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平成24年度防衛予算概算要求紹介

 今年も防衛省のホームページに掲載されている予算要求の紹介をします。

深海「というわけで、今年もこの季節がやってきました」

神楽「9月30日に防衛省の来年度予算概算要求がようやく発表されたよ」

荻原「今年は例年より一ヶ月遅れですね」



荻原「今年もこれが一番最初は抑止力についてですか。昨年と同じですね」

深海「まぁ自衛隊の本分だしね」

荻原「最初は海上の安全確保について書いてあるようです」

神楽「この項目が一番先に来るのは“海空重視の動的防衛力”の影響かな?」

深海「空海の安全確保は結構だけど、その為に陸がおろそかになるようなことにはなってほしくないのだが」

神楽「まずは護衛艦と潜水艦の建造。護衛艦は平成22年度概算要求紹介でも紹介した22DDHの同型艦のようだね」

深海「基準排水量19500tの多用途母艦か。潜水艦は<そうりゅう>型の改良型のようだ」

神楽「あきづき型にも搭載されていた魚雷防御システムを装備するらしいね」

深海「魚雷防御システムとは自走式デゴイのことらしいね。ようは魚雷の目を艦から逸らす為の囮で、これまでは艦尾から引っ張る曳航式を使っていたけど、自分で動くデゴイにすれば艦の回避行動も容易になる」

荻原「それに並行して護衛艦の艦齢延伸ですか」

神楽「今の建艦ペースだと、バブル期に建造した艦艇の代替は難しいからね」

深海「対象には<はたかぜ>型も含まれる。DDGにも波及か。次期イージスはしばらく無理ってことか」

荻原「情報共有能力を向上するとありますが」

神楽「現在の海軍艦隊は無線交信だけでなく、データリンクによってレーダーや各種センサーが捉えた目標のデータを直接やり取りしているわけだけど、だけど電波は直進しかしないから水平線より遠くにいる味方艦艇に直接電波を飛ばすことはできない」

深海「そこで海上自衛隊は通信衛星を介したデータリンクを開発するつもりのようだね」

神楽「それに沖縄方面のレーダーサイトを新型に交換するということらしい」

深海「J/FPS-7なる新型レーダーが配備されるらしいが、詳細は不明だ」

荻原「そして、最後は無人偵察機ですか?」

神楽「海外から長時間活動できる無人偵察機を輸入するつもりかしら?」



荻原「次は島嶼作戦についてですね」

深海「沿岸監視部隊というのは、おそらく北海道などに配置された陸上自衛隊の沿岸監視隊を沖縄に新設するということだろう。来年度予算では、その準備を始めるようだ」

神楽「レーダーや目視で近辺を航行する船舶を監視するのが任務ね」

深海「それにE-2C早期警戒機を沖縄に恒常的に配置しようとも考えているようだね。それで基地機能の強化を図っている」

神楽「飛行機はデリケートだからね。地上での整備の環境を整えないと、長期の運用は難しいからね」

深海「そして注目はこれだね。88式地対艦誘導弾システム(改)。概算要求には03式中距離地対空誘導弾を載せていたのと同じトラックに地対艦ミサイルを装備したものの写真が載っているね」

神楽「いろいろと調べて見ると、改良点は射程の伸長やコスト低減などが挙げられているけど、一番の目玉は垂直発射化だね」

荻原「垂直発射ですか?」

深海「従来型のミサイルだと発射機を目標に向け、ミサイルは目標へと一直線に向かう。一方、垂直発射式だと発射機は上に向けたままでミサイルも真上に発射されて、ミサイルが自ら方向を転換して目標を向かうんだ」

神楽「そうすることでいくらかの利点がある。まずはあらゆる方向に向けて即応できること。従来型だと全然違う方向にある敵を攻撃する場合、発射機の方向をまず変えないといけないからね」

深海「そしてもう1つは周りを障害物に囲まれた場所からでも発射できること。従来型だと横に飛んでいくから開けた場所からじゃないと発射できないから敵の攻撃を受けやすい。垂直発射式なら隠れた場所からでも上が開いていれば発射できる」

荻原「そして最後は…沖縄に戦闘機部隊を増やすんですか?」

深海「あくまでも準備だけどね。恒常的に2個飛行隊体制にするのか、有事の増援を想定したものかは分からないが」

神楽「まぁ恒常的だとしても、どっかから引き抜いてくるだけで単純に増やすってことはないだろうね」


荻原「次は防空についてですね」

神楽「いよいよF-Xが来るね」

深海「候補はF-35ライトニングII、タイフーン、F/A-18Eスーパーホーネットの3機種に絞られたみたいだね。前からこの3機と言われていたけれど」

荻原「作者はF-15FX派でしたよね」

神楽「そうだね。候補の3機種はどれも長所短所があり、決定打に欠ける」

深海「単純に性能、将来性ならF-35一本なんだが、開発が遅延していてF-4戦闘機の退役に間に合わない可能性がある」

神楽「F/A-18Eは実績があるが、1970年代の戦闘機の発展型で基礎設計が古い上に、加速力と航続距離が弱く、広い日本の領空を守る迎撃機としては性能不足だ」

深海「タイフーンは設計こそ新しく、飛行能力そのものは大丈夫だと思うが、電子機器(アビオニクス)の能力に疑問符がつく。特に3機種の中で唯一、フェイズド・アレイ・レーダーを搭載した実績が無いのが問題だ。開発こそ進められるが今後、搭載されるかは未知数だ」

荻原「フェイズド・アレイ・レーダーってイージス艦に搭載してあるレーダーですよね?」

神楽「その通り。瞬時に広範囲を捜索し、多目標の自動追尾も可能な優れもの」

深海「少ない数で広い領空を守らなくてはならない自衛隊には是非とも欲しい装備だよね」

神楽「なんといってもF-22こそが最高の選択なんだけど・・・」

深海「はぁ」

荻原「・・・次の話題に行きましょう」

深海「戦力維持のためのF-15やF-2の改修を引き続き行っていくんだね。そして新たに加わったのがF-15のIRST搭載」

神楽「IRSTってのは赤外線センサーのことだね。戦闘機のステルス化で捜索能力が相対的に低下するレーダーを補おうってわけだ」

深海「戦闘機用の高出力エンジンの排熱は隠すことは難しいだろうからね。それに自ら電波を発するレーダーと違って相手の放つ熱を一方的に受け取るだけで逆探知の可能性が無いのもステルス時代の空中戦では有利だ」

荻原「そしてF-2も近代化の為の開発をするそうですが」

深海「廃棄するクラスター爆弾の代わりに新たに導入するレーザーJDAMの為のシステムを開発するということだが…作者はターゲティングポッドではないかと睨んでいる」

荻原「ターゲティングポッド?」

神楽「レーザーJDAMは精密誘導爆弾の一種でGPSによる誘導と、レーザーによる目標への誘導を併用する爆弾よ。後者の誘導システムはレーザーを目標に照射して、それを目印に目標へと突っ込んでいくの。レーザーの照射は地上の兵士か、空中の航空機によって行われる」

深海「自衛隊は既にF-2の機体外部に取り付ける赤外線センサーユニットのJ/AAQ-2を開発済みだ。夜間低空飛行をする上で不可欠な装備だが、困ったことにこれにはレーザー照射システムが搭載されていなかった。自衛隊にはレーザー誘導が可能な航空機が存在しないんだ」

神楽「まぁAAQ-2を開発していた当時は、まさかクラスター爆弾禁止条約ができる前だったからね」

深海「それで作者は今年度予算で開発するシステムはJ/AAQ-2にレーザー照射システムを搭載する改良型じゃないかと睨んでいるんだ」

荻原「そして最後はミサイル警戒技術を研究するとありますが」

深海「これについては概算要求に書いてあること以上には特になにも言えないな」



荻原「次はシーレーン防衛ですね」

神楽「各種ヘリコプターの導入、既存のSH-60Jの機齢延伸に加えて、注目すべきは」

深海「新型魚雷を開発するみたいだね。魚雷の方は89式魚雷の後継だね。妨害技術の進歩への対抗、そして浅瀬での戦闘への対応が目的のようだね」

神楽「“世紀末の帝國”でも書いたように浅瀬だと音が海底に当たって乱反射するから、正確なソナー探知が難しくなるんだ」

荻原「そうした環境に対応した魚雷ってことですか。そしてソナー」

深海「可変深度ソナーとあるけど、可変深度ソナーも曳航式ソナーも既に自衛隊は装備している。イメージ図を見るとこれから開発するものはその2つを併用するもののようだね。そして注目なのがマルチスタティックを活用することだ」

荻原「マルチスタチック?」

神楽「マルチスタティックソナーというのは音波を発する発信機と、相手にぶつかった音波を捉える複数の受信機から成るソナーのこと。発信機と受信機は離した状態で使われる」

深海「通常のソナーは発信機と受信機が一体になってきて、発信した音波が相手にぶつかってまっすぐ跳ね返ってくるのを捉えるんだが、ステルス性を高めた艦だと音波をあらゆる方向に乱反射させてしまう。だからソナーの方向に返っていく音波はだいぶ弱くなり探知しにくくなる」

神楽「そこで複数の受信機を送信機とは離れたところに置いて乱反射した音波を捉えて、それぞれの捉えたものを分析して敵を見つけようというのがマルチスタティックソナー」

深海「ちなみに同じ発想でステルス機を発見しようと開発されているのがマルチスタティックレーダーだ」

神楽「イメージ図を見ると、複数の艦がチームを組んで、それぞれ受信機と送信機を曳航してデータリンクで繋いで、ステルス性の優れた敵潜水艦を追跡しようとしているみたいね」



荻原「そしてサイバー攻撃対策ですね」

深海「この前も防衛産業関連企業へのサイバー攻撃があったばかりだからね。サイバー攻撃対処にはますます力を入れていかなくてはならない」



荻原「次はゲリゴマ対策ですね」

深海「10式戦車をはじめとする各種装備の取得、訓練の実施に加えて注目すべきは…」

神楽「まずは無人偵察機ね。小型ヘリコプターのような飛行型や福島原発の災害処理で活躍しているような自走ロボット型のイメージ図が掲載されているね」

深海「一時期話題になった防衛省技術研究本部が開発した丸いボール状の飛行物体もこうした開発の一環なんだろうね」

荻原「そしてAH-64D。また調達するんですね」

神楽「去年の予算は認められたみたい。とりあえず13機の調達を目指すらしいね」

深海「次は来年度予算案でもっとも謎の装備だ」

神楽「多用途・・・ガン?多用途ガン!陸自らしからぬ名称だね」

深海「どうやらカールグスタフM3無反動砲のことらしいのだけど、7門調達で7000万円も使うらしい」

神楽「1門1000万円!?」

深海「ライセンス料込みじゃないかという噂もあるが、詳しくは不明だ」

荻原「そして最後は火力戦闘車ですね」

深海「フランスのカエサルや、世紀末の帝國に名前だけ登場した試製特種機動砲のような装輪自走砲を開発するつもりのようだ」

神楽「この手の装輪自走砲は牽引砲よりも機動力が高く、陣地転換が素早くでき、かつ装軌自走砲よりも軽量で輸送機での輸送も簡単ということで注目を浴びているね」

深海「自衛隊はこれで主力榴弾砲であるFH-70を更新するつもりのようだ。これは限定的に自走できるとはいえ、実質的には牽引砲だから凄い戦力強化になるね」

神楽「データリンクに接続することで精密な火力支援ができるようにするつもりのようね」

深海「しかし、なにからなにまで装輪になるんだな。車体は88式地対艦誘導弾や03式中SAMと同じで、重装輪回収車のシャーシを流用するようだ」



荻原「それから次は災害対策ですね」

神楽「東日本大震災の後だしね。こうした取り組みは当然」

深海「ただ中身を見ると、他の目的のものと兼ねていたり、震災がなくても取得が進められていただろうってのだったり、組織改編だったりと注目すべきものは少ないね。例えばCBRN脅威評価システムとか」

荻原「CBRN?」

神楽「科学(ケミカル)生物(バイオロジカル)放射能(ラディオロジカル)及び(ニュークリア)の略。そうした各種汚染の拡大状況を分析、シミュレーションするシステムを開発したいみたい」

深海「今回の震災でも放射性物質の拡散状況の情報提供にかなり混乱が生じたからね。それを教訓にしてのことだろう」

荻原「そして人員増ですか」

神楽「有事対応にしても、災害対応にしてもマンパワーが重要だからね。これは歓迎すべきことなんだけれども…」

深海「概算要求の後の方での記述を見ると、どうやら福島原発監視の為に必要な100人ちょっと人員程度を増やすだけのことらしい」

荻原「それは残念。その後はミサイル防衛ですね」

深海「<こんごう>型護衛艦の4隻に加えて、<あたご>型にも弾道弾迎撃能力が付与されるみたいだね」

荻原「えぇと。これで“実効的な抑止及び対処”は終わりです」



深海「それからPKOとかの海外派遣関係の話もあるね。PLS付きトラックの取得などなど」

荻原「PLSってなんですか?」

深海「コンテナを積み下ろしするためのアームらしい。トラックに搭載して、簡単にコンテナを積み込めるようするってことだね」

神楽「車体の方はこれも重装輪回収車の流用らしい。大活躍だね。全体的に海外派兵時の兵站機能の強化を目指しているみたいだね」



萩原「それから、これも毎度おなじみのC4I関連ですね」

深海「まずXバンド通信衛星だが、ようするに今使っている衛星がそろそろ寿命だから新しい衛星に変えようというわけだ」

神楽「ちなみに自衛隊の衛星通信機能は民間の通信衛星SUPERBIRDを利用している。ちなみに所有者は衛星放送スカパー!の会社だね。防衛関連通信は別の会社みたいだけど」

深海「SUPERBIRDは自衛隊になくてはならないものだ。例えば海上自衛隊の指揮・管制システムであるMOFにおいても重要な位置にある」

神楽「平成期に建造された護衛艦には大抵、SUPERBIRD用の通信アンテナを装備しているね」

荻原「それから新野外通信システム」

深海「新野外通信システムというのは、まぁ陸上自衛隊が作戦で使う電話交換機みたいなもんだな。もしくはインターネット網。戦場での通信を司るものさ」

神楽「各部隊の通信隊に配備され、部隊内に通信網を構築するわけだ。現代の戦場において通信は極めて重要だからね。改善を怠ってはいけない」

深海「従来の野戦通信は方面隊電子交換システムと師団通信システムの2つを併用していた。これはその両方を更新するものだ」



荻原「次は組織関連ですね」

荻原「いろいろとありますね。まずは航空救難団を航空支援集団から航空総隊の下に移動するとありあmすね」

神楽「実戦部隊との連携強化ってことかな?」

深海「中央即応集団司令部の座間への移動は前から言われていたことだね、座間駐屯地というのは在日米軍のキャンプ座間のことだ」

神楽「座間には最近、アメリカ陸軍第一軍団の前方司令部が開設された。ようするにこの移動は在日米軍との連携強化を目的にしているわけだね」

荻原「第4師団と第12旅団を即応近代化旅団にするというのは?」

深海「陸上自衛隊は2005年の中期防衛力整備計画で師団・旅団の編制について2つの方向性を掲げた。まず第一に対テロ・コマンド部隊攻撃などに備えて戦車などの重装備をコンパクト化して機動力、即応性を高めた即応近代化部隊。第二に対テロ・コマンド部隊攻撃から正規軍による着上陸戦まであらゆる状況に対応するためにバランスよく近代化が進められる総合近代化部隊」

神楽「ちなみに北海道の部隊は総合近代化部隊に、本州以南の部隊は即応近代化部隊にする方針」

荻原「それじゃあ、この度の改編というのは・・・」

深海「近代化の名を借りた軍縮になる可能性が高いな・・・」

神楽「なにしろ戦車400、大砲400だもんね」

深海「ただ第12旅団については空中機動化部隊という方針を諦めるという噂も聞く」

荻原「どういうことですか?」

深海「日韓大戦にも書かれていたけれど、第12旅団は自衛隊初の空中機動部隊として、戦車部隊を廃止するなど重装備を減らして代わりにヘリコプターを増強することになった。だが、予算不足でヘリコプターが揃わず中途半端な状態になってしまった」

神楽「それを改めるってわけで、戦車中隊が復活するという話も聞く。まぁ噂だけど」

荻原「次は旅団化学防護隊を旅団の直轄部隊にするとありますが」

深海「従来の自衛隊旅団の化学防護隊は旅団司令部付隊の配下にあった。それが旅団司令部の直轄になる。まぁ地位を引き上げるってことだな」

神楽「NBCテロの脅威の高まりと、今回の原発事故に対応する為かな?」

荻原「それと第一戦車群を改編するとありますが・・・」

深海「第一戦車群は北部方面隊の独立戦車部隊で、戦車削減の煽りを受けて平成26年までに廃止予定の筈だったが・・・」

荻原「廃止じゃなくて改編とありますね」

神楽「どういうことなのかしらねぇ」




深海「その他にいろいろと項目あるけど省略。防衛省の概算要求はしめて4兆6906億円。今年の防衛費に比べて281億円増を要求している」

神楽「まぁあくまで防衛省の要求だからね。ぐっと減らされるだろうね」

荻原「今年度予算の場合、概算要求は4兆7123億円に対して、実際の防衛費は4兆6625億円ですからね」

深海「というか、いつのまに防衛費は4兆6000億円台まで下がっていたのか。防衛費はだいたい5兆円ってのが作者の感覚だったんだが」

荻原「確実に減らされていますね」

神楽「日本の防衛の未来は暗いね」

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