ピクニック=デート??①
「ユリウス。麗奈とはあれからどうなんだ」
「……。なんだよ、いきなり」
ラーグルング国の城内にある食堂はいつも賑わっている。
早朝、昼、夜、夜中と交代制で騎士団達が動いている。同じ位に魔道隊も魔力での探索も忘れていない。
そんなある日。
ヤクルはユリウスと朝食を食べていると、そんな会話が聞こえて来る。
示し合わせたかのように、ピタリと会話が止まる周り。思わずユリウスが振り返るも、ワザとらしい会話や不自然な咳払いなどが起きる。
余計な事に考えをさくのは止めようとした所で、ヤクルがニヤニヤしながらその返答を待っていた。
「あれからって……。どういう」
「そりゃあ、国内中に告白を聞かれたあの日からだよ」
「ゲホッ、ゴホゴホ、なっ、何言ってやがる!!!」
思わず机をガンと強く叩いてしまった。その勢いで立ち上がりはしたものの、どうしていいのか分からずにいると視線を感じた。
すぐにバッと見るも、周りは気にしないフリをしつつ聞き逃す気はないのか真剣だ。
食器を片付けていた食堂の人達も、ソワソワとしながらも仕事をしているフリをする。
その微笑ましい空気に耐えられないユリウスは、静かに座りボソボソと言い始める。
「キールの所為で、あんまり話せてない」
「俺達には普通だけどな」
「言うな。結構、傷付くから」
「悪い。……気晴らしに麗奈を誘ってみろ? 散歩するなり、2人で過ごせば多少は変わるだろ」
「じゃあ……」
「もちろん、そこはユリウスが誘え。俺が誘って何の意味がある」
やっぱりかと唸るユリウスに対し、周りは(まだ話せてないんだ……)と静かに息を吐いた。
そうとは知らずに入って来たのは麗奈とキールだ。中に居た人達は一斉に麗奈を見たことで、彼女はビックリして動かなくなる。
(う、なに……? な、なにかした!?)
「主ちゃん、今日はゆきちゃんが考案したおにぎりがあるよ。食べてみよう」
「は、はいっ……」
移動を開始しようとした時に、ふと見覚えのある黒髪に麗奈はピシリと固まる。
向こうもその視線に気付いたのか振り返ると、お互いに「あっ」と声が重なった。
「お、おは――」
「い、今はむりーーー!!!」
顔を真っ赤にした麗奈はそのまま逃走し、ユリウスは挨拶の為に振り上げていた手をゆっくりと下ろしていく。
深いため息のあとで、キールを睨むと腰にある剣の柄を手にかける。
「待て待て!!! 早まるな」
ヤクルが止めるも、ユリウスは本気で倒しにいく。
今も剣に魔力を纏うスピードが早すぎるのだ。
「ぶっ飛ばし足りない。もう一回、国から出て行け……!!!」
「アハハッ。大丈夫だよ、嫌われたんじゃなくて恥ずかしがってるだけだから。いやー、見てて面白いよ」
「煽らないで下さいよ!!!」
その後、大騒ぎになりイーナスから呼び出しをくらった。
一方で、麗奈は部屋に閉じこもった。ベットで丸まりながらも、赤くなっていく自分の顔が抑えられない。
(うぅ。避けられたって思うよね!? でもでもっ、どう接していいのか分からないし……。自覚はしてたけど、それとこれとじゃあ)
グルグルと答えの出ないまま。しかし、今後もユリウスとは何かと話すだろうしとせめていつものように戻りたい。でも、と葛藤しているとノックし「麗奈さん」と呼びかける声にハッとした。
「ゆ、裕二さんっ……」
慌てて飛び上がり、その勢いのままガチャリと扉を開ける。
その拍子に転びそうになるのを、危うい所で抱き留める。相手はかなり驚いていながらも変わらず、落ち着いた声で問いかけて来た。
「どうしたんですか、麗奈さん。そんなに慌てて」
「えっと、あの……。ごめんなさい」
シュンとなる麗奈に裕二はニコリと笑う。
何も言わずに頭を撫で立たせれば、幼い時のように世話をしていたのを思い出す。こうして慌てている時には、ゆっくり話を出来る場所が必要だ。
そう思った裕二は、麗奈に街に行こうと誘った。
「ありがとう、ございます」
「そんなにかしこまらないで。はい、ジュース。今でも好きでしょ?」
「う、うん。貰います……」
果物を使った冷たい飲み物。現代のと比べれば甘さも控えめだが、麗奈は好きなものだ。甘すぎる飲料が多いのも嫌になっていたので、彼女としてはこれがベスト。ちょっと驚いたのは、裕二は麗奈の好きな物を把握していた所だろう。
「これでも麗奈さんが赤ちゃんの時からいるもの。把握してるのは当然でしょ?」
「そうだね……。そう言えば、そうだった」
普段なら平気だが、食堂での一件のあとだと自分の記憶が乏しい。
未だにユリウスから逃げて来ちゃったという罪悪感で一杯だからだ。
「……ユリウス君と何かあった?」
「ふえっ!?」
「あ、無理にとは言わないから」
驚きすぎてて、ジュースを落とす所だった。
またも裕二に助けられ、落ち着いた頃になってようやく話せた。避けたい訳でもなく、出来れば普通に話したい。でも、実際に会うとどうにも話せなくなる。
告白した場面ばかりが浮かび、言葉に詰まるのだと言った。
「お、お父さんと武彦おじいちゃんは……どうしてる?」
「誠一さんはあれからユリウス君の事を睨んでいるし、武彦様は誠一さんの前では言いませんが……喜んでいましたよ。麗奈さんには伸び伸びと生きて欲しいからって」
「そ、そっか……」
「九尾様もユリウス君の事を睨んでましたね……。反対に清様は自分の事のように喜んでます。風魔はちょっと不機嫌でした」
予想通り過ぎてて乾いた笑いしかでてこなかった。
そうした反応が良かったのか裕二は、ずっと優し気な目で見ていた。それにふと気が付き、慌てて顔を伏せるも「そのままでいて下さい」と言われた。
「私も嬉しいです。麗奈さんに好きな人が出来て……まぁ、戸惑いますよね。ちゃんと話されてないんでしょ?」
「うっ」
「顔を合わせる度に、避けられているユリウス君は可哀想ですよ」
「ううっ……」
「ですので、こう誘ってみてはどうですか?」
「……へ?」
裕二は麗奈に耳打ちをする。
その内容に何度も首を振り、これなら大丈夫だろうと納得した。楽しそうな麗奈の顔を見て、裕二は頑張ってと応援するのだった。
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「はぁ……。だ、大丈夫。いつも通りに、いつも通りに……」
「麗奈!!」
裕二の提案により、どうにかユリウスを誘う事に成功した。が、お互いに言葉が詰まりながらも心の中ではガッツポーズ。
ユリウスは黒い馬に乗って麗奈を迎えに来ていた。
場所は城の正門。ユリウスが来るのを待っていた麗奈は、じっとしていられず何度も往復していたがそれを見張りの騎士達は微笑ましく見ていた。
しかし、そんな彼等もユリウスが来たらキリッと仕事モードへと変わる。
「少し準備に戸惑ってて……。悪い、待たせて」
「う、ううん!! 全然、そんなことない。よ、予定よりも早く来ちゃったし……それにゃっ!!」
(……にゃって)
「い、行こう!!! もう行こう」
「だな。んじゃ、乗ってくれ」
この場から早く逃げたい麗奈とそんな気持ちを察したユリウスは、すぐに移動を開始していく。そんな2人をこそっと見ていたのは勿論と言うべきか、ゆき達であり――。
「リーナさん、また前が見えない~」
「まだ団長には刺激が強いですからね。無理です」
「麗奈ちゃんがあんなに慌ててるの、可愛いんだけど」
「……ユリウスに知られたら、今度は俺達が狙われるな」
「そう思うなら、こっそりと見なければ良いのに……」
じっと見て来るラウルにヤクルが言葉に詰まった。
楽し気にしているゆきに、リーナは団長であるリーグを取り押さえ中。そんなゆき達に、イーナスは仕事をしろと言った。
笑顔なのに寒気がする。全員がさっと顔色が悪くなるのも構わずに、指示を出し引き離していく。文句を言いながらも、イーナスはそっと馬で移動をする2人を見た。頑張れと口は出さずに心の中で応援する。
今日のイーナスは、邪魔が入らないように動くのが務め。そうは思いつつも、手が回らない仕事を任せていくのだから手は抜かない。
(ラウルさんの時にも思ったけど、やっぱり距離がちかっ……)
「もう少ししたら湖が見えるから。そこで休憩するぞ」
「う、うん……」
そう答えつつ、麗奈は改めて自分の服装がおかしくないかと確認した。
本当なら魔道隊の制服を着る気でいたが、速攻でゆき達に止められた。ターニャは呆れ、サティとウルティエは麗奈に似合うようにとワンピースを嬉々として選んでいた。
淡い緑色のワンピースに、少し高めのヒール。歩くよりも慣れるのに時間がかかり、そういった点も含めて遅れる訳にはいかないと思った。だからこそ、約束の時間よりもかなり早かった。
馬には、見回りをしている時に何度か乗った。
しかし、その相手が自分の好きな人となると――話はだいぶ変わる。
(き、緊張……する。ラウルさんやヤクルには、抵抗ないのに……)
「あんまり離れると落ちる。もっと近づいて良い」
「ひゃいっ……」
ぐっと胸元にまで引っ張られ、落とさないようにと腰を抱かれる。
分かってはいるが力強い。緊張しているのが自分だけだと思ったが、ユリウスの鼓動が早く聞こえ、そっと顔を覗く。
うっすらと顔が赤いのは、自分だけじゃない。ユリウスも顔が赤い。
その事実にまた恥ずかしくなり、麗奈は小声で聞いてみた。
「き、緊張……するんだ」
「当たり前だ。馬に……こうして誰かを乗せた事はなかったんだ。あ、あんまり言わせないでくれ恥ずかしくなるから」
「うん……」
こうして気まずくも、甘酸っぱいような空気が流れていく。
空気が澄んでいるのか、それとも湖の綺麗さに引っ張られてか気持ちがスッキリとした。さっきまで顔が赤かったのが嘘のように戻っている。
リラックス効果でもあるのだろうかと思いつつ、麗奈は湖に近付く。
その間、馬を固定させてきたユリウスが駆け寄ってくる。
「こうして魔力が満ちていると、透明度が違うんだ」
「へぇ……。やっぱり城に居るよりも落ち着くの?」
「どっちも落ち着くよ。ただまぁ……ゆっくりしたい時にはよく来るな」
裕二の提案で、ゆっくりと話せる場を設けるべきだと言われた。
このままだと普通に話すのにも支障がでている。今後の事も含めてと麗奈はユリウスを誘ってみたのだ。
昼食は作って来るし、もっと話したいという麗奈の訴えにユリウスはすぐに頷いた。
彼も時間が欲しいと思っていた所だし、こうして場を設けて貰える事は助かったのだ。邪魔が入らないからそれだけでも助かった。
心の底から安心しているユリウスに、麗奈はずっと不思議そうに首を傾げていた。




