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陸軍地位向上委員会7 陸軍は本当に無能なのか?

 というわけで“編制を学ぼう”は行き詰ったし、丁度良いということで陸軍地位向上委員会旧日本陸軍編のはじまりぃはじまりぃ

深海「さて陸上自衛隊編が終わって、いよいよ陸軍編が始まるわけだが」

神楽「随分、間が開いたな」

荻原「資料集めに時間がかかったみたいですね」

深海「さて。陸軍地位向上委員会1でも述べたように、戦前についてある風潮がある」

荻原「陸軍悪玉論、海軍善玉論ですね。なんで陸軍は悪玉で海軍は善玉なんですか?」

深海「それはだね。日本海軍は連合国軍の一員として、アジア侵略を企てる日本帝國に対して通商破壊戦を仕掛け、連合国軍の勝利に貢献したからだ」

荻原「えっ?」

神楽「ブラックジョークはさて置き、陸軍悪玉論ってのはようするに“なんで日本はアジアに侵略戦争を仕掛けて、アメリカと戦ったのか?それは悪の陸軍が居たからだ”って理屈で、海軍善玉論は“日本海軍は戦争なんてしたくなかったのだけど、陸軍に引きずられて戦争をすることになった被害者だ”って理論だね」

深海「そして本来なら開戦責任を追及するものである筈の陸軍悪玉論は、敗戦責任についても拡大するようになる」

神楽「つまり“あの戦争になぜ負けたのか?それは陸軍が弱かったからだ。海軍は合理的でアメリカとも渡り合える強力な軍事力を持っていたが、陸軍は精神力ばかり追求して近代化を怠り海軍の足を引っ張った。だから負けたのだ”という理論だね」

深海「そもそも島嶼を巡る争いである太平洋戦争において、その理屈は根本的におかしいのだがね」

神楽「ともかくそういう風潮があって、戦記などでは陸軍が悪役として描かれることが多い」

深海「まぁ、確かに陸軍悪玉論を否定することはできない。満州事変から日米開戦までの過程で陸軍が主導したのも、欧米列国に比べて日本陸軍が多くの点で見劣りしていたのは事実だ」

神楽「だけど海軍善玉論は嘘だね。海軍も開戦までの間、大きな役割を果たしたのもまた事実」

深海「例えば海事国防政策委員会第一委員会だね。海軍側で日独伊三国同盟や仏領インドシナ進駐を推し進めた」

神楽「それに第二次上海事変に際して日中戦争を全面戦争に導き、国民党政府との交渉継続を訴える陸軍参謀本部次長に内閣総辞職をちらつかせてトラウトマン工作を潰した時の海軍大臣とか」

深海「第二次世界大戦は軍部が暴走して政府を引っ張って引き起こした戦争なんて言われるけど、第二次上海事変から“国民政府、相手にせず”宣言のあたりまでは明らかに政府の側が暴走してるんだよね。そこはもっと注目されていいと思うんだけど」

神楽「そして国民党政府に“海の満州事変”と言わせしめた海軍主導の海南島占領とか」

深海「海南島は仏領インドシナ進駐やマレー作戦の発進基地となったり、アメリカが日本の南進を本格的に警戒するきっかけになったり、とそれなりに重要なキーワードなのに、不気味なくらい開戦までの歴史が語られる際に言及が少ないのよね」

神楽「それに5.15事件とかね」

深海「政治に熱心で過激なことをしたのが陸軍で、スマートな海軍は政治不干渉、みたいな風潮があるが大嘘だよね。ロンドン海軍軍縮会議の際に統帥権干犯問題を政治問題化させたのは海軍じゃないか」

神楽「血盟団や陸軍の過激分子である桜会にも海軍軍人が参加していたりね。未遂に終わったクーデターである十月事件でも海軍航空隊が参加して首相官邸などを爆撃することになっていた。そして海軍軍人主導のテロ事件、5.15事件」

深海「しかし、そうしたことに触れられることは滅多にない」

神楽「とまぁ、語るべき部分はいろいろとあるが、いろいろとありすぎてややこしかったり、この度の実名使用制限もあったりで、陸軍地位向上委員会は陸軍無能論への反論に注力しようと思う」

深海「陸軍は言われる程、不合理だったわけでも無能だったわけでもない。その点についても触れたい」



1.いわゆる陸軍のイメージ

神楽「それじゃあ、日本陸軍のイメージを簡単にいくつか挙げていこうか」

・日露戦争の際、旅順攻撃に際して白兵戦に固執して無謀な突撃を繰り返し多大な損害を受けた

・にも関わらず旅順攻略に最終的に成功したために白兵戦こそが勝利の鍵だと思い込んだ

・第一次世界大戦の際、欧州に派兵しなかった為に近代戦の戦訓を獲得できず、白兵戦主義を固辞

・ノモンハン事変において大敗するも目を背けて教訓を無視、白兵戦主義を固辞

・ノモンハン事変において戦車戦で大敗し、歩兵が火炎瓶で対抗せざるをえなくなる

・にも関わらず教訓を無視して対戦車戦に対応した戦車を開発せず歩兵支援用戦車で満足

・太平洋戦争時には補給を無視して無謀な戦線の拡大を繰り返し、餓死者が続出。インパール作戦はその代表

・火力や機械力、科学力を軽視し、精神力に基づく突撃で勝利できると考え無謀な突撃を繰り返す

・その為に自動小銃を配備できず、歩兵装備は日露戦争と変わらない

・戦訓を無視した人命軽視により戦闘機は防弾が皆無

・戦訓を無視した軽戦闘機至上主義により重戦闘機の開発が遅れる

・自前の潜水艦や空母の建造など海軍と被る無駄な装備

・戦訓による改善、改革に否定的で空軍独立などには反対

・その為に有能な海軍に比べてアメリカ軍に対して陸軍は戦果を挙げられなかった

神楽「こんなところ?」

深海「だいたいこんなもんじゃないかな?」

荻原「凄い言われようですね」



2.キーワードは「遅れている≠軽視している」

神楽「詳しくは次回からやっていこうと思うけど、陸軍に対する批判、いや海軍も含めた日本軍に対する批判は「遅れている=軽視している」という単純な図式で思考停止している例が多いんじゃないかな?」

荻原「どういうことですか?」

深海「例えば陸軍の補給部隊は一部しか自動車化されておらず多くを馬に頼っていたわけだが、その点の指して日本軍は機械化を軽視していたと言われるわけだけど、果たしてそうなのかな?」

神楽「重視していたら、トラックを充足できるようになるのか?そんなわけがない!」

深海「重視していたって、様々な要因が重なって成果がだせないことだってあるだろう。いくら重視していたって十分な十分な生産能力、国力がなければ充足することは不可能だ」

神楽「本来ならそうやって、なぜできなかったのか?誤った選択をしたのなら、なぜそれを選んでしまったのか?それを検証して教訓とするのが本来あるべき姿なのに、現実には「旧軍は○○を軽視していたから」「無能だったから」で終わらせてしまうことが多いでしょ?」

深海「でも、それは上にも書いた“無能な旧日本陸軍”のイメージそのままじゃないか」

神楽「無論、理由がどうであれ結果が全てという意見もあるだろう。だけどそれでは教訓を“次”に生かすことができやしない」

荻原「そうですね」

深海「というわけで、詳しく見ていこう!」

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