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第19話 もふもふは正義

「わー!! 大きなワンちゃん!! 」


 この弾んだ声はユノだ。


「何がワンちゃんだ! これは我が臣下の一人、星屑の賢狼王スターダスト・フェンリルだ! 」


 そしてこの声は彼女の弟のゼノか。良かった二人とも無事だったんだ。


「すたーだすとふぇんりる? ダサ」


「だ、だ、だ、ダサい!? 僕が三日考えたカッコいい名前が!? 」


 現れたのはやはり先ほどはぐれてしまったユノとゼノだった。

 なぜかユノの服には赤黒い何かが付着している。


「ユノちゃん……!!! 駄目! 逃げて!! 」


 合流できたのは嬉しい、しかし再会を喜んでいる暇はない。

 今はこの獣から逃げることが先決だった。


「ゼノ、この子が四本指に入るしもべなんでしょ? 相当強いんだろうな~」


「当たり前だ。星屑の賢狼王スターダスト・フェンリルはその美しさも勿論ながら、その巨体は並みの攻撃は通さず、その俊足は一夜で国を駆けることが出来てだな……」


「いいね!! 私犬飼いたい! 」


「犬じゃない!! 星屑の賢狼王スターダスト・フェンリルだって! 」


 私そっちのけで盛り上がるユノとゼノ。何の話をしているのかは分からないが、楽しそうだ。


「うーん、どうしよ。私、犬は傷つけられないな……」


「おー、どうするんだ。このままじゃお前の負けだぞ」

 

 からかうように口を歪ませるゼノだったが、ユノはピースサインを作るとにっこり笑う。


「まっかせといてー、私、犬の調教は得意だったんだ」


 自信満々に狼の前に立ち塞がったユノは笑顔を崩すことなくこう言った。


「ワンちゃん! おすわ……」


 バキッ。


 狼の腕に吹き飛ばされ、木々に激突するユノ。

 バキバキバキと何かが折れる音が響く。


「ユノちゃん!!! 」


 私は思わず駆け寄る。あんな攻撃を真正面から受けたらひとたまりもない。

 リミッターが外れた獣の一撃を食らったのだ、細身の少女ならば最悪の事態が起きたって不思議ではない。


「もうくすぐったいよ~」

 

 しかし、土煙か立ち上がって来たのは出血一つしていないユノ。


 え? 攻撃、直撃したよね……?


「ユノちゃん大丈夫なの? どこか痛くない? 」


「え? だいじょーぶだいじょーぶ! ちょっと埃は付いちゃったけどね」


 パンパンと服の埃を払ったユノはめげずに再び狼の前に立ち塞がる。


「うーん、やっぱり上下関係を分からせなきゃね……」


 一人悩むユノ。まだこの狼を手馴らすことを諦めていないらしい。


「ふふん、この神獣はそう簡単に人に慣れたりしないぞ、僕に似て高貴な性格だからな」


 なぜか満足そうなゼノ。確かこの二人、姉弟だと聞いていたが、仲が悪いのだろうか?


「おっけー」


 彼女のその言葉を皮切りに、見る見るうちに殺意が膨れ上がるのが分かった。

 この狼のものではない、しかし先ほどのものとは比べ物にならないぐらいの威圧感。


 立っていられず、殺意の主の方向を見られない。


 禍々しいオーラが彼女から立ち上っているのが分かる。

 本当に人間なのだろうか? この重圧、とてもじゃないが人間の娘が纏って良いものではない。


「お座り! 」


 体が勝手に地面に膝をついた。この命令は私に向かって言ったものではないことは分かっている。しかし、体が言うことを聞かない。

 顔を横に向けると、苦悶の表情でゼノが耐えているのが分かる。額には玉のような汗が浮かび、まさにギリギリの様子だ。


 そして肝心の狼は野生の勘が警鐘を鳴らすのだろう、先ほどの様子とは打って変わり、耳を垂れたままユノにかしづいていた。酷く怯えきっている様子で、威厳などこれっぽっちもない。


「ふふふー、良い子ね」


 そんな狼の姿を見たユノは満足げにわしゃわしゃと狼の頭を撫でた。

 まさに上下関係が決まった瞬間なのであろう。


「嘘だろ……!? おい、星屑の賢狼王スターダスト・フェンリル! 」


「そんな名前呼びにくい……そうだ、真っ白でフワフワだから……コロッケちゃんで! 」


「真っ白でフワフワ要素どこいったんだよ!? 食べ物のことしか考えてねーのか」


「揚げる前はコロッケも白っぽいからいーでしょ別に。ねー、コロッケ」


「バウ♪」


 新しい名前がお気に召したのか、コロッケは一鳴きする。

 

「そんなことないよな? 星屑の賢狼王スターダスト・フェンリルの方がカッコいいだろ!? 」


「……」


 目を合わせずそっぽを向くコロッケ。新しい主人を認めてしまったようだ。

 

 がっくりと肩を落とすゼノをふふんと見下ろし、ユノは不意に私に声をかけた。


「あら、ハル大丈夫? 怪我ない? 」


「はい大丈夫です、来てくれてありが……」


 大変なことに気が付いた。私は右目が顕わになっていることをすっかり忘れていた。

 ばっちりユノと目が合ってしまったのだ……。


「ふーん、隠れてたけど不思議な目の色してんのね」


 まじまじと私の瞳を観察するユノ。見た瞬間からもう魅了の魔法はかかるはず、しかし彼女には効いている様子がなかった。


「ユノさん……? 大丈夫ですか? 」


「え、何が? ああコロッケにじゃれつかれたことなら何とも」


 ほら、と両手を広げておどこえるユノ。いや、そういうことではなくて……。


「いや、私の目を見て変な気分になったりはしませんか? 」


 我ながら意味不明なことを言っている気がする。が、ユノは俄然不思議そうに眉を顰めている。


「変な気分? 別に何とも」


 まさか私の魔法が効いていない!?


 今まで出会った人間で、この瞳を見て魅了されない人間などいなかった。

 どんなに煩悩を克服した僧も、自分を律せる騎士も、この瞳の前ではただの動物だ。


 しかし、目の前のこの少女に特に変わった様子はない。


「そんな……まさか……」


「よく分かんないけど、その目、綺麗なんだからいつも出してれば良いのに」


 そのとき、今まで感じたことのない感情が胸を駆け巡った。

 この娘を独り占めしたい、私だけを見て欲しい。


 それはあまりにも激しい感情だった。


 そして私は一つの結論にたどり着いた。


 そうだこの少女を私だけの世界に閉じ込めてしまえば良い、と、



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