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神楽先生と編制を学ぼう コラムその3

神楽「というわけで、コラム第3段」


1.ラインとスタッフ

荻原「また、なにやらよく分からない言葉が…」

深海「組織形態の一種を示す言葉だね。ラインは業務を実際に動かす指揮系統を、スタッフは専門的な立場からラインを支える補佐役を示す」

荻原「やっぱり、よく分かりません」

神楽「つまりだね。指揮系統というのは一番上に最高司令官が居て、そこから末端の兵士まで一直線に繋がっている。途中で枝分かれはしているけど、極めて単純だね」

荻原「一直線、だからライン…」

深海「そういうこと。どの段階でも決定は常に一人の指揮官に集中する仕組みになっている。しかし、それでは上に行くほど指揮官への負担が大きくなってしまう」

神楽「そこでスタッフの登場なわけよ。部隊運用や情報、兵站、さらに通信や工兵といった各分野の専門家が参謀や幕僚として指揮官をサポートするわけよ」

深海「あくまでサポート役であって決定をするのは指揮官だがね」

神楽「航空自衛隊をモデルに図説してみよう」


総理大臣

 │

防衛大臣―統合幕僚監部―航空幕僚監部

 │

航空総隊司令官―司令部付幕僚

 │

航空方面隊司令官―司令部付幕僚

 │

航空団司令官―司令部付幕僚

 │

飛行隊


荻原「なるほど。確かに総理大臣から各部隊の指揮官へと一直線のラインが引かれていますね」

深海「そして指揮官には補佐役の幕僚がついている」

神楽「注目して欲しいのは統合幕僚監部や陸海空の幕僚監部だね。自衛隊の制服組の頂点である統合幕僚監部は自衛隊の最高司令部、統合幕僚長は最高司令官のように思われることがあるかもしれない」

深海「でも、実際には最高司令官たる首相や防衛大臣の補佐役に過ぎないんだ」

神楽「ちなみに旧軍の参謀本部や軍令部も同じ。最高司令部ではなくて、あくまでも最高司令官たる天皇陛下の補佐役」

深海「まぁ、実際にはいろいろとアレだったわけだが」

神楽「指揮官の補佐役に過ぎないはずの参謀がいろいろと勝手に動かすようになっておかしくなったわけよね。辻とか辻とか辻とか…」

深海「それじゃあ、それを念頭において陸上自衛隊の組織を眺めていよう」


総理大臣

 │

防衛大臣―統合幕僚監部―陸上幕僚監部

 │

方面隊司令官―司令部付幕僚

 │

師団・旅団司令官―司令部付幕僚


深海「重要なのは防衛大臣の下に方面隊が来るということ」

荻原「方面隊は各地方の防衛を担当するんですよね」

神楽「その通り。北部、東北、東部、中部、西部の5方面隊に分かれている。そして、問題はそれら方面隊を束ねる司令部が存在しないということ」

深海「空自には航空総隊司令部、海自には自衛艦隊司令部という実戦部隊を束ねる総司令部があるが、陸上自衛隊にはそれが無いんだ。幕僚監部と司令部を区別すると、そういう問題が見えてくるわけだ」

神楽「自衛隊の組織改革案の1つとして陸上総隊司令部を創設しようというものがあるけど、こう説明すればその意図は分かってくれるかな?」

荻原「つまり航空総隊や自衛艦隊みたいに実戦部隊を束ねる司令部をつくろう、ってことですか?」

深海「そういうことだね」

神楽「ちなみに“世紀末の帝國”に名前だけ登場した陸軍の防衛総司令部も同じ目的の組織。海軍には連合艦隊と鎮守府艦隊を束ねる海軍総隊司令部が、空軍には航空総軍司令部が存在する」

深海「ちなみに防衛総司令部と海軍総隊司令部は史実の組織だが、太平洋戦争開戦の前後に創設された組織だ。戦前には陸軍の師団や海軍の連合艦隊に上位組織はなく天皇の直属だったと説明される」

神楽「昔の作者は参謀本部や軍令部は間に入らないのか?と疑問に思っていたものらしいが、その答えはこれまでの説明に中に入ってる」

荻原「つまり参謀本部や軍令部は、あくまで指揮する天皇陛下を補佐する役目に過ぎないからってことですか?」

深海「そういうことだね。ちゃんと指揮系統は天皇陛下から師団や連合艦隊に直接引かれているんだ」

荻原「でも陸軍省とか海軍省とかありましたよね?」

深海「それについては次で」




2.軍政と軍令

神楽「これは軍事関係を漁っていれば、よく出てくる言葉よね」

荻原「確か海軍の参謀組織の名前が軍令部でしたよね。それに軍政…」

深海「軍政は軍隊組織の維持管理に関する行政活動で、軍令は実際の軍事力行使に関する行政活動だ」

荻原「だからよく分かりません」

神楽「つまりね。軍隊には兵員と兵器、物資などが必要でしょ?兵士となる国民を集め、衣食住を与え、訓練を施して戦力となる兵員を維持する。民間企業から兵器や物品を購入し、新装備の研究開発を行なう。つまり軍隊が軍隊として実戦になった時に戦えるよう組織を維持するのが軍政」

深海「それに対して実戦に際して実際に軍を動かし、敵との戦闘などの任務を実行するのが軍令」

荻原「なるほど」

神楽「旧軍では軍政と軍令のトップは別々の機関に分かれていた。前者が陸軍省、海軍省であり、後者が参謀本部、軍令部だね」

深海「さっき師団や連合艦隊が天皇陛下直属になっているって話の時に、君は陸軍省や海軍省はって聞いたよね?その答えがこれ」

荻原「省の方はあくまでも軍政組織で、実際の戦闘の指揮系統からは外れているということですか?」

神楽「そういうこと」

深海「ただ軍政と軍令は明確な区別ができるものではなくて、境界線は曖昧だ。というわけで、両者の間で権限争いが生じた」

神楽「軍令部局、つまり参謀が暴走した為に太平洋戦争に突き進んでしまったという反省もあって、戦後には両方とも旧防衛庁、現防衛省の管轄され、幕僚監部は防衛省の一機関となったわけよ」

荻原「両方の機能が統合されたというわけですね」

深海「そうだね。さて、旧軍では上層部では軍政と軍令に分かれていたが、下部組織はどうだっただろうか?」

荻原「やっぱり分かれていたんでしょうか?」

神楽「実は分かれていなかった。」

深海「まず陸軍について解説しよう。陸軍において平時の最大の戦略単位は師団だけど、これは軍令と軍政の両面を兼ねていた」

神楽「師団長はそれぞれの師団に割り当てられた管区内の徴兵、教育、前線部隊への兵員の補充などに関する権限を握っていた。実際の実務は配下の連隊区司令部が実行していたようだけど」

深海「ともかく師団が軍令、軍政の両面を担当した。戦争になると師団は戦場に赴いて実戦を戦うことになるが、その時には軍政業務を引き継ぐ為の代理組織として留守師団が編制され、兵員の徴収、教育、補充を担当した」

神楽「ただ本土決戦が間近に迫ると、新たに師団とは別に師管区司令部が組織されて留守師団に代わって軍政を担うようになった。軍政と軍令の分離を進めたんだ。そうすれば師団長は戦闘の指揮に集中できるからね」

深海「ちなみに陸上自衛隊の場合、志願者の募集を行なう地方協力本部は方面隊の傘下にある。方面隊は軍令と軍政の両方を兼ねる機関と言えるね」

神楽「一方、海軍の方は鎮守府、海上自衛隊は地方隊が軍政機関としての機能を持っている。どちらも担当地域の防衛任務を持ち、配下に実戦部隊を持つ軍令機関でもある」

深海「海軍と海上自衛隊の特徴はそうした機関とは独立した軍政機能を廃した実戦部隊を持っていることだ」

神楽「海軍なら言わずと知れた連合艦隊、海上自衛隊なら自衛艦隊ね。陸軍の師団や鎮守府、地方隊はその地域に根付いた組織だからこそ軍政組織を兼ねるのに対して、連合艦隊や自衛艦隊は基本的に管轄地域を持たない機動部隊だからね。実戦部隊に徹して身軽な組織であるのは当然」




3.動員というシステム

深海「かつての軍事では“動員”というのが重要な要素になっていた」

荻原「動員って、よくコンサートとか映画とかでお客さんの数を出すときに使いますよね」

神楽「軍事の世界では戦争遂行の為に民間の人員や設備を軍の管理下に置くときや、予備役の兵士を召集する時に使うね」

深海「歴史の教科書に登場する国家総動員法の動員は前者の意味だ。そして今回は後者の意味について扱う」

荻原「予備役兵士の召集ですか」

神楽「第二次世界大戦以前の各国陸軍においては戦争では動員が前提条件だったの。勿論、今でも大規模になれば戦争や事変になれば予備役が動員されることになるけど、意味合いが違う」

深海「ちなみに昨年の大震災では史上初めて予備自衛官が動員された。しかし現代における予備役の動員は現役兵の損失の穴埋めであるとか、後方任務であるとか正規軍の補助的な役目を与えられるに過ぎない」

神楽「それに対して戦前の各国陸軍では正規軍に予備役兵を組み込んで初めて戦力になるのが普通だった」

深海「例えば旧日本陸軍の場合、平時の師団編制では中隊以下に小隊や分隊が編制されていなかった。代わりに内務班が組織されていて、兵士の数も少なく戦時の半分程度だった」

神楽「それが戦時編制になると予備役を動員して兵員を補充して、小隊や分隊を編制する。それでようやく戦闘の準備が整うわけね」

荻原「つまり予備役を召集して初めて部隊が完成すると?」

神楽「そういうこと。平時編制だと師団の兵員は1万人前後なのだが、戦時編制だと2万5000人程度になる」

荻原「倍以上に増えるわけですね」

深海「さらに最前線の部隊である大隊に目を向けると、平時編制は兵員100人程度の中隊3個で300人程度だけど、戦時編制では各中隊に150人ほど兵力が追加され、さらに第4中隊が編制される。兵員は1000人だな」

荻原「ということは3倍ですね」

神楽「旧日本陸軍の場合、兵役法によれば徴兵されれば2年間現役兵として過ごし、それから5年4ヶ月は予備役になることが決まっていた。つまり現役兵と予備役兵の比率がだいたい1対2強になるね」

荻原「平時編制の兵員と戦時編制になった時に動員される兵員とだいたい同じってことですね」

深海「そうだね。そうすることで平時の兵力を抑えて予算を節約することができ、戦時には一気に兵力を拡大できるからね」

神楽「平時には小隊や分隊は編制されず、生活の場である内務班がその役割を担っていたことを思うと、平時の軍隊は実戦的な組織ではなくて、あくまで戦時に動員する兵員を育成する為の教育機関と考えられていたのかもね」

荻原「そして戦時には予備役を動員して、実戦的な組織に改編するわけですか」

深海「ちなみに予備役兵を動員する時の召集令状が有名な“赤紙”。これから徴兵される人間に出されるものと誤解されることがあるけど、実際には既に徴兵されて予備役になった人に出されるものなんだ」

神楽「だけど、こうした動員を経て実戦部隊を完成されるシステムは第二次世界大戦後に急速に廃れていった」

荻原「なぜですか?」

深海「第一に動員のシステムでは部隊が実際に実戦に投入できるようになるまで時間がかかる。まず市井の人間になっている予備役を呼び集めなくてはならないのだから当然だね」

神楽「第二次世界大戦では電撃戦や空母機動部隊の出現で、戦争の進み方が一気にスピードアップした。時間のかかる動員のシステムでは対応できなくなったんだ」

深海「奇襲攻撃を受けたときに呑気に召集令状を投函しているわけにはいかないからね」

神楽「それに大騒ぎになるからね。大量の人間を召集するのだからバレないわけがないから、極秘裏に軍事作戦をしにくいし、国内情勢や周辺国に対する影響も大きい」

深海「第一世界大戦なんて動員のせいで世界大戦になったようなものだからね」

神楽「イスラエルは国民皆兵ゆえに予備役を動員すれば成年男子ほぼ全員を召集することになるから、国内経済が止まる。その為に動員に躊躇し、第四次中東(ヨム・キプール)戦争で奇襲を受けることに…」

深海「そして最後に軍事技術が高度化したことが挙げられるね。最下級の兵士にも高度な訓練が必要になり、2年間の兵役後には民間に戻る徴集兵には荷が重すぎだ。長く在籍し専門的な訓練をすることができる職業軍人が重視されるようになったんだ」

荻原「平時の軍隊の性格が兵士の教育機関から、いつでも戦争に投入できるプロフェッショナルの集団に変わったんですね」

 というわけで、自分でもちょっと不満がある今回でしたが、どうでしょうか?次回からどうしましょうか。軍団以上となると…国によってだいぶ変わりますし…

 話は代わりますが、世界最強スナイパーであるシモ・ヘイへ(フィンランド語だとハユハが正しいそうですが)の伝記が発売されるそうです。

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