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未来の君への贈り物  作者: 宮渡 暁
二つの日常
37/41

とある男性

……ガチャ

「ただいまぁ!」

「え?康太くん!?」

私は入り口へ走った!

「康太くん!」

入り口に立つ黒い影。光の逆光で顔が見えない。

「悪かったな千紗、遅くなって。」

「ず、ずっと待ってたんだよ!?」

私は康太に近寄ると飛びついた。

「もう、離さないから!」

「ハハッ、俺もだよ!」

こうして私はハッピーエンドを迎えることができました!チャンチャンっ!…………。


目が覚めて目に入ってきたのは、私に抱きつかれて苦しんでいる真紀の姿だった。

「千紗……死ぬ…………離して……。」

私はあえてそのままにしてみたい気もしたが、ホントにヤバそうだったので離した。

「ごめ、私、先に逝くわ……。」

「あ、うん、行ってらっしゃい。」

「止めてよ!」

「あ、ごめん。」

何だろう、この朝一番の会話は……。

「朝ごはんあるよ。」

「え?なんで白ご飯あるの!?」

「コンビニで買ってきた。」

私の前に白い湯気がほくほくと上がる。

「んで、オカズはツナ缶とマヨネーズ?」

「文句言わない!私だってママさんのご飯食べたいんだからね!」

そう言うと真紀は目の前のオカズにがっつき始めた。

「さて……今日こそくるかな?」

「来ないんじゃない?」

真紀が素っ気なく答える。

「私の希望を打ち砕かないで!」

「だって多分ホントじゃん。」

確かに、私もあまり期待してないが……。

「ねぇ……。」

「何?」

「明日帰ってこなかったら、私らも帰らない?」

飲んでいたお茶を真紀が吹き出した。

「な、なんで!?」

「いや、このまま待ってても仕方ないっていうか……多分康太くん、私の家の住所知ってるし。」

「あ、そっか……え、でもやっぱ残りたい。」

真紀は俯いて言った。

「ど、どして!?」

「こんな自由な空間、他にあると思う!?」

真紀は机を叩いて怒鳴った。

私にとって監獄みたいなところも、真紀にとっては楽園のようだ。

「そういうわけで、もう少しここにいよう!」

「え……。」

結局私は真紀に付き合わされることになってしまった。

「そうと決まればゲーム!アニメ!そしてマンガ!」

新たに追加されたマンガが畳の上にドッサリと置かれる。

これがなければ、少しは荷物が軽くなっていたと思うのだが……。

「千紗はこれでも読んで暇つぶししてなよ。」

真紀はそう言うと、私に十冊ほどのマンガを渡した。

「こ、こんなに!?」

「どうせ暇でしょ?」

そう言われると言い返す言葉がないのは、私のボキャブラリーが足りないからなのだろうか。

私はその内の一冊を手にとって読んでみた……がやはり続くはずはなく、その場に寝転ぶ。

その瞬間入り口のドアが開いた。

「こんちはー!お届けものでーす!」

「え?お届けもの?」

私は真紀と顔を合わせると、入り口の方へ向かった。

「十年前からの手紙ですね。ご本人はいらっしゃいますか?」

そこにいたのは私と同じくらいか少し上の男性だった。背は高く、顔は小さく、街を歩いているだけで声をかけられそうなくらいカッコよかった。

「あのー?」

「え?あ、はい!」

私たちはつい見とれてしまっていた。

「あ、すいません、本人、まだ帰ってないんです。」

「そうですか。ならまた来ますね!今日は日曜日ですから時間もありますし!」

「え?もう一回来てくれるんですか?それなら私たちが受け取っておきますけど。」

「あ、じゃあそうしてもらえますか?印鑑押してもらいたいんですけど。」

「あ、ちょっと待ってください!」

私は真紀を部屋の奥に連れ込む。

「どーしよー!印鑑の場所なんて知るわけないじゃん!」

「と、とりあえず探そっ!きっと見つかるって!」

私たちは印鑑がありそうな場所をくまなく探した……が、どれだけ探しても見つからない。

「あのー?」

入り口の方から男の声が聞こえる。

「も、もうちょっと待ってください!もう少しで見つかりそうですから!」

「……印鑑、ここにありましたけど?」

「え?」

私と真紀は男のところへ戻った。

「ど、どこにあったんですか!?」

「この靴箱の中に……」

男は指をさしながら言った。

「よ、よく見つけましたね……。」

「ハハッ、偶然なんだけどね。じゃあ、この手紙、よろしくね!」

そう言うと男の人は急ぎ足で帰っていった。

「さっきの人、変じゃなかった?」

「え?何が?」

私は真紀が何を言っているかわからなかった。

「いや、だってさ……普通人の家の靴箱なんて見る?」

「いや、あれは印鑑が靴箱にあったからでしょ?」

「その印鑑は、靴箱を開けるまでそこにあるとかわからないじゃん!」

ここまで来て私はようやく理解できた。

「じゃあ、さっきの男の人って……。」

「もしかしたら康太くんかも!」

そこまで話すと私たちは一緒に部屋から飛び出した。急いでマンションを降りるがもう彼の姿はなかった。

「と、とりあえずどうすればいいんだっけ!?」

「しゅ、周辺探してみよ!どっかで道草とかしてたらラッキーだし!」

私たちは二手に分かれて、彼を探した。

「すみません。さっき背の高いイケメンな人通りませんでしたか!?」

「え!?いや、見てないけど?」

「あ、ありがとうございました!」

こんな言葉のやり取りを繰り返し続けたが、結局夕方になるまで見つかることはなかった。

「千紗っ!」

先に戻っていた真紀が、マンションの外で待っていた。

「ごめん、やっぱ見つからなかった……。」

「あ、大丈夫だよ。私もダメだったし。」

…………少し沈黙が続く。聞こえるのは野良犬なよ遠吠えだけだった。

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