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神楽先生と編制を学ぼう 連隊編

荻原「次は連隊ですね」

深海「連隊は陸軍において特別な地位にある。通常は地域ごとに編制され、その土地に根付いている。独自の連隊旗が与えられ、部隊ごと古くからの伝統を維持し、将兵は連隊に帰属意識を持つ」

神楽「単なる部隊単位ではなく、兵士の心の拠り所でもあったのね。だから連隊には固有の番号が与えられ、独立心が強い。連隊長は海軍で言うと艦長に相当するような立場にある」

荻原「軍や将兵にとって思い入れが強いんですね」

深海「そうだね。部隊の解説の前に、それを示す事例を幾つかの事例を紹介しよう」




―アメリカ陸軍と連隊―

深海「実はイギリス軍とアメリカ軍には戦闘単位としての連隊というのは一部の例外を除いて存在しない」

神楽「イギリスの場合は歩兵連隊限定ね。戦車連隊や騎兵連隊などは普通に戦場に出てくる。まぁ規模的には大隊級の部隊だからね」

深海「どちらも師団―旅団―大隊という編制になっているんだ」

荻原「それは分かりましたが、“戦闘単位として連隊”というのはどういう意味なんですか?」

神楽「イギリス軍は後にまわして、まずはアメリカ陸軍について紹介しましょう。アメリカ陸軍には連隊がありません。幾つかの独立大隊を束ねて旅団を編成するの」

深海「でも、なぜかアメリカ軍の独立大隊には“連隊”の名を冠している。第4騎兵連隊第一大隊とか、第66機甲連隊第二大隊とか、第442歩兵連隊第100大隊とか」

神楽「ちなみに最後のは、言わずと知れた日系人部隊だよ。今でもハワイ州兵の部隊として存続している」

荻原「連隊に所属していないのに、連隊を名乗っているんですか?」

深海「アメリカ陸軍では1950年代から1960年代にかけて“次なる戦争”に備えて師団編制を試行錯誤していた。ペントミック師団、ROAD師団と変遷していくにつれて従来の連隊は存在が希薄化していき、ROAD師団において独立大隊が旅団に直接隷属するようになり、アメリカ陸軍から連隊が消えた」

神楽「ここで問題になったのは連隊という部隊の伝統と団結をどうやって維持するかということだった」

荻原「それで連隊が無くなった後も、連隊を冠していると?」

深海「そういうことだね」

荻原「なんかよく分かりません」

神楽「軍隊は理屈だけじゃ理解できない部分というのが多々あるからね。連隊への拘りなんて、そのもっともたるものでしょう」

深海「ちなみに翻訳された海外の軍事小説を読んでいると時折、1/37機甲大隊とか、2/13歩兵部隊とかよく分からない部隊呼称が出てくるけど、これはそれぞれ第37機甲連隊第一大隊、第13歩兵連隊第二大隊という意味だろうね」

神楽「米軍では省略して1/37 Armor、2/13 Infantoryなどと表記されることが多いから、それを直訳しちゃったんだね」



―イギリス陸軍と連隊―

深海「イギリス軍もまた独特だね。イギリス軍も師団-旅団-大隊という編制になっている。それも大戦前から」

神楽「珍しい軍隊だけど、これはイギリス陸軍が封建時代の伝統を特に色濃く受け継いでいることに関係する。連隊というのは王族や貴族といった有力者の所有物なんだ」

深海「ちなみにイギリス軍は海軍、空軍はRoyalを冠している。つまり王の軍隊だ。だが陸軍だけはBritishを冠している。つまり議会の議決のもとで有力者達が私物の戦力を提供して編制される軍隊ってことだ」

神楽「まぁ、あくまで建前で現在は普通に国軍だけどね」

深海「そういう訳で連隊は実戦部隊を管理するための組織として存在している。そして、戦時には大隊単位で部隊を派遣して、野戦部隊を編制するわけだ」

荻原「それで戦闘組織としての連隊は存在しないけど、管理組織として連隊は存在していて、古くからの伝統を受け継いでいると?」

神楽「そう。だからイギリスの連隊は味気ない番号だけじゃなくて地名などを名前に使っている」

深海「戦車連隊や偵察連隊でも槍騎兵(ランサーズ)とか龍騎兵(ドラグーン)とかを名乗っている部隊もあるしね」




-陸軍軽歩兵連隊-

神楽「それでは“世紀末の帝國”劇中の歩兵連隊を見てみましょう」

深海「一般的に歩兵連隊は単一の兵科で編制される最大の単位と言われている。つまり歩兵連隊であれば、歩兵だけで編制されるってことだ。それ以上の部隊だと通常は複数の兵科から編制される」

神楽「勿論、一般的な話だから例外もある。冷戦末期のソ連軍の自動車化狙撃連隊や戦車連隊がその代表格だろうね」

深海「旧ソ連軍の自動車化狙撃連隊は他国で言う機械化歩兵連隊なんだけど、固有の戦車大隊や砲兵大隊が編制に含まれていた」

荻原「編成じゃなくて編制ですか?」

深海「そう。旧ソ連軍の連隊は小さな師団の如く平時から諸兵科連合部隊になっているんだ」

神楽「また自前の後方支援組織を持ち、ある程度は上級部隊の支援を得ずに独自行動ができる」


歩兵連隊

├連隊本部

├連隊本部付中隊

│├連隊通信隊

│├斥候小隊

│├衛生小隊

│├作業小隊

│├連隊行李

│└警備防空班

├歩兵大隊×3

└対戦車中隊

 └対戦車小隊(対戦車誘導弾発射機×4)×3


深海「本部付中隊は自衛隊連隊のものを参考にしたそうだ。戦前の陸軍連隊には連隊に四一式山砲4門装備の連隊砲中隊と対戦車砲4門装備の速射砲中隊があったが、対戦車中隊が速射砲中隊の後任として、連隊砲はどうなった?」

神楽「連隊砲の任務は師団戦車隊が引き継ぐことになりました。装備は大隊歩兵砲隊に譲った」

深海「そして大隊砲は中隊へか」

神楽「ともかく、連隊にはこれで2600から3000人くらいの将兵が配置されている」

深海「自衛隊の旅団と同じくらいだねorz」

荻原「そういえば自衛隊の師団は他国に比べて小さいと聞きましたが、なぜですか?」

深海「それはね。自衛隊がペントミック師団を採用しているからだよ」

荻原「ペントミック?」




-ペントミック師団の連隊-

神楽「ペントミック師団は1950年代にアメリカ陸軍で考案された新しい師団編制だ。核戦争への対応を主眼としている」

深海「大規模な核攻撃に直面したら、どんなに強力な師団だって無力だからね。核攻撃を受けたときに被害を局限できるように編制を変えたのさ」

荻原「それがペントミック師団」

神楽「ペントミックは5(ペンタ)核兵器(アトミック)をかけあわせた造語ね。それまでの師団は3から4個の歩兵大隊から成る歩兵連隊をやはり3から4個持っているのが普通」

深海「だがペントミックでは大隊を廃止して、5個の歩兵中隊を直接指揮する歩兵連隊5個から編制されている」

荻原「だから5(ペンタ)なんですか」

神楽「そうね。どうしてこういう編制になったかというと、同じ兵力でも1つ1つの戦闘単位を小さくして、単位そのものの数を増やそうとしたからなの」

深海「従来型の連隊の場合は3個くらいの大隊から編制されていて、その下に大隊あたり3つから4つの中隊があるわけだから、連隊だと9から12個の中隊があることになる」

荻原「ペントミック師団の連隊は5個中隊ですから、従来型の連隊の半分ですね」

神楽「だからその分だけ連隊あたりの兵員数が減って、代わりに普通の師団よりも多くの連隊があるわけ」

荻原「でも、そうするとどんないいことがあるんですか?」

深海「兵員数が減れば、その分だけ素早く移動することができる。トラックや装甲車は少数で済むし、一度散らばった兵士を集結させるのも短時間で済むしね。部隊としての機動力が上がるんだ」

神楽「一箇所に留まっていたら敵の核攻撃を受ける可能性が高まるからね。敵の標的にならないように移動し続ける為にも少人数なのはいいこと」

深海「そして連隊という部隊単位が増えることで師団の作戦の柔軟性があがる。動かせる手駒が増えるわけだからね。それに1つ連隊を失っても、まだ手元には4つ残るからね」

荻原「なんだか凄い世界ですね」

神楽「少人数化による機動力の向上、そして限られた人数でも手駒を増やして柔軟性の向上。これがペントミックの特徴。核戦争を戦う為にはそれが有利だと考えられたんだ」

深海「でも、アメリカ軍は結局やめちまったけどね」

荻原「なぜですか?」

神楽「指揮官への負担が大きくなるから。例えばペントミック連隊には5個小銃中隊と迫撃砲中隊がある。連隊長は同時に6つの部隊に指示を出さなくてはならない」

深海「さらに戦時には戦車部隊や砲兵部隊も配属される。指揮する部隊が多すぎて、指揮官がついていけなかったんだ」

荻原「大変ですね」

神楽「かくしてアメリカ陸軍は前述したように1960年代には、固有の戦闘部隊を持たない旅団司令部に独立大隊を配属するROAD型師団に移行したわけだけど、世界にはペントミック型師団をそのまま受け入れた軍隊が2つ存在する」

深海「フランス陸軍と日本の陸上自衛隊だ。フランス軍の場合、1950年代はアルジェリア戦争の真っ只中だったからね。機動力が高くて少人数でも手駒が多くなるペントミック師団は神出鬼没のゲリラに対する掃討作戦に大変マッチしていたんだ」

神楽「そして陸上自衛隊は政治的に兵員数を制限されていたからね。しかも日本は狭い国だと思われがちだけど、周りの国がデカ過ぎるだけで欧州列国に比べても面積は小さくないし、しかも南北に細長くて海岸線は非常に長い。守らなくてはいけない防衛線が大変長いの。だからそれを守るには多くの部隊が必要」

荻原「少人数でもたくさんの部隊を持てるペントミックがぴったりというわけですね」

深海「そういうことだ。これが陸上自衛隊の標準的な普通科連隊の編制だ」


普通科連隊

├連隊本部―本部付中隊

├小銃中隊×3~4

│├小銃小隊×3~4

│├対戦車小隊(87式対戦車誘導弾etc)

│└軽迫撃砲小隊(81ミリ迫撃砲)

└重迫撃砲中隊(120ミリ迫撃砲)


神楽「まぁ、あくまで標準で、実際には近年の防衛予算と人員の削減で…」

深海「それ以上言うなぁぁぁ!」

荻原「…(苦笑)」




―砲兵連隊―

神楽「次は前回に引き続き砲兵隊を紹介するよ」

深海「砲兵連隊は複数の砲兵大隊から編制される。どこの国でも通常は基幹となる連隊の数に1つプラスした数の砲兵大隊を持っている」

荻原「兵器紹介砲兵の兵器編でもやっていましたね。基幹となる連隊というのは歩兵師団なら歩兵連隊、戦車師団なら戦車連隊でしたっけ?」

神楽「そうね。3個歩兵連隊から成る歩兵師団の場合、砲兵連隊は4個砲兵大隊から編制される。3個はそれぞれ担当の歩兵連隊を支援する直接支援(DS)大隊で、残りの1つがより広範な支援をする全般支援(GS)大隊」

深海「DS大隊は担当の歩兵連隊や戦車連隊が直面している敵前線部隊に対して砲撃し、味方の突破を支援したり敵の攻撃を阻止したり、また敵前線部隊の迫撃砲を制圧したりする」

神楽「一方、GS大隊は敵前線部隊の後方にある補給部隊や敵増援部隊、さらに味方を攻撃する敵砲兵部隊を攻撃する。必要なら重要な正面のDS大隊の増援に回るときもあるだろう」

荻原「大隊によって役割分担をしているわけですね」

深海「ただ、こうした区分けは曖昧になりつつある。無線やデータリンクのシステムが発達するにつれて砲兵はより柔軟に攻撃ができるようになるからね。十分な観測能力と無線通信ネットワークがあれば、DS・GS関係なくどの大砲も射程圏内にある限りあらゆる目標を狙える」

神楽「昔はDS大隊は機動力の高い軽量砲、GS大隊は射程の長い重砲と役割に応じて大砲を使い分けてたけど、今は師団砲兵は150ミリ前後の榴弾砲で統一するのが普通だし、必要なら1つの目標にすばやく師団砲兵全門を集中して攻撃することもできる」

荻原「役割分担をする必要は薄くなったということですか」

深海「まぁある程度、分担を決めておいたほうが作戦は建てやすいのだろうけどね」

神楽「それでは“世紀末の帝國”劇中の師団砲兵連隊を見てみましょう」


砲兵連隊

├連隊本部

│├連隊火力指揮所(FDC)

│├観測中隊(対砲兵レーダー)

│└連隊通信隊

├砲兵大隊(155ミリ榴弾砲装備)×4

噴進(ロケット)砲大隊

 └噴進砲中隊(自走ロケット発射機×8)×3


神楽「というわけで、“世紀末版”帝國陸軍師団の砲兵火力は、155ミリ榴弾砲72門と自走ロケット発射機24輌でございます」

深海「史実の陸軍の標準的な師団砲兵火力が75ミリ野砲24門と105ミリ榴弾砲12門だから、まさに雲泥の差だな」

荻原「ところで対砲兵レーダーってなんですか?」

神楽「対砲兵レーダーってのは、敵の発射した砲弾の軌道を観測するレーダーだよ。軌道を追うことで敵の砲兵部隊がどこに布陣しているのかが分かるの」

深海「現在の砲兵戦には無くてはならないアイテムだな」

荻原「なるほど。ところで自衛隊の砲兵隊もペントミック編制を採用しているんですか?」

深海「自衛隊では砲兵のことを特科と言って、各師団には特科連隊を配置しているが、これは連隊-大隊-中隊というように一般的な連隊の編制を採っている」

神楽「歩兵は縮小編制を採用する一方で、師団砲兵は諸外国の師団並みに整えているわけだ。自衛隊がいかに砲兵火力を重視していたか分かるね」

深海「“旅団に師団砲兵がついている”って揶揄されたりしたものだよ。まぁ、それも今は昔だけどさ…」

荻原「大砲400門ですからね」

神楽「師団砲兵は大隊規模の特科隊ばかりになりそうな」

深海「もう放っておいてくれ」

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