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月光
後宮に彼女が召されたのは5歳の時であった。
宗室と言っても傍系の沈家からやって来た彼女は名前を宜花という。
詩経の一節から名付けられた彼女は宗女から皇帝の養女となった。
それは彼女にとっては栄華である。しかし、栄華と引換に彼女は政治の道具とならなければなかった。
彼女は和親公主なのだ。和親公主とは夷狄と同盟を結ぶためだけに降嫁する皇女のことだ。
皇帝の実子である、公主らはその運命を背負うことは稀有で、嫁ぐのは専ら養女たちであった。
宜花はそれに選ばれたのだ。両親を亡くして祖父母に世話をしてもらっていた彼女に白羽の矢が立ったのである。
皇帝は彼女に養母として妃嬪である豫嬪を与えた。豫嬪は気立ての良い女だったが、子はなかった。
色彩のない西域に嫁がねばならない運命の養女を豫嬪は不憫に思った。しかし、不憫さから彼女を可愛がることはしなかった。
不憫さから生まれる感情は哀れみである。人は哀れみで人を救えた気になるが、それは独りよがりだ。
哀れみで人は救えない。むしろ、惨めにさせるだけである。