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陸軍地位向上委員会6 コマンド攻撃に備えよう

深海「陸軍地位向上委員会自衛隊編は今回で最後だ」

神楽「今回は陸上自衛隊が必要な理由の最後の一つ、“敵コマンド部隊対処に必要である”について考えてみよう」

荻原「よろしくおねがいします」




1.特殊部隊がなぜ脅威なのか?

深海「さて、そもそもなんで特殊部隊は脅威なんだと思う?」

荻原「滅茶苦茶強いからですか?」

神楽「そんな理由で脅威になるのはアクション映画の主人公くらいだ」

深海「映画などのために特殊部隊をスーパーマンかなにかの集団だと勘違いする人は多いが、実態は軽歩兵部隊に過ぎない。まぁ厳しい訓練を受けているのは事実だけどね」

神楽「問題は個々の兵士の戦闘力というより技術だね。普通の部隊は歩兵とか、砲兵とか、戦車とかそれぞれ固有の役割が与えられている。そして同じ部隊の中でも指揮官であるとか、通信手とか、衛生兵とか、各兵士にそれぞれの役割が与えられている」

深海「そして戦車や砲兵は単独では活動できない。衛生兵や通信手が単独で居るだけでは役に立たない。普通の部隊は個別の役割を与えられた部隊や兵士を組み合わせて、はじめて活動が行なえるようになる。自然と必要な人員、物資も巨大化する」

神楽「それに対して特殊部隊は、その部隊の中で自己完結していて、他の部隊の支援を受けなくても単独で活動できる。個々の兵士も通信や衛生などの様々な技能を修得していて少人数で、さらにメンバーの何人かを失っても作戦を継続できるの」

荻原「それで、どうして特殊部隊が脅威になるんですか?」

深海「まず第1で単独、少人数で活動できるから身軽なこと。補給物資も最小限で済むし、他国の警戒網に捕まる可能性が低くなる」

神楽「そして第2に単独、少人数で活動できることそのものよ。普通の部隊であれば損失が重なれば、いずれ組織として活動が不可能になり、いくら残兵がいても作戦を継続することができなくなる。だけど特殊部隊ならば最悪、1人になっても作戦を継続できる可能性がある」

深海「つまり全員を倒さないと危険が去らないわけだ。しかも、前に言ったように部隊規模が小さくて済むから見つけるのが難しい」

荻原「なるほど。それは対処しづらいですね」




2.特殊部隊に対抗するためには

荻原「言っていることをまとめますと、特殊部隊はただの軽歩兵で、特殊な訓練を受けているから特殊部隊ってことですね。じゃあ倒すのは案外難しくない?」

深海「そうだね。正面きって戦えば特殊部隊は通常部隊に対して勝ち目がない。問題は特殊部隊は正面きって戦わないということだ」

神楽「特殊部隊は身軽なのが利点だからね。敵部隊との接触、戦闘は避けつつ任務を遂行しようとする」

荻原「任務とは?」

深海「レーダーサイトや飛行場、発電施設といった重要施設の破壊とか、暗殺とか」

神楽「とにかく暴れて主力部隊から目を逸らすための陽動という可能性もあるわね」

深海「そして、対抗するにはこちらから出て行って狩り出す必要がある。大兵力で包囲して虱潰しに探すんだ」

神楽「一例として江陵(カンヌン)浸透事件が上げられる」

荻原「かんぬん浸透事件?」

深海「1996年に北朝鮮の工作用小型潜水艦が韓国の江陵に座礁して、乗っていた北朝鮮の工作員26名が韓国国内に逃亡した事件だ。韓国軍はたった26名の工作員を掃討するのに49日間の時間と延べ150万人の人員を必要とした」

神楽「まぁ人員はあくまでも延べ人数だけど、それでも1日あたり3万人を投入した計算になる」

荻原「凄い人数ですね」

深海「ちなみに陸上自衛隊の兵力は約15万人くらいだ」

荻原「じゃあ、どっかの国の特殊部隊が上陸したら…」

神楽「下手すると数人の工作員のために1個師団以上の兵力が対処に追われる可能性がある」

深海「複数箇所に同時攻撃を受けたら自衛隊の対処能力が飽和しかねない」

荻原「でも自衛隊にも特殊部隊なんかがあるんでしょ?」

深海「確かに自衛隊にも特殊部隊がある。特殊作戦群ってヤツだね」

神楽「でも、そういう相手に対して正面きって戦うような使い方はしないよ。少数の特殊部隊に対して少数の特殊部隊を送り込んだって、簡単に敵を捉えられるわけがない」





3.恐怖の北朝鮮コマンド部隊

神楽「さて。今までは“少数の特殊部隊”という表現を用いてきたけど、実は“少数”とは限らないのよね」

荻原「どういうことですか?」

深海「いわゆる旧東側の国というのは特殊部隊を大変重視していて、兵力も多いからね。ロシアなんて各部門にいろいろな特殊部隊(スペツナズ)が編制されている」

神楽「極めつけは北朝鮮。特殊部隊の総数は9万人に達すると言われている」

荻原「きゅ、9万!」

深海「北朝鮮陸軍の総兵力は約100万だから、比率は9%。これはすごい比率だ。日本に当てはめれば総兵力約15万の陸上自衛隊が1万3000人の特殊部隊を保有するようなものだ」

神楽「そして、その膨大な特殊部隊が一部でも日本に投入されたら?」

深海「海空の哨戒網を突破するのは決して難しいことではない。なにしろ特殊部隊は物資が最小限で済むからね。その分、見つかり難い」

荻原「恐ろしい話ですね」




4.動的防衛力の危うさ、必要なのはマンパワー

荻原「それでは最後にまとめに入りましょう」

深海「結局、数は重要ってことさ。どんな事態に対処するにもさ」

神楽「この度の東日本大震災でも明らかでしょう。政府は自衛隊災害出動10万人体制―うち陸上自衛隊は7万―を実行したわけだが、全兵力の半数近くを現場に投入することが何を意味するのか?」

深海「平常任務、周辺国への警戒態勢維持、そして災害出動する隊員の休養や交替を考えると、かなりギリギリな運用だろうな。現場で働く隊員の皆さんには頭が下がるよ」

神楽「さて、今現在、日本の防衛政策は大きな転換期を迎えようとしているわね」

荻原「“動的防衛力”ってヤツですか?」

神楽「そのとおり」

深海「簡単に言えば、これまでは全国に部隊を分散配置して、初期対応は現地の部隊が行なうという構想だった。それが動的防衛力では全国に部隊を分散する代わりに機動力の高い少数の部隊を使って、非常時にはその都度に部隊を現地に派遣して対応するという形になる」

神楽「理論上では部隊を数を従来よりも少なくても済む。当然ながら兵員数も予算もね」

深海「だけど、この構想には重大な問題がある」

荻原「なんですか?」

神楽「まず危機の発生と対応部隊の到着までにどうしてもタイムラグが生じるということ。どんなに機動力が高くなったって瞬間移動ができるわけじゃないからね」

荻原「なるほど。到着まで現場の人たちはやられ放題ですね」

深海「そして同時多発的な危機に対処できなくなること。どんなに強力で機動力のある部隊だって沖縄と北海道を同時に攻めこまれたら、同時に両方で戦うというわけじゃないからね。今回の地震のように広範囲にわたって大規模災害が発生した時も十分な対応ができない可能性が高い」

神楽「アメリカみたいに世界展開をしている軍隊であれば、初期対応は現地政府、現地軍任せにして割り切れるかもしれないけど、専守防衛を掲げる国の国土防衛を第1の任務とする自衛隊が採用すべき戦略なのか疑問ね」

深海「日本の防衛環境は決して良いとは言えない。周辺国とは幾つもの国境紛争を抱えている。中国、ロシアは軍拡が著しい。北朝鮮は弾道ミサイルや特殊部隊など対応が難しい分野を増強している。そして日本自身が多くの災害に遭遇しやすいという状態だ」

神楽「物事に完璧というものはない。どんなに対策をしても破られるということは十分にありえること。そして万が一の時に失敗を取り返す方法は少ない」

深海「だからこそバックアップのためにも陸上自衛隊に十分な兵力を与える必要がある。どれだけ技術が進歩しても、マンパワー、兵の頭数というものには大きな意味があるんだ」

荻原「大変、良く分かりました」




深海「次回からは帝国陸軍編に突入だよ」

最後ははしょった感もありますが、次回より陸軍地位向上委員会は帝國陸軍編に突入です

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