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序章〜焔と氷の邂逅〜

ユウ・ハルト

職業:冒険者

武器:SSS

筋力:D+

魔力:E

物理防御:D

魔法防御:D

素早さ:D+

 暑い。

 熱帯林を思わせる場所を、少年はそうぼやきながら力無く歩き続けた。

 名前は“ユウ・ハルト”。黒髪に特徴の無い顔立ち、ボロ布のようなマントに安そうな革の鎧。

 いかにも“駆け出し冒険者”という風貌である。想像できる限り貧相な服装を思い描いて貰えば相違ないだろう。


 しかし、だ。

 その中でも一際目を惹く代物がひとつ。

 背中に差した赤黒い両手剣。これだけは明らかに価値が異なる。

 恐らく、彼が冒険者としてかなり大成しようとも、これ以上の物はまず手に入らないだろう。


 何故なら、この剣は────。


「!? 誰だ!」


 何かを察知したユウは、背中の両手剣に手を掛けると咄嗟に振り向く。ここはさすが冒険者と言ったところか。駆け出しと言えども最低限の基礎能力は揃っている模様。


 現れたのは植物型の悪魔『ウィップ・プラント』。

 名の通り、鞭のような(つる)を持つ悪魔。その本体は土の中に隠れているが、戦闘能力の殆どは蔓に依存しているので見えていなくてもさほど脅威ではない。


「下級悪魔か。万全とは言えなくても何とかなりそうだ」


 かれこれ二時間ほど、この熱帯林を彷徨っていたユウは体力をかなり消耗している様子。彼も人間だ。疲れがどのような形で命取りになるか、想像に難くない。


 先制はウィップ・プラント。地面を這うようにユウの足元へ蔓を伸ばす。下級悪魔とは言え、悪魔の端くれ、その速度は人の身には脅威だ。

 しかし、今までにも何度か悪魔と戦ってきたユウは、その手強さも身に染みている。当然、その対抗策も。


「……ッ!」


 一度、ギリギリまで攻撃を引き付けて、瞬時に右斜めに跳躍。左脚を蔓が掠めたが、あの速度相手にその程度で済めば上出来だ。


 その勢いを殺すことなく反撃に出る。


「燃えろ……“レーヴァテイン”!!」


 背中の大剣を抜き放つと同時に、周囲の酸素が一気に燃焼した。蒸し殺されるような熱風と共に、赤黒い刀身が紅い焔に包まれる。

 これが彼の持つ大剣────世界有数の聖剣の一振り“劫火の聖剣レーヴァテイン”の力だ。


 さらに二、三歩踏み込んで蔓を斬り捨てる。

 両断。その切断面から瞬時に発火。注いだ油に引火するように蔓全体が炎に包まれる。


『──────!!』


 たまらずに地面から突き出してきたのは、“ハエトリソウ”を彷彿とさせる巨大な植物。これが“ウイップ・プラント”の本体。生え伸びる無数の蔓とこの本体が一体の下級悪魔として認知されている。


「出てきたな。これで終わらせてやる!」


 ユウは勝利を確信し、トドメを刺すべく劫火の聖剣を構えた。一体なにを原動力にしているのか、燃焼は一切弱まることなく、轟々と炎を撒き散らしていく。


 放つのは、大量の火炎を剣に纏わせる一撃。


 敵の強さを考えれば多少オーバーキルな気もするが、疲労困憊極まる今は手加減をしている余裕はない。戦いが長引けばさらに敵を呼び寄せる可能性がある。そうなれば命が危ない。


 勝負はついた。

 そう確信した瞬間の出来事である。



「……“レティラ・ブリザロン”」


 どこからともなく響く詠唱。

 目の前のウイップ・プラント本体が一瞬で凍りつき、そこから冷気の波が四方八方に波及していく。草木は一瞬で氷結。まるで氷の彫刻のような美しさを放ちながらもその命を終えることとなる。


 ユウは咄嗟に大剣を振りかざして冷気を相殺。殺しきれなかった冷気を左肩に受けるが、幸いなことに氷漬けには至らなかった。


「……くっ!」


 勢いに跳ね飛ばされ、地面に着地するユウ。その後も数回跳躍を繰り返して距離を取ると再び剣を構えた。左肩の痛みなど気にしていられない。可能な限り息を殺し、周囲を睨みつけるように見回す。


 今のは何だ。

 魔術の類であることは間違いない。

 彼の生きる世界には“魔術”というものが存在する。ただし、誰にでも扱えるわけではなく、生まれ持った素養である魔力(マナ)が必要不可欠。


 そこではない。何故、こんな悪魔の蔓延る“危険しかない”熱帯林にタイミングよく魔術師がいるのか。

 何故、赤の他人であるユウを助けたのか、それが問題だ。


「ふふふ、運良く避けられたみたいね。やるじゃない♪」


 やけに上機嫌な声色。

 言葉を聞くに、どうやらユウに攻撃が直撃しなかったのは偶然だったようで、声の主である魔術師が意図的に外したわけではないらしい。


 姿を現したのは漆黒のローブを身に纏った少女。顔立ちは整っており、体格はやや小柄、銀色の髪はキレイに揃えてあり、肩甲骨の辺りまで伸びている。

 その美しさに、ユウは若干目を背ける。年の頃も同じだろうから当然の反応と言えばその通りなのだが、若干初心(うぶ)な気もしなくもない。


 謎がひとつ解けたところで、ユウは改めて問いかける。


「きみは誰だ。こんなところで何をしている?」


「その台詞、そっくりそのままアナタに返すわ。見ない顔ね。冒険者か何か?」


 確かに。まずは自分が名乗るのが筋と言われればその通り。ユウは、軽く頭を掻くと若干申し訳なさそうに、


「ユウ・ハルト。お察しの通り冒険者をしている」


「レイラ・フロストよ。この先の街“ユティエール”の魔術師。ここには仕事でね。」


 筋を通せば律儀に答えてくれるところを見ると、話は通じるらしい。それだけでも十分助かる。最悪のケースとして戦闘になる事も心配していたが杞憂に終わりそうだ。


「そうか。もし良ければ街まで案内して欲しいんだけど……勿論仕事なら手伝うよ」


 レイラという少女は戦う力は申し分ない。しかも魔術は物理防御の高い悪魔に刺さるため、ユウの欠点を程よく補ってくれる。それは逆も然り、交渉してみる価値は十分にある。


「そうね。仕事ならもう済んだことだし、構わないわよ」


「本当か」


 それは助かる。

 勿論、街まで案内して貰えばそれ以上要求するつもりはない。宿も自分で調達するし、食材も自分で賄うつもりだ。冒険者ともなると、この辺は手慣れたものである。


「ええ、ではついてきて頂戴。また変な悪魔に捕まる前にここを出ましょう♪」


 優雅な足取りで林を進むレイラについて歩くユウ・ハルト。この先にある都市“ユティエール”。そこから彼の冒険譚は幕を開ける。

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