ピクニック=デート???⓶
「どっ、どこか、ゆっくりできる所……ないかな!?」
「ちょっ、ま……」
それは、裕二に言われた提案を実行しようとしたその日。
夕方になり戻った2人は、早速とばかりにユリウスを探し回った。そして、彼がいたのは騎士達が訓練している場所。
休んでいる人達も多いが、ユリウスとしてはいきなり近寄って来た麗奈の行動に慌てるばかり。
ギョッとしたのは、自分が汗だくになっているのもある。しかし、そんな彼の様子を気にするような麗奈ではない。
彼女はすぐにでも答えが欲しいのだろう。凄く真剣なのが分かり、今もぐぐっとユリウスに迫っている。
「も、もう平気……なのか?」
「平気じゃないけどっ。でも……。は、話したくて」
「そ、そうか……」
それは自分の為だと思って良いだろう。
ユリウスの事を意識しているのが分かり、ニヤケそうになるのを我慢した。そこにささっと、汗を拭いていくのはリーナだ。
「あ、気にしないで。どうぞ続けて続けて」
「じゃ、じゃあ……」
(続けるの!?)
訓練を切り上げようとしていた者達は、後片付けをしながらも同じことを思った。
ユリウスも口に出そうとして止めた。
まずは麗奈の質問に答えないといけない。2人でじっくり話せる所。城だと何かとキールが邪魔をしてくる。
では、街の方かとも考えるもすぐに止めた。
(どこにいても邪魔されるよな。……なら――)
見回りをする森の中がいいだろうと考えた。
麗奈が柱へ様子を見て回る中で、はっきりした違いが出ていた。魔物の数が減っている。
柱の力が戻りつつあるのか、変化が起きている。それはなにより、ユリウス自身が実感している事だ。
(魔法を使うのも、体を動かすのも辛くない)
柱の力は王族の魔力しか受け付けない。
加えて自身を蝕む呪いも、日々その力を増してきた。魔力は多くあっても、大半は呪いを抑え込むのに使い、柱に魔力を渡してきた。
戦闘用に残すのが段々と出来なくなった。
柱に魔力を渡す作業しか出来なくなった事で、段々と覚悟をしていった。
死ぬんだろうという実感。
ユリウスが死んだら柱は機能しなくなり、国を覆う結界も消える。魔物の蹂躙で、国がなくなるのは珍しくない。国が好きなユリウスとしてはそれは、阻止すべきこと。
だから王族である自分が弱体化してはいけない。
兄ならもっと上手く立ち回れた。
弱い所を、見せてはいけない……見られてはいけない。
考えれば考える程、暗い事が次々と浮かんでくる。イーナスには何度も考えすぎだと言われていても、自分の寿命が削られていくのを実感させられては余計な事も考えてしまう。
「麗奈さん。ここでは周りの人達も忙しそうですし、ユリウス君も着替えたいんだと思うんです。だから、別室で待たせていただくという形ではダメでしょうか?」
「そ、そう、だね……。ごめんね、ユリィも忙しいのに」
自分の行動を反省する麗奈に、ユリウスは自然とそう――気付いたら手が出ていた。
「気にするな。裕二さんの言うように、こんな汗臭い状態で聞く訳にもいかないしな。悪いけど待っててくれ」
「う、うん……。あの」
「え」
見れば顔を真っ赤にしている麗奈がいる。
何でそんな反応をしているのか、ユリウスには見当がついていない。そして、隣では呆れたようにもしくは分かっていないのか、という視線を浴びせて来るリーナ。
裕二の方に目を向けると、彼は無言で自分の頭を指していた。
(……頭?)
どういう事だろうか。
そう思ってもう1度、麗奈の方を見る。彼女は未だに微動だにせず、むしろさっきよりも赤みが増している。
そして、自分の手が彼女の頭を抑えているように。自然に頭を撫でていて――。
「っ!! 悪い。……き、着替えて来る」
自分の行動に驚き、なんとかこの場を切り抜けようとした結果。早歩きをして逃げだす。
軽く湯を浴び、泥臭い服ではなくきちんと現れた服に着替える。いつもなら魔物の襲撃に備え、動きやすい服を用意している。だが、話しがあると言っていた麗奈の言葉を思いだし――唐突にいつもの服ではマズいなとも思った。
「悪い。遅くなったな」
「ううんっ。押しかけたのは私だしっ、変な行動をしたのも事実だし!!」
早口な麗奈が面白くて、クスリと笑うと途端に気まずそうに顔を逸らされた。
中には彼女だけで、裕二もリーナも扉の前で待機しているのだ。中に入る様に何度か言うも、2人は頑なに拒否をし「どうぞゆっくりしてください」と言われてしまった。
そうしている内、チラチラと何度もユリウスを見ている。
思わず自分でも服が悪かったかと心の中で思う。
いつもなら動きにくい服装は好んで選ばない。
ただ、なんとなく。そう思った。
「いつもと同じの方が良いか?」
「そ、そんなことない。……その、恰好が違うから、何度も見ちゃって。……カッコいいし」
「!!」
麗奈としては無意識だったのだろう。
小声だったし、本人も分かっている様子ではない。しかし、部屋に2人きりで向かい合わせでいるのだ。
意図しないことでも、ユリウスの耳にははっきりと聞こえていた。カッコいいと言われ、思わず心の中でガッツポーズをした。その言葉を聞いて、こんなに嬉しいのだと実感した。
同時に麗奈に対する愛おしさも、増していくのが分かる。
「それで。話ってなんだ」
「えっとね。……どこか、落ち着いて話せる場所が必要だと思うんだ。このままだと私もユリィも、色々と支障が出て来ちゃうし」
(キールの所為だもんな。……全く、アイツは人をからかう天才というか、迷惑をかける天才というか)
さっきまで嬉しかった気持ちから、少しずつイライラが増していく。
それもこれも、全ては奴の所為。と言うより、2人きりで2人きりだけの秘密を持てるだろうという所で、彼は何故それを国中に広めようなどと思うのか。
あれ以来、完全に城の雰囲気は変わったというか変わらざる負えない。
生暖かい目で見守られる。
それだけなら良いのに、街に出れば子供達に「ねぇ、麗奈お姉ちゃんは?」とか「デートは? デートは?」と何故だか期待を込められた視線に晒される。
答えに困るばかり。
返答に迷っていると両親が来るのだが、子供の行動を止めつつも視線では「どんな感じに進んでます?」と答えないと逃げられない感が強い。
その時の事を思い出してか、若干顔が熱くなる。そこで改めて自分の姿を確認してしまう。
上質な黒の上着とズボン。上着のボタンは金色で、肩の黒マントと話を聞くだけだというのに妙に気合が入ってしまったな、と今更ながらに思う。
これでは誰がどう見ても気合が入っていると見られても仕方ない。幸い、キールには見られていない。それで良しと考えなければ、見られた場合の被害が酷そうだと思った。
しかし、ユリウスはこの時に気付かなかった。
自分がそう考え込んでいる間、麗奈はチラチラと盗み見ていたのを。ほぅ、と息を漏らしはっとなる。
聞かれていないのを祈りつつ、もしかして自分の為にその恰好をしてくれたのだろうか。そんな思いを抱きつつ、どうにか平常心で話を進めることとなった。
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「じれったいですねぇ~」
「なんだよ、いきなり……」
ベールの呟きに反応をしたのはセクトだ。
軽く睨まれているが、そんな事よりもとベールは視線の先に捉えている2人を見る。
ゆっくりできる場所。誰の邪魔も入らないような場所はどこだろうと考え、ユリウスは麗奈にお気に入りを教えた。
徒歩で行くには遠く、帰りを考えるなら馬での移動手段の方が良い。湖にはよく森の動物達がいる。彼等にとっては憩いの場であるのだろうが、今日は珍しく自分達だけなのだ。
時間は昼時。
麗奈もサンドイッチを作るという事で、ユリウスは心なしかワクワクしていたのもある。その2人はお互いの肩を並べ、寄り添うようにして湖を眺めていた。
「誰も居ないんですから、好き放題すればいいんですよ」
「俺等がいるだろう。ってか、あんな感じでゆっくりできる事の方が少ないんだから別に良いだろう」
「彼は王族ですよ? 1人でいる事は避けますし、そうでなくてもイーナスなり誰かが付いているんです。例え麗奈さんと2人きりで出かけたいとはいえ油断は出来ません。これは――護衛です」
「もっともらしい事を言って、お前が楽しみたいだけだろうが」
「そうとも言いますね」
(開き直りやがった……)
そう思いつつ、彼等はゆきに渡されたサンドイッチを片手に離れた所で見守りという名の護衛をしている。
ちなみに、ユリウスと出掛けると聞いたゆきはあまりの衝撃に固まった。だが、すぐに復活して「何で急に言うかな!!!」と怒っているのか嬉しいのか、よく分からないテンションで麗奈を厨房へと連行。
夕方に帰ってくるとはいえ、それまでは2人で過ごす。
お手軽に食べられる物として、ゆきは麗奈にサンドイッチを教えた。それはもう様々な種類の具をのせた。種類は多くても、小さく切りなおかつ1口サイズにすれば見た目ほどお腹にはたまらない。
こういうのは場の雰囲気。
多すぎず、少なすぎないボリュームのサンドイッチの方がいい。見た目も華やかだし、一緒に選んで食べるとか最高ではないか。そう熱弁するゆきに推され、そしてそんな彼女のテンションが若干怖いと感じた麗奈は自然と逃げようとしていた。
が、それは叶わない。
厨房にいるということは自然と食堂で働く人達がいる。当然、彼等もユリウスと麗奈との仲を知っている上に密かに応援している。成功させる為にと打ち合わせもないのに、彼等は麗奈を抑え言葉巧みに厨房へ連れ戻す。
誘導された感はあるのだが、ユリウスの為と言われれば麗奈は頷くし良い所を見せたいと言う気持ちもある。
だから、普段なら絶対に着ないであろうフリフリのワンピースを選択した。少しでも女の子っぽく、自分を可愛く見せたいと思った。少しでも気に入られる努力をしないと。
そう思う麗奈の心情を知っているのか、周りは微笑みながらも綺麗に仕上げていった。
「……事故とか起こしたいですよねぇ」
「怖い事言うな。それで仲が悪くなったら、お前の事を売るからな」
「派手にはしません。こんな感じで」
そうニヤニヤ顔でベールは風の魔法を使う。
魔物に向ける様な派手なものではない。ただ、ちょっとだけ風を強くしただけだ。
「な、なんだっ……」
「きゃっ」
突然の突風に、麗奈もユリウスも目を閉じた。
サンドイッチも好評で、ゆったりとした時間を過ごしていた時に起きたアクシデント。スカートを抑えている麗奈は当然、目を閉じてバランスを崩しそうになる。
ユリウスの方は、風が当たらないようにと麗奈を自分の方へと引き寄せた。それを見たベールは、もう一押しとばかりに風を使う。
「「っ……!!」」
グラリと倒れる感覚が分かる。
このままだと地面に激突だ。そう思った麗奈は強く目を閉じるも、思っていた衝撃とは違うのに気付いた。
麗奈がユリウスに馬乗りになっていたのは、直撃を避ける為に咄嗟に場所を変えたから。
すぐに起き上がれば良かったのに、2人がなかなか出来なかったのは――その弾みでキスをかわしていたから。
あまりに事態に、コロンとユリウスの隣に転がる。
足と背中を丸めながらも、麗奈は言葉を発せなかった。
ユリウスも唇に残る感触に、恐る恐る手を伸ばし徐々に自分の体が熱を帯びてくるのが分かった。
((き、気まずい……。なんなんだ、さっきの風は))
思う事は同じなのに、状況が状況なだけに別に意味で顔を合わせづらくなった。
お互いに、自分の唇に手を這わせながら――いつまでも引かない熱に、どうしていいのか分からなくなっていた。
本編と違い、こちらではとことん甘いです。
過度な糖分だな程度に受け止めて欲しいですwww
頑張って可愛くしようとする主人公麗奈と、そんな彼女の行動が全部愛おしいもう1人の主人公ユリウス。
ヒロインとヒーローのこういう、じれじっれな感じは書いてて楽しいです♪




