第3話 女の子はショッピングが好き
お母さまの話を聞いたところによると私はもうまもなくこのお屋敷を離れ、聖セルディウス学園という金持ち学校の寮に放り込まれるらしい。
それは私にとっては朗報だった。毎日のように繰り返されるきびしーいお作法の訓練にダンスのレッスン、ほんとに辛くて辛くて仕方がなかった。
それらから解放されて自由な寮生活なんて天国だ!
そんで、私は寮暮らしに向けて買い出しと小銭稼ぎに来たのである。
そう! 城下町である。心配性なお母さまは護衛を付けるといって聞かなかったのだが、無理やり押し切って一人で優雅なお買い物である。
「といっても……一人暮らしって何が必要なんだろう? 」
前世では実家暮らしだったため、一人暮らしって何が必要なのかよく分からん。
すると、武器屋という魅力的な看板が目に飛び込んできた。
これは行ってみるしかない!
私は吸い寄せられるようにその店に入ってしまった。
「らっしゃいませー」
威勢のいい強面のおっさんの声が店内に響き渡る。
そこにあったのは私にとって涎が出そうになるほどの品物の数々!
ドラゴンの頭を模したような大ぶりの剣に、煌びやかな装飾がほどこされた短剣。
地球にはなかったような品々が私を待っていた!
「わ~~~!!! 凄い凄い!!! 」
興奮した私は思わず声をあげてしまう。
「ほう、嬢ちゃん。この良さが分かるかね」
「カッコいいですね~~~、それに強そうです」
語彙力がない私はこのぐらいしか言えないがおっちゃんは気分を良くしたようだ。
「そうだろうそうだろう、武器はロマンだよな~~。お嬢ちゃん、見る目あるね」
「いや~、それほどでも。えっ!! この大鎌、イカしてますね」
カウンターの奥にかけられていたのは漆黒に塗りつぶされたような真っ黒な鎌。
「分かるか!? この大鎌の良さを!! 」
「分かりますよ~、この夜のような真っ黒さ! スタイリッシュなフォルム! ドキドキが止まりませんね」
おっちゃんは満足げにうんうんと頷いた。
「試着……というか持ってみても良いですか? 」
試着という概念があるのかは分からないが私はダメもとで聞いてみる。
すると、おっちゃんはガハハと豪快に笑った。
「そりゃ構わないが、お嬢ちゃんには無理じゃないかな。これは装備レベルと必要ステータスが高すぎてな……作ってみたは良いものの、装備出来る者がいないのだ……」
おっちゃんに手渡された大鎌を受け取る。うん、見た目よりずっと軽く扱いやすそうだ。
軽く振り回すと、ひゅんと風を切るような音がした。
鎌なんて使ったことないけど爽快感もあるし、広範囲に攻撃出来そうだ。中々良い品物だ。
「お前……それ持てるのか? 」
持てる? 片手で持てるぐらいの軽さですけど……。私は思わず首を傾げる。
「この死神の魔鎌は装備レベル88、ちから300を必要とする化け物武器でな……歴戦の聖騎士ですらまともに持つことが出来ないんだ。それをここまで華麗に扱える人間は初めて見たぞ」
装備レベル? ちから? 何を言ってるのかさっぱり分からない。
「へぇ、そうなんですね。良く分からないんですが私この武器気に入りました。おいくらですか? 」
「本当は100万Gのところを、お嬢ちゃんの強さに免じて1万Gにしてやろう! 」
それは大変お買い得だ! 私はホクホク顔で財布を覗き込む。
……100G
しまった、さっき食べ歩きをし過ぎてお金を使いきってしまった。
すると、外でガヤガヤという人の声が聴こえた。
「なんだろう? 」
「ああ、そういえば大陸一の格闘家がイベントをやると言っていたな。確か格闘家を倒せたら賞金1万Gだとか……」
大陸一!? それに賞金!?
このチャンス、逃すわけにはいかない!
「おっちゃん、ちょっと待ってて! 私一稼ぎして来るね」
「おう、頑張れよ~」
大陸一の格闘家、一体どれほどの強さなんだろう。私はワクワクしながらその人の輪の中に突入していった。