8、タイムマシン作ればいいじゃん!
「疲れたー!」
授業の終わった私は自分の机にうつ伏せになった。
「てか、なんで高校生てこんなに勉強するんだろ?数学とか意味わかんないし。いや、計算とかなら将来使うかもしれないけどさ、二次関数とか三角関数とか、誰が使うのよ!研究者か!!」
そんなことをブツブツ言っていると楓が教室に入ってきた。
「何ブツブツ言ってんの?」
「楓ー!数学意味わかんないー!どうしよー!」
「は?あんなもん将来使わないから授業寝てたらいいじゃん。高校は遊ぶところなんだから。」
楓は高校生というものをわかっている。そうだよ!勉強なんかしたところで将来使わないんだ!
バカな私はそう思った。
「あれ?真紀ちゃんは?」
「真紀は部活だよ。陸上部の期待のエースなんだって。それよりさ、今日千紗のとこに人がめっちゃ来なかった。」
「やっぱ楓のせい?」
そーいえばそうだった。知らない子何十人にも声をかけられていた。でもなぜか全部男性についての話だった。
「もしかして、康太くんのことみんなに言ったの?」
「いや、真紀がみんなに、5組の千紗ちゃんって26歳の彼氏がいるんだよー!って話しまくってたから、多分それだと思う。」
道理でみんなやけに興奮していたわけだ。
「……帰ろっか。なんか疲れた。」
「ごめんね、千紗。」
楓は苦笑いしていた。
「てか、今日も坂口に電話するの?」
帰る途中、楓が口を開いた。
「え?う、うん。そう約束したし、彼意外と面白いから…。」
楓が顔を詰めてきた。
「千紗、それって恋じゃない?」
「じゃないです!」
「…認めなさいよ。」
「だって、まだあったことないし、もし楓の似顔絵図みたいな人だったらどうするのよ!?」
「……気持ちはわからなくもないけど。」
二人は黙り込んだ。
「そんじゃ、私こっちだから。」
「うん、また明日!」
楓と別れて歩き出した直後だった。
ピロピロピロ…ピロピロピロ…
この音、変えなきゃ。
「もしもし?」
「あ、千紗?今大丈夫?」
「うん、どうしたの康太くん、またなんか良いことあったの?」
私は疑うような声で聞いた。
「いや、今朝の話しようと思ってさ。」
「あ、そういえばそんな話あったねー。早く言ってよ!」
「わかったから落ち着けって。俺…タイムマシン作るよ!」
…………………はい?
「あれ?聞こえなかった?俺タイムマシン作るから!」
「な、なんで?」
「千紗の顔、見に行けるじゃん!」
あぁ、この人アレだ。やりたいことはなんでもやろう。たとえそれが宇宙征服であったとしても、的な感じの人だ。
「康太くん、残念だけど、私の時代にもタイムマシンはないよ?」
「?だから?」
「タイムマシン作る前に10年たって会えるじゃん。」
「いやいや、10年も待てないから。だから俺大学で研究する!」
「け、研究って、日本の大学は19からじゃなきゃダメじゃないの?」
「千紗はバカだなー。日本でタイムマシン作れるわけないじゃん。」
「はい?」
「俺、アメリカに行くことにしたから。」
「べ、別にそこまでしなくても!」
「やりたいことやらなきゃ後悔しそうじゃん?」
「そ、そうかもしれないけど…。」
「てか、もう学校やめてきたし。」
「あんたの行動力すごいね…。」
「こうなるからそっちのマンションに俺いなかったんだな。てか、もしタイムマシン完成してたら、千紗の世界には今は俺いないんだな。」
「あ、そうなるね。大人の康太くんにも会ってみたかったけど。」
「俺がそっちに行って成長するまでのお楽しみだな。」
「まぁ、来れるもんなら来てみなさいよ。期待だけしとくわ。」
「おうおう。度肝ぬかすから待っとけ。そんじゃ、今から最後のバイト行ってくるから、また後でな!」
そう言うと康太は電話を切った。