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神楽先生と編制を学ぼう 諸兵科連合部隊編

神楽「さて、前回は師団までを紹介したね」

荻原「えぇと、次は諸兵科連合部隊編となっていますが…師団のことですよね?」

深海「確かにそう説明したね。戦闘は1つの兵科だけじゃできない。幾つもの兵科が協力して行うものだ」

神楽「そして、複数の兵科から編制されるのが師団なわけだけど…師団は大きな部隊よね?」

深海「国によるけど1万から2万人くらいの兵員から編制されるのが普通かな?」

荻原「確かに。すごい人が多いですね」

神楽「人が多いと、その分だけ部隊全体の動きが鈍くなる。小規模な部隊の方が素早く動けるもの。それに事態によっては師団ほどの兵力は必要ないということもあるでしょうね」

深海「戦場によっては何万人もの部隊を展開する余地が無い場合もあるだろう。というわけで、昔から各国軍で必要に応じて師団より小規模な諸兵科連合部隊を編成することが多々あった」




1.混成旅団、支隊、戦闘団

神楽「よく行われていたのは1つの歩兵連隊や戦車連隊に砲兵大隊や工兵隊なんかの支援部隊を配属して、臨時に諸兵科連合部隊を編成するパターン」

深海「有名なのはドイツ軍の戦闘団(カンプフグルッペ)だね。旧日本軍も歩兵旅団や歩兵団を基幹にして諸兵科連合部隊にすることをよくしていた」

神楽「混成旅団や支隊などと呼ばれていたわ」

荻原「日韓大戦でも自衛隊がやっていましたね」

深海「そうだね。自衛隊は必要に応じて普通科連隊や戦車連隊を中心に連隊戦闘団を編成することを想定している」

神楽「日本の場合、大陸に比べると平地がそれほど広くないからね。師団そのままより戦闘団の方が使いやすいのかも」

深海「というわけで編成例として陸上自衛隊の普通科連隊を基幹とした連隊戦闘団を考えて見よう」


普通科連隊戦闘団

普通科連隊本部

├普通科中隊×3~4

├重迫撃砲中隊

├特科大隊(配属)

├戦車中隊(配属)

├施設中隊(配属)

└そのほかの部隊


荻原「普通科連隊に様々な部隊を配属して諸兵科連合部隊にするんですね」

深海「その通り。ただ戦闘団のシステムには重大な欠点があった」

神楽「基幹となる部隊の司令部がそのまま戦闘団の司令部を兼ねてしまうことよ。陸上自衛隊の普通科連隊の指揮官は平時には4つから5つの部隊を指揮するのだけど、戦闘団を組むと指揮下の部隊が倍近くに増える」

荻原「指揮する部隊が倍になるんですか。すごい負担になりますね」

深海「あくまでも臨時に編成される部隊だからね。どうしても指揮官に想定以上の負担がかかる」

神楽「そこでアメリカ軍が第二次世界大戦中に新たな編制を考案した」




2.コンバットコマンド

神楽「1942年、アメリカ陸軍は機甲師団の組織を改編して新たな編制を採り入れたの」

深海「それがコンバットコマンドだ」


1943年型アメリカ陸軍機甲師団

師団司令部

├コンバットコマンドA

├コンバットコマンドB

├コンバットコマンドR

├戦車大隊×3

├機械化歩兵大隊×3

├師団砲兵司令部

│└砲兵大隊×3

└そのほかの部隊


神楽「コンバットコマンドというのは配下に固有の部隊を持たない司令部よ。戦場では戦車大隊や機械化歩兵大隊、砲兵大隊などを配属して戦闘団を編成する」

深海「師団砲兵が砲兵連隊ではなくて、砲兵司令部なのも配下の砲兵大隊を戦闘団に配属することを前提にしているからなのかな?師団砲兵の司令部と砲兵大隊の繋がりがそれほど強くない」

神楽「この編制の優れている点は2つ。まずコンバットコマンドは、あくまで臨時の応急措置に過ぎないカンプフグルッペと違って、諸兵科連合部隊を編成することを前提にした司令部だから、組織が充実していて指揮官の負担も小さいこと」

深海「カンプフグルッペと違って他の部隊の指揮官を兼ねているわけでもないしね」

荻原「もう1つの利点は?」

神楽「もう1つは戦況の変化に柔軟に対応できること。カンプフグルッペは基幹となる部隊に支援部隊を配属する方式だから、歩兵連隊を基幹にしたなら歩兵中心の戦闘団しか編成できないし、戦車連隊なら戦車中心の部隊しか編成できない」

深海「それに比べるとコンバットコマンドは司令部の下に自由に部隊を配属できるからね。上の編制例なら戦車大隊1個と機械化歩兵大隊1個ずつを配備する均質な編成の戦闘団を3つ用意できるし、もしくは強力な敵を突破する為に1つの戦闘団に戦車部隊を集中することもできる」

神楽「状況に応じて編成を自由に組み替えられるから、刻々と変化する戦況に柔軟に対応できるの」

深海「こうした編制はアメリカ軍に高く評価されて、大戦以後もアメリカ陸軍に採用され続けた」




3.アメリカ陸軍86年型師団

神楽「第二次世界大戦後、アメリカ陸軍は歩兵師団の編制としてペントミック師団編制を採用したことは前に話したわね?」

荻原「指揮官の負担が重くて止めたんですよね」

深海「そうだね。それからペントミックに代わってROAD師団が採用された。ROAD師団では歩兵師団は師団司令部の下に3個の歩兵旅団司令部があって、そこに8個歩兵大隊、1個機械化歩兵大隊、1個戦車大隊を組み合わせて配属して戦闘部隊を編成することになっていた」

神楽「つまり第二次世界大戦時の機甲師団のコンバットコマンドシステムが一般の歩兵師団にも採用されたってわけ」

深海「そして1980年代、新たなドクトリンに対応するために新しい師団編制が採用された」

荻原「新たなドクトリン?」

神楽「エア・ランド・バトルね。ソ連軍の強大な機甲部隊に対抗するために編み出された新戦術。そして、それに対応するための新型師団が86年型師団」

深海「世紀末の帝國にこれから出てくるアメリカ陸軍の師団は主にこんな編制になっているから紹介しよう」


86年型師団

師団司令部

├旅団司令部×3

├戦車大隊×6(5)

├機械化歩兵大隊×4(5)

├師団砲兵司令部

│├砲兵大隊×3

│└MLRS大隊

├航空旅団

│├騎兵大隊

│├航空大隊

│└攻撃ヘリ大隊

├師団支援コマンド

└その他の部隊


神楽「特徴はまぁコンバットコマンドやROADと同じで、師団司令部の下に3つの旅団司令部があって、そこに数個ずつ戦車大隊や機械化歩兵大隊、砲兵大隊、その他の支援部隊を組み合わせて配属して戦闘部隊を編成する」

深海「ちなみに機甲師団は6個戦車大隊と4個機械化歩兵大隊、機械化歩兵師団なら5個戦車大隊と5個機械化歩兵大隊から編制されている」

荻原「どちらもあまり変わりませんね」

神楽「そうね。だからアメリカ陸軍の場合は部隊の名前が歩兵師団だからって舐めちゃいけないよ」

深海「西側欧米陸軍には大抵当てはまるよね。イギリス軍も西ドイツ軍も機械化歩兵師団と言いつつ…」

神楽「ソ連軍もそうだよね」

深海「それに比べて自衛隊は…」

神楽「えぇと…もう1つ、際立った特徴は航空旅団の存在が挙げられるわね」

荻原「えぇと、航空旅団ですけど、編制図を見ると場違いな部隊の名前が…」

深海「騎兵大隊のことかい?」

荻原「はい。現在のアメリカ軍では偵察部隊のことを指すんでしたっけ?」

神楽「えぇ。航空旅団の騎兵大隊は師団の偵察隊よ。戦車、装甲車から編制される機甲騎兵中隊と偵察ヘリコプターを装備する空中騎兵中隊から成っていて、師団の目として敵を捜索するわけ」

深海「師団の偵察部隊と機動力の高いヘリコプター部隊を組み合わせた航空旅団は、師団の主力に先駆けて戦場に進出し、敵と接触して主力が到着するまで阻止するという任務を帯びているのだろうね」




4.陸軍重機械化師団

神楽「そして、コンバットコマンドのシステムは“世紀末の帝國”劇中の日本陸軍にも採り入れられている」

深海「劇中にもそれをうかがわせる描写があるね」

神楽「大戦中の日本軍の支隊は歩兵団や歩兵旅団の司令部の下に歩兵連隊みたいな基幹部隊と支援部隊を配属する形をよく使っていたから、専用の司令部に部隊を配属するコンバットコマンド方式にも馴染みやすかったのかもね」

深海「確かに」

神楽「そして、これが陸軍戦車師団並びに機械化歩兵師団の編制図」


師団司令部

├旅団司令部×3

│└旅団捜索中隊(中隊本部+装甲車小隊+歩兵小隊)

├機械化歩兵大隊×4(6)

├戦車大隊×6(4)

├砲兵連隊

│├砲兵大隊×4

│└ロケット砲大隊

├捜索連隊

├工兵連隊

│└工兵中隊×3

├輜重兵連隊

├師団防空隊

│├近接支援中隊(自走対空機関砲×12)×3

│└全般支援中隊(自走短距離対空誘導弾発射機×12)

├師団飛行隊

├師団兵器勤務隊

├師団通信隊

├師団衛生隊

├師団化学防護隊

└野戦病院


深海「アメリカ陸軍と同じように3つの旅団司令部に戦車連隊や機械化歩兵大隊、支援部隊を組み合わせて戦闘部隊を編成するんだね」

神楽「えぇ。ちなみに戦車師団は6個戦車連隊と4個機械化歩兵大隊、機械化歩兵師団は4個戦車連隊と6個機械化歩兵大隊から編制される」

荻原「なるほど」




3.ソ連軍戦車連隊、自動車化狙撃連隊

神楽「さて。アメリカ陸軍のコンバットコマンドについてはだいたい分かった思う。それに対してソ連軍は諸兵科連合部隊についてまったく逆方向のアプローチを行っていた」

深海「ドイツのカンプフグルッペにしても、アメリカのコンバットコマンドにしても、平時には兵科ごとに分かれた“編制”になっていて、戦時に諸兵科連合部隊を“編成”するという点は変わりない。そこでソ連軍は考えた」

神楽「最初から“編制”にしとけばいいんじゃない?って」


ソ連陸軍自動車化狙撃連隊

連隊本部

├自動車化狙撃大隊×3

├戦車大隊

├砲兵大隊

├偵察中隊

├高射中隊

├工兵中隊

└その他


ソ連陸軍戦車連隊

連隊本部

├戦車大隊×3

├自動車化狙撃中隊

├偵察中隊

├高射中隊

├工兵中隊

└その他


荻原「えぇと、つまり、戦時に様々な部隊が集まって戦闘団をつくるんじゃなくて、平時から戦闘団になっているということですか?」

深海「その通り。3個戦車連隊と1個自動車化狙撃連隊で戦車師団、3個自動車化狙撃連隊と1個戦車連隊で自動車化狙撃師団が編制される」

神楽「こうした場合の利点がいくつかある。まず普段から同じ面々と組んでいるわけだから、それだけ連携が取りやすい。コンバットコマンドだと、その時の組み合わせ次第で組む相手が異なることもありえるからね」

深海「西側に比べると錬度が低いとされるソ連軍が戦力を維持するには有利だ」

神楽「もう1つは素早く作戦を実行できること。コンバットコマンドは作戦や状況に応じて部隊を組み替えて柔軟に対応できるのが利点だけど、逆に言えば部隊を組みかえて戦場に投入するまで幾らか時間がかかる」

深海「それに対してソ連軍の連隊は編制は固定で、最初から戦場に投入できる状態だからね。素早く戦場に投入できる」

神楽「勿論、それ故に柔軟性が低くなるのが欠点だ。前方に強力な敵部隊が居るからと言って、自動車化狙撃連隊に戦車大隊を配属して素早く戦車連隊に組み替えるなんてマネは難しい。固定化した編制が基本だからね」




4.旅団戦闘団

荻原「アメリカとソ連で、考え方が真逆なんですね」

深海「強大なソ連地上軍の攻撃を食い止めるべく臨機応変な機動防御を目指すアメリカ軍と、速攻によりNATO軍撃破を目指すソ連軍。そういう違いかな」

神楽「そして冷戦が終わり、新しい時代が到来するとアメリカ軍もソ連軍と同じ速攻を思考するようになります」


重旅団戦闘団

旅団司令部

├諸兵科連合大隊×2

│├戦車中隊×2

│└機械化歩兵中隊×2

├砲兵大隊

├偵察騎兵大隊

└旅団支援大隊


ストライカー旅団戦闘団

旅団司令部

├ストライカー大隊×3

├砲兵大隊

├騎兵大隊

└旅団支援大隊


歩兵旅団戦闘団

├歩兵大隊×2

├砲兵大隊

├騎兵大隊

└旅団支援大隊


神楽「21世紀はじめに行われた米軍再編による再編によって、陸軍の作戦の基本単位は師団から旅団に変わった」

深海「これまで師団に従属する存在だった旅団だけど、配下の部隊を固定化して、さらに独自の後方支援組織を持つことで師団の支援なしに単独で作戦行動が行えるようになった」

荻原「配下の部隊を固定化ってことは、編成が編制になったってことですか?」

神楽「その通りね」

荻原「でも、どうしてこういう編制に?」

深海「前にアメリカ軍の旅団戦闘団について二単位制をとっているということを説明したと思うけど、それと同じだよ。戦場に素早く進出できることだ」

神楽「部隊の規模が小さいほうが素早く動ける。輸送に必要な船や輸送機の数も少なくて済むからね」

荻原「それに編制を固定化しておけば、戦時に改めて編成をする必要が無いから、すぐに戦場に向かうことが出来る。でも、柔軟性は下がるんですよね」

深海「それには部隊そのもの数を増やすことで、対応している。二単位編制について説明したときにも言ったけど、部隊の規模を小さくすれば、同じ兵力でも沢山の部隊を編制できる」

神楽「米軍再編では二単位化で師団の下の旅団数を3から4に増やしている。そして作戦の基本単位という立ち位置を師団から旅団に移している」

深海「つまり単純計算でアメリカ陸軍が戦場に投入できる作戦の基本単位が米軍再編前から4倍に増えたわけだ。まぁ実際には総兵力そのものが削減されているから、そんな単純な話ではないのだけどね」

神楽「手駒が多ければ、その分だけ状況の変化に柔軟に対応できる」

荻原「つまり前線部隊での柔軟性は下がっても、アメリカ陸軍全体で見れば柔軟性は高まっていて、それで補うというわけですか?」

深海「そういうこと」

荻原「その時代の状況やらなにやらで編制も随分変わるんですね」

神楽「その通り。そこが編制のおもしろさなのよ」

 本文中では偉そうなことを書いている私ですが、内容は他者の受け売りが多いです。編制(固定化した戦闘団、部隊あたりの兵力を減らして部隊数を増やす)からアメリカ軍のソ連化が進んでいるという主張を聞いたときには目から鱗でした。私も編制からいろいろと読み取れる人間になりたいです。

 感想欄でいただいた宿題である増強連隊と連隊戦闘団の違いですが、私の手には余ります。すみません。

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