平成25年度防衛予算概算要求紹介
今年も防衛省ホームページで公開されている防衛予算の概算要求(http://www.mod.go.jp/j/yosan/2013/gaisan.pdf)を紹介したいと思います。
神楽「今年もこの季節がやってまいりました!」
荻原「さる9月7日、来年度の防衛予算の概算要求が防衛省から提出されました」
深海「防衛省ホームページに掲載されている概算要求を基に、今年もその内容に迫ってみたいと思います」
荻原「というわけで、今年も概算要求の項目ごとに取り上げていきたいと思います。最初はまた海洋の安全についてですね」
深海「目玉はなんと言っても新護衛艦だろうね。25年度予算で建造が要求されているのは5000t級汎用護衛艦だ」
神楽「3000tクラスの廉価版護衛艦という話もあったけど、あきづき型改で落ち着いたようだね。特徴は機関にCOGLAG推進を取り入れたこと」
荻原「COGLAG?なんですか、それは?」
深海「COGLAGはガスタービンと電気推進を併用する機関だ。ガスタービンは加速力に優れ、高速航行時に威力を発揮するが、低速航行時には燃費が悪いという欠点があった。そこでガスタービンで発電機をまわし、その電力を低速時に利用することで燃費を向上させようということだ」
荻原「護衛艦も燃費を気にする時代なんですね。他には潜水艦の取得、P-1哨戒機を2機取得するとありますね」
神楽「P-1はこれまで8機分の予算が計上されているから、今年分が認められれば合計10機になるね」
深海「80機程度の調達を目指すらしいが、今のペースだと40年かかるぞ…」
荻原「それからE-767AWACSの能力向上改修が要求されていますね」
神楽「どうやらレーダーではなく搭載コンピューターの方を換装するつもりね。あと電子戦装置の搭載」
深海「地上のレーダーの更新も進める。昨年度予算で沖縄の沖永良部島のレーダーを更新したのに続いて、宮崎県高畑山のレーダーサイトにある旧式レーダーを最新型のJ/FPS-7に更新するようだ」
荻原「J/FPS-7とは?」
神楽「詳細不明」
荻原「去年もそう言ってませんでしたか?」
深海「…」
神楽「それから今年も護衛艦の艦齢延伸改修の予算が要求されているね」
荻原「昨年は、護衛艦8隻分の部品と改修工事の予算が概算要求に盛り込まれていましたよね」
深海「昨年度予算では要求はほぼ認められたようだ。とは言っても、実際に工事を行うのはあさぎり型2隻だけで、残りは部品の調達だけのようだけど」
神楽「そして、今年は?」
深海「護衛艦14隻が対象になっている。ずいぶんと強気に出たな。まぁ、前回は1万9000t級護衛艦の新造があったからかもしれないが。ちなみに実際に工事するのはあさぎり型2隻のようだ」
神楽「まぁドックの数とかの問題もあるから、一斉に!というわけにもいかないのでしょうね」
荻原「潜水艦の艦齢延伸改修の予算も初めて盛り込まれましたね」
深海「いよいよ潜水艦22隻体制に向けて動き出したわけだな」
神楽「初年度は改修工事2隻分と、別途に部品1隻分を要求」
荻原「それにP-3Cの寿命延伸改修。寿命延伸ばかりですね」
深海「退役する装備に、新装備の調達がまったく追いついていないからね」
荻原「次は新型艦載レーダーの開発とありますね」
神楽「潜望鏡を自動的に識別機能を持ったレーダーねぇ。P-1のHPS-106フェイズド・アレイ・レーダーを艦載対水上レーダーに転用しようって話みたい」
荻原「次は高高度滞空型無人機うんぬんとありますね」
深海「グローバルホークの導入をするみたいだから、その準備ってことなのかな?」
荻原「次は、いわゆる離島防衛ってヤツですか?」
深海「君も分かってきたね。その通りだよ。内容は、まずは沿岸監視隊の設置とあるね」
荻原「去年もそんな話がありましたね」
神楽「それが来年度からいよいよ本格的に動き出すらしいね。まずは与那国島に配置するらしい」
荻原「それから那覇基地でE-2Cを配備する準備。これも去年にありましたね」
深海「今年度は事前調査だったけど、来年度からいよいよ本格的に整備を開始するようだ。那覇基地でE-2Cの整備ができるようになれば、恒常的にE-2Cを沖縄方面に派遣できるようになるし、その分だけ警戒能力が高まる」
荻原「それに参考用に水陸両用車を購入するとあります。これは新聞記事にもなりましたね」
神楽「アメリカから研究用に中古のAAV7を購入するみたいね」
荻原「AAV7を導入は何を意味するんでしょうか?」
深海「AAV7の特徴は水陸両用の装甲車両であるということだ。洋上の艦艇から直接発進して、水上を航行し、そのまま上陸できる。そして上陸後は陸上を走り、装甲車として活動する」
神楽「これまで自衛隊が海上から部隊を上陸させようとすると、その手段はヘリコプターによる上陸か、LCAC、つまりエアクッション艇かに限られる。でも、どちらも防御力が低い」
荻原「AAV7は装甲車ですね!」
深海「その通り。AAV7は上陸、そして内陸への進撃に際して自衛隊員に装甲防御力を提供できる。これは凄い強みだ」
神楽「AAV7が先遣隊として上陸地点を確保すれば、そこにLCACも比較的安全に揚陸できるようになるからね。上陸作戦にあると便利な装備だよ」
深海「ただ、問題は本格的に導入する時にいろいろとありそうだ、ということだね」
荻原「どうしてですか?」
神楽「AAV7はとっくの昔に生産終了になってて、アメリカの中古を買うしかない。アメリカも現役で使ってるから、買える数には限りがある」
深海「しかも、アメリカがAAV7の後継に開発していた新型水陸両用装甲車両EFVは開発中止になってしまった。この手の車輌の将来がどうなるか、まったく不透明な状況なんだ」
荻原「次は防空関連ですね」
神楽「現代戦では空軍が重要だからね。今年度は特に新規事業はないみたい」
深海「さて、前回の概算要求時点では決まっていなかったF-Xだけど、それがF-35に決まったのは皆さんもご存知の通り」
荻原「来年度は2機で308億円。今年度に比べると価格が1.5倍ほどに上昇していますね」
神楽「注目して欲しいのは別途に国内企業参画の経費を要求している点。F-35にどれだけ国内企業が参入できるかが注目されていたけれど、それもどの程度、どの部分か、だいたい決まったのかもしれないね」
深海「あとは量産効果に期待したいね」
荻原「それから既存の機体の近代化改修の予算が要求されていますね」
神楽「F-15近代化改修6機分に、自己防御能力向上1機分。F-2の空対空能力向上12機分に、JDAM搭載改修12機分」
深海「F-2の空対空能力向上ってのは、ようするにアクティブレーダー誘導方式のAAM-4を搭載できるようにするってこと」
荻原「そして、これも今年度予算の概算要求に研究予算が要求されていた那覇基地の2個飛行隊化」
神楽「来年度は研究じゃなくて、実際に設備を整備するみたいね」
深海「こうして見ると、新しい戦いに向けた準備は着実に進んでいるんだな。遅いけどさ…」
神楽「やっぱり防衛費増やすべきよね」
荻原「次はシーレーン防衛ですね」
深海「まずは次期掃海艦だね。しかし基準排水量1000tの<やえやま>型の後継が690tとはね…」
神楽「掃海艇と対して違わなくなっちゃうね」
荻原「掃海艇と掃海艦は違うんですか?」
深海「大きさが違う。掃海艇は比較的沿岸、浅瀬で活動するもので小回りが利くように小型だ。一方、掃海艦が外洋で深海に設置された機雷を除去するために大型だ。<やえやま>型は1000t」
神楽「海上自衛隊では珍しいスケールダウンだね。予算の都合か、それとも想定される戦場の変化か」
深海「対中国とすると想定される戦場は東シナ海だからね。浅い海だから、それほど大きくする必要はないという判断なのかも…」
神楽「船体は小型の掃海艇に続いてFRP製」
荻原「FPR?」
深海「繊維強化プラスチックのことさ。プラスチックにガラス繊維とか炭素繊維とかのような特殊な繊維と組み合わせることで強度を増したプラスチック」
神楽「掃海艦艇は機雷を除去する為の船さ。機雷の中には船体の磁気に反応する類のものもある。だからそういうのに反応しないように、磁気を発しない木やFRPなどで造られる」
深海「海上自衛隊は昔から木製船体の掃海艇を建造してきた。しかし木は腐っちゃうから、どうしても寿命が短い」
神楽「そこで海上自衛隊は今年就役した小型掃海艇の<えのしま>型からFRP製の船体を導入したの。これで寿命が1.5倍に伸びて30年ほどになったそうよ」
荻原「すごいですね」
深海「そして比較的大型の掃海艦にも導入されたわけだ」
神楽「大型と言っても精々100tくらい大きいだけだけどね」
荻原「それから各種ヘリコプターの導入に、SH-60J対潜ヘリコプターの寿命延伸。それに新型対艦誘導弾の開発」
深海「新型誘導弾は陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の派生型で、射程の延伸、誘導精度の向上が図られている。中間誘導には従来の慣性誘導だけでなくGPSも用いられるようになるだろう」
荻原「12式地対艦誘導弾は今年度予算の概算要求では88式地対艦誘導弾(改)として掲載されていたヤツですね。それから対潜哨戒機用の搭載システムの向上」
神楽「それも装備するんじゃなくて、まだ研究段階のようだけど」
深海「ソナーなどの能力向上の研究に、情報融合技術等の研究とある」
荻原「情報融合技術?」
神楽「おそらくセンサー・フュージョンのことね」
荻原「センサー・フュージョン?」
深海「つまりだね。現在の軍用航空機には様々なセンサーを積んで、戦場の情報を集めている。戦闘機ならレーダー、敵のレーダー電波を捉えるESM装置。それに最近は赤外線センサーやデータリンクからの情報も加わる」
神楽「対潜哨戒機ならソナーや磁気探知機も加わるわね」
荻原「いっぱいありますね」
深海「従来の機体の場合、そうした様々な情報源から得られた情報はそれぞれ別のモニターに表示されていた。レーダーならレーダー画面、ESM装置なら警報装置って具合にね」
神楽「多機能画面を使っても、違うセンサーの情報を見るには切り替えが必要。それがパイロットの負担になっていた」
荻原「確かに、それは頭がこんがらがっちゃいそうですね」
深海「そこで導入されたのがセンサー・フュージョンの概念だ。まぁ、ようするに様々なセンサーやデータリンクで得られた情報を1つの画面に一括して表示しようという構想だね」
荻原「なるほど。1つにまとめれば分かりやすいですね」
神楽「これは第5世代ジェット戦闘機の必須な機能と考えられ、F-35の優れた点の1つに挙げられている」
深海「ちなみに航空自衛隊のF-15J改、形態2型にも取り入れられている可能性がある」
荻原「本当ですか?」
神楽「平成21年度予算の概要では、F-15Jの近代化改修の項目のところで“画面情報の一括情報による情報認識”とあり、レーダー画面にデータリンクで得られた情報が表示されている様子のイメージ図が描かれている」
深海「また平成22年度予算の概要では、F-15Jの自己防御能力向上の項目のところのイメージ図に“統合表示機能の追加”と書かれている。以上の2点からF-15J改もセンサー・フュージョンを取り入れている可能性がある」
荻原「なるほど」
神楽「そして、今年度の項目が示すところは、そうした機能をP-1哨戒機にも装備しようと言う研究ではないかと」
荻原「次はサイバー攻撃対策となっていますね」
深海「サイバー攻撃はまさに現実に直面している危機だ。最近の尖閣諸島を巡る日中の対立でも、日本の政府官庁のウェブサイトに対するサイバー攻撃が確認されている」
神楽「来年度予算の概算要求では、サイバー攻撃対処の実働部隊であるサイバー空間防衛隊(仮称)の新設が謳われている。しかしサイバー空間防衛隊ねぇ」
深海「そして、様々な支援体制も拡張される。サイバー攻撃は今の日本にとって、今そこにある危機なんだ」
荻原「次はゲリゴマへの対処。それに大災害対策ってなってますね」
神楽「まずは特殊部隊対策。目新しい項目は特に無いけど、でも注目すべき点はいくつかある」
深海「まずは戦闘ヘリコプターの取得だ。調達するのはAH-64DJロングボウ・アパッチ。重要なのは、これが通算13機目であるということ」
荻原「確か、いろいろな理由で10機で調達打ち切りになったけど、平成23年度予算から調達が再開されたんですよね。当面は13機配備を目指すってことで」
神楽「そして、来年度がその13機目。これからどうなるのかしらね?」
深海「1機52億円か。一時期は百億越えていたと思うと、ずいぶん下がったもんだな」
神楽「あれは調達の打ち切りで、本来は60機に分散する筈だった設備投資費が集中した結果だからね。これが本来の価格に近いんでしょう」
深海「10式戦車6両分くらいと思えば安いよね」
荻原「それに10式戦車やら装甲車やら歩兵装備やら」
神楽「今年度予算の概算要求では多用途ガン(笑)とされていたM3カールグスタフの自衛隊での呼び方は、84ミリ無反動砲(B)で落ち着いたようね」
荻原「84ミリ無反動砲カールグスタフは日韓大戦や世紀末の帝國でもよく登場しますよね」
深海「携帯式の対戦車火器の一種だね。対戦車火器としては旧式化していて、後継の装備として01式軽対戦車誘導弾やパンツァーファウストIIIの導入を自衛隊は進めている」
荻原「では、なんで今更導入しているんですか?」
神楽「カールグスタフは汎用性が高いからよ。対戦車弾のほかに榴弾や発煙弾、照明弾を発射することができて、敵歩兵の陣地とかいろんな目標に対して使うことができた」
深海「パンツァーファウストIIIは対戦車弾しか使えない使い捨て兵器だし、01式もあくまでも対戦車用な上にミサイルなのでカールグスタフに比べると弾が高価だ」
神楽「ということで、対歩兵戦用に携帯できる安価な歩兵砲が求められるようになったのよ」
荻原「そこで84ミリ無反動砲を導入したんですね」
深海「アメリカ海兵隊では同種の兵器としてSMAWロケット弾を導入している」
荻原「それに、対NBC装備の充実やら、災害対処能力の向上やらいろいろとありますね」
神楽「まぁ、だいたいは去年の概算要求に載ってたことね」
深海「そして、そのほかの装備品として、火力戦闘車の開発とあるね」
荻原「あれ?それって今年度予算の概算要求にもありませんでした?」
神楽「実際の予算では却下されたよ。というわけで来年、リベンジってわけ」
深海「それで既存の砲や車輌を流用して開発費を削減します!って強調しているわけか」
神楽「技術研究本部が開発を進めていた先進軽量砲を載せるって話もあったけど、お蔵入りかしらね」
荻原「次は弾道ミサイル防衛ですね」
深海「あたご型に対するMD能力の付与、PAC-3の導入、日米共同での次世代型スタンダードSM-3ミサイルの研究。まぁ当たり障りの無い内容だね」
神楽「問題はその次。まずは赤外線センサー搭載の衛星の研究が掲げられている」
深海「早期警戒衛星か」
荻原「早期警戒衛星?」
神楽「ミサイル発射時のロケット噴射の熱を感知して、ミサイル攻撃の警報を発する衛星のこと」
深海「ミサイル防衛にはなくてはならないものだね。そして、これまで日本は米軍の情報が頼りだったけど、独自の早期警戒衛星を持てれば、独自の情報源を持てることになる」
神楽「次の無人機も同様ね」
荻原「滞空型無人機?上のグローバルホークとは違うんですか?」
深海「イメージ図として普通のセスナ機みたいな機体が描かれているけど、防衛省技術研究本部が同じようなものを研究していたんだ」
神楽「技術研究本部のサイトのニュースコーナーに飛行試験の様子が掲載されているね」
深海「それを基に実用的な兵器を開発するということだろうか?」
神楽「それに国際貢献活動関連の話ね」
荻原「まずは活動基盤の強化とありますね」
深海「ようするに国際貢献の為の装備を調達するってことだね」
神楽「まずは射撃位置探知装置。ようするに海外で活動している自衛隊員に攻撃を加えられた時に、その相手の位置を音響センサーや光センサーで探ろうという装備ね」
深海「イラク派遣の時にも、サマワの基地に迫撃砲が撃ちこまれたってこともあるからね。こういう装備があると、心強いだろうね」
荻原「次の10tトラック(PLS付き)は前回、紹介したヤツですね」
神楽「それに浄水セット、隊員の訓練か」
荻原「次は実際の活動についてですね」
深海「取り上げられているのは3つ。まずはソマリア沖、アデン湾での海賊対処活動の継続」
神楽「次はPSI阻止訓練等への参加」
荻原「PSI?」
深海「PSIというのは兵器の拡散に対する安全保障構想の略だ。兵器の拡散とは、大量破壊兵器や弾道ミサイルを念頭においている」
神楽「日本の場合、特に北朝鮮に対する措置という側面が強いわね」
深海「阻止訓練というのは、ようするに臨検活動の訓練と言うことだろうね」
荻原「それから、最後にアフリカ諸国のPKOセンターへの講師の派遣、とありますね」
神楽「今や日本もPKO活動について諸国に教える立場に立っている。これも大国としての大切な責務」
深海「PKOに持っていく機関銃の数で揉めていた頃はまさに隔世の感があるね」
荻原「次は宇宙関係ですね」
神楽「一番の注目は宇宙状況監視に関する取り組みね」
荻原「宇宙状況監視?」
深海「人工衛星や、それにスペースデブリ、いわゆる宇宙ごみの監視活動だね」
荻原「宇宙ごみ?」
神楽「地球周辺には、機能を失った人工衛星や、飛散した部品などが数多く漂っている。その数は1ミリ以下の微細なものまで含めれば数千万個とも」
深海「そうした宇宙ごみが人工衛星や宇宙船に当たると、大変な被害が生じる。宇宙開発に伴って、その数は年々増加していて、その対策が重要な過大になっているんだ」
荻原「怖いですね」
神楽「そうした宇宙ごみの監視は世界的に行われている。アメリカでは北米宇宙防空司令部NORADも参加している。自衛隊もそれに加わろうというのでしょうね」
深海「概算要求では、その理由として“BMD対処能力の向上”“自衛隊の利用する衛星の防護”“日米協力”を挙げている」
神楽「まぁ、今はあくまで研究段階だけどね。FPS-5、いわゆる“ガメラレーダー”を利用できるか研究するようね」
荻原「それにC4Iの強化」
深海「まずは野外通信システムの改良。それに次期Xバンド通信衛星に対応した洋上ターミナルの準備」
荻原「次期Xバンド通信衛星というのは、今年度予算の概算要求紹介の際に取り上げられていたヤツですね」
神楽「それに対応した送受信装置を護衛艦や潜水艦に搭載するということね」
荻原「次は教育関係ですね。防衛研究所、防衛大学校、防衛医科大学等、それから職場の環境整備といった項目があります」
深海「人材育成は重要だからね」
神楽「サイバー安全保障の研究やら、オーストラリアとの交流やら、これまで見てきたような今の時勢が反映されているわね」
深海「注目すべきは防衛研究所が「太平洋戦争史(仮)」の編纂準備を進めているということだ」
神楽「かつて防衛研究所は1960年代から1980年にかけて、太平洋戦争の経過を記した公刊戦史「戦史叢書」を発行した。しかし、旧軍関係者が参加していたこともあり当初より内容の偏りが指摘されていた」
深海「戦時中の陸海軍の対立をそのまま引きずって、戦史まで陸海別になっていたりね」
神楽「ソ連の崩壊やらなんやらで新資料も出てきて、内容の誤りも見つかるようになり、近年になって全面改訂をするという話が何度も出てきていた」
深海「この「太平洋戦争史(仮)」というのは、いよいよそれが現実に動き始めるということかもしれない」
荻原「次は組織とか編制関連ですね」
神楽「まずは統合幕僚監部の改編ね。東日本大震災等の教訓に基づいて改善するらしいよ」
深海「部外、つまり自衛隊以外の組織との連絡機能の強化や、統合運用訓練や企画の強化が謳われているね」
神楽「東日本大震災での消防警察との連携作戦や、初の統合運用の経験を反映しているのね」
深海「それから防衛計画部副部長(仮)を設けて、国際的な業務と国内業務を併行して遂行する機能の強化というのは、ここ最近の国際貢献活動の主任務化の影響だろうね」
荻原「それから部隊の組織改編ですね」
神楽「最初のは不穏ね。第7師団の即応近代化って…」
荻原「即応近代化というのは、テロ攻撃などの事態に迅速に対応する為に機動力を高めた部隊でしたっけ?」
深海「そして、それの対義語が総合近代化部隊で、コマンド攻撃から正規軍の着上陸まで様々な事態に対応したバランスのとれた部隊をいう」
神楽「自衛隊において“機動力を高める”というのは、だいたいのところ重装備を減らすって意味よね」
深海「噂によると90式戦車50輌と、74式戦車10輌が削減されるそうな」
神楽「景気が悪い話ばっかだね。陸自は」
荻原「それから第10師団も即応近代化され、第1戦車群も廃止」
深海「それに第6高射特科群を廃止して、かわりに第15高射特科連隊を新設。ようするに第6高射特科群が第15高射特科連隊に改編されるって話なのだろうけど、なにが変わるのかはよく分からない」
荻原「次は航空自衛隊ですね。航空戦術団(仮)ですか」
神楽「これは航空総隊直轄の各種教導部隊を統合したものね」
荻原「教導隊?」
深海「教官から成る部隊で、戦術・戦闘方法の研究や実戦部隊の指導を担う部隊だ。敵戦闘機に扮して空中戦訓練を指導する飛行教導隊は有名だね」
神楽「ほかにも高射教導隊、基地警備教導隊、それに電子戦訓練を支援する電子戦支援隊があった。でも、それぞれ航空総隊直轄の独立した部隊だった」
深海「でも、実際の戦闘はそれぞれ独立して戦うわけじゃない。戦闘機部隊、高射部隊、基地警備隊、それに電子戦部隊が協力して戦う」
神楽「というわけで、研究や指導においても、そうした連携作戦を念頭にやらなくてはいけない。だけど、それぞれ独立した組織だとなかなか共同作業ができないからね」
荻原「それで、航空戦術団にまとめようというわけですか?」
深海「そういうことだね」
神楽「その後にも、いろいろと項目があるけど、省略」
荻原「いいんですか?」
深海「まぁこれまで説明したこのの再掲が多いしね」
神楽「つまらないし」
深海「というわけで、平成25年度防衛予算概算要求は総額4兆6536億円、米軍関係費を抜くと4兆5851億円なり!」
神楽「今年度予算が総額4兆7138億円、米軍関係費を抜くと4兆6453億円だったから、珍しく前年度より低い要求ってことになるわね」
荻原「えっ?防衛費って下がり続けているんじゃなかったでしたっけ?」
深海「概算要求ってのは、あくまで防衛省が“これだけ必要です”って出す要求に過ぎないからね。これから政府が予算案をまとめる段階で、どんどん削られていっちゃうわけ」
神楽「こういう交渉はなにごともそうだけど、最初の要求は多めに出しておくのが普通だからね。今年度予算だって概算要求の段階では、昨年度予算より増額した要求を出してたでしょ?」
深海「それが概算要求の時点から大幅削減か。実際の予算はどうなっちゃうんだろうなぁ…」
というわけで、自衛隊はあいかわらず厳しい状態が続くようです