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異世界に誘われた陰陽師・番外編  作者: 垢音
~本編の裏話~
26/27

魔物との戦い方①


 ラーグルング国が魔物の大軍に襲われてから少し経った頃。麗奈とユリウスも快調だと分かり、周りが一安心した時にゆきはイーナスに呼び出しを受けていた。


 何だろうと思いつつ、1人で向かう事になった執務室。

 その扉の前では見張りとして兵士が2人おり、さらにぎこちなく歩く。




「……」




 扉にノックをし、中に入ればいいのだ。だけど、それが緊張する。学校での先生の呼び出しのような感じに、自然と手が出てこない。




「ゆき様」

「は、はいっ……!!!」




 ギクリと肩を震わし、恐る恐る呼ばれた方向を見る。

 彼女を呼んだのは、見張りしている兵士だ。彼はフワリと笑い、そう緊張しなくても平気だと告げて来る。

 もう1人も同じようにニコリと笑い、安心して良いと言われてふっと軽くなった気がした。




「し、失礼……します」




 意を決して中に入れば、机の積まれた資料をテキパキと整理するイーナスが見える。

 銀色の髪を1つに結び、金色の瞳と言う幻想的な見た目。整った顔は威圧感を与えるのには十分であり、彼が人には言えない職業をしていたのもある。




「あ、ゆきちゃん。ごめんね、呼び出しちゃって」

「い、いえ……」




 そのイーナスはゆきを見てフワリと笑い、席に着くように言ってくれる。大きなソファーと長机。緊張した面持ちのまま、ソファーへ座ると「さて」とイーナスがゆきと向かい合わせに座る。




「そろそろ君にも、魔物と戦うのに慣れて貰おうかなって思って」

「……は、はい?」




 理解する前に、どうにか言葉に出せて言えた。

 でも、戸惑うゆきに予想していたとばかりにイーナスから説明が入る。


 今後の事も考え、ゆきにも戦闘に慣れておくべきだと言うのだ。

 麗奈が魔族に狙われた事も含めて、ゆきにも自衛出来るだけの技術を身に着けてもらう。そして、麗奈と同じように誰かが傍に居る状態での生活を強いることになるのだと言う。




「麗奈ちゃんにはキールとラウルが付いているし、ユリウスもそれとなく見てもらうしね。彼女の方は、気付いたら色んな人に見てもらうけど……だからと言って、ゆきちゃんを野放しにして良い訳じゃないんだ」

「は、はい……」

「まず、君の魔法の属性。炎と聖属性だけど……魔族の中には、厄介な力から潰す思考の持ち主もいる。ない方がいいけど、向こうが過激な考え方をしてくる。麗奈ちゃん1人を狙うのに、国を焼くのだって躊躇しない。可能性の1つとして覚えておいて」

「!!」




 息を飲んだ。ゆきを見るイーナスの目が、真剣みを帯びている。命の危険があるのが分かり、体が勝手に震えてくる。


 でも、それではいけないと思った。


 自分達が生きて来た現代でも、ゆきは彼女達に守られていた。この異世界に来てからも、親切にして貰っている。感謝しているし、いつまでも守られている訳にはいかない。だが、と不安は簡単には消えない。



「聖属性は魔族も魔物も対処できる力。この国でそれらに長けている人を知っているから、ゆきちゃんは彼に教わっておいて。きっと自分の為にもなるし、麗奈ちゃんの助けにもなるから」

「……はい」



 そこにノックする音が聞こえて来た。

 イーナスが入る様に言うと、見慣れた赤い髪に思わず「あっ」と声をあげる。




「失礼します。ん、ゆき? どうしたんだ、不安げな顔をして」

「えっと……その」

「イジメてないから平気だよ。麗奈ちゃんの時には、ユリウスに怒られたしキールにも叱られたんだ。ただ、ゆきちゃんには自覚して欲しい事もあるし」

「自覚……?」




 それを聞いたヤクルは、何故だか軽くイーナスの事を睨んだ。

 彼は笑顔で「はいはい。君もそうだった」と白旗を上げている。




「成程……。だったらフィナントさんに教わるのが良いな」

「どんな人なの? その……フィナントさんって」




 イーナスから事情を聞いたヤクルは、報告書を届けた後でゆきを送り届けていた。その間、これから教わろうと言う人物の特徴を知ろうとした。


 フィナントは、ベールとフィルの父親。

 2人の子供がいるという見た目にしては、若く見え不思議な雰囲気を放つ。ただ、いつもしかめっ面でいるようなので周りからは怖がられている。




「……わ、私に、教えてくれるのかな」

「フィナントさんは真面目なだけだ。それに、魔法にも精通しているから安心して良い」




 安心させるようにと何気なく、ヤクルはゆきの頭を撫でた。

 その行動に驚き、ゆきは暫くなされるままになる。気恥ずかしいけど、心配してくれているのが分かる。

 それがなんとも心地いい。




「あーー、お姉ちゃんの事を撫でてる」

「「っ!!!」」




 その光景をたまたま見ていたリーグの声に驚き、2人はさっと離れた。その後を追いかけて来たのは副団長のリーナと麗奈だ。




「あ、ゆき。ヤクルも……どうしたの?」

「え、べ、別に……」

「そうそう!! 変な事なんて特に」

「聞いてよ、麗奈お姉ちゃん。今――んぐぐっ」




 リーグは見たものを説明しようとして、ヤクルに抑えられる。

 リーナはそのやり取りで、察したのか「なるほど」と呟く。一気に顔を真っ赤にしたゆきとヤクル。


 その2人から、睨まれてもリーナは涼しい顔のまま。麗奈は首を傾げたまま、リーグを回収。ヨシヨシと頭を撫でれば満足しているのか笑顔だ。




「もっと撫でて♪」

「はいはい」

「麗奈、団長を甘やかさないで」

「仕事をしてるんだから、ご褒美に良いかなって」

「えへへ、お姉ちゃんに撫でて貰うの大好きだよ」

「そこは胸を張る所じゃありませんよ、団長」




 あれから麗奈はよく騎士団の人達と行動するようになった。 

 前はリーグとヤクルのいる騎士団だけたったが、セクトにベールが団長を勤める所とも行動をする機会が増えた。


 魔道隊は騎士団との連携を、考えて後方支援が多い。

 怪我の治療、魔物の足止めだけでなく、索敵も行っている。


 ゆきも魔道隊の研究所に何度か足を運び、防御魔法を学んでいる。

 まとめ上げているレーグからの手解きだけではない。ゆきの感じた疑問は、答えてくれるし優しい。


 守られているのは嫌だと、言ったのはゆき自身。

 なら、その決意を自分の自信へと、変えていく必要がある。




「イーナスさん。私、魔物と戦います。戦わなくちゃ」




 自分で表明したではないか。

 裕二にも危険だと言われてきた。はね除けたからには、胸を張ってやり遂げなければいけないのだ。



======



 フィナントに事情を説明し、息子のベールが何度も止した方が良いと言われたがゆきの決意は変わらない。



「ゆきさん。今なら間に合います。今から教わろうという人は、極悪非道。人を人とも思わない、血も涙もない奴なんです」

「そんな奴の息子はお前だろが」




 ドスが効いた声にゆきは、足を止めた。

 騎士隊舎からゆっくり歩く事、1時間。気付いたら、大きな屋敷の前にいた。

 黒塗りの屋根だからか、周りとは何かが違うと思った。

 そこから微弱な魔力を感じ、ゆきはずっと屋根を見ていた。




「屋根を見ても面白くともなんともないだろ。早く入らないか」

「は、はいっ」




 慌てて中へ入る。と、ベールが「では、夕方に」と言ってそのまま離れてしまった。

 思わず一緒に来てくれると思った。

 せめてお礼をと思い振り返るも――扉はなくなっていた。




「あれ……?」

「飲み物は何を飲む? 紅茶か? 水か?」

「え、あっ……」




 扉の件を聞こうとしたが、フィナントは話を進めていく。

 慌てて後を追い、飲み物を用意しているのを眺める。


 紅茶にしようかと思い、ふとある瓶が気になってつい見てしまった。




(あ、あの花はヤクルが言ってたものだ)




 瓶の中にはヤクルから教わった植物があり、薄い黄色の液体に浸っていた。

 ハーブティーに近い物だと知ったのは、ゆきと麗奈に聞いたからだ。それまでは、ヤクルはなんとなく落ち着きたい時に飲んでいると聞いたのだ。


 偶然とはいえ、この異世界にもハーブティーがあり他にも薬草を料理の香りづけにしたり、花の香りでリラックスが出来るというのも教えた。

 そうすると、彼は「そうか」と考え込んでその話を家に持ち帰った。


 現代の知識が上手く作用出来るかは分からないが、少し不安な気持ちはあった。が、後日ヤクルからお礼を言われたのだ。他の植物でも似たような効果になり、今は花の香りを使いリラックスに適しているのを探しているのだとか。




「フリーゲさん達も喜んでたよ。植物の研究の幅が広がるって。俺も知らない事が多かったから助かった」




 そんな風にお礼を言われるとは思わず、ゆきは瞬きを繰り返した。

 その一件で、花を使った飲み物も増えて行った。まさか、ここで見るとは思わなかったがゆきが紅茶でと飲み物をお願いした。




「なら、用意が出来るまで扉の先の部屋にいてくれ。すぐに行く」

「分かりました」




 そう言ってガチャリと扉を開けた瞬間、既に部屋の中に居た。

 廊下もなくいきなり部屋の中。慌てて後ろを見るも、フィナントが用意している姿が見えるのでほっとする。




(廊下が殆どない?)




 リビング、玄関、大広間と部屋としての機能はあるのにその各部屋へと通じる筈の廊下はない。

 扉を開けたその瞬間には、目的の部屋へと移動しているのだ。

 これも魔法なのかと思いながら、ゆきはソファーには座らずに部屋の中を歩くことにした。




(あ、まただ)




 ずっと感じている違和感。

 微力な魔力がこの屋敷中を巡っている。他にも誰か居るのだろうかと思うも、生憎と気配を読むとまでいかない。

 気のせいにしては、ゆきが感じ取っている魔力と同じものなのだ。




(聖属性の魔法……その魔力、だよね)




 不安に思うも、レーグからは感知もしっかりしていると言われている。

 自分の不調が悪いのかと思っていると、フィナントが飲み物を用意し「ソファーに座りたまえ」とゆきに座る様にと促した。



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