陸軍地位向上委員会9 歩兵の火力
前回より短め。ちとバランスが悪かったかもです
神楽「さて、前回の宿題を覚えているかな?」
荻原「えぇと。アメリカ、ドイツ、日本の歩兵小隊の中で一番弱いのはどこか?でしたっけ?」
深海「早速、だけど答えあわせといこうか」
1.最弱はどこでしょう?
神楽「確か荻原さんの答えは日本だったわね?」
荻原「はい。なんとなくそんなイメージです」
深海「確かに自動小銃装備のアメリカや強力な機関銃を持つドイツに比べると日本陸軍歩兵は弱く見える。でも実際はどうだろうか?」
荻原「どうなんでしょうか?」
神楽「答えは…アメリカ!」
荻原「えっ!なんでですか?」
深海「そこが今回のテーマだ」
神楽「アメリカ陸軍歩兵は確かに自動小銃で武装していて、一見すると強そうだけど、実は大きな問題点があった。それは軽機関銃!」
深海「ドイツはMG34やMG42のような強力な軽機関銃を持っているし、日本軍も九六式軽機関銃や九九式軽機関銃のような十分な性能を持つ機関銃を持っている」
神楽「それに対してアメリカ軍の装備するM1918BARは元々自動小銃として開発されたものなので、性能が日本やドイツの機関銃に劣っている」
荻原「どんなところがですか?」
深海「まず弾の装填数が少ない。MG34はドラムマガジンを使った場合、50発。九九式は30発ほど装填できるのに対してBARは20発だ」
神楽「さらに機関銃を連射すると銃身が過熱して発砲できなくなってしまう。そこでどの機関銃も銃身が簡単に交換できるようになっていて、過熱した銃身を交換することで連続して戦闘できるようになっていたけど、BARの場合は交換ができなかった」
深海「つまり銃身が冷えるまで待たなくちゃいけないんだ。というわけでBARは日独の機関銃に比べると火力が見劣りした」
神楽「前回や編制を学ぼう中隊編で説明したように、第一次世界大戦以後の歩兵部隊は密集陣形から散開陣形へと発展した。小さなグループごとに分かれ、広く分散することで機関銃の集中射撃から逃れようとしたというわけさ」
深海「そして散開して兵力の密度が薄くなった分を軽機関銃の火力で補った。第一次大戦以降の歩兵分隊において軽機関銃こそが戦闘の根幹だったんだ」
神楽「その軽機関銃の性能でアメリカは劣っていた。それを小銃の自動化で補っていたというのが実態ね」
荻原「それでもやっぱり他の国には及ばないんですか?」
深海「自動化されているといってもM1ガーランドはセミオートだからね。機関銃みたいに連射できるわけじゃなくて、引き金を引いても1発ずつしか発射されない。装填が自動化されているだけ。だから火力は機関銃には及ばない」
神楽「日本はもっと上の単位で、連隊とか師団とかのレベルだと砲兵火力で劣っていたけど、歩兵同士の火力では決して劣っていなかったの」
深海「ちゃんとした軽機関銃を持っているし、小隊には擲弾筒もあるからね。他国の基準から言えば50ミリ迫撃砲だ」
神楽「よく日本陸軍は小銃を自動化できなかったことを批判されるけど、それは決して致命的なことではなかった。むしろ性能が悪くない機関銃の配備を進め、歩兵同士なら火力でも決して負けなかったのよ」
2.歩兵の装備は日露戦争のままか?
深海「というわけで、機関銃を中心にして戦う第一次世界大戦以降の歩兵戦において日本陸軍は決して劣っていなかったというわけだけど、なぜか小銃だけをピンポイントで取り上げて、“日本陸軍は日露戦争期となんにも変わっていない!”などと批判されるわけだ」
神楽「ふぅん。じゃあ比べて見ましょうか?」
日露戦争期の歩兵連隊の装備
30年式小銃、ホチキス式機関銃
太平洋戦争期の歩兵連隊の装備
99式小銃、99式軽機関銃、89式重擲弾筒、92式重機関銃、92式歩兵砲(大隊砲)、41年式山砲(連隊砲)、94式37ミリ速射砲(対戦車砲)
神楽「えぇと、どこが同じ?」
深海「99式小銃は30年式小銃から発展したボルトアクション式小銃で、92式重機関銃はホチキスの後継だから同じようなものと言えるかもしれないが、それ以外はね…」
荻原「全然違いますね」
神楽「さっきも言ったように、第一次世界大戦以降の陸軍歩兵部隊は密集陣形から散開陣形に発展した。そして兵力が薄くなった部分を火力の向上で補った」
深海「それが各分隊への軽機関銃の配備であり、敵の機関銃陣地を攻撃するための各種の歩兵砲の配備だ」
神楽「陸軍はそうした各種新兵器を大戦間に次々と開発、導入した」
深海「十一年式軽機関銃に、十一年式歩兵砲、それに十年式擲弾筒だね」
神楽「そして満州事変から日中戦争に至り戦時体制へと突き進むと、予算も潤沢になり歩兵装備はさらに刷新された。軽機関銃は96式ないし99式に、歩兵砲は92式歩兵砲と41年式山砲に、擲弾筒は89式に」
深海「さらに発展する戦車に対抗するために専用の対戦車砲である速射砲も新たに配備された。こうして日本陸軍は太平洋戦争に突入していく」
神楽「勿論、日本陸軍の装備がアメリカ軍に対して足りていたとは言えない。確かに歩兵の火力においては決して劣っていなかったが、砲兵火力の点で劣っていたのは間違いない。だからと言って単純に陸軍が努力をしていなかったとか、古い戦法に固執していたのだ、というわけでは無い筈でしょ?」
深海「陸軍は第一次世界大戦の教訓をもとに歩兵の戦力強化に取り組んでいたんだ」
神楽「繰り返して言うけど、第二次世界大戦時には歩兵火力の根幹は軽機関銃になっていた。だから小銃がボルトアクション式だったのを持ち出して、陸軍は“日露戦争期から変わっていない!”“時代遅れだ!”などと批判するのはナンセンスなのよ」
深海「それでも小銃の自動化をすべきだったという意見もあるだろう。だが自動小銃は小銃の2倍から3倍の手間がかかるという。小銃の自動化を進めるということは、それだけの予算や労力を別の部門から削るってことを意味するんだ」
荻原「手間がかかるんですね」
深海「だからこそ小銃の自動化が大戦中に出来たのは莫大な国力を持つアメリカか、軍の規模が小さくて少ない労力で自動化が可能だった小国だけだった。日本はどちらでもない」
神楽「もし小銃の自動化を進めたら各分隊に軽機関銃を配備できた?擲弾筒を配備できた?歩兵砲を配備できた?」
深海「まぁ、ようするに貧乏が全て(略」
神楽「次回は陸軍地位向上委員会でも、兵器紹介でもなくて作者の自己満足を投稿予定なり」