第10話 よし、魔王城に乗り込もう
マリーと別れた私は、さっそく魔王が住むという嘆きの谷目指してひたすらに西の方向に突き進んでいた。
地図なんて持ってない、というかそもそも読めないからいらないのだ!
なんとなーく西の方から強者の気配がするのでただその勘を信じているのである。
「うーん、中々着かないなぁ」
森を抜け、何かよく分からない遺跡を抜け、気が付くと木々一本生えてない荒れ地にいた。
霧で覆われたそこは、少し先も真っ白で何も見えなかった。何だか怪しいし、明らかに強者のオーラが近くなっている、気がする。
途中ででっかい熊や炎を吐くトカゲに襲われたが、眉間の辺りに一発食らわせると皆大人しくなった。
命は大事にと親父に教えられてきたので倒した獲物はしっかり焼肉にして頂いた。
命は命を食べることで繋がっている……私たちはそれを忘れてはいけないんだ。
って、何の話をしてるんだ。
「ん? 」
どうでもいいことを考えていると、見えない壁のようなものにぶち当たった。
顔面を強く打ち付けた……鼻が痛い。ちょっと鼻が低くなってしまったんじゃないだろうか。
……許せん。
私は力任せにその見えない壁をぶん殴った。
パリン! というガラスの割れるような音がしたかと思うと、ガラガラと見えない壁が崩れ、砂のようにサラサラと消えていった。すると辺りの霧が一気に晴れ、目の前におどろおどろしい城が姿を現した。
絶対これ魔王城だ!! 間違いない。
でも何でいきなり出てきたんだろう? さっきまでそこに何もなかったのに。
「ま、いっか! 」
細かいことは気にしないのが私の良いところなのである。
ルンルンで扉を開けようとしたが、不思議な力に閉ざされていてびくともしない。
えー、何でだろう……。特別な鍵でも必要なのだろうか?
「鍵か……」
思い当たるアイテムはない。こんなことで考えていても仕方ないか!
私は護身用に担いできた大鎌を振りかざすと、扉に向かって振り下ろした。
とりあえず何事も試してみることが重要なのである。
大鎌は易々と扉をぶち抜いた。土煙をあげて崩れ落ちる入り口。
魔王さんごめんなさい。修繕費は後で払いますので……。
「お邪魔しまーす」
早速中に入ってみると、中には誰もいなかった。あまり手入れされていないのか埃っぽい。
ハウスダストアレルギーだからかくしゃみが止まらない。
家具も何だか悪趣味だし全体的に薄暗い。こんなところで暮らせるのは確かに魔王ぐらいかもしれない。
「何者だ貴様! 人が寝てる時間に! 」
男の怒号が館内に響いた。そちらに目を向けると、縞々のパジャマに身を包んだ青年が眠そうに目を擦っていた。
闇を写し取ったような黒髪に、人間離れした白い肌、彫刻のように均衡の取れた美しい顔立ちは怒っていても美しい。そして頭には鹿のような立派な角が生えていた。
もしかしなくてもこの人が魔王だろう!
「貴方が魔王? 」
「いかにも、吾輩が魔王ゼノファルトである。だがもう謁見の時間は終わりだ。何か用事があるなら明日にしてくれ」
「え~、私魔王と戦いに来たのに……」
「戦う? そんな命知らずがまだいたとは……だがもう吾輩は寝る時間なんだ。今日はここに泊まっていって良いから明日で頼む」
む~、まぁ仕方ないか。睡眠と食事は強さの源だしね。
私はその言葉に甘えて、今日は眠ることにした。