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登場兵器紹介 砲兵の兵器編2

―日本陸軍砲兵史―

―帝國の戦後編―

神楽「さて第二次世界大戦が終わり、東西冷戦の時代が始まった。対ソ再戦に備えて陸軍は砲兵の近代化を急ぐ」

深海「でも、設定では中国の内戦に手を突っ込んで泥沼化するんだろ?」

神楽「その通り。その為に例によって近代化が遅れるのだ。満州配備の軍はともなく、内地の部隊なんぞ寂しいものだったというのは、機甲兵の兵器編で話した通りだ。それでも近代化は進められた」

荻原「どんな風にですか?」

神楽「まずは戦前に計画していた師団砲兵の改編の実行だ」

荻原「10センチ榴弾砲と15センチ榴弾砲の混成にするって奴ですね」

神楽「その通り。10センチ榴弾砲の方は機動九一式榴弾砲もしくは105ミリ榴弾砲M2A1を充て、15センチ榴弾砲には155ミリ榴弾砲M1を充てることになった」

深海「九六式一五糎榴弾砲はお払い箱か。まぁアメリカの支援を当てにするなら独自規格じゃ拙いか」

神楽「日本の15センチ級火砲の口径は149ミリだからね。155ミリのアメリカ規格に合わせて、各種の149ミリ口径砲は前線の主力部隊から排除されて、内地の二線級部隊にまわされた。例外は射程の長い九六式一五糎加農砲くらいかな。樺太や台湾の膨湖諸島に要塞砲として長く配備された。見にいきたかったんだけどなぁ…」

深海「そういや“世紀末の帝國”冒頭で大砲見に台湾観光していたな。それは目当てか」

神楽「それだけじゃないよ。帝國世界の膨湖諸島には九六式24センチ榴弾砲とかいろいろな大砲が…」

荻原「うれしそうですね」

深海「ちなみに史実の台湾軍もアメリカから貸与された24センチ榴弾砲を配備していたりする」



神楽「気を取り直して。陸軍はさらに砲兵の組織改編を進める。FDCやGS大隊の導入ね」

深海「FDCは火力指揮所の事だ。大砲の射程が伸び、砲兵射撃は間接射撃が主流になった」

荻原「友軍部隊の誘導で大砲から直接見えない相手を攻撃するってヤツですね」

深海「その通りだ。誘導の為に砲兵隊は観測班を前線に派遣して照準を行っていた。それまでの日本軍砲兵隊は直属の観測班の指示によって射撃を行っていたが、このシステムには大きな弱点があった」

神楽「簡単に言えば直属の観測班が見ている目標しか攻撃できないってこと。例えばある砲兵隊の観測班が重大な目標を発見して、そこに砲兵火力を集中したくても使えるのは自分の砲兵隊だけ。別の砲兵隊が近くに居ても、そこの観測班が目標を捉えていなければ攻撃に加わることができない」

荻原「それは不便ですね」

深海「そこでアメリカ軍が導入したのがFDC(火力指揮所)だ。観測班の情報は砲兵部隊ではなく、その上のFDCに送られる。各地の観測班から送られる情報を基にFDCは射撃計画を建て、諸元を計算して隷下の砲兵部隊に指示を出すんだ」

神楽「FDCの優れたところは、従来の方式に比べて柔軟に様々な状況に対応できること。それぞれ別の目標を攻撃している各砲兵部隊の射撃を、特定の目標に迅速に集中できる。大砲の数が同じでも実戦における火力を倍増することができるの」

荻原「すごいですね。GS大隊の方はなんですか?」

深海「GSというのはジェネラル・サポート。つまり全般支援のことだ。大戦中のアメリカ軍の三単位歩兵師団を例にすると、砲兵連隊は4個大隊編制になっている。3個大隊がDS大隊で、1個大隊がGS大隊だ」

荻原「また新しい単語が出てきましたね。DS…」

神楽「DSはディレクト・サポート。つまり直接支援のことね。DS大隊は師団の基幹部隊、歩兵師団なら歩兵連隊に1個大隊ずつ付けられて、その基幹部隊の作戦を支援するのが任務。配属連隊と対峙している敵を攻撃したり」

深海「一方、GS大隊は特定の基幹部隊の支援ではなく、より幅広い支援を行う。前線部隊を攻撃する敵の砲兵部隊に対砲兵戦を仕掛けたり、敵前線の後方を攻撃して増援部隊や兵站部隊の活動を阻害したり、重要正面に配置されたDS大隊を増強することもありうる」

神楽「DS大隊とGS大隊には、それぞれ異なる任務が与えられていたわけ。そして師団砲兵には基幹部隊と同数のDS大隊、そしてそれに加えて1個大隊のGS大隊が配置される」

荻原「だから三単位師団だと、DS大隊が3個とGS大隊が1個、それで4個大隊になるんですね」

神楽「なおアメリカ軍では任務の違いから、DS大隊には機動力の高い105ミリ榴弾砲を、GS大隊には射程が長く大威力の155ミリ榴弾砲を配置していた」

深海「一方、旧日本陸軍の典型的な三単位師団の師団砲兵は3個大隊編制で、どの大隊も軽量級の75ミリ野砲もしくは105ミリ榴弾砲を装備していた」

荻原「つまりGS大隊を欠いていたと?そういえば日本軍もアメリカ軍みたいに105ミリ榴弾砲と155ミリ榴弾砲の混成にするつもりだったんですよね」

深海「それがGS大隊の創設を意味するのかは分からない。ともかくアメリカ軍はFDCとGS大隊の存在によって、柔軟かつ効率的な砲兵戦を行うことができたんだ」

神楽「日本軍とアメリカ軍の火力の違いは単純に数の問題だけじゃなくて、こういった組織の違いに拠るところも大きい」

荻原「劇中の日本軍もそうした組織編制を導入したんですね」



神楽「組織改編に並行して器材の近代化も続く。まず重砲不足を補う為に大戦末期に噴進(ロケット)弾を実用化したわけだけど、戦後も研究が続けられた」

深海「ロケット弾の量産性と機動性は確かに魅力的だからな」

神楽「重砲は相変わらず不足していたからね。だから陸軍のロケット開発は主に野戦で使う重火砲の代用兵器として開発が進行した。それで使い勝手のいい固形燃料型ロケットを中心。ここから余談…」

荻原「なんですか?」

神楽「その頃、海軍は中国内戦の泥沼に嵌りこんだ陸軍を尻目に核兵器開発の主導権を握った。そして戦略兵器としてロケット開発を開始したの。重たい核弾頭を運ぶ為に大推力の液体燃料型ロケットを中心にして…」

深海「なんか嫌な予感が…」

神楽「かくして帝國世界における日本は宇宙開発は陸軍、東京帝國大学航空宇宙研究所、文部省ラインと海軍、商工省科学技術院、帝國宇宙開発事業団ラインの二重体制が…」

深海「なんでそういうところは史実と同じ道を辿るんだよ…」

神楽「ともかくロケット開発が進められた。開発は2つの方向性に分かれていた。1つはロケット兵器の軽便さを高める方向。主に自走化。まずは既存の二〇糎噴進砲や四〇糎噴進砲の自走化が行われた。トラックやハーフトラックの荷台に発射機を装着した車両が開発された」

深海「まぁ難しいことではないだろうね」

神楽「そして決定版が登場する。新型の九式一三糎噴進弾が開発され、それを発射するための自走発射機も同時に正式された。チューブ状の発射機を24本束ねてトラックに搭載したもので、愛称は“ポンポン砲”…」

深海「東○特撮によく出てくるアレか」

神楽「九式噴進砲による独立噴進砲大隊が編制され、主に満州に配備された」

荻原「それで、もう1つの方向性ってのは?」

神楽「長射程化よ。ロケットを大型化して装薬を増やし、飛ぶ距離を増やすの」

深海「ロケット弾の利点である生産性、軽便性をかなぐり捨てることになるが、それでも長射程の重砲に比べれば軽いか」

神楽「というわけで四十糎噴進砲の長さを伸ばして射程を10キロ超まで増やしたロケット砲が開発された。八式四十糎噴進砲よ。だけど、射程が伸びる度に精度の低さの問題が大きくなった」

深海「まぁ当然だな」

神楽「というわけで、2つの解決策が考えられた。1つは誘導装置を搭載してミサイル化。それは後で触れるとして、もう1つは弾頭の大威力化」

深海「それってつまり」

神楽「当たらなくても至近弾で吹き飛ばせるようにすればいい…核弾頭を搭載するのさ。というわけで1952年に核弾頭を装備する一二式六十糎噴進砲が開発されたが、射程は精々10キロ超程度であまり実用的とは言えなかった」

深海「太くなった割には射程が伸びないなぁ。ペイロードに推力喰われたのか?」

神楽「そんなところ。というわけで、こちらの本命はアメリカからの貸与兵器になる。1950年代後半に貸与されたMGR-1オネスト・ジョンよ」

深海「昔の特撮とかに出てたロケット弾だな。当時は在日米軍に配備されることになって大騒ぎになっていたらしい」

神楽「手ごろな核ミサイルとしてアメリカでも重用されたそうな。通常弾頭もあるし」

荻原「なんか凄い話になってきましたね」

深海「当時は西も東も核兵器狂いだからな。作者は祖父母宅で1960年代の百科事典を見る機会があったんだが、それによれば当時のアメリカ海軍の火力の60%は核兵器だったそうな」

神楽「話は逸れるけど、戦闘機については対地攻撃能力を重視した戦闘爆撃機と爆撃機を迎え撃つ迎撃戦闘機に大別されると言う記述があったそうよ。アメリカ空軍がベトナムで苦戦した原因がよく分かるよね」

深海「ともかく陸軍も戦術核兵器を導入し始めたわけだな」

神楽「そして、1961年にはもう1つの対応策も実現する」

荻原「ミサイル化ですね」

神楽「その通り。二一式誘導噴進砲<菊花(きっか)>が制式化された。ちなみに陸軍最初のミサイルよ」

深海「どんな性能なんだい?」

神楽「最大射程はおよそ100キロ。核弾頭と通常弾頭を装備可能で、個体燃料ロケットで推進する。誘導は慣性誘導」

荻原「慣性誘導?」

深海「簡単に言えば加速度から速力を算出して、速度と経過時間からどれだけの距離を進んだからを算出する装置だ」

神楽「それで目標の上空に達したら爆発するようにセットするわけ」



神楽「普通の大砲の近代化も並行して行われている。こちらも自走化」

深海「前回、七式一〇糎自走砲と一〇式一五糎自走砲の存在が明らかにされていたね」

神楽「えぇ。それらは五式中戦車の車体を利用した自走砲なの。まず105ミリ榴弾砲を装備する七式自走砲が開発された。砲のスペックは一式十糎自走砲と大きくは変わらないけど、チハを基礎とする一式と比べて車体が大きくなったから作業性と搭載できる砲弾の数が向上している」

深海「一〇式は同じ車体に155ミリ榴弾砲を装備したものか」

神楽「えぇ。どちら装甲に覆われた密封式の戦闘室を持ち、ケースメイト式に主砲が装備されている。ちなみに一〇式の方には姉妹版として九二式十糎加農砲を装備する一〇式十糎自走砲も開発された」

深海「射程なら加農の方が長いだろうからね」

神楽「そして一番の変り種、一三式砲戦車が登場する」

荻原「砲戦車ということは機甲科の兵器なんですよね」

神楽「えぇ。これは旧式になった九七式中戦車や一式中戦車の車体に、やはり旧式の三八式十五糎榴弾砲や四年式十五糎榴弾砲を搭載したもの」

深海「史実の四式自走砲みたいだな」

神楽「この砲戦車は中国内戦において市街地戦で使う為に開発された。建物に篭った敵を相当する為に建物ごと吹き飛ばすの」

荻原「世紀末の帝國の第3部その4に出てきた“三種の神器”の一つですね」

神楽「かくして60年代に進むわけだけど、火砲の面では特に進歩はないね。精々、前回紹介した203ミリ自走榴弾砲の配備が始まるくらい」

深海「核とミサイルの時代だからな。そっち方面が下火になるのは致し方ない」



神楽「そして70年代。この頃になると火砲の刷新が始まる」

深海「その1で出ていたのを上げると…三一式十五糎自走砲、三六式十糎榴弾砲、三九式十五糎榴弾砲。確かに一気に更新が進められたな」

神楽「そして、詳しくは後に譲るけど、噴進砲も更新が行われた。オネスト・ジョンの後継として三〇式四〇糎噴進砲が、九式噴進砲の後継として三八式自走一三糎噴進砲が、<菊花>の後継として<君影(きみかげ)>ミサイルが導入された」

深海「凄い変わりようだな」

神楽「ベトナム戦争を経て再び通常戦力の必要性が見直されるようになったからね。ただ70年代は石油危機やらデタントムードやらで、これらの兵器の更新のスピードは遅かった。本格的な陸軍の近代化は80年代の軍拡を待たなくちゃならない」

深海「帝國世界は史実を辿っている部分もあるからね。自衛隊も80年代に随分、強化された。その時に導入された兵器が退役時期に入って、今は大変なことになっているけどorz」

神楽「砲兵隊にとってより重要なのは編制が変わったこと」

荻原「師団砲兵が15センチ榴弾砲に統一されたんでしたっけ?」

神楽「その通り。よく覚えていたね」

深海「それも自衛隊と同じだな。同じ榴弾砲でも10センチと15センチじゃ威力が段違いだからな」

神楽「装備を揃えればDS大隊とGS大隊の枠に縛られずに柔軟に作戦ができるしね。重量増は牽引車輌の高性能化と長射程化である程度の相殺できるし」

深海「自走砲なら機動力に大きな差はないし」

荻原「なるほど」



深海「そして80年代、軍拡の季節か」

神楽「まぁ、砲兵に関しては新装備は少ないけど。まず203ミリ自走榴弾砲が射程伸ばした新型に更新された。そして四八式地対艦誘導弾が新時代の沿岸砲兵として導入された」

深海「四八式というのは88式地対艦ミサイルの帝國バージョンか」

神楽「それと軍拡の一環として、軍直轄の独立野戦重砲連隊に配備されていた一三糎噴進砲が増強されて、各師団砲兵に配属された」

深海「各師団にロケット砲が羨ましいかぎりだ」

神楽「そして目玉は80年代末に導入されたMLRSだ」

荻原「MLRS?日韓大戦にも出てきましたっけ」

深海「多連装ロケットシステムだ。アメリカ軍が圧倒的なソ連の砲兵部隊を制圧するために開発したロケット砲の決定版さ。自衛隊も採用している」

神楽「湾岸戦争ではイラク軍相手に威力を発揮している」



荻原「そして90年代ですね」

神楽「90年代も新装備は少ない。MLRS用に新型ミサイルが導入されたくらい」

深海「ATACMSのことか?」

神楽「えぇ。そして1997年に三一式自走砲の後継として五七式自走砲を導入したというのは前回、紹介したとおり」

深海「それに伴って砲兵のデジタル化も進んだわけか」

神楽「そういうこと」

荻原「そして舞台となった2000年になった」



―噴進砲・ミサイル―

神楽「というわけで、今さら解説はいらないよね」

深海「はいはい」



三〇式自走四〇糎噴進砲

 兵装:連装400ミリロケット弾発射機

 射程:30km(高性能榴弾・クラスター弾)、50km(長射程弾・核弾頭弾)

 弾頭:高性能榴弾、クラスター弾、核弾頭


 オネスト・ジョンの後継として導入されたロケット兵器。二六式装甲兵車を改造した発射機に各種ロケット兵器が搭載可能である。

 通常兵器としては限定的な能力しか持たないオネスト・ジョンに対して柔軟な作戦行動が可能なのが特徴で、方面軍直轄の野戦重砲兵連隊に配備された。

 近年、後継としてMLRSの配備が始まり、退役しつつある。


深海「自衛隊の67式30型ロケット弾みたいなものか」

神楽「またマイナーな装備をあげるね」

荻原「“オネスト・ジョンより柔軟な作戦行動”ってどういう意味ですか?」

神楽「通常弾頭のバリエーションが豊富だからね。特にクラスター弾の存在が重要」

深海「クラスター爆弾は、集束爆弾とも呼ぶが、幾つも小型爆弾を大量に搭載して目標の上空でばら撒く特殊爆弾だ」

荻原「おっかないですね」

神楽「小型爆弾一つ一つの威力は小さいけど、一度に広範囲の敵の攻撃できるのが特徴。命中精度が低いロケット弾にはもってこいだね」




三五式地対地誘導弾<君影>

 射程:200km

 弾頭:核弾頭、クラスター弾、高性能榴弾


 日本陸軍が<菊花>ミサイルの後継として配備した短距離弾道弾。前線部隊に配備され、敵前線部隊後方の兵站拠点を主な攻撃目標としている戦術兵器である。

 個体燃料ロケットで推進し、牽引式の移動可能な発射機に装填されるので高い機動性、柔軟性を有している。

 近年、後継としてMLRSに装填可能なATACMS戦術ミサイルの配備が始まり、退役しつつある。


深海「イメージ的には米軍のランス弾道ミサイルか?」

神楽「そんなところかな。ちなみに中距離以上の弾道ミサイルは空軍の管轄になります」

荻原「また核弾頭ですか」




三八式自走十三糎噴進砲

 兵装:36連装130ミリロケット弾発射機

 射程:18km(三八式噴進弾)、26km(四六式噴進弾)、32km(五八式噴進弾)


 九式噴進砲の後継として配備された多連装ロケット砲。韓国陸軍との共同開発で、1輌あたりの装填数が増加し、射程が伸びた専用の新型ロケット弾も配備された。

 日本陸軍では当初は方面軍直轄の独立噴進砲部隊に配備されていたが、80年代の軍拡の一環として各師団に配備されることになった。砲兵連隊の噴進砲大隊に24輌が配備されている。

 搭載するロケット弾の性能向上も続けられ、現在は射程が30km以上の五八式の配備が始められた。


神楽「ちなみにモデルは韓国陸軍のトラック搭載型ロケット砲だそうだ」

深海「自衛隊だと近いのは75式多連装ロケット砲だね。キャタピラ式の75式より量産性は良さそうだけど、トラック搭載型だから路外での機動性が問題だね」

神楽「でも全師団砲兵に配備済みなんだぜ」

深海「それは素直にうらやましい」




四八式地対艦誘導弾<撫子(なでしこ)

 射程:200km


 新時代の沿岸砲兵として開発された対艦ミサイルシステムで、海軍の開発した三九式空対艦誘導弾<八手>のバリエーションの1つである。

 四八式ミサイルシステムは沿岸レーダー、レーダーと指揮統制装置を結ぶ中継器、射撃・指揮統制装置、発射機などから成り、全て車載化されている。また四八式誘導弾は地形追随飛行能力を持ち、沿岸レーダーの捉えた目標を内陸部から攻撃することが可能である。

 四八式の運用の為に新たに沿岸砲兵連隊が編制され、各地の方面軍直轄部隊として配置されている。


深海「もろ88式地対艦ミサイルだね」

荻原「日韓大戦でも登場しましたよね。ところで地形追随飛行ってなんですか?」

神楽「簡単に言えば地形に沿って這うように飛ぶ能力かな。当然のことだけど地上は山あり谷ありで障害物だらけ。だけど、そうした障害物を避けて高空を飛ぶとすぐに相手のレーダーに捕まってしまう」

深海「そこで考案されたのが地形追随飛行だ。超低空を飛んで、障害物を避けながらジグザグな針路で進んだり、地形の起伏にあわせて高度を上下させて地面と常に一定の距離を保って飛行したり」

神楽「そうやってレーダー探知を避けるの。最近の巡航ミサイルや攻撃機には必須の能力だけど、普通は洋上を飛行する対艦ミサイルだと四八式(史実における88式)以外には例がないよね」




MLRS

 兵装:12連装227ミリロケット弾発射機

 射程:32km(M26ロケット弾)、50(<桔梗>ミサイル)、165km(ATACMS戦術ミサイルblock1)


 アメリカがNATO各国とともに開発したロケット砲。12発の各種ロケット弾か2発のATACMSミサイルを搭載できる。

 代表的なロケット弾であるM26は内部に644個の小型爆弾を搭載し、一撃で広範囲を制圧することが可能である。最大射程は32kmで、多くの野砲をアウトレンジすることが可能である。湾岸戦争時に初めて実戦に投入され、イラク軍から<鉄の暴風>として恐れられた。

 さらに<君影>ミサイルの後継としてMLRSから発射可能なATACMS戦術ミサイルを導入した。同ミサイルは核弾頭型とクラスター弾頭型が存在しており、最大射程はBlock1型で165kmに達する。陸軍はさらに射程が300kmに達するBlock1A型の配備を開始した。

 また日本が独自に開発された六〇式地対地誘導弾<桔梗(ききょう)>を発射することも可能である。<桔梗>は射程は50キロでATACMSに劣るが、直径は通常のロケット弾と同じ227ミリで装填数は多い。誘導には慣性誘導を使い、弾頭は核弾頭、クラスター弾頭、それに高性能榴弾のどれかを選択できる。高性能榴弾にはレーザー誘導装置も付加されており、前線部隊の誘導により精密な攻撃が可能である。<桔梗>は<向日葵>の後継として配備が始まっている。

 MLRSは短砲身の二〇糎自走砲(203ミリ自走榴弾砲M110)や三〇式噴進砲の後継として方面軍直轄の野戦重砲連隊に配備が進められている。


荻原「これって確かクラスター爆弾全廃条約の為に使えなくなるんじゃなかったでしたっけ?」

深海「正確にはM26ロケット弾が使えなくなる。これからは単弾頭型のM31ロケット弾を新たに配備する」

荻原「それは劇中にも登場した奴ですよね」

神楽「日韓大戦で確かに使われていたね。GPSを使って精密に目標を攻撃する能力を持つ。命中精度の低さを子爆弾をばら撒くことで補うM26とは正反対の武器だね」

深海「さらにレーザー誘導を併用するものもある。これからはこういう武器が主力になっていくんだろう。ちなみに射程は120km以上とか」

荻原「凄いですね」




―支援車両―

荻原「支援車輌ですか」

深海「砲兵隊は大砲だけじゃ動かない。様々な裏方役が集まって、はじめて戦力を発揮できるんだ」

神楽「主なものを挙げれば挺進観測車、牽引車、弾薬補給車などがあるね」




四九式挺進観測車

 兵装:12.7ミリ機関銃


 四八式歩兵戦闘車を改造して開発された挺進観測車。観測員を乗せて前線部隊に随行し、砲兵部隊の攻撃を誘導する。かつては二八式軽装甲車を改造した三〇式挺進観測車を使用していたが、各種ハイテク器材の発達に対応できなくなり、新たに四九式が開発された。

 その任務から観測用設備と無線設備が充実している。観測用設備は四九式重装甲車に準じており、赤外線暗視装置やレーザー測距装置を装備している。

 機械化師団の各砲兵大隊や中隊の観測小隊に配備され、1個師団あたり64輌を装備している。さらにGPSや衛星通信器材、データリンクなどを搭載する改修が進められている。


荻原「挺進観測車?」

神楽「前にも言ったように現代の砲兵戦は間接射撃が普通。というわけで前線に観測要員を派遣して、目標を指示してもらわなくてはならない。その観測員が乗るための車輌ね」

深海「日本には同種の装備はないがアメリカにはM113装甲兵員輸送車やM2ブラッドリー歩兵戦闘車を改造した砲兵観測車が配備されている」




三九式六輪牽引車

 三九式十五糎榴弾砲を牽引する為に開発された牽引用トラック。

 陸軍は野砲の牽引はそれまで装軌式牽引車を使っていたが、自動車技術の発達と全国的に急速に進んだ道路網の発達を鑑みて、安価で整備が簡易な普通のトラックを改造した牽引車輌を導入することにした。それが三九式牽引車である。

 原型は10t級の大型トラックである三四式大型六輪自動貨車で、牽引装置と砲弾の積み下ろしに使うクレーンが取り付けられた。砲弾と人員を同時に運ぶことができる。

 全国の牽引砲装備の砲兵連隊に配備されている。


深海「中砲けん引車の帝國バージョンか」

神楽「そんなところ」




三三式二〇屯牽引車

 重量:19t


 大型の牽引式野戦重砲を牽引する為に開発された装軌式牽引車。野戦重砲の自走砲化が進んだ為、<君影>ミサイルの発射機牽引用のものを除き退役している。また予備役部隊用に保管されている牽引野戦重砲の牽引用に一部の車輌が保管されている。

 車体を流用した派生型が多い。


深海「これは73式けん引車の帝國バージョンか。自衛隊では退役済みだが」

神楽「帝國でもミサイル牽引用しか残ってないさ」

深海「派生型が多いと言うのも自衛隊の73式と共通だね」

荻原「どんな派生型があるんですか?」

神楽「例えば次」




五七式弾薬給弾車

 三三式牽引車の車体を流用した派生型の1つで、五七式十五糎自走砲に随伴し砲弾を補給する為の特殊車輌。

 それまで自走砲への砲弾の補給は普通のトラックを使用していたが、中東戦争の教訓から戦場で不整地を頻繁に移動する自走砲には同等の機動力を持つ専用の装軌式給弾車の必要性が認められた。こうして開発されたのが五七式弾薬給弾車である。

 約90発の155ミリ榴弾を運搬でき、ベルトコンベアにより自走砲に自動的に給弾することができる。


深海「99式弾薬給弾車の帝國バージョンか。そういえば87式砲側弾薬車はないのか?」

神楽「それについてはM548装軌貨物運搬車を輸入しました」

荻原「専用の給弾車ですか。どうしてこのようなものが必要なんですか?」

深海「現代の砲戦は大量の砲弾を消費するからね。大砲に迅速に砲弾を補給することは大変重要なんだ」

神楽「これは某ブログの受け売りだけど、第二次大戦中にアメリカ軍は自走砲より牽引砲の方を歓迎していた事があるらしい」

深海「従来までの弾薬の補給体制だと自走砲の機動力に追随できず、自走砲の利点を生かせないからね。どうせ同じなら牽引砲の方が安価だ。自走砲の機動力を生かす為にも補給部隊にも高い機動力が必要」

神楽「そして対砲兵レーダーが発達した現代では砲兵は一度射撃すれば、たちどころ居場所を突き止められてすぐさま反撃を受けることになる。だから自走砲は戦闘中、頻繁に陣地転換を繰り返すことになる」

深海「そして、そうした自走砲に十分な補給をするには、同等の機動力を持った給弾車輌が必要なわけだ」

荻原「なるほど。それでは、これで終わりですね。予想以上に長くなりました」

 先日の台風15号。あやうく名古屋駅で一晩過ごすことになりかけました。

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