デート=ピクニック???⓷
それからしばらく。
お互い、顔に集まる熱をどうにかして逃がそうと無意味な動きをする。
ゴロゴロと転がったり、風に当たって涼もうとしたりと。様々なことをし、流れていく時間の流れで引いていくかに思われたが――。
((全然っ、ダメだ……))
再びの撃沈に、ユリウスも麗奈もどうしていいのか分からなくなっていた。
そんな2人の様子に、ほれ見ろと言わんばかりに睨んだのはセクト。一方のベールは「おかしいですねぇ」と思った反応と違い、さてどうしようかと思っている。
「おい、お前の所為で事態がややこしいんだけど」
「……普通、あそこは事故だったねと済むはずですよ?」
「あの2人にそれを求めてやるなよ」
重い溜め息を吐きつつ、睨んだセクトにベールは困り気味。
麗奈もユリウスもお互いの境遇は異なるのに、恋は苦手というか奥手な部分は似ている。
ちょっとした事でお互いに緊張しては、不意に赤くなる所とかを見ているとこっそりと見張っている側からしたら「モヤモヤするなっ」と急かしたくなる。実際に急かして、こうして何も出来ないのだから反省しろよと言わんばかりにベールを叩く。
「いたたっ。で、でも、ユリウスは思った事は口に出してますよ」
「だからそれは本人が意識してないんだよっ。それで嬢ちゃんが顔を赤くしたり、反応が可愛かったりすると構うんだ。意識しだしたら、ユリウスの方だってゆで卵状態だよ」
「……からかうネタが増えますね」
「止めろっ、アホ」
叩くだけでは収まらず、今度は蹴りを繰り出す。
痛いと言いつつ、視線はしっかりとユリウスと麗奈の方へと向けている。
そうとは知らない2人は変わらずに、お互いに背を向けている。
しかし不意にお互いの手が触れた途端に、ビクリと肩を震わせて焦ったように距離を取る。2人して顔が赤くなっている。
なんともまぁ、微笑ましい事か。
ここにキールが居れば、間違いなく茶化すだろうなぁと思いつつ見守る。
(おや……)
見守ろうとした矢先、ベールは密かに笑みを浮かべた。
セクトに黙る様に言い、ユリウスと麗奈へと指をさした。どうやら動きがあるようだ、とジェスチャーで知らせたのだった。
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結局、あのままだとラチが明かないのは分かっていた。
だから思い切って、ユリウスは麗奈の手を握った。突然の事にビックリするも、強く握らず程よい加減。
不思議と力が抜けていく。同時に自身の体が凄く緊張していた事にも気付かせてくれた。
「あ、ありがとう……」
思わずそうお礼を言う麗奈にユリウスも気にしないと、どうにか答えた。
しかし、心臓は未だにバクバクとうるさい。
せめてこの音が麗奈に届かないでいるのが幸いした。
「ここから見る星空、結構いい眺めなんだ。城から見るのも、もちろん綺麗なんだけどさ」
「普通に見るよりも寝転がる方が良い?」
「綺麗さが違うかな」
「へぇ……楽しみだな」
今から楽しみだと言わんばかりに、きゅっと握り返される。
そんな笑顔を見れらただけでも、ユリウスには良かった。最初はそう思っていたのに、今では一緒に星空を見れる方が嬉しく思う。
前は一緒に話せるだけで良かった。
行動するだけで良かったものに、それだけじゃ足りなくなってくる。
(最初は……そんな事、思わなかったのに)
不思議な感覚だと思い、この正体がなんなのか分からないでいる。
そんなモヤモヤとした考えも楽しみに待っている麗奈を見て考えを止めた。
1人で見た時は綺麗な星空も、2人で見るとまた違った風景になるのではないかとワクワクした気持ちで待っていた。
「麗奈。おーい」
「うんん……ん?」
「寝るなって。せっかく見れるのに、このままだと見れないまま寝る事になるぞ」
「ユリィ……?」
目をこする麗奈にユリウスは慌てて止めた。
何回もしているから、これ以上するのは肌にも悪いだろうと。
思わず何度も? と首を傾げた。すると、ユリウスは「覚えてないんだな」と言い自然に抱き寄せられてそのまま膝の上に乗せられた。
「っ!?」
「また寝られても困るからこうする。これなら、無理にでも起きるだろ」
一気に顔を赤くする麗奈は、すぐに下を向いた。恥ずかしがっているのを見られたくないからだ。
そんな麗奈の心情を知らずにいるのか、ユリウスは寒いからと自分のマントを使い包んだ。
「あの、これは……」
「暖かいだろ? もう夜になるから、肌寒くなると思ったし麗奈の恰好は寒いかと思ってな」
声が近い事と密着している状況で、どんどん混乱していく。
理由を聞いて、どうにか納得しつつも手を繋いでいるだけでも……と言ってみるも、すぐにダメだと言われてしまった。
「あの後、時間もまだあったし2人でのんびりしてたんだ。でも――のんびりし過ぎて麗奈は寝ちゃったし。起こさないようにしてたんだ。まさか今も夜中に部屋を抜け出している訳……ないよな?」
「ないないっ!! イーナスさんにも注意されたし、お父さん達にも内緒で――あっ」
「ふーん。まだやってるのか」
言い訳をしていると、ついポロっと本音を言ってしまった。
それに気付き焦るもユリウスからは軽く睨まれた。
ラーグルング国にある柱は、今も防衛機能を保っている。
夜中にも見て回っていると知ってからは、何度もユリウスは止めるように言ったのだ。体をちゃんと休ませなければ、緊急時にちゃんと動けない。
それはもう口を酸っぱく言ったのだが、麗奈はあまり堪えていない。
あれほど約束をしたと言うのに。父親である誠一にもその旨を伝えれば、自分達で回すと賛成してくれたと言うのに……。
まさかの父親達の目を盗んでやっている行動だと分かる。
そうなると自然と風魔と九尾達も協力しているのだろうと、予想がついてしまう。
「ご、ごごご、ごめん!! 次は気を付けるから」
「信用できない」
「うっ……」
「仕事に専念するのも良いけど、無茶はしないで欲しい。だから言ってるのに……頼むから俺達の事を頼ってくれ」
「ユリィ……」
切なげに見つめられれば、麗奈は押し黙るしかない。
心配させている自覚はあったが、ここに置いて貰える以上は何か役に立ちたい。力になれるのだと証明したくなる。
体を動かしていないと落ち着かないのは、現実世界で陰陽師として働いていた事から来る職業病。
どうしても、夜中で仕事をしているのに慣れてしまっている。
ゆっくりと眠れる筈なのに、どうにも寝心地が悪い。慣れて来たのに、未だに緊張しているのか。だから、昼寝も多くなってしまうのだろうかと様々な考えが浮かんでは消えていく。
「分かってるんだけど、向こうだと……夜中に仕事してたから、どうしても目が覚めちゃって」
「だったら安眠できる花を運んでもらうように、ヤクルに言っておく」
「ヤクルに?」
何でそこで騎士団長の名前が出たのか疑問に思った。
聞けばヤクルの家は、城に咲いている花の管理を代々やって来ている家系なのだと。
最初にリーグから聞いてはいた。
植物が好きで、城にまで持ってきた貴族家があるんだよ、と。
「ヤクルはそれだけじゃなくて、フリーゲさん達に薬草を届けたり薬の開発にも携わってる。だからその家の当主は団長としても長い歴史もあるし、植物に関する事も詳しい」
ユリウスも眠れない時にはヤクルに相談しているのだと言う。
薬草を使った飲み物や安眠に適している植物もあり、効果は保証出来るから安心して欲しいのだと言った。
「あとは……前みたいに、2人だけで話すか?」
それはユリウスと出会った時。
お互いに偽名を使っていた時の事。あの時、誰かに話しを聞いて欲しかったからか不思議と心地よかった。
だが、その後でイーナスに試験の事を言われたので安眠とは程遠かった。
確かに夜には2人で話し、あっという間に時間が経っただけでなく心が随分と安らいだのを思い出す。
「そうしようかな。ユリィと話すとすっごく安心できるんだ。迷惑でないなら……良いかな?」
「いいよ。俺も麗奈と話すのは凄く楽しいし、もっと一緒に居たいって思うから」
「あ、それは私も思った。もっと一緒に居たいって思うんだ。今もだけど♪」
そう言ってぎゅっと抱きしめ返す麗奈に、目を見開いたユリウスが映る。
気になって見てみると顔が赤くなっているようにも見え、どうしたのかと聞くも「何でもない」と即答される。
「え、でも」
「い、良いからっ!! 気にするな」
「……?」
不思議そうに首を傾げる麗奈。
しかし、ユリウスが衝撃を受けたのは自分の考えが麗奈と同じであったこと。
もっと一緒に居たいと思っていたのが、自分だけでない事に密かな喜びを覚えていた。
思わず可愛いと言いかけて止めた。
言ってしまうと恥ずかしがる麗奈は、すぐに距離を離そうとしてくる。それだけは阻止したい気持ちでいたので、ポツリと言わなくて正解だ。
「ほ、ほら――上を見てくれ」
「うわあ……凄い」
無理矢理に近いが、麗奈に上を向くようにと伝える。
まだ気になっていたもののユリウスの言うように、麗奈は言われた通りに空を見る。
星の数が圧倒的に違う。
月明りもあってか星がキラキラと光り、暫く無言で見つめた。
この世界の星は魔力を宿していると言われ、その輝きで街を照らしたりと明かり代わりにもなっているのだと言う。
ラーグルング国は魔法国家と呼ばれ、どの国よりも魔力が充満している。
他国から見る星空とこの国で見るのとでは、星の輝き方が違うと言うのだ。
「え、じゃあこの7色に輝いているのはラーグルング国だけなの?」
「そうだってイーナスは言ってるな。俺はここしか知らないから、他国からはどんな星空の色になるのか知らないんだけど」
「へぇ……。国によって星の光り方に差があるんだ。良いなぁ、見てみたい……」
「麗奈の世界はどんな感じなんだ?」
「えっとね。星の光は白いかな。どの国でも同じ色の見え方なんだけど、すっごくて寒い国の場合はオーロラって言う光の見え方があってね――」
星が7色に輝くのも珍しいが、オーロラと言う言葉を初めて知ったからは興味深く聞いている。
それは楽しそうにしている麗奈を見ているからなのか、自分が楽しいからなのか。
そう自問した時に、ユリウスはハッキリと分かった。
麗奈と居ると何でもない事は凄く楽しく思える。初めて聞く言葉でも、初めて見る物でも心躍るのだが好きな人と居る方はそれが何倍にも膨れ上がる。
だから、もっと一緒に居たいと思う。
もっと近くで触れ合いたいと思うし、もっと語りたい。
「こんな綺麗な風景、知らなかったなぁ……。惜しい事をしてたな」
「ならこれからも沢山見れるだろ? 俺も――惜しい事をしたと後悔している」
「へ、何で?」
本気で分からないと言う麗奈に、愛おしそうに見つめたユリウスはすぐに動いた。
気付いた時には体が勝手に動いていた。
唇から額へとキスを落としていき、額同士をくっつける。
「麗奈と一緒に見れた事。同じ風景でも、俺にとっては全然違って見える。それだけだ」
「あ、あうっ……。そそそ、それだけって」
「もう一回、キスしたい。……ダメか?」
「うっ、その聞き方はズルい。ひ、酷い……」
「嫌なら別にいいんだ」
「だ、だから……」
その聞き方はズルいと抗議し、麗奈は軽く睨んだ。
睨まれても可愛いのだと感じるのはおかしい事だろうか。聞いたら猛抗議をしそうなので、聞かないで置いておこう。
そう思って笑うと、まるます麗奈は不機嫌になる。
「キ、キス……して下さい」
嬉しかったのは麗奈も同じ。
お願いすればユリウスから優しいキスが贈られる。それが嬉しくて、そのまま身を委ねていると時間はあっという間。
風邪を引くとマズいからと急いで戻れば――城門では慌ただしく動いている騎士達が見えた。
それだけでなく、魔道隊の人達も忙しそうに動いておりただ事ではないと急いで戻った。
「夕方までには戻るって聞いてたのに、夜になっても戻らないから心配したんだよ!!」
「「ごめんなさい……」」
「主ちゃんとユリウス、見付かったの!?」
「よ、良かったぁ」
安堵するリーグ達とは違い、イーナスは戻って来た2人を叱っていた。
怒りを治めるように言う誠一に興奮していたイーナスは、段々と落ち着きを取り戻していた。キールはその間、複数の騎士団と魔道隊を下がらせ通常の業務に行くようにと指示を出してた。
そんな時、セクトとベールが何食わぬ顔で城に入ろうとした時にイーナスに呼び止められる。
「君等も何で連絡しないの!!! 何のために見張らせてるのか分からないじゃないか」
「あーいや、ほのぼのしてるから良いかなって」
「微笑ましいから、つい見守っていたんですよ」
連絡を怠った2人にまたも怒るイーナスに、周りは止めに入る。
ある言葉にユリウスと麗奈は睨み、もしかして――と同時に言った。
「「まさかあの風は!!!」」
「さあ、なんの事ですかね?」
ベールがニヤニヤと答えているのを見て、確信が持てた。
セクトが気まずそうに顔を逸らした事で、あの湖での場面を全部見られていた事に気付く。
報告書を仕上げようとするベールに、ユリウスは止めるように大声で訴えた。
「何で止めるんです。珍しく仕事をしているのに」
「からかう方に全力だよな!?」
「いえいえ。未来あるお2人の微笑ましいやり取りを見て、からかうだなんてそんな恐れ多い」
「嘘しか聞こえない!!!」
ふふふっと怪しく笑うベールに、麗奈はその時の事を思い出したからかその場をすぐに離れた。
それを見たゆきは、何があったかを瞬時に察し――後日、麗奈に問いただした。
しかしどんなに聞いても頑なに答えない。
ユリウスに聞こうとしても、止めにかかる事から何かがあったのは明白だ。
「ベールさん、一体何があったんですか」
「あぁ、それはですね――」
「「止めてっ!!!」」
真相が気になるゆきに、面白がるベール。
絶対に阻止しようと動くユリウスと麗奈の行動に、周りは微笑ましいように見守っていた。
そんな事とは知らず、2人はいつまでもベールの良いようにからかわれ続けたのだった。




