女子高のプリンス
女子高といえば思い付くのは百合だろう。
当然、私の学校にもいた。
バレーボール部に所属していた背の高いスッキリとした顔立ちの王女様、いいえ王子様が。
彼女はとても紳士的でフェミニストでもあった。
自分が学校の王子だということを心得ていた。
「キクちゃん、もう少し学校においでよ」
そう言っては私の頭を撫でた。
私ももちろん彼女が好きだった。
ある日、
「ちょっとーー、王子が彼女作ったんだって!」
その噂は瞬く間に広がった。
その彼女はどちらかと言えば、地味なグループの大人しそうな子だった。
「マジでー!?普通彼女作る?」
私の属する派手なグループは、王子を気に入っていながらも現実的だった。
いくら王子と呼ばれていても、中身は女性だと信じていたのである。
「本当にレズとはねえ」
王子とその彼女は堂々と手を繋いで登校し、校内ではやはりフレンチだがキスを交わし、また手を繋いで帰っていった。
派手な子たちは王子に興味をなくし、自分の彼氏の話題にまた戻っていった。
ある日、私は王子を校舎の裏にあるひっそりとした庭園に誘った。
恐らく私だけが知っていた。
理由は私があまり学校に来ないから。
「○ちゃんさ、大学生の彼氏はどうしたの?」
そう、王子には彼氏がいたのだ。
その一言で王子は堰をきったように泣き出した。
普段の王子とは違うその姿に焦りつつ話を聞いた。
王子の彼女は、一度告白をしてきてフラれた時、突然自分の手首をカッターで切ったという。その後付き合ってくれなければ自殺すると脅してきたのだと。
王子は、王子と呼ばれるだけあって優しかった。
したたかさや計算など、まだ持っていなかった。
私ももちろん幼かった。
「そりゃ、困ったね...」
解決策が浮かばなかった。
そのうち王子がポツリと呟いた。
「あたし、王子って呼ばれるの辛い」
あぁ、中身はやっぱり普通の女の子なんだー私はそんなことをぼんやりと考え、また解決策を考えた。
「○ちゃんさ、化粧しよっか」
間抜けな提案であった。
しかし当時はそれくらいしか浮かばなかったのだ。
「取り合えず王子っぽいのやめてさ、化粧してうちのグループおいでよ」
「それから他の子たちに話していい?協力してくれると思うよ」
王子はただ頷いていた。
それからの展開は早かった。
派手な子たちは元々あっさりとしていたので
「なんだ、レズじゃないんじゃん」
「化粧、任せてよ!」
王子をさっくりとギャルに仕立てあげた。
元々王子は顔が整っていたので、王子から美少女に早変わりした。
「イカレ女はどうする?」
「こういう時は先生っしょ」
元王子の彼女の担任教師にことのあらましを話にいった。
親御さんを呼んで話し合ってくれることを約束してもらった。
担任教師が話し合ったのかはわからないが、王子が美少女に変わり、派手なグループと行動をとるようになってから、その彼女は王子から離れていっていた。
元王子は美少女として皆と同じよう彼氏の話をしたり、ポッキー戦線にも参加していたようだ。
私は半不登校だったので詳細は知らない。
女子高=百合、が本当に存在していたのかはわからない。
だけど私の学校のプリンスは、優しい美少女だった。
たとえ王子と呼ばれていても、中身は普通の女の子なのじゃないかと私は思う。