七不思議って知ってる?
ねえねえ、七星小学校の旧校舎の噂、知ってる?
ああ、あそこのいつまで経っても壊さないし誰も使ってない。
そうそう。
……ってことは、やっぱり出るって?
そう、出るって! 男子がこないだ見たんだって! 校庭のお墓!
ええー! それ本当?
本当、本当! 肝試ししようとして、見事当たっちゃったらしいよ。
え、何。旧校舎? 七星小学校ってうちのことだよね? 旧校舎なんて見たことないけど。
うっそー、知らないのー?
ああそっか。途中で引っ越してきたんだっけ。
あー、それじゃ知らないかも。
あのね、じゃあ、教えてあげる。このあたりでは有名なんだから。
そうよ、七星小学校の生徒なのに知らないなんて損よ。
ふうん?
私たちの学校なんだけどね。元は山の中に建ってたのよ。
山?
駅の北側にずっと歩いていくとさ、あるでしょ?
ああ、なんかよくわからない廃墟の建ってる山、あるよね。なんとなく雰囲気悪くて夜は近づきたくない感じの。
その廃墟がね、元の七星小学校。10年前にこっちに来たんだって。
えー? なんであんなところからこっちに。
老朽化したし交通の便も悪いからってことで移ってきたらしいよ。
確かにあんな山奥じゃ行く人も行かなくなるかも。
……表向きは、ね。
なあに、それ。なにがあるの? おしえてよ。
あそこね。昔から出ることで有名だったの。
出る?
……おばけ!
うっそだあ。
ホントだって! そもそもね、建てた時から、変なモノが見えるって言う子は出るし、怪我をする子は多いし、変だってずっと言われてたんだから。
建てた時って言うか、一回焼けてるからその再建後ってのが正しいんだけどさ。
結構大がかりに再建したから本当はずっと使っていたかったらしいんだけど、だんだんひどくなってね。
最初は気のせいだって皆言ってたんだけど、首つりだの飛び降りだのが立て続けに出ちゃって……ね。
ええ、やだあ。
そう、それで色々ありすぎてようやく移転したんだっけ。新校舎に。
そうそう。
おばけのせいで?
そうよ。絶対そうなんだから。
おばけなんていないよ。どうせ男子たちも何か見間違えたんでしょ。
クールー。
でもね、旧校舎がいわくつきなのは本当だよ。元々建てる時もすっごい荒れたんだって。
荒れた?
あそこに校舎を建てるべき! って人と、やめるべき! って人で。
なんで?
お寺だか神社だかがあったらしいのよ。それを壊して作ったんだって。
壊したって言うよりも、そこにいた人を追い出したんじゃなかった?
そうだっけ?
それはまた罰当たりな。でも、なんでわざわざ?
昔の話だからよくわかんない。大正って言ったっけ?
明治じゃなかった?
とにかく、結構昔っから建ってて。でもね、守り神様がいたから大丈夫だったんだって。
最初に建てた時は?
そう。
だけど戦争中に一回焼けちゃって、その時に守り神様がいなくなっちゃったんだよ。だから悪いのが出てくるようになっちゃって、再建後は事故が頻発したって。
それで移転した……と。
まあ、そんな感じかなあ。
そう言うの好きだねえ。とにかく、変な場所だったのね。なんとなく使えなくなった理由はわかったけど、じゃあなんで取り壊さないの?
取り壊せないのよ。……祟るから。
ええー。
ホントだってば! 工事の人がね、絶対に大けがするの。上から落下物が降ってきたり、誰かに足を掴まれて転んだりしてね。
お祓いとかしようとしたらしいんだけど、結局ダメだったんだって。
で、そう言う事が何回か続いたから、誰もやらなくなったってわけ。
そうよ。何せ、校庭にお墓が出てくるんだから!
なにそれ。男子がどうとか言ってた奴?
そっか、旧校舎の七不思議知らないんだ。
七不思議?
あの旧校舎には七不思議があるんだよ。学校がちゃんとあった頃からあるんだって。
どんな奴?
一つ目が、校庭に出現する墓地。夜に旧校舎に行くと、校庭が墓地になってるの。で、その墓地を抜けて校舎に入ると、お化けが出る裏の学校に行けるんだって!
へえ、裏の。
あ、信じてないな。んでね、二つ目が、十三階段。西階段の四階から屋上に続く階段はね、裏学校だと下から数えて十三段目を踏んじゃいけないんだって。
踏んだら死ぬの?
らしいよ。吊られちゃうんだって。
ふーん。……残りは?
三つ目は2階東女子トイレ。合わせ鏡があって、覗き込むと自分の死に顔が映る。
四つ目は廊下に現れる猫。見た目は普通の可愛い猫なんだけど、気に入らない相手のことを食べちゃうらしいよ?
何それこわっ。
五つ目は理科室の標本。目が合うと追いかけてきて、捕まると標本仲間にされちゃうの。
六つ目は音楽室のピアノ。勝手に演奏を始めるんだけど、一回聞いたら最後まで聞いてあげないと襲ってくるんだって。
ふうん……。あれ。ねえ、七つ目は?
え?
七不思議なんでしょ? どうして二人とも、七つ目を話そうとしないの?
だって、七不思議だもん。
どういう事?
知らないの? こういうね、数が決まってる怪談は、一番最後の話をした後に何かが起こるんだよ。
……何か。
とってもよくないこと。
七つ目はね、誰も知らないの。でも、それでいいの。誰も知らないから、七つ目の不思議を語りようがない。だから何も起こらないから――。
あっ、やだ、もうこんな時間!
えっ。
ごめん、あたしこれから塾! 行かないと!
受験生は大変だなあ。じゃーね。
ばいばい。
あたしたちもそろそろ帰る?
そうだね、そうしよっか。
ねえ。
ん?
本当に、旧校舎とか七不思議とか信じてる?
んー……信じてないわけでもないし、信じてるわけでもないかな。あの子ほど本当の事には思えなくても、夜に旧校舎に近づきたいとはとても思えないって言うか。
そっか。
じゃあ私、帰りこっちだから。
うん。じゃあまた、あしたね。
またあした。
……せっかく面白いことが聞けたと思ったのに、なんかいまいちだったなあ。
何よ、七つ目は言っちゃいけないって。ばっかみたい。それにどのふしぎも、なんだかどこかできいたことがあるようなのばっか……。どうせ雰囲気があるからってだけで、誰かが好き勝手作って噂を流したんでしょうに。
……作った。
そうよ。七つ目がないなら、作っちゃえばいいじゃない。
もっと面白い、七不思議を。
* * *
七星小学校には旧校舎が存在する。不気味な噂が絶えない古く廃れた校舎だ。
いつからだろうか、こんな噂が子どもたちの間で流れるようになった。
七星小学校には七不思議が存在する。
一つ目は校庭の墓地。
二つ目は四階西の十三階段。
三つ目は二階東女子トイレの合わせ鏡。
四つ目は廊下の猫。
五つ目は理科室の動く標本。
六つ目は音楽室の勝手に鳴るピアノ。
六つの不思議には、それぞれ対処法が存在する。出会ってしまっても正しい方法を知っていれば死なない。知らないと、殺される。
六つの不思議すべてに出会ったものは、七つ目の不思議に会うことができる。
彼女の名前は、ななせさま。
見た目は綺麗な女の子だ。白いブラウスに、赤いスカート。髪は肩ぐらいに切りそろえられていて市松人形に雰囲気が似ている。
その正体は七星小学校旧校舎の守り神。戦争で焼けて悪霊たちに封じられてしまったが、六つの不思議を全部やっつけると力を取り戻す。
だからななせさまは、六つの不思議を克服した者の願いをなんでも一つ叶えてくれる。
そんな、他愛のない子どもの噂話。
ただの噂話のはずだった。
だってななせさまはみんなで作った「七つ目の七不思議」。
嘘だと知っててそれを承知でごっこ遊びする、都市伝説みたいなもの。
どうせ嘘なんだし、みんなで好きなように設定をノートに書いた。それがななせさまのすべてだ。絶対に存在するはずのない怪談。
けれど、噂を作ってから一か月後。
旧校舎の門にたたずむ、綺麗だけど市松人形のようにどこか不気味な女の子の目撃情報が、ぽつぽつと上がるようになっていた。




