13
34 森の中
コザクラとボタンが向かい会っている。
ボタン「みんながどれだけ心配してたか……」
コザクラ「言われなくたって分かってるわよ」
ボタン「じゃあ、なぜすぐに帰ってこない?」
コザクラ「帰れるわけないでしょ!! あたし怪我して動けなかったんだから」
ボタン「とかなんとか言って、すっかりあの人間に懐いてたじゃん」
コザクラ「懐いてなんか……いないわよ!!」
ボタン「本当だろうな?」
コザクラ「なによ!! ヤキモチ!?」
ボタン「そ……そんなんじゃ……」
コザクラ「それにしても、よくあそこにあたしがいるって分かったわね」
ボタン「長老に聞いたんだよ」
コザクラ「長老に?」
ボタン「あの人間、前にも何度か怪我したタヌキを保護した事があるんだ。だから、コザクラも保護されているかもしれないから、時々様子を見にいくようにって」
コザクラ「じゃあ、あんた毎晩あの家に行ってたの」
ボタン「あ……ああ。(モジモジする)」
コザクラ「なんで?」
ボタン「なんでって……当り前じゃないか」
コザクラ「人間怖くないの?」
ボタン「あの人間は大丈夫さ。俺が行くといつも美味しい物くれるし」
コザクラ「なあんだ。あたしにかこつけて餌をもらいに行ってたのね」
ボタン「ち……違う!! そんなんじゃ……ああ!! そうだ、親父さんから聞いたか?」
コザクラ「何を?」
ボタン「俺達、化け狸の候補に選ばれたんだ」
コザクラ「ええ!? 聞いてないよ」
巣穴からハギが出てくる。
ハギ「ちょうどよかった。俺から、今話そうと思っていたところだ」
コザクラ、振り返る。
コザクラ「お父さん」
ハギ「狸が化けるという話は聞いたことあるだろ」
コザクラは頷く。
ハギ「あれは本当なんだ。ボタンはこの前、見たから知ってるな?」
ボタン「あの時はびっくりしたよ。人間が突然長老になるから」
ハギ「長老以外にも化け狸がいたんだが、みんな歳を取ったので、若い狸に後をついでほしいというんだ」
コザクラ「それで、あたし達に?」
ハギ「だかな、断ってもいいんだぞ」
コザクラ「なんで? 楽しそうじゃない」
ハギ「楽しいことばかりじゃない。辛いこともあるんだ」
コザクラ「化けるのって、そんな難しいの?」
ハギ「化けるのは簡単だ。問題はその後。化け狸は森を守る義務がある。そのために人間に化けて人間を騙したりするんだ」
コザクラ「ええ!?」
ハギ「そのために人間の習慣を勉強しなきゃならん」
コザクラ「人間の習慣?」