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第13話 悪役令嬢はめげない

 魔王も口ほどじゃなかった……。やはりこの世界でも私に敵うような強さを誇るものはいないのだろうか……。

 横で瓦礫に埋もれて伸びている魔王ゼノファルトを尻目に、私はため息一つ。


「はぁ……」


 どうして私は強すぎてしまうのだろうか、戦う前はワクワクして仕方がないのに、いつも一瞬で勝負が着いてしまう。夢のような時間はいつだってすぐに終わる。


 たまには私だって地面に膝をついてみたいのに、世界はそれを許さないのだ。


「期待外れで悪かったな……」


 瓦礫から這い出して来た魔王が呟いた。


「魔王ってもっと強いと思ってたよ……期待し過ぎは駄目だね」


「あのなぁ……。ふん、ぼ……吾輩の忠実なしもべたちに手も足も出せず無残に敗れるが良いわ」


「しもべ? でもトップがこの強さじゃその部下の強さも知れてるよ」


「馬鹿か貴様は。人間の世界でも王様が一番強いのか? 違うだろ、もしそうだったら王が自ら魔王討伐に乗り出すだろうに」


 目から鱗だ。

 確かに、元の世界でも総理大臣が強かったかと聞かれれば答えはノーだ。どうしてこんな簡単なことに気が付けなかったんだろう。


「なるほど……」


「吾輩の四本指に入るしもべは相当強いぞ。分かったならさっさと出てってくれ、僕はもう疲れた」


 私はふむ、と考えた。私がわざわざ出向くのは面倒くさい。

 そこで私は、目の前で不機嫌そうにしている魔王に目を付けた。


「……魔王誘拐なんてしたら強い人たちが必死で取り返しに来るんじゃない? 」


「当たり前だ。吾輩の臣下たちは皆忠実で……え? 」


 私はにやーっと笑みを浮かべる。


「あんた、私と一緒に来なさい」


「はああああ??? 」


「ずっと一緒にいればそのお強い人たちが襲撃に来るはず!! 」


 う~ん、我ながらナイスアイデアだ。しかも向こうから来てくれるならいつ来るのか分からないドキドキ感も味わえる。このぐらいの緊張感があった方が面白い。


「吾輩が下等な人間と共同生活だと……? 」


「料理も上手かったし生活面でのサポートも期待出来る……これは一石二鳥だぞ」


「おいおいおい、魔王を家政婦にでもするつもりか!? 僕は絶対行かないからな! 」


 この魔王、一人称が吾輩から僕に変わるのがブレブレで面白い。きっとこっちが素なのだろう。


「いやいや、もう決めたから。私はユノ=ルーンベルグ。ユノって呼んでね。君はゼノで良い? ゼノファルトって長いから」


「勝手に話を進めるなよ!!! いててて、手を引っ張るな! 」


「え~、何で嫌なの? 夜になったらささっさと寝てたり暇そうだったじゃん」


「……まぁ暇ではあるけど」


 うなだれるゼノ。あれ、意外と反応は悪くない?


「はい。決まり!! 」


 私はパチンと手を叩く。これで修繕費も払わなくて良いってもんだ。

 ……おっとつい本音が。


「……残念だがそもそも無理だ。僕はこのお城から出られないのだから」

 

 私はどういうことか分からず首を傾げる。ここまで来てごねるなんて意外と往生際の悪いやつだ。


 そんな私の様子に気が付いてか、ゼノは自分の影を指さした。つられてそちらに視線を移すと、なるほど、ゼノの影を縛るように影の鎖が巻き付いている。これも魔法なのだろうか?


「僕は死ぬまでこのお城で守り続けなければいけない、それが僕のしめ……」


「えーい」


 私は大鎌をぶん回すと、ゼノの影を縛るその影の鎖を切りつけた。影で出来ているものに物理的な攻撃が通るのかは分からないが、とりあえずやってみようの精神である。これでダメだったらまた別の方法を考えることにしよう。


 するとその鎖がバラバラと解け、音もなく消えていった。良かった良かった。どうやら私の攻撃は魔法の力にも通用するらしい。


「さー! これでここから出られるでしょ。行こ行こ」


「嘘だろ……何千年と僕らを縛っていた神代の呪いを人間が……」


 何千年? 神代?

 何の話をしているのかよく分からないが、ゼノはブツブツ呟いたまま驚きを隠せない様子で目を見開いている。

 これでまだ渋るようなら……強硬手段に出るしかない。


 しかし、ゼノは一言も発することなく、私が壊してしまった扉をくぐると一足先に地面を足で踏みしめた。


「太陽ってこんなにまぶしかったんだな」


「ん? まぁそーだね」


 何を当たり前のことを言ってるんだろう?

 というか外に出てくれたということは私と来てくれる気になったのだろうか。


「で? 僕をどこに連れてってくれるんだっけ? 」


 呆れた様に息を吐きながらゼノがこちらに振り返る。


「やった! 乗り気になってくれた? そうだね、まず私と同じ学校に入って……あ、寮も同じにして貰わなきゃね」


「学校!? 魔王に人間の学校に通えと言うのか!? 」


「そんな堅いこと言わなくて良いじゃんー、常に一緒にいなきゃいけないんだからさ。仕方ない仕方ない」


 それに魔王なら人間の学校なんて楽勝だろ、多分。


「はぁ……もう好きにしてくれ」


 最初からそう言えば良いんだよ。はい好きにします。


「じゃ、よろしくゼノ! 」


「こちらこそ」


 私はこのとき、初めてゼノの笑顔を見た気がした。ふーむ、魔王なんておどろおどろしいやつだと思っていたけどこうしてみると私ぐらいの年の普通の青年だ。


 何はともあれ、こうして私は魔王ゼノファルトをゲットしたのだった!



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