彼の幸福
あぁ、来てくれたのか。わざわざ見てもらって、ありがとう。
なんの話をしようとしたんだっけな…………あぁ、そうだ。ちょっと前にあった、或る話をしようとしたんだった。よかったら、聞いてくれ。
俺は結構な嫌われものでさ、色んなやつから嫌われてたんだ。他のやつらはともかく、仲間にまで嫌われててさ。いい仲間はたくさんいた。だけど、俺ははみ出しものでしかなかったんだ。色んなことやってたからなぁ、嫌われても仕方ないとは思ってたよ。
そんな嫌われものの俺が、或る日の視線を感じたんだ。俺を嫌ってるやつはたくさん居たし、恨んでるやつもいた。だから、狙われるなんてのはよくあることで、そのときもそうじゃないかとおもったんだ。けど、視線のもとを辿るとずいぶんと可愛らしいやつがいたんだ。しかも、他のやつらが向けてるような好奇の目とかじゃなくて。驚いたよ。いや、本気にさ。驚きもしたけど、それよりも嬉しかった。あぁ、まだそんな目で見てくれるやつがいるのかと思ってな。
それから数ヵ月間、そいつは俺のことを見かける度に俺を見ていたんだ。そのうちこっちまで目で追うようになっちゃってさ、参ったよ。
けど、あるとき仲間に言われたんだ。
「気持ちはわかる。けど、後から辛い思いをするのは彼女であり、お前なんだぞ」
ってな。本気で心配してくれてるのが分かった。確かに、俺と彼女とじゃ住む世界が違う。無理なことも十分にわかってた。でも、どこかに期待してる自分がいるんだ。やっぱり、独りってのは寂しいからな……
そんなときに偶然、彼女と隣に居合わせる形になった。もう緊張しちゃってさ。カッコつけてたけど、もしかしたらバレてたかもしれないな。
そのとき、隣にいる彼女を見て理解したんだ。やっぱり住む世界が違いすぎる。あぁ、俺は彼女を幸せにすることはできないってね。
だから、わざと彼女を傷つけるようなことを言ったよ。突き放すために。もう二度と、俺に関わりを持たせないために。何て言ったかは忘れたよ。俺も必死だったからさぁ。
___それから数日後のことだったかな、俺が死んだのは。今までのツケがまとめて返ってきたな、と思ったよ。
冷たい雨に打たれてさ、身動きひとつ取れない状態で地面に落ちた。たぶん、即死だったと思う。痛いなんて思わなかった。あぁ、やっと解放された。これで自由になれる。そう思ってたんだ。それで、気が付いたら幽霊みたいになっててさ、自分の亡骸が見えるんだよ。不思議な気分だった。亡骸は見向きもされないで雨に打たれ続けてた。これでいい、そう思ってたらさ___
___そこに、あいつが来たんだ。
もう、俺は死んでるのに。俺はあんなにも酷いことをしたのに、彼女は俺の亡骸を見てわんわん泣くんだ。
やめてくれよ、もう戻ることはないんだ。頼むからやめてくれ。そう思ったよ。
少ししてから、彼女はこう言った。
「貴方を、愛していました」
……言葉を失ったよ。しかも、彼女は雨に打たれながらそれを言い続けるんだ。何度も何度も。
___やがて彼女も動かなくなってしまった。
悲劇、だと思うだろ。けど違うんだ。
ハッピーエンドでも無いんだろう。滑稽だと笑われるかもしれない。
だけど俺は今、幸せだよ。
命はなくなったけど、もう体は残ってないけど、こうして彼女の隣にいられるんだから…………
~Fin~
これにて終い___




