神楽先生と編制を学ぼう コラムその1
―編制と編成―
神楽「今回はコラムということだけど・・・まずはこれ。というわけで早速、編制と編成の違いって分かる?」
荻原「えっ?漢字が違う?なにが違うんですか?」
深海「簡単に言えば編制が基礎で、編成が応用って感じかな」
神楽「まず編制ってのは恒久的な部隊の組織。組織図とかに載ってるようなものが編制。こうするって決めたら基本的には変わらない」
深海「前回に紹介したのも編制だね。あれが基本の組織だ」
神楽「一方、編成というのは状況によって組織を組み替えることを言う。例えば歩兵部隊に戦車部隊や砲兵部隊を配属して戦闘団を組織する。これが編成ね」
深海「編成はあくまで臨時的な措置だ。だから平時になれば基の編制に落ち着く。まぁ例外というものは常にあるものだけど」
荻原「ようするに基本となる部隊の組織が編制で、それを状況に応じて組み替える事を編成というってことですか?」
神楽「そんな感じかな」
―部隊番号の付け方―
荻原「部隊番号って第○師団とか、第○○連隊とかの○に入る数字のことですよね」
深海「そうだよ。その付け方にはちゃんとルールがあるんだ」
神楽「まず師団の部隊番号は陸軍を通じて通し番号が付与されているね。同じ陸軍の中に同じ番号の師団は基本的に存在しない」
深海「ただし違う兵科の師団の場合は番号が重複することもある」
荻原「違う兵科?」
神楽「単に第○師団と言った場合は大抵は歩兵師団を示すけど、それとは別に機甲師団や空挺師団などの部隊を保有する場合があるでしょ。そういう場合には第一歩兵師団と第一機甲師団と第一空挺師団が同時に存在することがありうるわけ」
深海「自衛隊の場合は第7師団が機甲師団として編制されているけど、その他の師団と別系統になっているわけじゃないし、そもそも師団名に機甲と冠してもいない。まぁ元々は他の師団と同じ歩兵師団から改編した部隊だしね」
神楽「旧軍の場合は、兵科別に別系統になってた。歩兵師団は第○師団。機甲師団は戦車第○師団って言う風にね。番号も重複する部分がある」
深海「アメリカ軍もその感じだね。第一歩兵師団と第一機甲師団、それに第一騎兵師団が存在している。ただし空挺師団は歩兵師団からの派生だから、歩兵師団と通し番号になっている」
荻原「つまり違う兵科の師団同士でも通し番号になってる場合もあると?」
神楽「欧州軍はその傾向があるかな。第二次大戦後のドイツ軍やフランス軍は違う兵科の師団同士でも通し番号になってる。冷戦中の西ドイツ軍だと第一装甲師団があって、その次は第二装甲擲弾兵師団、第三装甲師団、第四装甲擲弾兵師団と続いていた」
荻原「装甲擲弾兵師団?」
深海「機械化歩兵師団のことだね。国ごとに兵科の呼び方も変わるんだ」
神楽「次は連隊。連隊も全軍を通じて兵科ごとに通し番号がつけられている。だから同じ番号の連隊が複数存在することはない。第一師団第一歩兵連隊と第二師団第一歩兵連隊とかにはならないわけ」
深海「勿論、歩兵連隊と戦車連隊、砲兵連隊など兵科が違う連隊同士で番号が重複することはあるけどね。連隊の番号は各連隊固有のものだ」
荻原「次は大隊ですね」
神楽「ここからが少し複雑なの。まず大隊は各連隊ごとに数字が付けられている。第一連隊の第一大隊、第二大隊、第三大隊。そして第二連隊の第一大隊、第二大隊、第三大隊という風に」
荻原「通し番号じゃないんですか?」
深海「自衛隊の戦車大隊みたいに連隊に属さない独立大隊は全軍を通じて通し番号になっているけど、連隊に属する大隊はその連隊固有の部隊だからね。連隊内で番号が完結している」
神楽「そして、ややこしいのが中隊。中隊も大隊と同じように連隊ごとに付与されている。第一連隊の第一中隊、第二中隊、第三中隊って風にね。そして第二連隊も第一中隊から始める。欧米だと数字の代わりにアルファベットが使われることもあるね」
深海「注意して欲しいのはあくまでも“大隊ごとに”ではなく“連隊ごとに”であることだ。例えば三個中隊で一個大隊を編制する連隊があるとしよう。第一大隊の最初の中隊は当然ながら第一中隊。では第二大隊は?第二大隊第一中隊ではなく第四中隊なんだ」
荻原「連隊の中で通し番号ってことですか?」
神楽「そういうことだね。アメリカの戦争映画『バンド・オブ・ブラザーズ』で主人公達が所属していたのは第506パラシュート連隊第二大隊E中隊だけど、第二大隊の中にAからEまであるんじゃなくて、第506連隊がAからIまでの九個中隊から成っていて、そのうちD、E、Fの三個中隊が第二大隊に所属するんだ」
深海「本来ならば中隊は連隊に隷属する部隊なんだろうね。ただ中隊の数が多いと指揮し切れないから中間司令部として大隊が誕生した」
神楽「小隊と分隊は大隊と同じ。小隊は中隊ごとに、分隊は小隊ごとに番号が与えられる」
深海「第一中隊の最初の小隊は第一小隊で、第二中隊でも同じく第一小隊。分隊も同じ」
まとめ
師団:全軍を通じての通し番号が付与される
連隊:全軍を通じての通し番号が付与される
大隊:各連隊ごとに第一大隊から番号が付与される
中隊:各連隊内で通し番号が付与される
小隊:各中隊ごとに第一小隊から番号が付与される
分隊:各小隊ごとに第一分隊から番号が付与される
深海「こうして見ると中隊と連隊が特別な単位だということが分かるね」
神楽「まさに陸軍部隊の基盤となるのがその2つなわけだ」
―各国ごとに違う師団の呼び方―
荻原「それにしても同じ機甲師団でも、日本は戦車師団で、ドイツは装甲師団と呼ぶんですか?」
深海「そうだね。国によって訳が変わるのが通例だね」
神楽「機甲師団、機械化歩兵師団を使うのはアメリカ、それにドイツを除くNATO諸国かな」
深海「機械化歩兵師団じゃなくて単に機械化師団とか名乗る場合もあるね。さらに言えば最近は師団の代わりに旅団を基本単位とする軍隊が多くなったけど。ドイツは装甲師団、装甲擲弾兵師団だね」
神楽「擲弾兵ってのは近世の頃に存在した手榴弾を使う専門の精鋭兵士を示すもので、ヒトラーが士気を鼓舞する為に歩兵師団を改名したんだ。まぁそれまでの伝統を重視して歩兵と称した部隊も多かったみたいだけど」
荻原「で日本は全部、番号だけですか」
深海「陸上自衛隊はね。あと韓国軍なんかも全師団通しで、機甲師団と機械化歩兵師団を区別していないね」
神楽「旧軍だったら機甲師団は戦車師団だね。第○戦車師団じゃなくて、戦車第○師団というように兵科の後に番号がくるのがミソ」
深海「ソ連も戦車師団を使うね。そして機械化歩兵師団は自動車化狙撃師団と名乗る」
神楽「冷静に考えると意味が分からないよね。自動車化なら、装甲車じゃなくてトラックを使っているみたいだし、別に兵士が全員狙撃兵ってわけでもないし」
深海「まぁ、伝統だからね」
神楽「イギリス軍はウィキペディアで見ると装甲師団になってるけど、資料によっては機甲師団なのよね」
深海「まぁ、あくまでどう訳すかの問題だからね。これが絶対に正しいという答えはないだろう。他の国だってそうだ。ただ、そういう風に訳す傾向があるという話だね」
神楽「雰囲気の問題だよね」
荻原「それではまとめてみます」
機甲師団の訳例
アメリカ、フランス、イギリス:機甲師団
旧日本軍、ロシア:戦車師団
ドイツ:装甲師団
機械化歩兵師団の訳例
アメリカ:機械化歩兵師団
欧州:機械化師団
ロシア:自動車化狙撃師団
ドイツ:装甲擲弾兵師団
深海「繰り返すが、これはあくまで一例であって、これが正しいというわけじゃない」