42
95 桜の家・庭
こざくら「あたし、死ななくて済んだみたいですね」
桜「……(悲しげな顔)」
こざくら「よかったあ」
桜「でも……これからが辛いわよ」
桜はポケットから金の鎖を出して見せる。
こざくら「これは!?」
こざくらは自分の首に手をやり、化け玉の付いていた金の鎖を外して見比べる。
桜「化け玉の付いていた鎖よ」
こざくら「え? どういう事ですか?」
桜「私は十五年前、人間に変身したまま、元に戻れなくなった狸よ」
桜はサングラスを外す。
こざくら「え?」
桜「化け玉を飲むとね。狸は変身した姿から戻れなくなるのよ」
こざくら「死ぬんじゃないんですか?」
桜「私も死を覚悟して飲み込んだわ」
こざくら「まさか!? あなたはあたしのおばさん!?」
桜「おばさん?」
こざくら「お父さんに聞いたんです。十五年前に、おばさんが化け玉を飲んだって」
桜「あなた!?……ハギの娘だったのね」
こざくら「なんで、帰って来なかったの!?」
桜「この前話したわね。大恋愛をしたって」
こざくら「ええ」
桜「相手はけんちゃんの叔父さんで、樹医をしていた人。
業者の手から森を守るために戦ってくれていたわ」
こざくら「……」
桜「私は、人間に化けて、その人を手伝っているうちに恋に落ちたの」
桜は遠くを見つめる。




