登場兵器紹介 機甲兵の兵器編
深海「さて登場兵器紹介。今日は“機甲兵の兵器”だ」
荻原「機甲兵ってなんですか?」
神楽「ここでは戦闘装甲車輌を主力として戦う部隊として位置付けているよ」
深海「自衛隊の機甲科は戦車部隊と偵察部隊を指す。ここではそれに倣う」
荻原「つまり戦車部隊と偵察部隊の装備を紹介するのですね」
―戦車―
神楽「さて、本題に入る前に第二次世界大戦からの帝國日本の戦車史について解説しよう」
深海「今までにない試みだな」
神楽「作者の趣味だ。それに今までの陸軍の兵器体系について、紹介されている兵器の解説文を読めば、ある程度は前史を理解できるからな」
荻原「海軍艦艇や航空機はどうなるんですか?」
神楽「いづれどこかで…」
深海「怪しいな」
神楽「コホン。それじゃあ始めるよ」
―第二次大戦終了まで―
神楽「ともかく第二次世界大戦までの陸軍戦車史は史実と大きく違いは無い」
深海「つまり日本陸軍の主力戦車はチハたんか。しかし日中戦争が無いなら戦車はチニになるんじゃないか?チハよりも弱い、あのチニに」
神楽「細かいことは気にするな。まぁソ連側も開戦当初の主力はT-26やBTだったので、チハ改で対抗可能だったけどね。だけどT-34に対抗する術がない。というわけで主力戦車は次第にアメリカからのレンドリースに置き換えられていく」
深海「どうでもいいが、荻原さんがついていけなくなって目を回しているぞ」
荻原「あわわわ」
神楽「ごめんごめん。第二次大戦当時の日本軍の主力戦車は九七式中戦車チハだった」
深海「この戦車は敵の陣地や機関銃、砲を攻撃して歩兵部隊を支援するために開発されたもので対戦車攻撃能力が低く、また装甲も第二次大戦中に各国が投入した戦車に比べると薄かった」
神楽「ちなみにチニはチハと主力戦車としての採用を競った試作戦車で、量産性と価格を重視して性能はチハより低かった。貧乏だった当時の陸軍はチニを採用しようとしたが、日中戦争が勃発して予算が増えたのでチハを採用したという経緯がある」
荻原「性能重視でこの様ですか」
深海「そこらへんの事情は陸軍地位向上委員会に譲るとして、ノモンハン事件の教訓もあって戦車の対戦車能力を改善する必要を迫られた。そこで主砲を47ミリ対戦車砲に換装したチハ改、さらにエンジンと装甲を強化して総合的な性能向上を図った一式中戦車が開発された」
荻原「それでそれからどうなったんですか?」
神楽「おそらくソ連のT-26やBT、アメリカのM3軽戦車あたりまではチハ改や一式中戦車で対抗可能だったでしょうね。だけど史実は、アメリカ軍はより強力で装甲も厚いM4中戦車を投入し、帝國世界ではソ連軍がT-34を投入した」
深海「史実では一式中戦車の車体に75ミリ砲を載せた三式中戦車を急造するとともに、四式中戦車や五式中戦車といった完全新規の新型戦車の開発を急いだものの、それらは戦場に投入されることは無く、チハや対戦車砲、肉弾攻撃で凌いだわけだけども帝國世界ではアメリカに頼ったわけだな」
神楽「その通り。1942年末より史実ではソ連に送られたM4A2を中心にシャーマン戦車の貸与が始まった」
荻原「シャーマン戦車って強いんですか?」
深海「他の列強の戦車に比べて秀でた点は特に無かったが、機械的な信頼性や量産性といったスペックデータに現れない点で優れていて、大量生産されて連合国軍の勝利に貢献した。まぁ太平洋戦線じゃ無敵だったがね。だけど時期的に考えて主砲は75ミリ砲搭載型だろ?大丈夫か?」
神楽「75ミリ砲搭載型は朝鮮戦争ではT-34に苦戦した記録があるけど、それは新型で重装甲の85ミリ搭載型が相手の話で、1942年末当時なら比較的装甲の薄い76ミリ砲搭載型だから十分に対抗できると思う」
深海「ふむふむ」
神楽「かくして日本陸軍の主力戦車は事実上、M4シャーマンになる。三式中戦車は開発されず、四式中戦車は少数生産で終わる」
深海「性能的にはM4以下で、機械的信頼性も劣るなら量産する意味は特に無さそうだからね」
神楽「五式中戦車は量産されたが、結局前線には投入されないうちに終わった。ただ戦後も量産が継続された」
深海「レンドリースされたのはM4シャーマンだけかい?」
神楽「90ミリ砲搭載のM26戦車パーシング、76ミリ砲搭載のM10駆逐戦車、90ミリ砲搭載のM36駆逐戦車ジャクソン、75ミリ砲搭載のM24軽戦車チャーフィー。ただしM26は欧州方面の日本軍部隊に供給されて極東に配備されたのは戦後になってから。M24とM36も同様だね」
深海「駆逐戦車と言えば、史実の日本は大戦末期に対戦車車輌を幾つか計画していたようだけど帝國世界ではどうなんだい?」
神楽「軒並みボツか少数生産だね。ただ戦後になってホリやカトは量産されている」
荻原「ホリとカトってなんですか?」
深海「ホリは試製五式砲戦車、カトは試製十糎対戦車自走砲を指す。どちらも105ミリ砲装備の対戦車車輌だ。史実では完成前に終戦になったけど」
神楽「帝國世界ではカトは割と少数生産で終わったけど、ホリは主砲を120ミリ砲に換装したタイプも造られて長く量産された」
深海「なるほど。それで戦争が終わるわけだ」
神楽「その通り。第二次大戦直後の帝国陸軍はこんな感じだった」
重戦車
M26パーシング(50口径90ミリ砲装備、42t)
中戦車
五式中戦車(44口径75ミリ砲or52口径76.2ミリ砲、35t)
M4シャーマン(37.5口径75ミリ砲or52口径76.2ミリ砲、32t)
四式中戦車(44口径75ミリ砲、30t)
M24チャーフィー(40口径75ミリ砲、18t)
一式中戦車(48口径47ミリ砲、17t)
九七式中戦車(18口径57ミリ砲or48口径47ミリ砲、15t)
軽戦車
五式軽戦車(48口径47ミリ砲、10t)
二式軽戦車(46口径37ミリ砲、7.2t)
九八式軽戦車(37口径37ミリ砲、7.2t)
九五式軽戦車(37口径37ミリ砲、7.4t)
戦車駆逐車
五式砲戦車(54口径105ミリ砲、40t)
五式対戦車自走砲(105ミリ砲、30t)
M36ジャクソン(50口径90ミリ砲、29t)
M10(50口径76.2ミリ砲、29t)
三式砲戦車(38口径75ミリ砲、17t)
深海「ちょっと待て!なぜチャーフィーが中戦車の欄にある!」
神楽「だってチハや一式よりデカくて強力だもん。事実上中戦車扱いだよ」
荻原「あのぉ。重戦車とか中戦車とか軽戦車とか、どういう違いがあるんですか?」
神楽「かつては戦車を重量で区分していたんだよ。戦後に廃れたけど」
荻原「廃れたんですか」
深海「詳しくは戦後編で。あと五式中戦車と四式中戦車の主砲って50口径以上あったと思うが」
神楽「史実では碌に量産ができなかった四式高射砲を主砲に転用したけど、帝國世界では堅実に八八式75ミリ高射砲を転用したんだ。その分、口径長も威力も下がったけど」
深海「史実と違ってB-29による本土大空襲なんて受けていないからな。高射砲の生産を戦車砲に換えることができたわけか」
荻原「口径長ってなんですか?」
神楽「簡単に言えば砲身の長さ。44口径というのは、ようするに砲口の太さの44倍の長さという意味」
深海「44口径75ミリ戦車砲の場合、砲口の太さは75ミリ。その44倍だから砲身の長さは約3300ミリ、約3メートルということだね」
神楽「ちなみに砲口の太さも口径と言うから混同しないように注意してね」
―戦後第1世代登場―
荻原「戦後第1世代ってどういう意味ですか?」
深海「第二次世界大戦後に開発された戦車は概ね3つの世代に分類される。その第一陣が戦後第1世代と呼ばれる戦車群だ」
神楽「アメリカのM46、M47、M48といった所謂パットンシリーズ、ロシアのT-55などがこの世代に分類される」
深海「特徴は基本的に大戦中の戦車の発展系であること。アメリカのパットンシリーズはM26パーシングの発展型だし、イギリスのセンチュリオンも第二次大戦中に開発された戦車で改良を続けて使用された。T-54も大戦中に開発されたT-44の改良型だ」
神楽「史実の日本が開発した61式中戦車も戦中の影響が色濃く残る戦車ね」
深海「戦後第1世代にはもう1つ重要な点がある。それは主力戦車という概念の登場だ。さっきも言ったように戦前は重、中、軽と重量で区別されていた」
神楽「イギリスだけは巡航戦車と歩兵戦車という独自の分類法を使ってたけど」
深海「軽戦車はその名のとおり軽い戦車。軽い分、速く走れて機動力も高かった。代わりに装甲が薄く防御力が低い。それに対して重戦車は装甲が厚く火力も抜群。だけど重い分だけ鈍かった。中戦車はその中間だ」
荻原「つまり違った特性の戦車を状況に応じて使い分けようとしたということですか」
神楽「その通り。だけど実戦で使ってみると特定の性能だけが突出した戦車は使い勝手悪かった。結局は攻撃力、防御力、機動力のどれもバランス良く兼ね備えた戦車が良いということになったの」
荻原「それが主力戦車ですか」
深海「その通り。最初にそのコンセプトで開発された主力戦車がイギリスのセンチュリオンだ。以降、軽戦車や重戦車は次第に姿を消し、中戦車が主力戦車として陸戦の主役になっていく」
荻原「それで肝心の日本陸軍の戦後第1世代戦車は?」
神楽「五式中戦車改よ。50口径90ミリ戦車砲を装備する新型砲塔を搭載しているの。重量は39トン。量産開始は1952年」
深海「史実の戦後最初の戦車が61式だったことを考えると、早いな。敗戦の空白はそれだけ大きいということか」
神楽「戦車師団にはM26戦車、五式戦車改。満州の歩兵師団戦車隊にはM4シャーマン。そして内地にはチハ改と一式中戦車というのが1960年くらいまでの状況かな」
深海「内地が淋しいなぁ」
神楽「ちなみに同時期に五式軽戦車の後継としてM41ウォーカーブルドック軽戦車を導入している」
深海「ようやくアメリカ規格での軽戦車を日本でも軽戦車として扱えるようになったか」
荻原「でも軽戦車って廃れたんじゃ」
神楽「まぁ主力戦車が一般化するまでの過渡期だからね。これ以降、純粋な軽戦車というのは姿を消す。あとは水陸両用とか空挺部隊用とかの特殊戦車や途上国向けの廉価版戦車として軽戦車は生き残る」
深海「ちなみにM41軽戦車は史実の自衛隊にも配備された。現代でも台湾やタイなどで現役だ」
神楽「そして帝國世界でも2000年現在、予備役部隊向けの保管装備として配備されている」
深海「…ちょっと待て!なんで20世紀末まで配備されているんだ!」
神楽「あくまでも保管装備だしぃ。タイでも現役だし」
深海「タイだから現役なんだとは考えないのか?」
荻原「それでは次の世代に入ります」
―戦後第2世代戦車―
神楽「さて時が進んで戦後第2世代戦車の時代になりました」
深海「戦後第2世代戦車はアメリカのM60シリーズ。ソ連のT-62、T-64、T-72。イギリスのチーフテン。ドイツのレオパルドI。フランスのAMX-30。日本の74式戦車などを指す」
荻原「特徴はなんですか?」
神楽「一概には言えない」
深海「一般的には“対戦車ミサイルの発達への対処として装甲による防御よりも回避に重点を置いた機動力の高い戦車”と説明されることが多いけど、当てはまるのはドイツ、フランス、日本だけだ。アメリカやイギリスは引き続き重装甲戦車路線だし、ソ連はT-64に複合装甲や自動装填装置などの新機軸を突っ込んで失敗したりと、第2世代を通じた特徴と言えるような定まったものがあったわけじゃない」
神楽「まぁ次世代戦車の有様について各国が試行錯誤をしていた時期だと覚えればよろしい」
荻原「それで日本陸軍の戦後第2世代戦車はどうなりましたか?」
神楽「二八式戦車と三四式戦車の2種類がある」
二八式戦車チヲ
全長:約9.5m
全高:約2.3m
重量:36t
最高速度:時速52km
乗員:4名
兵装:51口径105ミリライフル砲×1/12.7ミリ機関砲×1/主砲同軸7.7ミリ機銃
1950年代に配備された五式中戦車改やM41軽戦車の後継車両として開発されて1960~70年代前半の主力を担った主力戦車である。
主砲には世界標準となりつつあったイギリスのロイヤル・オードナンス製105ミリライフル砲L7をライセンス生産した二八式十糎半戦車砲を装備し、戦後第二世代戦車に相応しい火力を手に入れた。
照準装置にはアメリカ製のM47戦車とM48戦車を参考に開発したステレオ式照準機が採用され、遠距離射撃の命中精度が大きく向上している。
砲塔は小型に設計され理想的な避弾経始を実現した。車高は第二世代戦車の中でも群を抜いて低く、防御力や低視認性は高いと考えられる。一方で主砲の俯角が制限されることとなった。また砲塔が小さいため居住性も優れているとは言いがたい。
僅か6年後に改良型の三四式が完成し、陸軍向けの生産数は500輌に留まる。しかしながら姿勢制御機構による整備の複雑化、信頼性の低下を嫌う海軍陸戦隊は二八式の調達の継続を希望し、海軍工廠で陸軍の三四式と同じ照準装置を搭載した二八式改を独自に200輌程度量産した。海軍陸戦隊戦車大隊の主力を長年務め、湾岸戦争にも参加したが、現在では教育部隊、予備役部隊以外では四四式に代替されている。
また陸軍でも後継戦車である四四式の配備が進められ順次退役して予備役に編入されているが、2000年現在でも400輌程度が現役部隊に配属されていて、暗視装置の搭載のような小規模な改修が加えられている。
さらに二八式のシャーシを利用して自走迫撃砲や自走高射機関砲といった派生型が開発された。
神楽「まずは二八式戦車。史実の74式戦車の低性能版だと思えばいいわ」
深海「ステレオ式照準装置とか、戦後第1世代から抜けきれていない感じだね」
荻原「ステレオ式照準装置とはどんなものですか?」
神楽「まず基礎として地球には重量があるから、大砲から撃ちだされた砲弾は前進しながら徐々に下の方に落ちていく」
深海「だから遠くの目標を狙い撃つ場合は、重力の影響を考慮にいれて若干目標より上を狙って撃つ。目標まで砲弾が飛ぶまでの間に落ちて丁度命中するように調整するんだ」
神楽「こうした射撃に必要なのはなんだと思う?」
荻原「相手との距離ですか?」
深海「その通り。目標との正確な距離を測る必要がある。そこで考え出されたのはステレオ式照準装置だ」
神楽「外見は長い鉄の筒かな。その両端にレンズがあって、それを通じて中心の接眼部から目標を見るわけ。左右の対物レンズは離れているから、捉えている画像はずれている。だから同じ目標を捉えるために角度を調整する」
深海「そして同じ目標を捉えた時、左右のレンズと目標との間に三角形が形作られる。だから三角測量の原理を応用して目標との距離を測れるわけだ」
荻原「なるほど。それと避弾経始ってなんですか?」
深海「装甲を斜めにして相手の砲弾を弾き飛ばしてしまおうという防御方法だ。最新の高速で飛ぶ徹甲弾に対しては高価が薄いけど」
神楽「あと装甲を斜めにすることで見かけの厚みが増す効果がある。まず正方形を想像してみよう」
荻原「はい」
神楽「それを装甲板に見立ててみよう。もし弾が装甲板に対して垂直に命中した場合、装甲の厚さは辺の長さの分だけだ」
深海「それじゃあ、対角線を引いてみよう。対角線の長さは辺に比べてどうかな?」
荻原「長いですね」
神楽「つまり装甲板に対して斜め45度から弾が命中した場合、装甲の厚さはその分だけ増すことになるのだ」
三四式戦車チワ
全長:約9.5m
全高:約2.3m
重量:38t
最高速度:時速:52km
乗員:4名
兵装:51口径105ミリライフル砲×1/12.7ミリ機関砲×1/主砲同軸7.7ミリ機銃
二八式戦車を改良した主力戦車である。
主力戦車として世界標準の105ミリライフル砲装備の二八式を採用したものの、砲塔が小さく主砲の俯角が制限されるという欠点を持っていた。そこでサスペンションをトーションバー式から油圧式に改め、車体そのものを油圧で前後左右に傾けさせる姿勢制御機構を取り入れて実質的に主砲俯角の制限を打破する事に成功した。
また射撃統制装置も一新され、それまでのステレオ式照準機からレーザー測距機と弾道コンピューターを組み合わせたものに換えられ射撃精度が大きく向上している。またアクティブ式暗視装置を備え夜間戦闘能力も獲得した。
こうして三四式戦車として1974年に正式採用され、陸軍の主力戦車として配備が行なわれた。生産数は1000輌を超え、そのほとんどが現役である。
1990年代には列国が第3世代戦車を開発し性能面で遅れをとるようになると現代戦に対応できるように射撃統制装置の改良、パッシブ式暗視装置・レーザー検知器の装備、爆発反応装甲の装着などの近代化改修が実施された。現在でも歩兵師団の戦車連隊を中心に多数配備されている。
神楽「そして、これが二八式戦車の改良型の三四式戦車だ」
深海「まんま74式戦車じゃないすか!」
神楽「そうだね。二八式からの改良点は油圧式の姿勢制御装置を取り入れたこと。これで車体を前後左右に傾けられるようになった」
荻原「そうすると、どんな良い事が?」
深海「起伏の激しい土地での戦闘がやりやすくなった。傾斜している場所だと照準が取りにくいから車体そのものを傾かせることで水平を保とうとするんだよ」
神楽「それに前後に車体を傾かせると、その分だけ砲も上下に動くからね。その分だけより多くの範囲に向けて射撃ができるの。そして射撃統制装置も採用されている」
深海「レーザー測距装置と弾道コンピューターの組み合わせは戦後第2世代としてはポピュラーだね」
神楽「ちなみに前述の海軍陸戦隊仕様二八式改は二八式の砲塔を三四式のものに交換したものだ。照準は三四式と同様にレーザー測距装置と弾道コンピューターの組み合わせで行なう」
荻原「どうして海軍は三四式をそのまま採用しなかったのでしょう」
深海「二八式の解説文には油圧式姿勢制御機能について整備の複雑化、信頼性の低下を嫌ったとあるが」
神楽「それぞれのドクトリンの違いが反映されているの。陸軍は1962年の大陸大撤退から戦略を大転換して“攻めてくるソ連軍を朝鮮、北海道で迎え撃つ”という防衛的な軍隊に変わった。一方で海軍陸戦隊は第二次大戦における海兵隊の活躍を目の当たりにして、基地防備部隊から水陸両用戦部隊への発展を遂げた。攻撃的な部隊になったわけ」
深海「なるほど。陸軍は信頼性の低下をホームグランドで戦うことで補って、待ち伏せに有利な姿勢制御機能を選んだ。海軍は敵地への上陸作戦という十分な後方支援を得られにくい戦場で戦う故に信頼性を重視した。ということか」
神楽「そういうこと」
―戦後第3世代戦車―
深海「そして、いよいよ戦後第3世代か」
神楽「アメリカのM1エイブラムス。イギリスのチャレンジャーI及びII。ソ連のT-80、T-90。ドイツのレオパルドII。フランスのルクレール。日本の90式などが挙げられるわ」
荻原「特徴はなんですか?」
深海「戦後第2世代と違って、ある程度方向性は一致している。複合装甲と滑腔砲の装備。それにデジタル化ってところかな」
神楽「詳しくは帝國シリーズ登場戦車の解説を通じて」
四四式戦車チカ甲
全長:約10m
全高:約2.3m
重量:49t
最高速度:時速72km
乗員:3名
装甲:中空装甲
兵装:44口径120ミリ滑腔砲×1/12.7ミリ機関砲×1/主砲同軸7.7ミリ機銃
四四式は旧式の二八式戦車及び三四式戦車の後継車両として1970年代に開発が開始され、1980年代初頭に完成して1984年に四四式戦車として正式採用された。翌年より戦車第一師団から配備が開始されている。
戦場として山岳が多い朝鮮半島や内地を想定している為、他国の同世代主力戦車より小型・軽量に設計されている。その為に自動装填装置を搭載して乗員を3名とすることで砲塔の小型化に成功し、重量も50tに抑えられている。
主砲にはドイツ製の120ミリ滑腔砲をライセンス生産したものを装備して三四式以上の攻撃力を実現しているが、射撃統制装置は当時の技術力の限界もあり信頼性を重視して三四式戦車のものを改良して装備している。
それでも暗視装置を従来のアクティブ式赤外線暗視装置をパッシブ式のものに変更するなど様々な点で改善がなされている。アクティブ式は自ら赤外線を発してその反射を捉えるもので逆探知される可能性があったが、パッシブ式は相手が発する赤外線を捉えるものなので相手に悟られずに使用できる。そのため夜間戦闘能力は大きく向上し、さらに昼間においても煙や霧に隠れた目標も探知することができる。
装甲は成形炸薬弾による攻撃に備える為に中空装甲を装備した。中空装甲は装甲中に空間を設けて成形炸薬弾のエネルギーを拡散させるものである。脱着が容易な内装式モジュラー装甲を採用しているので新型装甲への換装も容易であり、多くの車両が既に乙型と同様の複合装甲に換装していると思われる。
四四式戦車は湾岸戦争に派遣され、その能力を遺憾なく発揮してアメリカのエイブラムスやイギリスのチャレンジャーに匹敵する戦車であると認識されている。ただ上述のように一部問題のある点もあり、真の第三世代戦車となるには乙型の登場を待たなくてはならない。なお乙型登場後、それまでのタイプは甲型と呼称される。
深海「今度は90式の低性能版か。次の世代に進むまでにワンステップを踏むのが帝國日本のやり方なわけだ」
神楽「まあね。さて、戦後第3世代兵器を語る上で無視できないのが、以前に歩兵の兵器編で紹介した成形炸薬弾の発達よ。これが第3世代戦車の装甲と主砲を決定づけることになる」
深海「1970年代、成形炸薬弾を搭載する対戦車ミサイルの脅威は俄然高まってきた」
荻原「でも、対戦車ミサイル対策は戦後第2世代戦車ですでに取り入れられていた筈では?」
神楽「その通り。ドイツやフランスなどは対戦車ミサイルを機動力で避けるというコンセプトに基づいて軽量高機動戦車を開発したというのは前述した通り。問題はそれが想定していた対戦車ミサイルの形よ」
深海「歩兵の兵器編を思い出してごらん。初期の対戦車ミサイルはどうやって誘導していたんだっけ?」
荻原「えぇっと。ラジコンみたいに兵士が操縦するんですよね」
神楽「その通り。だからスピードも所詮は目で追えるようなレベルで避けるのも決して難しくは無かった」
深海「しかし1970年代には第2世代対戦車ミサイルが登場した。射手が指示する目標に自動的に飛んでいく第2世代はスピードも第1世代より段違いで避けるのは難しい」
神楽「かといって通常の装甲では心許ない。従来の装甲が携帯対戦車兵器に対して十分な防御力を提供できないのは第四次中東戦争でイスラエル戦車隊が負った損害からも明らかだ」
荻原「つまり成形炸薬弾に耐えられる装甲が必要ということですね」
深海「その通り。そしてその回答としてまず開発されたのが四四式戦車甲の説明文にも出ている中空装甲だ。これは装甲板を2重にして間が空間になっている」
神楽「成形炸薬弾は爆発エネルギーを一点に集中して装甲板を突破しようというコンセプトの砲弾。それで弾の先端が目標に当ると起爆するのだけど、その時に丁度エネルギーが弾の先端部で集中するように設計されている。それで装甲の表面にエネルギーが集中する」
深海「だけど中空装甲の場合、最初の装甲板を貫通しても、その先に別の装甲板がある。だけど成形炸薬弾のエネルギーはそこに到達する前に拡散してしまう」
荻原「それで貫通できないというわけですね」
神楽「でも中空装甲には問題があった。それは徹甲弾に対しての防御力は通常装甲と変わらないということ」
深海「さらに成形炸薬弾の方も改良されて威力が増し、中空装甲での防御も限界が達した」
荻原「つまり徹甲弾や成形炸薬弾の双方に対して効き目が薄れてきたと?」
神楽「その通り。その問題の解決は後に譲るよ」
深海「さて。成形炸薬弾の発達は戦車の攻撃の部分でも大きな変化をもたらした。それは滑腔砲の採用だ」
神楽「従来の戦車は砲身の中に溝をいれて砲弾を回転させていた。それで砲弾の安定性が高まり、遠距離での命中精度が上がるのよ」
深海「だが第3世代戦車はイギリスを除いて溝のない、つまり砲弾を回転させない滑腔砲を採用した」
荻原「それはなぜですか?」
神楽「成形炸薬弾だと回転によってエネルギーが拡散して威力が下がってしまうから。フランスなんて砲弾の中にベアリングを仕込んで逆回転させて相殺するG弾なんて特殊兵器を開発したくらい」
深海「結局、炸薬量そのものが減って逆に威力が下がったというオチはフランスらしいけど。さらに徹甲弾も威力を高めるために高速化が進んだ。しかし極めて高速で飛ぶ徹甲弾の場合、回転を加えると捻じれて威力が下がるという問題が生じた」
荻原「それで砲弾を回転させない滑腔砲が採用されたんですか?」
深海「その通り。さらに滑腔砲には利点があった。ライフル砲の場合、砲弾を回転させるための溝から火薬のエネルギーが漏れてしまう。だけど溝の無い滑腔砲だとエネルギーが漏れない、つまり威力がその分上がるんだ」
神楽「そして四四式改が登場する」
四四式戦車チカ乙
全長:約10m
全高:約2.3m
重量:52t
最高速度:72km
乗員:3名
装甲:拘束セラミック式複合装甲
兵装:44口径120ミリ滑腔砲×1/12.7ミリ機関砲×1/主砲同軸7.7ミリ機銃
四四式を採用した陸軍であったが、その性能には決して満足していなかった。攻撃力、防御力などあらゆる面で三四式を上回ったものの諸外国列強の新型戦車に比べれば劣っている面も目立った。幸い開発陣は技術の進歩を見越して将来の改良が容易なように設計をしていたので、四四式制式採用直後より改良型の開発に着手して1992年には四四式乙型として正式採用され、翌年より生産が開始された。
乙型は新砲塔チカとも称されるように、四四式甲型の砲塔を新設計の砲塔に換装したものである。新砲塔は従来のものより若干大型化して内部容積が拡大し、そこへ最新の車載電子装置を詰めこんでいる。
射撃統制装置は最新鋭のデジタルコンピューターを装備して、より高精度の射撃が可能になった。自動装填装置との組み合わせにより連続した高精度な行進間射撃が可能である。また特定の目標を自動追尾する機能や脅威度を自動で評価する機能が付加されている。
さらに新たに車長用照準潜望鏡を搭載した。これは従来のキューポラとは異なり暗視装置を備えるとともに射撃統制装置と連動しているのが特徴である。それまでの戦車では車長が新たな目標を発見した場合にはそれを口頭で伝達して砲手が改めて照準をする必要があったが、四四式乙は照準潜望鏡で自ら照準をすることができる。砲手が照準・射撃中でも車長は新たな目標を探索・照準するハンター・キラー戦法を使うことができるので効率的な連続攻撃が可能である。
さらに中空装甲に代わってより防御力が高い複合装甲を装備し、防御力が大きく向上した。近年、我が国で発展著しい素材技術によって完成された拘束セラミック式複合装甲であり他国よりも軽量ながら高い防御力を実現した。
これらの改良により四四式は世界最高水準の性能を持つ戦車の1つとなった。
陸軍は乙型の配備を続ける一方で既存の車輌の乙型への改修も順次行なっている。2000年現在、甲乙あわせて1300輌程度が配備されている。
神楽「これが帝國陸軍現主力戦車、四四式戦車乙よ!」
深海「車長用潜望鏡が暗視装置付きとか、自衛隊の90式より若干高性能だな。90式の場合、潜望鏡には暗視装置がなくて、夜戦では車長が砲手用暗視装置の映像をモニターに映して見るんだが」
荻原「それで中空装甲の弱点を解決したのが複合装甲なんですね」
神楽「その通り。さて成形炸薬弾や近年の徹甲弾、つまりAPDS弾やAPFSDS弾の威力を語るにはユゴニオ弾性限界について語らなくてはならない」
荻原「ユゴニ…オ?」
神楽「ユゴニオ弾性限界。固体の物質はある一定以上の圧力が加えられると流体のように振舞う、つまりゼリーのようにドロドロになってしまうという性質があるの。その時の圧力の値がユゴニオ弾性限界」
深海「成形炸薬弾や最近の徹甲弾は装甲板にユゴニオ弾性限界を超える圧力を与えて、それで流体上にさせて貫通する。まぁ、弾の方も同様にユゴニオ弾性限界を超えた圧力に晒されて液状化してしまうのだけど、装甲の方も結局同じようになっているので貫通してしまうわけだ」
荻原「なるほど。それに対抗するために開発されたのが複合装甲なのですね」
深海「複合装甲の素材としてよく使われるのがセラミックや劣化ウランだ。特にセラミックは軽い上にユゴニオ弾性限界が鋼鉄の10倍以上だから装甲材としてよく利用される」
神楽「セラミックは脆いがユゴニオ弾性限界が高い。だから弾の方だけ流体化してしまう。装甲の方は固体のまま」
荻原「だから貫通できない!」
深海「その通り。これを鋼鉄の装甲で挟んで脆さを補うのさ」
神楽「さらにセラミックのプレートをチタン製の箱で圧縮して押し込めたものを並べた拘束セラミック装甲が開発された。それが四四式戦車の複合装甲よ」
深海「圧縮することで強度が増し、さらに弾が命中した時の損傷が広がるのを防ぐ効果がある」
荻原「なるほど」
深海「なお劣化ウラン装甲の方はどうやら違う原理で弾を防ぐらしいが、情報不足のため割愛する」
荻原「ところでずっと気になっていたのですけど。チハとかチカとかってなんですか?」
神楽「試作時につけられる隠匿名称だよ。最初のチは中戦車を意味して、後の文字は開発順にイロハ…とつけられる。チハは3番目に開発された中戦車を意味する」
深海「チカは12番目に開発された中戦車ということだね」
神楽「軽戦車はケ、砲戦車はホから始まる同様の隠匿名称を持つが、この命名法則が必ずしも当てはまるわけではない。九七式軽戦車テケや試作の対空戦車キト、タセ、ソキ、タハのようにね」
荻原「結構、いいかげんですね」
―偵察用装甲車輌―
神楽「次に紹介するのは師団捜索連隊に配備される偵察用装甲車輌だよ」
深海「偵察部隊は主力に先立って敵の勢力圏に入る部隊だからね。身を守るために一定の防御力と自衛の為の武装を必要とする。だから各国ともこの手の装甲車を偵察部隊に配備している」
荻原「なるほど」
神楽「さらに迅速な情報収集のために機動力も必要。かつて、この手の任務を担っていたのは軽戦車だった」
深海「それを今は装甲車が担っているわけだ」
神楽「さて。偵察作戦には2つの種類がある。隠密偵察と強行偵察ね」
深海「隠密偵察はその名のように見つからないように行動しながら相手を探る方法だ。対して強行偵察は敵に攻撃を加えて、それに対する反応から敵の様子を探る方法だ」
荻原「強行偵察の方は危なそうですね」
神楽「えぇ。強行偵察を担う部隊は装甲車だけでなく戦車も配備する場合があるね」
深海「自衛隊でも第7師団偵察隊には74式戦車が配備されている」
神楽「帝國日本陸軍の偵察部隊は各師団の捜索連隊。装甲車中隊2個と歩兵中隊2個の4個中隊から成り、戦車師団及び機械化歩兵師団にはそれに戦車中隊が加わる」
深海「今回は装甲車中隊に配備される装甲車の紹介だね」
二八式軽装甲車ムテ
全長:4.6m
重量:8t
乗員:3名
最高速度:50km/h
兵装:二五式20ミリ機関砲/7.7ミリ同軸機関銃
捜索連隊に配備された偵察用装軌式装甲車である。
戦前に開発された九二式重装甲車、九四式及び九七式軽装甲車、さらに戦時中はアメリカからレンドリースされたM3及びM8装輪装甲車の後継として歩兵師団の捜索連隊に配備するために開発された。
歩兵部隊向けの対戦車車輌である一〇式自走無反動砲の派生型で、車体を大型化して無反動のかわりに二五式二〇粍機関砲を砲塔形式で装備した。なお二五式機関砲は本車のために開発され、後に二六式装甲車改にも装備された。
小型で内地でも使い勝手がいいことから全国の師団捜索連隊に配備された他、軽量で輸送機にも搭載できることから空挺部隊にも貴重な装甲兵力として重用されている。80年代後半からはエンジンの換装と装甲の強化が行なわれた。
現在、後継の四八式装甲偵察車が配備されているが、まだまだしばらくは現役でありつづけるだろう。
深海「これも帝國版60式自走無反動砲の派生型。ムテはなにを意味する?」
神楽「自走無反動砲の偵察バージョンということらしい」
深海「ドイツのヴィーゼルあたりがモチーフかな?」
四八式重装甲車テセ
兵装:35ミリ機関砲/7.7ミリ機関銃/対戦車ミサイル発射筒×2
四八式歩兵戦闘車の偵察部隊仕様であり、二八式軽装甲車の後継として配備が進められている。
改良点としては車内の兵員用スペースを潰してセンサーや通信システムが強化されている。乗員は車長、操縦手、砲手の3名に加え、兵員室に偵察要員2名や偵察用機器、偵察用オートバイ、追加の弾薬を積載可能。
現在は戦車師団並びに機械化歩兵師団へ優先的に配備が進められていて、戦車第一師団及び近衛、第二、第七、第二〇の各機械化歩兵師団に配備済みである。
深海「これは歩兵の兵器編3で紹介した歩兵戦闘車の偵察ヴァージョンか」
神楽「その通り。こちらは偵察戦闘車の略でテセさ。モチーフはアメリカのM3騎兵戦闘車がモチーフらしい」
荻原「というわけで次回は原潜の紹介をいたします」
登場兵器紹介 歩兵の兵器編2を加筆修正。ノイマン効果の解説を加えるとともに幾つか手直し
機甲兵の兵器編は気がついたら1万5000字近くになっていました。




