第1話 思い出した
目の前で気絶しているならず者ども、血に染まった私の拳。
そのとき、夢から覚めたように私は全てを思い出した。
「四宮……雪路」
そう私の名前は四宮雪路、だった。
『だった』と過去形なのは理由がある。今、私はユノ=ルーンベルグとして生きていた。
俗に言う、異世界転生というやつだ。
確か私はとある乙女ゲームを買って来て欲しいと妹に頼まれ、渋々街へと繰り出した。そんで途中でトラックに跳ね飛ばされて……。
そうそう、確かタイトルは「聖女の祈り」。お、良し良し少しずつ思い出して来たぞ。
ちょー簡単にそのゲームのストーリーを説明すると、
天涯孤独の主人公マリーは、ある日自身に聖女としての力があることを知り、聖女を養成するなんちゃら学園に特待生として編入する。そこで悪役のユノに虐められたリ様々な困難に遭いながらもお目当てのイケメンとくっつく、みたいなストーリーだった気がする。 私自身はさっぱり興味がないので分からないが、イケメンに囲まれてあれやこれするゲームらしい。妹に熱くそのゲームの良さを語られたが、ろくに聞いていなかったので覚えていない。
ん? 待てよ?
ライバルのユノ……。
「えええええええユノって……私じゃん!!! 」
おっと、思わず叫んでしまった。
まさか異世界といっても乙女ゲームのキャラクターに転生していたとは……。
そーいえば妹もユノというキャラをG(テカテカ黒光りする虫のことよ)のごとく嫌っていたなぁ。
とにかく性格が悪く、主人公の邪魔しかしなくて良いところが一つもないような女らしい。
んで、この女の婚約者を奪ってその男とハッピーエンドを迎えるのが最高に気持ち良いというのは妹の話。
でもま、いっか。
これは自慢なんだけど、四宮雪路の頃の私はぶっちゃけ最強だった。
不良の闘争と聞いては野次馬のごとく出しゃばって全員まとめて黄泉送りにし、名の知れた格闘家ですら私にとっては赤子のようなものだった。
力こそ正義、誰が言ったかは知らないが名言だと思う。
拳と拳をぶつけ合って命のやり取りをするとき、私はさいっこうに高ぶった。
しかし、最強であればあるほど敵はいなくなる。地球にはもう私と対等に渡り合える人間はいなかった。
そうつまりこれはチャンスなのである、この新しい世界で私はまだ最強ではない。
まだまだ強いやつがこの世界には眠っているはずなのである。
その為にはこの嫌われ者ぐらいの方が好き勝手行動出来て都合が良い、だってその方がトレーニングに打ち込めるってものだ。
「いいねぇ、楽しくなって来たよ」
良いじゃないか異世界転生! 最高だよゲームの世界!
剣も魔法も何でもありありな世界で私の限界を知りたい。
そう考えると何だか胸が弾むようだった。