登場兵器紹介 原子力潜水艦編
―原子力潜水艦とは―
深海「今回は世紀末の帝國に登場する日本海軍の原子力潜水艦の紹介だ」
荻原「原子力潜水艦ですか」
深海「荻原さん、潜水艦って分かる?」
荻原「それくらい分かりますよ。海に沈んだりできる船ですよね」
神楽「“潜る”ね。本職の前では“沈む”は禁句だから言うなよ」
深海「さて。今回は原子力潜水艦の解説だ。原子力潜水艦とはつまり原子力で動く潜水艦だ」
荻原「そのままですね…」
神楽「従来の潜水艦は水上ないし浅瀬でディーゼルエンジンをまわして発電し、水中では発電した電気でモーターをまわして動いていた。水中でエンジンをまわしたらすぐに酸素がなくなっちゃうからね」
深海「だけど、そんな状況ではどうしても水中での活動が制限されてしまう。第二次世界大戦の頃の潜水艦は、潜水艦とは言いつつ実際には戦闘時に潜航できるだけでほとんどを水上で過ごす可潜艦に過ぎなかった」
神楽「そこへ革新をもたらしたのは1958年に完成したアメリカ海軍の潜水艦ノーチラスにはじめて搭載された原子力機関だった」
荻原「どう革新的だったんですか?」
深海「原子力機関は稼動するのに酸素を必要とせず、しかも従来の機関に比べると圧倒的に多くのエネルギーを生み出すことができたからだ」
神楽「酸素を消費しないので水中でも動かすことができた。さらに生み出した余剰エネルギーで海水を電気分解することで自ら酸素をつくることさえもできた」
深海「その為、原子力潜水艦はほとんど浮上する必要が無い。作戦行動中、ずっと水中に潜んで活動できるようになったんだ」
神楽「さらに電池に頼るモーターに比べると推進力も大きく向上した。従来型潜水艦なら水中での最高速度は20ノット前後が限界だが、原子力潜水艦なら30ノット近くまで出せる。これは水上艦とほぼ同じだ」
深海「つまり原子力潜水艦は水上部隊とともに航行し、協同作戦をすることができるんだ」
荻原「すごい進歩ですね」
神楽「ただ、もちろんいいことばかりではない。まず建造から廃棄までにかかるコストがでかくなった」
深海「原子炉の処理は面倒だからな。しかも船体がどうしても大型になりがちだから浅瀬では活動が制限される」
神楽「さらに潜水艦として致命的なのは静粛性に劣ることだ」
荻原「静粛性?静かじゃないってことですか?」
深海「その通り。深い海の底では光も届かず、周りの状況を探るには専らソナーに頼る。だからうるさいと簡単に見つかってしまうんだ」
神楽「原子力潜水艦には通常動力潜水艦にはない様々な騒音源がある。例えば減速ギア。原子力機関は言うならば、巨大な蒸気機関。原子炉で水を熱して発生した蒸気でタービンを回すの」
深海「タービンの回転はめちゃくちゃ速いんだけど、そのままスクリューをまわしても船が壊れてしまう。だからギアを介することで回転数を下げるんだけど、そこから騒音が発生する。他には原子炉冷却用のポンプも問題だ」
神楽「福島原発の事故を見ても分かるように原子炉は常に冷却を行なう必要があって、完全に停止されることが難しい。だから静粛性については原子炉を搭載していない従来型潜水艦に劣ると言われている」
荻原「なるほど」
深海「ただ注意が必要なのは、原潜が静粛性で劣るとされているのは停止して潜んでいる時にも機関を完全に停止することができないからだ。航行をしている時には原子炉を載せていようが、載せていまいが騒音を発するのは同じだ」
神楽「それどころか余力がある分、原子力潜水艦の方が騒音対策が施しやすく航行時の静粛性では勝っているという指摘もある」
荻原「原潜の騒音が問題になるのは立ち止まっている時だけってことですか」
深海「その通り」
―攻撃型原子力潜水艦―
神楽「では引き続いて帝國海軍の保有する原子力潜水艦の紹介だよ。まずは攻撃型原潜から」
深海「攻撃型原潜とは主に敵の潜水艦や水上艦との戦闘に用いられる潜水艦のことだ。最近じゃ巡航ミサイルを載せて対地攻撃までやってるが」
神楽「というか敵艦との交戦の方がむしろ少数例。原潜の場合、フォークランド紛争の時にイギリス艦コンカラーがアルゼンチン巡洋艦ヘネラル・ベルグラノを撃沈したのが唯一の事例」
海龍(原巡1型)
全長:80m 排水量:3500t(水中)
速力:17kt(水中)
機関:S3W加圧水型原子炉×1/蒸気タービン×2 2軸推進
兵装:前部533ミリ魚雷管×4/後部533ミリ魚雷管×2 (魚雷×20)
帝国海軍初の原子力潜水艦。原子力巡洋潜水艦1型とも呼ばれる。船体は新型イ号通常動力潜水艦をほぼそのまま大型化したもので、水中高速性能を意識して流線形を多く取り入れたデザインをしていたものの、大局的に見れば戦前からの船型船体の発展系に過ぎなかった。当時、アメリカなどは水中運動能力に優れる涙滴型潜水艦に移行しつつあったが、日本海軍は経験不足から原子力潜水艦への採用を見送った。
就役当初はアメリカ製のS3W型原子炉を搭載していたが、出力不足のため速力が17ノット程度しか出ず、1970年代後半に海軍原子力本部が開発した国産原子炉であるロ号原本式原子炉に換装されて速力は22ノットまで向上している。
日本初の原子力艦艇として内外からの注目度が高く、進水時には各界の要人が出席し、海龍の唄と呼ばれる唱歌もうまれた。
技術的には旧来の船体に低出力な原子炉を組み合わせた海龍は失敗作として捉えられている。しかしながら帝國海軍初の原子力潜水艦として運用実績をつくり、後の原子力潜水艦建造計画に大きな影響を与えた。
次世代艦である利根型、四万十型が出揃う1980年代後半には退役を予定していたが、当時の軍拡政策の一環として原子力潜水艦の定数増強が決定し、海龍も旧式ながら90年代まで寿命を延長することになった。1986年から1年かけて寿命延長改修が行なわれ、武器管制システムなどが近代化された。
1996年には現役を引退し、帝國海軍は海龍の原子炉処理後に記念艦化する計画である。
海龍 /1965 /1996退役、1998除籍。原子炉処理計画進行中
神楽「そして、こちらが国産第一号原子力潜水艦の海龍です」
深海「ちょっと待て。既に退役しているじゃないか」
神楽「そだね」
荻原「これって登場兵器紹介ですよね」
神楽「まぁ、細かいことは気にせずに」
荻原・深海「…」
神楽「特徴は船型船体をしているところかな」
荻原「船型船体とは?」
深海「文字通り水上を航行する船のような形をしている船体って意味さ。現在の潜水艦の写真を見れば分かると思うけど、単に水中を航行するためなら砲弾のような形をしている方が有利だ」
神楽「だけど昔の潜水艦は水上艦のように水面を切って進むのに適した船体をしていた」
荻原「なぜですか?」
深海「さっきも言ったけど原子力潜水艦の登場まで潜水艦はあくまでも可潜艦に過ぎなかった。潜るのは戦闘の時だけで実際には水上を航行する時がほとんどだ」
荻原「だから水上航行をするのに適した形をしていたと?」
神楽「その通り。だけど第二次世界大戦時にはレーダーが発達して、潜水艦の水上行動は自殺行為になった。そこで各国ともそれまでの水上行動主体から水中行動主体に切り替えるようになった。船体もそれに適するように改められた」
深海「だけど初期の改善は角張った部分を滑らかにして水を流れやすくするくらいで、全体的なフォルムは水上行動主体の時代と大きく違わなかった。それは初期の原子力潜水艦も同じだ」
神楽「アメリカのノーチラス、シーウルフ、スケート型やソ連のノベンバー級、エコー級、ホテル級といった初期の原潜がその代表例」
荻原「なるほど」
深海「しかし、それは50年代までの話だぞ。初めて涙滴型船体を取り入れた原潜であるスキップジャックは1959年に就役している。1963年に就役したイギリス初の原潜ドレッドノートも船型船体を脱している。ソ連の涙滴型潜水艦であるヴィクターI級も1967年に迫っている。1965年就役でこれは遅すぎないか?」
神楽「史実の自衛隊で初めて涙滴型が就役したのは1971年だよ?そんなもんだよ」
荻原「涙滴型?」
深海「詳しくは次で」
迅龍(原巡2型a)
全長:72m
排水量:4000t(水中)
速力:30kt
機関:イ号原本式原子炉×1/蒸気タービン×1 1軸推進
兵装:533ミリ魚雷管×6(魚雷×24)
海龍に続く帝國海軍第二の原子力潜水艦である。
帝國海軍は1960年代初めにアメリカからバーベル級潜水艦の設計資料を提供されて、それを基に1964年に涙滴型船体を採用したイ号第17潜水艦を就役させた。その運用実績に満足すると海軍は原子力潜水艦の船体への採用を決定した。
原子炉には国産の加圧水型が搭載された。海軍原子力本部が開発したイ号原本式で海龍と違い十分な出力があり低速にも悩まされる事がなかったが、初の艦載型原子炉であることから信頼性が低く、しばしばトラブルに悩まされたという。まだ当時のソ連艦ほどではないものの静粛性が低かった。
それでも初の涙滴型原子力潜水艦であり、本格的な水中戦用艦艇として原子力潜水艦隊の基礎を創りあげた。後継艦の登場により迅龍は1998年に退役した。
迅鯨 /1971 /1998退役、予備役保管中
深海「さて1953年、アメリカ海軍で実験潜水艦アルバコアが就役した。涙滴型潜水艦の先駆けだ」
荻原「涙滴型ですか。涙の滴。なんかロマンチックですね」
神楽「涙滴型はその名の通り、水滴のような形をした船体ね。前は水滴の底のように丸くなっている。側面は丸みを帯びた流線形で、後ろにいくに従って絞られていく」
荻原「どうしてそんな形に?」
深海「水中で航行する時に抵抗が少ないんだ。だから同じパワーでも船形船体に比べてより速く水中を進むことができる。まさに潜水艦のための船体だ」
神楽「アルバコアで有効性を実証された涙滴型船体はすぐに実戦用潜水艦に取り入れられた。1959年就役開始のバーベル級通常動力潜水艦とスキップジャック級原子力潜水艦がその始まり。そして涙滴型は世界各国の潜水艦に採用されていくの」
荻原「それで日本ではこの迅龍ですか」
神楽「そういうこと」
蛟龍(原巡2型b)
全長:85m
排水量:5000t
速力:24kt
機関:イ号原本式原子炉×1/電動機×1 1軸推進
兵装:533ミリ魚雷管×6(魚雷×24)
迅鯨の準同型艦であるが、静粛性向上のために実験的にターボ・エレクトリック方式を採用して船体が大型化した。
1965年に海龍型原子力潜水艦が導入されると、その騒音が問題となった。白鯨は高速回転する蒸気タービンの動力を減速ギアによって回転数を調整してスクリューを回しているのであるが、その減速ギアが騒音の主要な発生源となっていた。
そこで帝國海軍はアメリカ海軍が原潜タリビーに採用したターボ・エレクトリック方式に注目した。蒸気タービンの動力で直接スクリューをまわすのではなく、発電機によって電力をつくって電動モーターをまわして推進する方式である。それによって騒音の発生源となる減速ギアを省略できるのである。そのため静粛性はロサンゼルス級と同程度と言われ、後の四万十型原潜よりも高く球磨型原潜登場までは日本で最も静かな原潜であった。
しかしながらターボ・エレクトリック方式は機構が複雑で効率が悪く大きさに比して出力が低い欠点があった。また迅龍と同様に原子炉そのものの信頼性の不足にも悩まされた。
蛟龍建艦の予算が帝國議会で承認された直後の1968年にソ連の旧式原潜であるノヴェンバー級がベトナム沖で空母エンタープライスを26ノットの高速で追撃する事件が起こると、海軍は静粛性にいくらか目を瞑っても高速な潜水艦を整備する方針を固めたので、蛟龍の同型艦は建造されなかった。
ソ連原潜に対しての積極的な攻撃は難しいものの、静粛性を利用して平時には情報収集任務に利用され、戦時には機雷敷設任務に投入することが予定された。その為に帝國海軍は蛟龍の近代化改修には消極的だったが、航海支援装備や情報収集装置は常に最新のものに更新されていた。また球磨型の就役までは日本で唯一機雷敷設能力のある原潜であった。
蛟龍は多くの問題を抱えているものの原潜の不足から現役に留まりつづけたが、新型潜水艦の就役により2000年に退役を予定している。
蛟龍 /1972 /2000年退役予定
深海「さて、前に原子力潜水艦の騒音の話をしたね」
荻原「減速ギアと原子炉冷却用のポンプが問題なんでしたよね」
神楽「その通り。蛟龍はそのうち減速ギアの問題を改善しようという試み」
深海「ようするにタービンから直接スクリューをまわすのではなく、発電機を介して発生させた電気でモーターを動かしてスクリューをまわすのさ。電線は音を出さないから、騒音を大幅に減らすことができる」
神楽「ただ説明にもある通り、それまで直接スクリューを回していたのを発電機とモーターを介するようにしたわけだから、従来の艦に比べてもシステムが大掛かりになる。どうしても航行能力で劣ることになるの」
深海「実際、アメリカでは試験的にターボ・エレクトリック方式の原潜が2隻建造されたけど結果は思わしくなかったようで量産はされなかった」
神楽「例外として中国とフランスがターボ・エレクトリック方式を本格的に用いているけど、主流とはいい難い状況よ」
荻原「なるほど」
深海「ただし通常動力艦ではディーゼルエンジンで発電機をまわし、その電力を使いモーターで航行するディーゼル・エレクトリック式が主流になっている」
神楽「まぁ通常動力潜の場合は、水中じゃ機関は回せないからね」
利根型(原巡3型)
全長:75m
排水量:4200t
速力:32kt
機関:ロ号原本式原子炉×1/蒸気タービン×1 1軸推進
兵装:533ミリ魚雷管×6(魚雷×24)
帝國海軍初の量産型攻撃型原子力潜水艦。迅龍のほぼ同型艦で、より大型の高出力原子炉を搭載して速力が向上している。
騒音問題についても一定の対策がなされたが、航行時の雑音はアメリカ海軍の2世代前の潜水艦であるパーミット級と1世代前のスタージョン級の中間程度と言われている。就役を開始した頃にはアメリカがスタージョン級よりも静粛性の高いロサンゼルス級を投入し、ソ連でもスタージョン級レベルまで静粛性が改善されたヴィクターIII級の就役し始めており利根型の静粛性の問題は深刻に受け止められた。
センサーシステムについては遠距離探知能力を高めるために大型ソナードームを艦首に設置し、ソナーとの干渉を避ける為に迅龍、蛟龍では艦首に備えられていた魚雷管と潜航舵が、前者は艦中央部に、後者は艦橋に移された。この形態は次代の四万十級にも受け継がれた。
後期の2艦は対艦ミサイルを発射できるようになった。また1990年代に近代化改修が施されて四万十級後期型と同程度の火器管制システム、ソナーシステムに換装されて索敵・攻撃能力が向上し、有線誘導魚雷が使用可能になった。
なお1973年には原子力潜水艦が帝國海軍の狭義の軍艦に類別されるようになり、それに伴ない命名規則が変更された。それ以降はかつての軽巡洋艦に与えられた河川名に基づく命名が行なわれるようになった。
利根 /1976
筑摩 /1978
矢作 /1981
多摩 /1982
神楽「続きましては日本初の量産型原潜であります」
深海「騒音が問題か。戦前の潜水艦とあまり変わらないのな」
神楽「史実の自衛隊潜水艦だって<うずしお>型あたりまで酷かったじゃん」
荻原「他に特徴は?」
神楽「潜航舵の位置かな。それまでの潜水艦は欧州艦みたいに艦首にあったのを、海上自衛隊潜水艦みたいに艦橋に移したの。だから前から見ると、艦橋が十字架みたいになってる」
四万十型(原巡四型)
全長:89m
排水量:4900t
最大速力:28kt
最大潜航深度(安全深度):600m
機関:ロ号原本式原子炉×1/蒸気タービン×1 1軸推進
兵装:533ミリ魚雷管×6(魚雷・ミサイルなど24発)
海龍、迅龍、蛟龍に続き帝国海軍は初の量産型原潜である利根型を建造した。同艦は速力32ktをマークしたが静粛性の低さは相変わらずであった。その為にアメリカ軍との演習ではそれが原因で常に撃沈判定を受けることとなり、事態を重く見た帝国海軍は静粛性の優れる新型潜水艦を計画した。それが四万十型である。
四万十型には騒音低減のために7枚翼のハイスキュードスクリューが採用された。また騒音の主な発生源である駆動装置を船体に直接固定せず隔離し、二重の防音機構で介すことで静粛性は初期型のロサンゼルス級よりも若干低い程度まで改善した。反面、防音機構によって船体が大型化したにも関わらず利根と同型の原子炉を搭載しているため、速力は低下している。
また四万十型は水上艦に続きシステム艦化が行われた最初の原潜となった。まず新開発された四四式戦闘指揮装置を搭載した。デジタル化により自動化が進み複数の目標の動向を同時に解析できるようになり、複数艦相手に対する同時攻撃が可能になった。
魚雷発射管及び管制装置も新型を装備して有線誘導魚雷と対艦ミサイルに対応している。
さらに3番艦の九頭竜からは日本海軍原潜としてはじめて曳航式ソナーを搭載した。それにあわせて艦首ソナーも曳航ソナーと制御部分を一体化したデジタル式統合ソナーシステムに換装されて索敵の効率が上がった。さらにデジタル化により射撃指揮装置と魚雷管制装置ともデータによる直接の遣り取りができるようになりシステム艦化は完成された。
四万十、阿賀野も九頭竜と同様のシステムに換装され、また利根型も九頭竜を手本に近代化改修が施されている。
四万十 /1984
阿賀野 /1986
九頭竜 /1988
阿武隈 /1990
深海「<利根>型に対して騒音対策を施した艦というわけか」
神楽「史実の自衛隊の<はるしお>型に相当する艦ね。静粛化とシステム化が肝」
荻原「システム化とは?効率が上がったとありますが」
神楽「コンピューター化と言えばいいかな?もしくはオートメーション化」
深海「例えばソナーシステムはね。昔は単純にマイクの拾った音をそのまま聞くだけ、音の波形を映すだけで、あとの分析はソナーマンが自分の経験と勘が頼りだった。しかもひとつの機械ではひとつのソナーしか使えない。あるコンソールで艦首ソナーを聞いていて、それから曳航ソナーを聞きたくなったら、いちいち別のコンソールへと移動しなきゃならなかった」
荻原「面倒くさいですね」
神楽「だけどデジタル化、コンピューター化により特定の音だけ抽出したり、過去のデータと照合したりといったさまざまな分析機能を付加され、さらに別のソナーにスイッチ一つで切り替えができるようになった」
荻原「便利ですね」
深海「その通り。そして、それまでソナー、情報処理システム、武器管制システムは別個の独立した機械で間に人の手を介する必要があった。だけどシステム艦化によって全体を一つのシステムとして使えるようになった」
荻原「それはどういう意味ですか?」
神楽「従来の艦だと、ソナーが敵を見つけたらソナーマンがその位置を分析するのだけど、その分析結果は口頭で発令所に伝える必要があった」
深海「そして発令所では、その分析結果をもとに何時、どの方向に魚雷を発射すれば命中するのか計算するのだけど、その計算結果に基づいて魚雷を発射するには、やはり口頭で伝達して手動で魚雷管を操作する必要があった」
荻原「いちいち人の手を経る必要があったと」
神楽「その通り。その分、時間もかかる。だけどデジタル化、システム化した艦はデジタルデータとして回線を通じて直接情報を送ることができる」
深海「素早く正確な情報のやりとりができる。当然、敵探知から攻撃までの時間も大幅に短縮できるってわけだ。しかも、より複雑に」
荻原「説明文にある“複数の目標の動向を同時に解析できる”ってヤツですか」
神楽「そうだよ。すごいだろ」
球磨型(原巡五型)
全長:108m
排水量:7200t(水中)
最大速力:35kt
最大潜航深度(安全深度):600m
機関:ハ号原本式原子炉×1/蒸気タービン×1 1軸推進
兵装:533ミリ魚雷管×6 (魚雷・対艦ミサイルなど36発)
帝国海軍の第5世代攻撃型原潜。空母機動艦隊の護衛を任務とし、空母に随伴可能な航行能力を有している新世代艦。
1980年代に従来艦と比べて静粛性の高い四万十型攻撃型原子力潜水艦を次々と就役させたが、静粛性の代償として速力が低下した。その為に1980年代にソ連がシエラ級やアクラ級のような高性能原子力潜水艦を投入すると、帝国海軍は四万十型の能力を不十分であると考えて建造計画を4隻で打ち切り新型潜水艦の開発を開始した。
新型艦は静粛性と航行能力の両立が図られていて、石狩型戦略原潜で採用されて実証された静粛化対策を取り入れている。船体表面は吸音タイルに覆われており、内部の雑音が外部に漏れるのを防ぐとともに相手のアクティブソナーにも探知され難くなっている。また石狩型に続き自然循環式原子炉を導入しており、そのため騒音の原因となる冷却水ポンプを作動させないままで原子炉を最大で約50%の出力にして航行することができる。
船体はそれまでの涙滴型から直線的魚雷型に転換された。また運動性能向上のために従来の艦が艦橋に備えて潜航舵を艦首に移した。艦首ソナーへの干渉を抑えるために必要に応じて船内に引き込めるようになっている。
戦闘指揮システムは四万十型の四四式より更にオートメーション化が進んだ五四式戦闘指揮装置が装備されていて、発射された6本の魚雷を同時に管制して別々の目標を攻撃することが可能である他、蛟龍の後継艦として機雷敷設機能が付与されている。また従来の艦首ソナードームと曳航式ソナーに加えて、艦側面にパッシブ式のコンフォーマル・アレイ・ソナーを備えて索敵の精度が向上している。
このように様々な新機軸を投入して索敵システムの能力も大幅に強化され、米ソの最新鋭原潜に匹敵する能力を得た。
さらに2000年就役予定の最新艦<十勝>はそれまでのスクリューに代わって静粛性に優れるポンプジェット推進を導入した改<球磨>と呼べる艦で、20ノットまでならほぼ無音で航行可能とされる。
球磨 /1994
由良 /1996 <海龍>代替艦
久慈 /1998 <迅龍>代替艦
十勝 /2000 /改<球磨>型。<蛟龍>代替艦
神楽「そして、これが最新鋭の攻撃型原潜。静粛性と運動性の両立がコンセプト」
深海「新しい要素は吸音タイルと自然循環式原子炉だな」
荻原「なんですか、それ?」
深海「まずは吸音タイルだが、ようするにゴムの板だ。音は振動だから、ゴムで振動を吸収して漏れる音を小さくするって発想だな」
神楽「むかしからエンジンやモーターを取り付けるときに、船体との間にゴムを挟んで騒音を低減するって工夫はされていたけど、吸音タイルはそれを船体全体でやろうという試み」
深海「船体全体をゴムで覆って、中から漏れる音を減らすんだよ。そして、これにはもう一つ利点がある」
荻原「アクティブソナーうんぬんってヤツですか?」
神楽「その通り。アクティブソナーは自ら音波を敵に向けて発して、その反射を捉えて正確な距離を測ろうってソナー」
荻原「つまり相手の発した音波をゴムで吸収しちゃおうってことですか。それから自然循環式原子炉というのは?」
深海「最初に原潜の騒音問題について説明したけど、そのときに原潜の主な騒音源を二つ挙げただろ?」
荻原「えぇと。減速ギアと原子炉冷却用ポンプでしたっけ?」
神楽「自然循環式原子炉は後者の問題を解決するために考案されたものよ。対流を利用するの」
荻原「お湯を沸かすときに、鍋の中を水がグルグルまわるアレですか?」
深海「そう、アレ。熱源に近くて温かい部分の水は膨張して密度が下がる、つまり軽くなるから上昇する。熱源から離れた冷たい水は温かい水に比べると重いから、下に沈む。これを繰り返すことで流れが生まれるんだ」
荻原「つまりコンロの代わりに原子炉でそれをやろうっていうんですか?」
神楽「その通り。対流の作用で水が自然と循環するんだから、モーターを使う必要がない。つまり騒音が発生しない」
荻原「すごいですね」
深海「まぁ原子炉の出力を上げたら、自然対流じゃ処理しきれなくなるからモーターを使わざるを得ないのだけど」
―戦略ミサイル原子力潜水艦―
神楽「さて、さっき“主に敵の潜水艦や水上艦との戦闘に用いられる潜水艦”は攻撃型に分類されると書いたけど、わざわざ分類する以上は当然ながらそれ以外の任務に使われる原潜も存在する」
荻原「それが戦略ミサイル原潜」
深海「戦略ミサイル原潜は核弾頭を搭載した弾道ミサイルを装備して敵の本土への核攻撃を行う任務を与えられた原子力潜水艦だ」
荻原「怖いですね。でも、なんでわざわざ核ミサイルを潜水艦に載せるんですか?」
神楽「それは確実な報復を行うため」
深海「冷戦時代には東西両陣営が相手の核攻撃を抑止するために膨大な数の核兵器を開発、配備してきた。しかし、それには常に1つの懸念があった」
神楽「核兵器は強力な破壊力を持っているからね。どんなに報復のための核兵器を配備しても、敵の先制攻撃で全滅してしまう可能性があった。こちらが報復する手段を失ったら、相手は好きなだけ核攻撃を行えるわけ」
深海「冷戦時代の核戦略は、敵に核攻撃された時に確実に相手に報復の核攻撃を行える能力を保持する、ことを目指していた。そうすることで敵は報復が怖くて手出しができない。これが核抑止力理論さ。そしてそれを実現するためには敵の核攻撃を受けても確実に生き残り報復攻撃ができる核戦力が必要だった」
荻原「それで潜水艦ですか」
神楽「世界の7割は海だからね。海中にじっと潜む潜水艦を見つけることも撃沈することも大変難しい」
深海「地上のサイロやトラック搭載型だったら核攻撃で周りごと吹き飛ばせばいいけど、海中じゃ直撃させなきゃ効果が薄いからね」
神楽「“敵の核攻撃を受けても確実に生き残り報復攻撃ができる核戦力”それこそが戦略ミサイル原潜なわけ。だから核戦略ではもっとも重視される」
深海「イギリスやフランスは地上の核戦力は捨てて潜水艦に集約しちゃったくらいだしね」
荻原「すごい重要なんですね」
木曽型(海弾二型)
全長:130m
排水量:8000t(水中)
最大速力:20kt
機関:ロ号艦本式原子炉×1(揖斐、長良)/蒸気タービン×1 1軸推進
兵装:533ミリ魚雷管×6(魚雷12)/SLBM発射筒(ポラリスA3orトライデントC4×16)
日本海軍初の戦略ミサイル原潜であり、また日本初の量産型原子力潜水艦でもある。
1954年の核実験成功から核戦力の拡張を進めていた日本軍は核爆弾搭載爆撃機、地上発射型弾道ミサイルに続き潜水艦発射型弾道ミサイルの整備を目指した。まず1960年代末にアメリカから提供されたポラリス弾道ミサイルを搭載した通常動力艦であるイ400型―もしくは海軍弾道弾搭載潜水艦一型―を就役させたが、定期的に潜望鏡深度まで浮上して空気を取り入れディーゼル推進で充電する必要があった通常動力艦では生存性に欠け、確実な報復戦力とはなりえなかった。しかしながら、イ400型から得た様々な教訓は木曽型の開発に大きな影響を与えた。
そして1965年に初の原子力潜水艦<海龍>が就役し、その成果に満足した海軍は弾道弾搭載型原潜の開発を開始した。
船体は迅龍の船体設計を流用し、艦橋後部にミサイル区画を設けている。迅龍は静粛性に問題を抱えていたが、戦略原潜である木曽型は速度性能を求められず大型化した船体には十分な対策が盛り込まれ、雑音レベルは低く抑えられている。
原子炉は一番艦木曽については迅龍型と同じイ号原本式であったがトラブルが続発し、二番艦以降は信頼性の高まった新型のロ号を搭載するようになった。
搭載するミサイルはアメリカとの協定により提供されたポラリス弾道ミサイルであったが射程不足により、80年代初めにトライデントC4に換装されている。
搭載兵器の射程不足に悩まされたものの、当艦の就役により“敵の先制攻撃に対する生存性の高い報復核戦力”を日本は手にすることができ、核戦略の発展に大いに貢献した。その為に一番艦である木曽が就役した1973年より原子力潜水艦は帝國海軍における狭義の軍艦に分類されるようになり、命名規則もかつての軽巡洋艦を受け継いで河川名から名付けられるようになった。木曽型は木曽三川から採られている。
2000年代初頭に新型原潜へ更新されて退役予定。
木曽 /1973
揖斐 /1975
長良 /1977
神楽「“世紀末の帝國”の一番最初に登場した海軍艦艇<木曽>です」
深海「そういえばそうだったな。随分、古い艦なんだな」
神楽「だから後継艦計画が進行中」
荻原「劇中で海軍大臣が“予算が通らなかった”と嘆いていたアレですか?」
神楽「そうそれ」
深海「ミサイルはイギリスと一緒でアメリカに相乗りか」
荻原「北極星ですか」
神楽「UGM-27ポラリス。アメリカ海軍が最初に開発した潜水艦発射型弾道ミサイルね。固体燃料で水中発射も可能。SLBMの基本形をまとめた革新的なミサイルだね」
深海「ソ連も潜水艦発射型ミサイルを配備していたけど、液体燃料式で取り扱いが面倒な上に浮上しなきゃ発射できなかった。ポラリスの配備でアメリカはソ連に対して優位を確立したんだ」
神楽「ポラリスはアメリカ海軍が使用した他にイギリス海軍にも供給された。“世紀末の帝國”の日本海軍もアメリカから供給されたという設定。余談だけどポラリスはイタリアの巡洋艦ジョゼッペ・ガリバルディに搭載する計画もあったよ」
深海「大戦型巡洋艦なのに弾道ミサイル発射機が搭載されたんだぜ」
神楽「帝國海軍が導入したのはイギリスと同じで一番最後に開発されたポラリスA3型。射程が延びて精度も向上。さらにMIRV化されているのが特徴よ」
荻原「マーブ?」
深海「複数個別誘導再突入体の略称だ。つまり、それまでのミサイルは1発のミサイルに1つの弾頭しか載せていなくて、1つの目標しか攻撃できなかった。だけどMIRVだと1発のミサイルに複数の弾頭を載せていて、1発のミサイルで複数の目標を攻撃できるんだ」
荻原「すごいですね」
神楽「確かにすごいミサイルだけど、海軍は不満があった。それは射程」
深海「なるほど。ポラリスはA3型でも射程は4600キロ。モスクワまで約8000キロだから届かない」
神楽「だから中国に対してはともかくとしてソ連に対しては抑止力は限定的にしか生じない。そこで1980年代にトライデントミサイルに換装されたわけ」
深海「トライデントC4は射程7500キロ。日本海や東シナ海から発射すればモスクワにギリギリ届く」
神楽「まぁ撃てる海域が限られている時点で考え物だけどね。確実な抑止力としては」
石狩型(海弾三型)
全長:150m
排水量:15000t(水中)
機関:ハ号原本式原子炉×1/蒸気タービン×1 1軸推進
兵装:533ミリ魚雷管×4(魚雷16本)/SLBM発射筒(トライデントC4orトライデントD5×16)
日本の核戦略の中核を成す存在であり、前級の木曽型とともに抑止哨戒任務に就き常時1隻が日本近海に出撃している。
1980年代の軍拡期に入ると3隻でローテーションをギリギリの状態で組んでいる戦略潜水艦部隊の増強が最優先に行なわれることになった。
戦略原潜として静粛性を第一に開発が進められ、機関には騒音の源となるポンプでは無く自然対流を利用した冷却機構を備えた自然循環型原子炉を搭載している。またイギリスから取り入れた吸音タイルで船体を覆うことでアクティブソナーによる探知可能性を低減させている。これらの新機軸は球磨型攻撃型原潜にも取り入れられた。
搭載するミサイルは米海軍が開発を進めていたトライデントD5を念頭に設計されたが、一番艦<石狩>の就役までにトライデントD5の配備は間に合わなかったので、<石狩>木曽型用に輸入されたトライデントC4を搭載し、二番艦<夕張>よりトライデントD5の搭載が始まった。
一番艦<石狩>も近く搭載しているミサイルのトライデントD5への換装を予定している。トライデントC4では射程の問題から東シナ海から攻撃を実施せざるをえなかったがトライデントD5の登場により比較的安全な太平洋から直接モスクワを攻撃できるようになった。
石狩 /1989
夕張 /1991
神楽「そして、これが帝國海軍最新の戦略原潜。後に<球磨>型に取り入れられる様々な静粛化対策が先んじて採用されている上に、搭載するミサイルはトライデントD5!」
深海「トライデントD5はトライデントC4の改良型、といっても別物みたいなものだけどね」
荻原「なにが違うんですか?」
神楽「まず射程が延びた。搭載できる弾頭の数が増え、かつ威力も上がった。命中精度も上がった」
荻原「なにもかも進歩したんですね」
深海「特に重要なのは射程と命中精度だ。潜水艦に載せるという制約故にSLBMはどうしても性能面で地上の大陸間弾道ミサイルに劣っていた。それを覆したのがトライデントD5なんだ」
神楽「今までは潜水艦発射型弾道ミサイルは報復戦力だと書いてきたでしょ?」
荻原「はい。確実に発射できるからと」
深海「実はそれだけが理由じゃない。精度の劣るSLBMでは自国に対する核攻撃の報復として敵国の都市を吹き飛ばすには十分でも先制攻撃に向かないんだ」
神楽「報復攻撃なら相手はミサイルを発射した後だから無視すればいいのだけど、先制攻撃をする場合は報復攻撃を防ぐために敵の核戦力も同時に叩きたいわけ。だから大陸間弾道ミサイルの発射基地も攻撃するのだけど、発射サイロの大部分は地下に埋まっているから撃破するには直撃させなくてはならないわけ」
荻原「だけどSLBMの場合は精度が低いから、そうした攻撃には向かない。ということですか?」
深海「その通り。だからアメリカやソ連はSLBMが発達しても地上発射型のICBMの配備を続ける理由はそこにある」
神楽「そしてトライデントD5はICBMの代替となりうる最初のSLBMなのだ」
荻原「やっと終わりましたね」
深海「次回は何の予定だい?」
神楽「砲兵の装備編かな?」