いつもの朝、いつものやりとり
最初が長くなってしまったので次は短めに書きました。
麗奈と九尾の卒業式前の出来事になります
日の光を感じ眠っていたと言う意識と呼び出されたと言う意識が同時に来る。
『ふぁ~~……あぁ、眩しい』
直接は辛いからか尾を、サンバイザー代わりにする。寝ぼけた頭と意識がはっきりして来てもう一度欠伸をする。体を伸ばし軽く体操し、良しっと気合を入れて今日も麗奈の寝室へと向かう。
『お、今日はピンクか。可愛いなぁ、嬢ちゃん!!!』
「アホーーーーー!!!!!」
前を隠し身の回りにあったカバン、ノート、束になった札を投げ付ける。続けて式神を作り九尾を抑えつけている間に、部屋の扉を閉めいつもの修行をする為にとジャージに着替えて庭へと急ぐ。
扉を開ければ既に九尾が居なくなっており、広がるのは自分が投げ付けたもので散乱している。それを式神達に片付けを頼み、日課としている術の練習をする為に駆け足で向かった。
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朝霧家は、陰陽師家の中で不思議な立ち位置をしていた。
その家の当主としての教育を受けているのは朝霧 麗奈。母親の由佳里、父親の誠一との間に生まれた女の子。
母親の霊力を引き継いでるのか、もしくは朝霧家の誰かの霊力がそのまま娘に継承される先祖返りと言う特殊性も含めて彼女は、幼い頃からその才能を発揮していた。
「ふぅ……。これ位、かな」
庭には大きなクレーターが幾つもある。九尾に覗かれた分も含めて、そうとイライラしていたんだなと冷静になって恥ずかしくなる。
これだけ大暴れしたのなら、近所の人達から苦情があっても不思議ではないが、陰陽師としての格がある朝霧家は大きな屋敷であり、離れも含めて大きな敷地を誇っていた。
そして、この家の周囲は囲うようにして大きな防音、防壁の結界を張っている為に何が起きようとも変わらない、普通の朝が迎えられている。
陰陽師は占いを行ったりするが、麗奈達の場合は違う。
占いもするが、それよりも目に見えない存在の怨霊を退治する者達の総称としている意味合いが強い。
彼女は街を管理する1つの朝霧家の当主だ。だから、怨霊退治をメインに置く為に修行の一環として術の制度を確かめる。
その成果が、庭に広がるクレーターの数々。
「……やり、すぎた……かな」
はははっと乾いた笑いをする麗奈。すると、『おーい』と自分に呼びかける赤毛の狐が飛んできた。さっき自分の事を覗いて来た九尾だ。
「……どうしたの?」
『どうしたって、嬢ちゃん……まーた派手にやったろ?』
九尾が覗くようになった、と言うより最初は着替えを見られていると言う気持ちも無かった。しかし、成長すれば段々と羞恥心と体の成長も含めて恥ずかしくなり九尾には来ないようにと頼んだ。
それで止める彼ではなく、麗奈も何度も撃退方法を編み出していく内に変な日課になってしまった。だから、こうして覗きをされたとしても普段通りになる。
彼は父親の誠一と契約をしたことで使役してる式神よりも上位の力を持つ存在。
だから、麗奈にもいずれは霊獣と契約をすることになる。しかし、その為には高校を卒業しなければならないと言うのが条件でもある。
父親である誠一も契約をしたのは18歳の時であり、母親も同様だ。だから、幼い頃から居る九尾を見ていると自分にも契約が出来るのだと少しだけワクワクした。
「……ご、ごめん」
『良いよ。明日は卒業式だもんなー。……なぁ、霊獣との契約、俺じゃダメ?』
コテン、と首を傾げてくる九尾。
それを見て「ダメだよ」とやんわり断る。
それを聞いて分かりやすくシュン、と落ち込まれ思わず罪悪感が出て来るも我慢だと思って慰める様に頭を撫でようとするのを抑える。
「……お父さんの事、守ってよ」
『主人、強いからへーき、へーき』
「だとしても、さ」
『……まだ仲良くしない気?』
「もう、何をどう接して良いのか分からないしさ」
麗奈の母親である由佳里は8年前、麗奈が10歳の時に亡くなっている。
その時の記憶がかなり曖昧だが、母親が亡くなった言う衝撃は幼い彼女に深い心の傷を残している。そして、その時から父親の誠一は……態度を変えたのだ。
妻を亡くしたからか、娘との接触を避け始めた。しかし、妻が亡くなった事で次期当主として麗奈の名が上がってしまうのは仕方のない事。
周りからうるさく言われ、麗奈と同じような年齢でも当主として教育されている者は居ると言われてしまい、彼女だけ例外で外す訳にはいかなかったのだ。
だから……誠一は娘を厳しくした。
術の構成、札を霊力へと流すスピードを上げる事に特化させ、1人でも立ち向かえるよう、誰の援護も無い状態でも強くなれるようにと鬼のように変わった。
幼い麗奈は母の死のショックも含めて、豹変したような父が怖くて接し方が分からなくなり必要最低限の言葉しか交わさなくなった。学校生活での時は挨拶をかわし、陰陽師としている時は彼を師匠として接し戦闘へと赴く。
この生活を続けて、母が亡くなった事も含めて既に8年の月日が経過していた。
「だから、ここで私が九尾を取ったら……お父さん、本当に守る術を無くすから無理だよ」
『なら、予約する。俺は諦めない』
「……しつこいよ」
『良いんだよ!! 俺は嬢ちゃんの事が好きなんだから!!!』
アピールなのか尻尾をフリフリとし麗奈に抱き着く。
それがくすぐったくて、止めようと思うがモフモフが勝る。フワフワとした毛並みに思わず顔を埋めれば九尾も嬉しそうにまたフリフリと尻尾を振る。
麗奈と九尾のいつも朝、いつものやりとり。
これがないと1日が始まった気がしない、とさえ思いどうしようかと思うもつい九尾を抱き締める。
『さーて。今日の夜中も怨霊退治して、卒業式に出て早く契約を済まそうぜ』
「……誰が契約に応じてくれるかな」
『実力を確かめる為に俺が暴れてやる。俺が認めない内は嬢ちゃんは俺の主って事で♪』
「それ、お父さんに叱られるよ」
『良いんだよ。俺が認めてないんだからな!!!』
そう言って尻尾を腕に絡ませグイグイと引っ張る九尾。それに慌てたように麗奈はつられ転びそうになる。そこに、ふわっと体を持ち上げられ背中に乗せられて走り出す。
『よーし、俺が特別に送ってやるよ』
「まっ、ちょっ……きゃああああ!!!!」
霊獣の九尾の走るスピードはとてつもなく早い。事前に言ってくれない場合、振り落とされそうになるも9本の尾が器用に麗奈の体を器用に抑える。しかし、突然のスピードと急に視界が変わった事で麗奈は悲鳴を上げる。
「九尾のバカーーーー!!!!」
『ははっ、そうそう。元気な嬢ちゃんが一番嬢ちゃんらしい!!!』
講義する麗奈を九尾は嬉しそうに駆け出す。
彼女と九尾は幼い頃から居る。着替えを見に着たりするのも、何故か日課になっているが心の中ではあれがないと1日が始まった気が無いと思い……そんな気持ちに慌てて首を振る。
(つ、次は見られないようにしないと!!!)
そう思う彼女だが、次の日九尾に見られるなどとこの時は思わなかった。次の日も怨霊退治以外は普通に過ごせると、この時の麗奈と九尾は思っていた。
それが、崩れるのは――卒業式の時に訪れる事になる。