神楽先生と編制を学ぼう 大隊級部隊編
神楽「というわけで、第二段は大隊級部隊編だよ」
荻原「大隊じゃなくて大隊級部隊ですか・・・連隊も混じってますね。連隊って大隊より1つ上の部隊じゃありませんでしたっけ?」
神楽「日本陸軍やイギリス陸軍では伝統的に騎兵/捜索連隊や戦車連隊は数個中隊で編制される大隊級の規模の部隊なの」
深海「自衛隊やフランス軍みたいにアメリカ軍が1950年代に考案したペントミック編制を採用した国の連隊も数個中隊編制の大隊規模部隊だね」
荻原「ペントミック編制?」
神楽「詳しくは後で触れるとして、とりあえず編制例を・・・」
―陸軍軽歩兵大隊―
歩兵大隊
├大隊本部
│├大隊行李
│├狙撃班
│└警備防空班
├歩兵中隊×3
└歩兵砲小隊(120ミリ重迫撃砲×4)
神楽「まず軽歩兵大隊の例」
荻原「本部にいろいろとついていますね」
深海「大隊ともなると、小規模ながら参謀組織もついているからね。独立して幾らか複雑な作戦も実行できる。だから大隊以上が“戦術単位”と呼ばれる」
神楽「ちなみに戦前の日本軍の場合、九二式重機関銃などをを装備する機関銃中隊と九二式歩兵砲、所謂“大隊砲”を装備する歩兵砲小隊が大隊に配置されていた」
深海「戦前の場合、小隊には擲弾筒分隊があるけど、中隊には支援火器が無かったからね。強力な重火器を持つ最小単位が大隊だったってわけだ」
神楽「そうした支援火器の存在も大隊が“戦術単位”と呼ばれる所以なのね」
荻原「大隊行李ってなんですか?」
深海「ようするに大隊が使う弾薬や物資を運ぶ輸送部隊だね」
神楽「警備防空班には12.7ミリ重機関銃M2や携帯式地対空誘導弾が配備されているぞ」
―陸軍機械化歩兵大隊―
歩兵大隊
├大隊本部
├大隊本部付中隊
│├斥候小隊
│├大隊行李
│├警備防空班
│├通信班
│├衛生班
│├作業班
│└狙撃班
├歩兵中隊×4
└歩兵砲小隊(自走150ミリ迫撃砲×4)
*二六式歩兵戦車装備の大隊は四〇式自走対戦車誘導弾4輌装備の対戦車小隊を保有
神楽「次は機械化歩兵大隊だね」
荻原「さっきより本部が豪勢になっていませんか?」
深海「確かに」
神楽「軽歩兵師団の場合は師団―連隊―大隊という建制になっていて、大隊は特定の連隊に隷属しているから、後方支援については連隊の支援を受けるようになっているけど、機械化師団の場合は師団―旅団―大隊になっていて・・・」
深海「一昔前のアメリカ陸軍みたいに固有の部隊を持たない旅団司令部に、必要に応じて独立大隊を臨機応変に配属するシステムになっているのかい?」
神楽「そういうこと。軽歩兵大隊みたいに固有の上級部隊を持たないから、代わりに大隊の後方支援機能が強化されているわけね」
荻原「いろいろな部隊があるんですね」
神楽「通信班は大隊内の通信を管理する。衛生班には軍医が所属していて戦場で救護所を開設するとともに、各部隊に衛生兵を派遣する。作業班は大隊直属の工兵部隊で、塹壕掘りなどを支援する。斥候小隊は大隊独自の偵察部隊」
深海「自衛隊の普通科連隊にある本部付中隊と似たような構成だね」
―海軍陸戦隊歩兵大隊―
歩兵大隊
├大隊本部
├大隊本部付小隊
│├斥候小隊
│├大隊行李
│├警備防空班
│├通信班
│├衛生班
│├作業班
│└狙撃班
├歩兵中隊×3
└歩兵砲小隊(81ミリ迫撃砲×4)
荻原「海軍陸戦隊大隊も陸軍機械化歩兵大隊に近い編制ですね」
神楽「海軍陸戦隊にも歩兵連隊が無いからね。大隊のすぐ上に陸軍の旅団に相当する特別陸戦隊司令部がある」
深海「海兵隊みたいな緊急展開部隊的な性格があるなら、独立性の高い大隊も納得できるね。非常時に備えて大隊単位で交代しながら待機して、事変が発生したら待機している大隊がひとまず出撃!といった運用もできるだろう」
荻原「陸軍だと中隊についている81ミリ迫撃砲が海軍陸戦隊の場合は大隊に配置されているんですね」
神楽「海軍陸戦隊は軽快さを求めて装備も身軽だからね」
―砲兵大隊―
砲兵大隊
├大隊本部
│├大隊火力指揮所
│└観測小隊(観測班×4)
├大隊段列
└野砲中隊×3
├中隊指揮班
├砲列小隊(野砲×3)×2
├観測小隊(観測班×4)
└中隊段列
荻原「次は砲兵大隊ですね」
神楽「砲兵の基本単位も中隊で、陣地構築も射撃も通常は中隊単位で行う。なぜだと思う?」
荻原「分かりません」
深海「中隊は砲撃をするのに必要な全ての要素を一通り揃えているからさ。大砲だけあっても砲撃はできないからね」
神楽「兵器紹介で述べたように近年の砲兵射撃は味方の指示に基づいて、砲兵部隊から直接見えない目標に向けて砲撃する間接射撃が主流。だからまず前線に出向いて目標を見つけて位置を観測する為の“観測”隊が必要」
深海「そして観測隊の報告を基に砲撃を指揮する“指揮”班がある。その指揮に基づいて“大砲”が砲撃をするわけ」
神楽「弾を撃ったら、攻撃を続ける為には砲弾を追加する必要がある。現代の火力戦は弾薬をしこたま消費するからね。つまり“補給”を行う段列が必要になる」
深海「これら砲撃を行うのに必要な4つの要素、“観測”“指揮”“大砲”“補給”の各部隊が一まとめになっている最小の単位が中隊なんだ」
荻原「なるほど。確かに編制を見るとそうなっていますね。段列が補給部隊ですね」
神楽「勿論、あくまで基本であって必要に応じて中隊以下に分割することもあるけどね」
深海「1個中隊6門で、1個大隊18門か。戦前の日本陸軍だと4門中隊が3個で1個大隊が12門だったから増強されているわけだ」
神楽「軽歩兵師団だと牽引式155ミリ榴弾砲が、機械化師団だと155ミリ自走砲が配備されます。海軍陸戦隊はちと特殊で、105ミリ牽引砲装備の中隊3個と155ミリ牽引砲装備の中隊2個で1個大隊を編制するの」
深海「大隊の中で直接支援と全般支援に分かれているわけか」
神楽「海軍特別陸戦隊は旅団規模の部隊で、砲兵連隊を持たないからね」
荻原「そして大隊本部には兵器紹介でも触れた火力指揮所がありますね」
深海「戦闘時には前線の観測班が得た情報は全てFDCに集約されて、各中隊に射撃目標を割り振る。必要に応じて同じ目標に全ての中隊の射撃を集中させることもできる」
神楽「観測班を各中隊が4班、さらに大隊本部直轄の4班があるから、合計で16班。つまり大隊単独だと16の目標に対して射撃を加えることができるわけだ」
深海「さらに言えば射程圏内であれば、どの中隊も16の目標に対して攻撃を加えられる。兵器紹介で触れたようにFDC登場以前の各砲兵隊直属観測班にのみ頼るやり方だと、中隊は各自の観測班が捉えられる数だけ、つまり4つの目標にしか攻撃を加えることができない」
神楽「画期的なんだね」
深海「そして観測班の数が攻撃できる目標の数に直結するというのも憶えておこう」
神楽「実戦では師団の基幹となる連隊や旅団ごとに砲兵大隊が配属されるのが普通で、観測班はさらに下の単位に配属される。この編制図の場合は1個中隊につき観測班1個が配属される」
深海「ちなみに歩兵中隊は英語でカンパニーだと前に言ったが、砲兵中隊はバッテリーだ」
荻原「野球ですか?」
神楽「語源は同じだね。“打ったり”“叩いたり”という意味、さらに“一揃い”という意味があるらしい」
深海「砲兵中隊の正確がよく現れているね」
―捜索連隊/大隊―
捜索連隊/大隊
├連隊/大隊本部
├戦車中隊(戦車×14)
├装甲車中隊(偵察用装甲車×14)×2
└歩兵中隊×2
荻原「捜索連隊っていうのは、ようするに偵察部隊ですよね」
深海「そうだね。主力部隊に先駆けて敵と接触し、情報を集めるのが主な任務だ。前衛部隊とも言われる」
神楽「敵と接触を保って情報を収集するのが任務だから、とにかく相手が動きに追随できる機動性が求められる」
深海「昔は騎兵が偵察任務を担っていたのも機動性が必要だったから。機械化も早かった」
神楽「そして機甲兵の兵器でも述べたように、敵に攻撃をしかけて、それに対する反撃の様子から相手の兵力や装備を探る威力偵察が実施されることもあるから、機関砲のような強力な武器を装備する装甲車輌が配備されるなど高い戦闘能力を持つ場合も多い」
深海「編制例や自衛隊の第7師団偵察隊、アメリカ軍の機甲騎兵のように戦車が配備されていることもあるね」
荻原「えぇと、つまり偵察部隊は高い機動力と戦闘能力を持っているんですね」
神楽「かなり有力な戦力を持っている。だから偵察だけじゃなくて、敵の偵察部隊の排除したり、進撃する部隊が横から攻撃を受けないように側面を警戒したり、といった任務も与えられる」
深海「さらには機動打撃力として主力の戦車部隊のように使われたり。硫黄島の戦いで活躍した“バロン西”こと西竹一中佐率いる戦車第26連隊も元々は戦車第一師団捜索隊だもんね」
荻原「劇中だと、捜索第20連隊がまさにそのように使われていましたね。それで編制例ですが…」
神楽「劇中では陸軍師団は捜索“連隊”が配備されていて、機械化師団の場合は例のような戦車中隊込みの5個中隊、軽歩兵師団の場合は戦車中隊の抜けた4個中隊となっている」
深海「“世紀末の帝國”劇中の描写では機械化師団の捜索連隊歩兵中隊は歩兵戦闘車を装備しているね」
神楽「機械化師団は装甲車で完全に装甲化されている。軽歩兵師団ではトラック化歩兵に過ぎないけど。海軍陸戦隊は捜索“大隊”。装甲車中隊と装甲化歩兵中隊の2個中隊編制」
荻原「陸軍に比べると小規模ですね」
深海「まぁ旅団規模の部隊を基幹にしているんだから、当然といえば当然だけど」
神楽「ところで作者は編制例がどうもしっくりしていないらしい。歩兵隊の比率が高すぎるような気もするし、中隊単位で諸兵科連合にした方がそれっぽかったかな?とも思っている」
荻原「中隊単位で諸兵科連合?」
深海「編制例は歩兵、装甲車、戦車と中隊ごとに分かれているけど、それを装甲車小隊、歩兵小隊、戦車小隊から成る同一の編制の中隊複数にしたらどうだろうって話だな」
―改編例―
捜索連隊
├連隊本部
└捜索中隊×3
├戦車小隊
├装甲車小隊×2
└歩兵小隊
神楽「ちょっと前のアメリカ軍機甲騎兵もこんな感じだったらしい。諸兵科連合を最初から組んでおけば戦場で編成弄くる必要ないから時間を省略できるし、中隊単位で単独行動できるから使い勝手が良さそうなんだよね」
深海「まぁ偵察部隊は資料が少ないからね。歩兵とかに比べると。悩むんだよね」
神楽「そして騎兵中隊は英語でスコードロン。空軍や海軍航空隊の飛行隊、海軍の戦隊もスコードロンだね」
深海「ネットで調べたところ語源は“四方”で、転じて“正方形に隊列を組むもの”ということらしい」
―戦車連隊/大隊―
戦車連隊/大隊
├連隊/大隊本部(戦車×2、装甲兵車×2)
└戦車中隊×4
├中隊本部(戦車×2、装甲兵車×1)
└戦車小隊(戦車×4)×3
荻原「次は戦車部隊ですね」
神楽「“世紀末の帝國”の劇中では陸軍が戦車連隊、海軍陸戦隊が戦車大隊ね」
深海「小隊4輌、中隊14輌、連隊58輌か。ちなみに日韓大戦の自衛隊も1個中隊14輌となっているな」
神楽「中隊以上は部隊によって変わる。機械化師団の戦車連隊は大抵4個中隊編制だけど、部隊によっては3個中隊や2個中隊編制の場合もある。ちなみに海軍陸戦隊戦車大隊は3個中隊編制」
深海「特に他に言うことはないか」
神楽「ないね」
荻原「ないですか」