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第16話 新入生オリエンテーション

爆睡していたらいつの間にか入学式は終わっていて、呆れ顔のゼノに頬を叩かれて起こされた。


だって飽きちゃうんだもん……学長の話めちゃめちゃ長かったし。


「あんなに堂々と寝るなよ……学長がすっごい顔して睨んでたぞ」


ゼノがまだ半分寝ている私の手を引きながら言う。


「寝ちゃうような話する学長が悪い! 」


我ながら屁理屈だとは思うが睡魔は仕方ない。流石の私もこいつには勝てないのだ。


「はぁ……で、これから新入生オリエンテーションらしいぞ。動きやすい服に着替えて正門に集合だそうだ」


「しんにゅーせーおりえんてーしょん? 」


うむむ……横文字は苦手だ。


「新入生同士の親睦を深める為のイベントだとか」


へぇ……。私には関係のないことだな。別に友だち作りに来てる訳じゃないし。


「ふーん、私はパス、寮で寝てるわ」


「……皆で魔物を討伐するらしいぞ」


「え!? 」


「行くのは迷いの森ってところなんだけどな、ここには強い魔物がうようよいて……でもまぁユノには関係ないか。寝るんだもんな」


「行く行く行く行く!!!! 強い魔物!? 最高じゃん! 」


強いと聞いちゃ黙っていられない。


「ええ~、でも無理しなくて良いんだぞ。入学式でも寝ちゃうぐらい疲れてるんだもんな」


ゼノがいじわるそうに笑う。

うっ、こいつ結構性格悪いな。まあ私が言えた口ではないが。


「もう眠気も吹っ飛んじゃった! さあ行こうゼノ! 魔物討伐に! 」


はいはい、と返事をするゼノをお供に、私たちは正門へと猛ダッシュするのだった!


◇◇◇

「は、話が違う……」


私はとぼとぼと重たい足取りで迷いの森を歩いていた。


これには理由がある。そしてゼノは酷いやつだということを伝えたい。


まず正門に集められた私たち新入生は、大体四人ぐらいのグループに分けられた。職業も性別もランダムらしく、私のグループはゼノ以外知らない人ばかりだった。


ここまでは良い。ここまでは。


しかし、その後教師から告げられたのはこんな言葉だった。


「はいそれでは皆さん新入生オリエンテーションを始めます。皆さんにはこの迷いの森に入っていいただき、二時間、薬草をたくさん採集してきて貰います」


薬草を??? 採集???


私は思わずびしっと手を上げ、その教師に聞いてしまった。


「え、えっと魔物討伐では……? 」


「魔物討伐? そんなものは新入生である皆さんには早すぎます。ああ、安心して下さい、この森は結界が張られていますので魔物一匹入ってこれませんよ」


全てを察した私はゼノをきっと睨み付けた。騙されたのだこいつに……!!


ゼノは飄々と悪びれることなく、呑気に口笛ひとつ。


今さら、じゃあ私帰ります! とは言えないので渋々薬草採集という死ぬほど退屈そうなイベントに参加することになったのである。


はぁ……。回想を終えた私は思わずため息。すると、同じグループになった魔法使い見習いの女の子が心配そうに顔を覗き込んだ。


「ユノちゃんどうしましたか? 元気ないですね」


薄紫色の髪をショートカットにした女の子。まん丸な瞳や小柄な体も相まって大変可愛らしい。右目が髪の毛で隠れているのも大変ミステリアス。


確か名前は……ハルと言ったかな。


「うん……ちょっとね……」


私は怨念を込めた目でゼノの背中を睨む。


前を歩くのは一向に目を合わせようとしないゼノと、戦士見習いの男の子。この四人で私たちは薬草を採りに行っていた。


「は~~~、かったり~~よな。何で俺様が薬草なんか採りにいかなきゃいけねーんだよ」


戦士くんが舌打ち一つ。


分かる~! と思わず心の中で同意する私。


「まぁまぁ!! 皆仲良くなれるチャンスだよ! 」


ハルがにこっと笑う。確かに名前の通り、春の陽気のような女の子だ。


「ちっ、まあ何でも良いけどよ。俺様の足だけは引っ張るなよ。何でこのグループは回復役が二人もいるんだよツいてねーな」


「別に戦う訳じゃないんだから関係ないだろ」


ゼノが口を挟む。


「分かってねーな、俺様のこと誰だと思ってんの? 戦士科2位のコスモ様だぞ? 結界の外に出て魔物の一匹や二匹倒してこーっていう発想はないのかね」


コスモ………私は思わず噴き出してしまった。


名前が宇宙(コスモ)だなんて、すっごくビックな人間になりそうだ。


名前負けしなきゃいーけど。


「あ? 今お前笑ったか? 」


やばい、コスモに聞こえてしまったらしい。

こめかみに青筋をたてたコスモが私の前に立ち塞がり、ぐいっと顎を掴んできた。


「いえ……とんでもございません」


「あのな? オメーみてな非力な女が俺様のこと馬鹿にして良いと思ってんの? 」


「そんなことは…… 」


あー、今手に持ってる両手杖で顔の形変わるまでぶん殴りてえ。


杖を持つ手がブルブル震える。


「もし魔物が出てきたら戦うのは俺様一人なんだからね? そこらへん分かってんの? オメーはただ回復だけしてりゃいんだよ」


あ、もう結界の外に出るのは確定なんだ……。まぁ私もそれには賛成だけど。


「は、はい。すいません」


いちおー、ここはしおらしく謝ってみる私。後で覚えてろよ、このオリエンテーションが終わったら肉塊にしてやるからな。


腹の虫が収まったらしいコスモは私から離れると、足がすくんでいるらしいハルの方に手を伸ばした。


「ハルちゃんは行ってくれるよなあ? 」


「え、で、でも……ルールを破るのは……」


「二時間経ったら何食わぬ顔して戻ってくりゃ良いんだよ、別に嫌ならお前だけ置いていったって良いんだぞ? 」


「そ、それは……」


「早く決めろよ、俺様と行くのか? それとも一人寂しく雑草むしってるか? 」


ハルは渋々頷くと、不安げに目を伏せた。


こうして暴走したコスモにはんば強制的に、私たちは魔物がうじゃうじゃいる結界の外へと足を踏み入れてしまったのである!


本音を言わせて頂くと、コスモナイス! 流石脳筋は頼りになるぜ!


嬉しそうにしてる私に気づいたのか、ゼノがすすすと寄ってくると、こう耳打ちした。


「あの馬鹿でもかしこさ100はあるからな」


もーうるさい、余計なことは言わなくて良いんだよ!!


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