第9話 悪役令嬢と主人公って友達になれるんですか?
「えっと……助けて頂いてありがとうございます」
マリーが深々と頭を下げる。えっと……私何かしたっけ。戦闘の審判はしたけど、それのことだろうか?
「気にしないで、あ、そうだ私出口を探してたんだけど……マリーちゃん分かる? 」
「そうなんですね、私で良ければご案内致しますよ」
おお! 良い子だ!
「では行きましょうか」
「ありがとう!! 」
マリーに案内されながら、私たちはぽつぽつと雑談を交わした。
「……へー、育ての親が亡くなってしまい、その人の願いで聖女になるためここに来たんだ」
「そうなんです、立派な聖女になってたくさんの人を救うことが出来ればその人に恩返しが出来るかなって」
マリーが照れた様に笑った。
立派な理由だな、親の言われるがままでここにいる私とは大違いだ。
そもそも私は聖女になる気なんかない。本当は戦士になりたいのだけど両親に必死で止められた。
「凄いね、さっきも能力測定で皆大騒ぎしてたしマリーちゃんならきっとなれるよ」
「そうですね……」
ふとマリーが足を止めた。
さっきの笑顔とは打って変わり、悲しそうに目を伏せる。
「どしたの? 」
「下民の私がこの学園でやっていけるのかなって、時々不安になるんです。入学式も前なのに皆様に虐められて……私……」
よく分からないけど……Sクラスならもっと自信持って良いんじゃないだろうか?
実際凄いことなんだろうし。
「んー、マリーはもっと自信持って良いんじゃない? 強者はいつだって嫉妬されるのは仕方ないんだから。それが嫌ならその嫉妬すらも捻り潰す勢いで強くなれば良い、そんだけ」
「捻り潰す……ですか」
そうそう! 下民だろうが貴族だろうが関係ない。
ま、私も前世では女だからって舐め腐ってた人間に陰湿な虐めを受けたものだ。
だが、最強はそんな些細なこと、気にしていられない。
なぜなら最強の自分を更に越えなければいけないのだから!
そうこうしている内に、下駄箱にたどり着いた。いつの間にか旧館を抜け、新館に着いていたようだ。
「やったーありがとう。私一人だったら一生あそこで彷徨っていたよ! 」
「い、いえ」
よっしゃ、さっそく嘆きの谷に向かうことにしよう!
魔王ってどのぐらい強いのかな~、首が五つあったり、片手で惑星破壊したりするのだろうか?
……やばい、ワクワクし過ぎて鼻血が出そうだ。
「あの! ユノさん! 」
「ん? 」
あ、あれマリー帰ってなかったのか。変なところを見られたかもしれない、恥ずかしい。
「あの、私と友達になって頂けませんか? 」
「と、友達!? 」
友達……友達って何だっけ?
そうだ! 敵に囲まれたとき背中を預けられるような関係のことだっけ。
マリーか……聖女としては優秀なんだろうけど背中を預けるのはちょっと不安だな。
その細くて白い腕は人も殴れなそうだ。
「んー。ごめんね、友達にはなれないかな~」
「そうですか……。やっぱりそうですよね、私とあなたじゃ身分に差が……」
いや別にそういう理由ではないのだけど。
大きな瞳を潤ませてしょんぼりするマリー。うっ、流石に罪悪感が湧いてきた。
「わーわーわー!! ごめんね、友達にはなれないけど、マリーのことはこの命に代えても守ってあげるから! ね、それで良いでしょう? 」
「命に代えても……? 」
うーん? 何だかマリーの顔が赤い。あれ、よくよく考えたらすっごく恥ずかしいこと口走ってない私!?
これは弁解しなければ……。
「いや、何と言うかずっと一緒にいてあげるというか」
益々悪化してないか私!?
「は、はい……」
照れくさげに視線を逸らすマリー。
私ユノ=ルーンベルグ、齢十七にして女の子の友達? が出来たみたいです。
が、彼女に何か誤解を与えてしまったような気もしなくはない。