それが分かっているから、恥ずかしさに爆発しそうになるから頭をグリグリと胸板辺りにこすり付ける。



「それは残念。じゃ、もう少しこのままでも良いですよね?」

「へ?」




 そう言って、横抱きされる。お姫様抱っこだと理解して、慌てた時にベールさんから注意がきた。




「暴れると怪我しますよ」




 ピタッと固まったようにする。耳元で囁かれては止まらないといけない気持ちになる。ベールさんに見られたくない気持ちがまた出てきたから、今度は耳と目を瞑る。



 こんなイタズラをするのは、眼鏡を掛け深緑の瞳に同色の髪を一つに結び緑色と白の騎士服に身を包んだ彼は、ベール・ラグレスさん。

 27歳だと言っていたが嘘だと思った。

 だって髪がツヤツヤで美人で、見た目からしてオーラが凄い。


 本当なら近付かない、近寄れない、のに。

 何故だか、向こうから来る。逃げる前に今みたいに逃げ場をなくしてくる。そんな相手にどう立ち向かえと?  


 撃退法があるなら教えて欲しいよぉ!!!

 



ーベール視点ー 



 赤くなっているのを見せたくない一心で何もかも遮断した麗奈さん。それがおかしくて笑っているも、また睡魔に襲われるだろうなと思い魔法を発動する。




「……あ、れ……」




 目をこすり必死で抗う。その姿が愛らしくて可愛いから、つい加速し意地悪を言う。




「また夜中で読み漁って、寝てないんでしょ? 悪い子はお仕置きが必要のようですね」

「……い、や……」




 抵抗を示し、眠そうな目で私の事を見上げた数秒後。カクンと力が抜けて全体重がのし掛かる。




「仕方ないですね。……麗奈さん、また私のベットで寝て下さい」




 つい2日程前にも同じ事が起きた。また恥ずかしそうにする反応が楽しみで、近くで見たいと思わせる。

 屋敷の自分の部屋まで転移し、ベットで寝かせればスヤスヤと眠りながら無意識に私の袖を掴む小さな手。




「平気ですよ。私は敵ではありません」




 むしろ味方だと握り返せば、安心したように顔が緩んでいく。プニプニと弾力のある頬を触りながら宰相のイーナスには感謝しないといけないな、と思う。



 自分を麗奈さんの見張り役につけた事を……。

 


    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「……私が?」

 



 麗奈さんとゆきさんが来て翌日の夕方。

 宰相に呼び出された私は嫌な表情をして、思わず聞き返した。しかし、目の前で書類整理をしている男、イーナス・フェルグは関係ないと言った感じで話を進めてくる。




「だって、今日の昼過ぎに柱に妙な反応をしたからね。……ラウルはヤクルの言い付けを無視した罰で1週間は謹慎。イール副団長と激しい怒鳴り合いだってさ」

「へえ、彼女まで来たんですか」




 イールはラウルの姉にして、兄のセクトの騎士団に所属している副団長。まあ、私の騎士団の副団長も妹のフィルですから珍しくもない。

 他はよく知らないですし、興味はないですね。




「で、何で私なんです?」




 ラーグルング国には大きな柱が4つある。昔からあるとされ守護の役目を担い、魔物を呼び寄せる。国に襲い掛かれば四方八方へと散らばり防衛が行き届かない。


 その攻撃対象を国全体ではなく、柱へと絞る。そうすれば防衛は行いやすいし、魔法での撃退や連携も滞る事なく出来る。その柱を制御出来るのは王族のみであり、何かしらの反応を示すなら王族からの指令のみとなる。

 その王族のみに指令が下せる柱に対して変化が生まれた。


 この世界とは違う異世界から来た少女2人。 

 その内の1人で陛下と同じ黒髪を有した朝霧麗奈さん。


 初めて聞いた名前なのに、前半の朝霧と言う言葉に引っかかりを覚えた。それは私だけでなく、あの場に居た全員に共通した認識だった。


 唯一、認識していないのは外からリーグのみ。

 まぁ何かしらの理由はあるのだろう。




「ラウルの兄妹に頼んでも、ねぇ。セクトはともかくイールに聞かれたらここは破壊されるよ。リーグは言わなくても分かるよね?」




 成る程。彼女達を助けたのは彼であり、イーナスとは仲が悪い。リーグが嫌いな人の言う事は聞く筈ないし、執務室に入る際に半分壊されたであろう扉を見て想像はつく。


 若い彼の事だ。


 勢い余って普通に壊したのだろう。嫌いな人物の仕事場ともなれば力加減はしなくていい。思い切りの良さがリーグの良い所でもあるから、私は好感を持てるのですが……イーナスは違うらしい。




「副団長のリーナもダメ。団長の味方だし、不利になるような事はしない」




 だから私か。

 まあ、周りに興味を持たないし人にベラベラと話さない。

 頼みやすい、と言う訳だ。




「私で良いなら見張り役しますよ。えっと彼女に反応を示した。……と、言う事は隠し子?」

「無理でしょ」

「では腹違いの兄妹」

「ベール?」



 おっと殺気を向けないで下さい。それは脅しになりますよ、宰相。……はいはい、分かりました。分かりましたよ、やれば良いんでしょ、やれば!!!



 あの人の嫌味な質問と説教から解放されるまで1時間。疲れ切った体を癒やすには本を読もうと思い図書館へと向かう。その扉の前で対象の麗奈さんを見付ける。

 キョロキョロと周りを見てソワソワした様子で扉の前で気合を入れているように思わる。……ふむ、興味深い。




「麗奈さんで良いですよね?」

「わひゃ!!!」




 不思議な悲鳴を上げ腰からストンと床に崩れ落ちた。その反応についニヤけてしまうが、言われた側の麗奈さんは振り返りワナワナと怒りに震えている。




「なっ、何するんですかぁ!!!」




 その場で手を振り暴れようとするも、思う様に出来ていない。思わずしゃがんでツンツンと腰を突けば「きゃっ」と可愛い声を上げながらも私の頭を叩く。




「図書館に入るのに何で躊躇するんです?」

「……図書館で、合ってたんですね」




 ほっとした様子で胸を撫で下ろす。まだ1日、もしくは数時間しか居ないのだから迷うのは当然だろうに誰かを頼ると言う事をしないのだなと思った。しかし、座り込んでかなりの時間が経つ。

 5分以上はそうしている状態だ。なかなか立ち上がらない様子の麗奈さんに思い切り聞いてみた。立たないと通り道に邪魔になりますよ、と。




「………さい………」

「はい?」



 とても小さな声。しかし、内容は分かるしあえて聞き返す必要もない。だが、こうもからかいがいのある子を見るのも初めてであり、意地悪をしようとニヤけそうになるのを必死で堪える。




「どうしたんです?」

「……さい。……力が出ないので、立たせて下さい……!!!」




 ぷくーと頬を膨らまし腕をバタバタと振り上げる。少し涙目の様子の麗奈さんにクスリと笑い「良いですよ」と言い抱き上げる。そのやり方が驚いたのか目を見開き、辺りをキョロキョロと見て慌てふためく。




「たっ、確かに言いましたけど……これは!!!」

「私が脅かした所為で立てないのですからね。迷惑でしたか?」

「めっ……」




 不思議そうにする私につられて麗奈さんもキョトンとなるが「お、重いですから!!!」と全力で離れようとしているので、断る意味でさらに抱き寄せたら息を飲む音が聞こえた。




「っ……」




 見れば顔が紅潮しているのが分かる。恐らくここまで異性と顔を近付いた経験がないからか口をパクパクとし、どうしていいのか分からないと言った表情をしている。………思わず持ち帰りたい衝動をなんとか抑える。

 互いに自己紹介をし、読みたい本を聞き思い当たる所全てを持って行けばとてもキラキラした目で見てます。私と同じ読書が好きなのだろうなと思い、またここで1つ気に入る点を記憶しておく。




「読むの早いですね」

「そう、ですか……?」




 微笑みかければぎこちなくではあるが、きっちり返してくれる。律儀で健気で真面目な子なのだと分かる。良く出来たと言う意味で頭を撫でれば、ビクリと反応を示しながらも視線を泳がせ「あ、ありがとう、ございます……」とお礼を言われて失敗したと思った。


 小動物を飼っている気持ちを何となく分かった様な気がする。再び持ち帰りたい衝動に駆られるのを抑え、笑顔でやり過ごす。




「ベール様はどんな用で図書館に来たんですか?」 

「嫌な上司の小言を聞かされたので、癒される為に寄りました」

「……上司?」




 騎士団をまとめる人ですか? と、質問する麗奈さんに「そうですよ」と嘘を教える。まさか見張りを頼まれた気晴らしに寄ったとも言えず、本命である貴方がここに居たから一緒に居るとは言えない。




「……騎士も大変ですね」

「まぁ、魔物の駆除と見回りと護衛ですからね。あと報告書なども書くので意外に事務作業もあるんですよ」

「お疲れ様です」




 頭を下げる麗奈に「仕事ですから」と答え、今も仕事を実行中なのだけれどと思うも口には出さない。そうして互いに本を読み漁り時が過ぎるのが早いな、と思い麗奈さんを部屋に送り届けてその日は終えた。



 次の日、と言うよりは夜中。目が覚めてなんとなしに図書館へと向かう。魔法について、柱についての資料を熱心に読んでいたと思い出し、麗奈さんに分かりやすい物を探そうとして先客が居た。

 暗闇だが、月の光で所々に辺りを照らす。水色のローブが右往左往と動き、さらには上下に動いたりととても忙しそうにしていた。

 その動きがおかしくて、隠れて見ていたのに気付いたら笑っていた。




「ぷっ、あはははっ」




 ビクリ、となって近くの本棚を影にしながらマズいと思ったのだろう。私から逃れるようにして逃げる足音が響き渡る。




「うっ、あ、あれっ!?」




 いつの間にか追われている側になり、慌て始めるローブの人。しかし、周りは本に囲まれ自分の後ろは本棚でこれ以上は下がれない。小さなてるてる坊主の様なその格好に、私は誰なのかを分かっている。


 オロオロとしている間に腕を引っ張り抱き寄せる。その時に大きくローブが揺れ隠れていた顔が出て来る。大きく目を見開いた麗奈さんであり、顔を近付けて「おはようございます」と言えば戸惑いながらも挨拶を返してくれる。


 そんな小さな反応に、当たり前の反応だと言うのに……私は不思議と囚われた様な感覚になった。密かに笑い「目の下にクマとは感心しませんね」と、目下を撫でれば「うっ」と唸り視線を逸らす。


 途端にグラリと倒れる麗奈さんを咄嗟に抱き留める。呼吸が規則正しく動いており、瞳は閉じられ体重が自分に乗りかかる。




(……まさか、抜け出してずっとここに居た?)




 昨日、ゆきさんと共同で使っている部屋まで送り届けた。図書館で探していた本はどれも国の歴史に関するものが多く、また魔法についての本も多かった。彼女が魔法を扱えるかの適性はまだ調べていないので、その辺も宰相が上手く調べるのだろうと思って深くは考えない。




「……何をそんなに焦っているんですか、麗奈さん」




 イーナスから少しだけだが話は聞いている。

 今回の柱の反応から敵になるかどうかのテストをすると。行うのは2週間後であり、それとは別に何かを探しているようにも思える麗奈さんに心配になる。

 ふと、頬を撫でる手を止める。いつも無関心で興味もなく、ただ淡々と日常を過ごす自分は何か1つの事について考える事があったのだろうかと考える。




「………不思議な人ですね、本当」




 そう言って彼女を寝かせる為に自分の住む屋敷へと運ぶ。幸い、妹のフィルは城の方で泊まると聞きいており、父はいつもの見回りの為に誰も居ない事を思い出す。





「………ん、んぅ?」




 ベットに寝かせたまでは良かったが、服の裾を捕まれ離す気配はない。仕方なくそのまま一緒に寝て朝を向かえる事となり……麗奈さんの寝顔を堪能していると起きて来ました。




「えぇ!!!」




 驚いて起き上がるも、即座に抱き寄せる。もがもがと動くのが可愛いく思っていると、ぷはっと息を吐き「く、苦しい、です」と真っ赤にされました。離せばすぐに起き上がり出ようとして即座に転びました。……大丈夫でしょうか?




「うぅ、ふぐぅ……」




 頭をぶつけた衝撃が強いからかさすってます。それをクスリと笑い「お風呂と朝食、食べて行ったらどうです?」と言う提案にキョトンと私の事を見ます。戸惑っている間に風呂場へと連行し、問答無用で入れさせ気合を入れる為に腕まくりをする。




「さて、久々に作りますかね」




 麗奈さんの口に合うかは分かりませんが、気に入って貰えるように頑張りましょう。来客用の服と下着は既に置いてあるので恐らくは大丈夫だろうと思い、鼻歌交じりで朝食作りに取り掛かる。




「………」




 それから30分後。淡い水色のスカートとピンクの上着を着てそれはもう恥ずかしそうにしている様子の麗奈さん。彼女はお風呂に入ってスッキリしたのか、チラチラと私の事を見ています。そんなにおかしい恰好はしていないと思うんですが……。




「……ベール様は」

「呼び捨てで良いですよ」

「……さん付けでいきます」

「それで我慢しますね」

「えっ……」


 


 何で? と言う表情をする中で、私の恰好を不思議そうに見ている。髪は元々1つに結んでますし、変わった所と言えば水色のエプロンをしている点でしょうか、




「えっと、貴族様は……自分で料理をするんですか?」




 疑問に思った点はそこでしたか。もしくはこの格好の事はあえて無視しているとも考え微笑んだ。




「そんなにかしこまらなくても平気ですよ。ラウルやセクトを見てそう思いませんでしたか?」

「えっと、とても親身にして頂きました」

「でしょうね。あそこは女性に優しくと育てられていますし、最初に関わった人物としてはリーグに次いで良い人選だと思いますよ」

「……ありがとう、ございます?」




 首を傾げながらお礼を言うのが可愛らしいです。食べやすい様にパンとスープ、サラダを用意しお肉を用意すれば驚いたように目を見開いています。




「……朝からお肉、ですか」

「パンとはさめば、丁度いい味になりますから。柔らかいですので、見た目程ボリュームは無いですよ」




 そう思い1口、お肉から食べる麗奈さん。途端に「ん!!!」と嬉しそうにしています。気に入って貰えたのなら良かったです。隣に座っても驚く事もせず、食事に夢中になっています。




「スープも美味しいです。全部手作りですよね?」

「えぇ。この国に辿り着く前に色々と仕込まれましたから」

「仕込まれ……た? ベールさん達は最初からここに居ないんですか?」

「そうです。私達は旅をしていて路銀も無くて、途方に暮れていた所を陛下の父に助けて頂きました。貴族の称号もその時に貰ったので、私も純粋な貴族ではないですね」




 だから普通で良いんですよ? と言えば、瞬きを繰り返し出された紅茶を飲んでふと考え込まれる。おかしな事は言ってないですし、嘘も言っていません。疑われるのがこんなにショックだと知りませんでした。普段なら全然平気なのに……何ででしょうかね。




「聞きにくい事を聞いて……すみません」

「謝る理由がないですよ。貴方が気にする場面でもないですし」




 そう思って仕返しとばかりに聞くか、とちょっとだけ意地悪を言う。彼女が寝る間も惜しんでいるのは時間がないからであり、それはイーナスの言った課題の所為でもある。恐らくは――




「イーナスに脅されましたか?」

「っ……」




 息を飲み驚く麗奈さんを見て当たりだと思った。怯えさせてしまったと後悔し、違うと言う意味で優しく頬を撫でる。




「誰か味方につけろとでも言われましたか」

「……功績を上げるか味方をつけろ、と」

「功績の部分は無視して良いですよ。あと1週間程で試験を行うので、そこで功績を立てれば大臣達を黙らせる手段としては良いでしょう」

(え、黙らせ……)




 麗奈さんの思考が追いつかないのか戸惑うように顔を上げてくる。ふふっ、ではもっと慌てて貰いましょうか。




「私が味方になる。と言ったらラウル同様に信じてくれます?」

「えっ」

「味方をつけるのが条件なら私も入れて下さい」   

「あ、でも」

「イーナスには麗奈さんの見張りを頼まれました。では、今から説明に行きましょうか」

「え!!」




 後片付けは!? と言う麗奈さんを無視ししてすぐに移動する。

 仕事中であるイーナスがギョッとした様子で、私と麗奈さんを交互に見る。おぉ、そんな表情するとは……意外です。




「へぇ、懐柔されたの」

「そうとも言いますね」

「……」




 え、そこで引くんですか。呆れた顔されても困りますよ。

 麗奈さんはあの後、行く所があると言う事で慌てて出て行った。服の事も気にしていないので、あとでローブも含めてお届けに行きますか。

 ふふっ、何だが楽しくなりましたね♪




「無関心な君が興味持つんだね」

「ダメですか? 面白いですよ」

「楽しそうだね」

「えぇ、楽しいですよ。引き合わせて頂きありがとうございます、イーナス」




 ただ、と忠告を込めようと低くした所でピクリと反応する。




「麗奈さんは貴方の所為で寝不足なんですよね。……許しませんよ」




 ヒュン、と鞭がしなるよな音と共にイーナスの真横に風の刃が振り下ろされる。彼が微動だにしないままなら良いが、少しでも動けば足は切られているでしょう。




「無理をさせるようなら、貴方の相手は引き受けますよ。これでも最年長の団長ですしね♪」




 そう言ってルンルン気分で執務室を出て行く。恐らく彼は口には出さないまでもかなり驚いているだろう。


 よし、これから屋敷に戻って麗奈さんの着替えを畳んでお届けに参りますか。ラウルが謹慎を受けている間、彼の代わりはきっちりしますしイーナスの言うように見張りもしましょう。9割がた私情ですれど、報告はするんですから仕事はしてます。……してますよね?



    



     ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 イーナスが設けた試験のトラブルもあり、魔法に関して天才的に凄いと思わせるキール。その彼が戻って来た事、どうもその日に麗奈さんの守護に立つと言う魔法師として主を持つと言う異例を叩きだしました。

 ………殺意向けて良いですよね? 構いませんよね!!


 彼もそれに気付いているのか「君も変わったね。まぁ分かるよ」なんて言うから、思い切り風と斬撃をお見舞いしてやりました。涼しい顔して効いてないのがまたムカつきます。




「おはようございます、麗奈さん。似合うと思って買ったんですけど、どうでしょうか?」




 そう言って彼女の前に広げたのは淡い黄色のワンピース型のベビードール。途端に顔を真っ赤にする麗奈さん、ゆきさんは「絶対に可愛いですよ!!!」と絶賛して下さいます。周りも唖然としていますが、そんな事はどうでもいいんです。麗奈さんに合う服を選ぶ方が優先順位が高いんです!!!


 やはり、食堂で広げたのがマズいんですかね?




「良ければゆきさんの分も買いますよ?」

「場所を教えて下さい。自分で買いますから、ベールさんは麗奈ちゃんのお願いします」

「ゆき!!!」

「では今度2人で出かけましょうか」

「はい♪」




 うな垂れる麗奈さんとは対照的にゆきさんは「明後日でも平気ですよ?」と予定を言ってくれている。そこに同じく顔を赤くしたラウルが慌てて掛け込みどういう事かと聞いてきます。




「こ、ここ公衆の面前で広げないで下さい!!!」

「麗奈さんに似合うと思いませんか?」

「ここで言う必要はありません」

「良かったですね麗奈さん。ラウルも似合うと言う事ですよ」

「っ………」




 絶句している麗奈さんを他所に霊獣の風魔と九尾も『可愛いから絶対着て~』と勧められています。良いですね、彼等は着た麗奈さんを見られるんですか……羨ましいんですけど。

 ラウルの方は「べっ、別に似合うと思うが、ここでなくても……」と片手を口に寄せ真っ赤にしながら言っていますが説得力ありませんね。クールがクールで無くなるんですけど良いんですか?




「ベール止めろ」

「へ、陛下!!!」




 ざわっとなる食堂。何故なら陛下のユリウスが来ているからであり、私はニコリと挨拶がてらに「似合うと思いませんかね、麗奈さんに」と広げて数秒固まるユリウス。




「っ、そ、そんなの俺に聞くな!!! は、柱の様子を見に行くぞ麗奈」

「う、うん!!!」




 瞬時に真っ赤になり、すぐに麗奈さんが連れて行かれます。おや、と心の中で陛下とラウルもいじれる対象として記憶しておきます。その後、妹のフィルに叩かれ「ふざけた事言うなら斬りますよ?」とドスを効かせて来たので死守します。


 麗奈さんにプレゼントするものなのに、破かれるのはごめんです。




 そう。これは、私にとっての記念なんです。

 麗奈さんと会った記念に、不思議な魅力のある貴方へと送るプレゼントです。

ここからベールは事あるごとに麗奈に服やら下着やらプレゼントしに来ます。服は溜まってもなかなか着ないのはデザインがフリル多めで恥ずかしいからであり、ベールはそれも見抜いてプレゼントしまくってます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ