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「薬飲んだんなら、とにかくよーく水分取って栄養取って寝てれば、すぐ治っちまうかんな。寝ちまいな。」
「……ねむれない。」
シュンは驚いたように目を見開く。
「そっか。……一応まだ夕方だかんなあ。ねんねんころりよ歌ってやろうか。」
「うたわなくっていいの。」ミリアはそう言って再び目を閉じた。
――教室ではミリアの名前がとても素敵な由来を持つことが披露されたであろうか。もし自分が発表をしたならば、美桜は、目を輝かせて「ミリアちゃんの名前、とっても素敵」と言ってくれる筈なのだ。それから先生も。その他の級友たちも……。
ミリアはそんなことを考えている内に、涙が溢れてきた。
「ううう。」
「な、何だ何だ。」リョウのメタル雑誌を勝手に読んでいたシュンは慌てて立ち上がり、ミリアの顔を覗き込んだ。
「学校、行きたいよう。」
「行けるわきゃねえだろ。インフルなのに。」
「だって、だって、ミリアの名前、知ってる?」
「お前がミリアだっつうことは、会った時から知ってるよ。」
「そうじゃないわよう。ミリアがどうしてミリアなのか。」
「ああ?」
「それ、今日発表するはずだったの。リョウに教えて貰ったのに。せっかく、教えて貰ったのに。」ミリアは布団の中で悶え始める。
「なんだよ、何教えて貰ったんだよ。俺に教えてごらん。」
ミリアは動きを停め、言った。「あのね、ミは美しいなの。」
「ああ、そうか。美しいはミって読むからな。」
「リはね、クールでかっけえの。」
「ほう。凛ってことか。」
「アはね、あいうえおのあだから、一番ってことなの。」
「そうか。そうだな。たしかに一番だ。」
ミリアは満足し切ったようにふう、と深々と溜め息を吐く。
「それを発表する授業だったんか、今日は。」
「そうなの。」
「そりゃあ残念だったな。」
「うん。」
「じゃあ、いいこと教えて貰ったから、俺もいいこと教えてやろう。」
「なあに?」
「そうだな。何でもいいんだが、じゃあ、お前の大好きなリョウの話してやろう。」
「リョウの話?」期待にミリアは目を見開く。
「ダメだ、そんな目かっ広げてちゃあ。目を閉じて聞きな。リョウの昔話だ。」
ミリアは静かに目を閉じて、耳を澄ました。
「……昔々あるところに、リョウっつう凄ぇバンドマンがいました。」
「うふふふ。」
「ダメじゃねえか、寝てねえと。……リョウはな、赤くて長い髪。ギターを弾いて、歌も歌って。それはそれは立派なメタラーでした。」
「うふふふふ。」
「ダメだろ、黙ってねえと。」
「だってシュンが笑わすんだもん。」
「しょうがねえなあ。……リョウはな、俺が知った時には違ぇバンドでギター弾いててな。若手ではなかなか巧ぇ奴だって噂んなってました。」
「リョウはギター上手なの。」
「知ってるって。いいから黙って聞きな。……そんでな、リョウは結構人気で、あっちこっちのバンドで呼ばれて弾いてっつうのをやってたんだけど、どこも長居はしなかったんです。」
「なんで?」
「あいつ、何かっつうと喧嘩ばっかしてたかんな。」
「けんかあ?」
「どこ行っても俺の弾きてえように弾く。下手な奴には下手って言う。曲もこうしろ、ああしろって、作曲者でもねえのにガンガン注文付けてな。」
「ふうん。」
「そんで、クビんなったりてめえでヤメたり、まあ色々だ。」
「リョウとミリア、喧嘩なんてひとっつもしないよ。ひとっつも。仲良しなの。」もう完全に目が開いている。
「そうか、良かったな。……でも昔のリョウはそうじゃなかった。打ち上げで喧嘩おっ始めて居酒屋出禁にされたり、ライブハウスもな、……ここだけの話、未だに出禁が解禁して貰えねえとこ、あっかんな。」
「リョウ、優しいのに。」
「そうだ。今は優しい。でも優しくなったのはな、お前と会ったからだ。」
「そんなことないよ。リョウは初めっから優しかった。ミリア、お腹空いてたけど、お腹空いたって言わない内から焼きそば作ってくれたんだから。」
「それがLast Rebellion七不思議だ。」
「ななふしぎ?」
「そうだ。それまでな、誰が何つったって人の言うことなんざ聞き入れねえ。あいつに物を聞かせられた奴ってえのは、誰一人いなかったんだよ。……あ。ひとり、いた。」
「だあれ?」
「それはな、どんないきさつだったかは忘れたんだけど、あいつがLast Rebellion始める前、他のバンドでギター弾いてた時だ。都内のライブハウスで対バンやった時、なーんと、あいつが尊敬しているアメリカのバンドが、メンバー連れたって観に来てくれたんだよ。あいつのバンド観に来たわけじゃなく、多分ヘッドライナーのバンドと繋がってたか、それ目当てかで来てくれて。そんで、そこのギタリストがな、ライブ終わったリョウに話しかけてくれたんだ。」
「良かったのねえ。」