どうすればいいんだろ
「ママさーん!千紗連れて帰りましたよぉー!」
「あらあら真紀ちゃん!ホントありがとね!ちゃんとアニメ録画してあるから後で見ていいわよ!」
なるほど。アニメで釣られて私を迎えに来たのか。
「ありがとうございます!あ、でも先に千紗と一緒にお風呂入ってきますね!」
「え……私まだいいんだけど……。」
「いいから行くよ!」
そう言うと真紀は無理やり私をお風呂場に連れ込んだ。
「ちょ、真紀どうしたの?」
「悩み事があるときはやっぱりお風呂でしょ!」
なるほど、真紀なりに私のこと考えてくれてるんだ。
「ありがとう、真紀。」
「別に千紗のためだけじゃないよ。私もちょっと話したいことがあったし。」
真紀は俯いたままそういった。
「ほぉぉぉぉぉ……。この温もり、この水蒸気、まさしくお風呂だよ!」
温もりや水蒸気じゃなくても、見ただけでお風呂だとわかると思うのだが……。
「てか、真紀にも悩みなんであるの?」
「失敬な!私だって悩みの1つや2つくらいあるよ!」
「ごめん、普段の真紀見てると悩みなさそうだからさ……。」
真紀は頬を大きく膨らました。
「実はさ、私も康太くんのこと好きなんだよね……。」
「……は?」
「…………ごめん!」
「ちょ!ホンキで言ってんの!?」
「うっそ!」
「…………。」
私はシャワーの温度を下げると、真紀にかけ始めた。
「つ、冷たっ!何すんのよ!」
「……自分で考えなさい。」
私はシャワーを止めると風呂から上がろうとした。
「ちょ、ちょっと待ってよ!まだ話したいことがあるんだって!」
真紀は私をお湯の中に引きずり込んだ。
「ごばっ!も、もう!溺れたらどうすんのよ!」
「そんときはそんときでしょ!」
そんな簡単に言わないでほしい……。
「で、話って何?」
「楓のことなんだけどさ、私らどう接したらいいのかな……。」
「な、何言ってんのよ!?真紀は普通に接していいじゃん!」
「いや、そうなんだけどさ、そしたら千紗といられなくなるんじゃないかって……。」
「あ……。」
確かにそうかもしれない。もし私といたら、真紀と楓の間に亀裂が入るかもしれない……。
「千紗は私と楓が一緒にいてもいいの?」
「え、あ……うん。私は平気。今でも楓のことは友達だと思ってるし!」
「そう、ならいいんだけど……。楓とはどう接したらいいのかな……。」
こんなに真剣に悩んでいる真紀を見たのは久しぶり……いや、初めてだろうか。
「……私、後で楓に電話してみるよ!」
そう言い、私はお湯の中から勢いよく立ち上がった。
「え?ホンキで言ってんの?」
「も、もちろん!楓と仲直りしたいし!」
「そう……。上手くいくといいんだけど……。」
「真紀!電話借りるよ!」
部屋に入りながら真紀に聞こえるように叫ぶ。けれど真紀はドライヤーで髪を乾かしていたからか、聞こえていないみたいだった。
「楓の電話番号は……あった!」
私はためらいもなくボタンを押した。
トルルルル……トルルルル…
「……もしもし?」
「あ、楓?私だけど。」
「…………!!」
私の声を聞いた瞬間、楓はすぐ電話を切ってしまった。
「そ、そんなに拒絶しなくても……。」
私はもう一度掛け直した。
トルルルル……トルルルル……
出る気配がない。
私は楓の家の番号を調べると、そっちにかけてみた。
トルルルル……トルルルル…ガチャ
「はい?」
「あ、先日お世話になった千紗です!楓いますか?」
「あ、千紗ちゃん!ちょっと今呼んでくるから待ってて?」
そう言うと楓の母は電話を置くと楓の部屋へ行ってしまった……が何だろう。楓の叫ぶ声が聞こえる。そんなに私のことを拒んでいるのだろうか。
しばらくすると、楓の母が戻ってきた。
「ごめんね千紗ちゃん。なんか出たくないって言って聞かないのよ。ごめんね?」
「あ、大丈夫です!またかけさせてもらいます!」
そう言うと私は電話を切った。
こうなったら今から直接行ってみようか……。
そう思った瞬間真紀の電話が鳴った。楓からだった。
「も、もしもし!」
「別に家までかけることないじゃない。」
よかった、本当に楓だ。
「ねぇ、なんで私のこと避けるの?」
「べ、別に避けてはいないけど、なんか顔合わしにくいじゃん。」
少し口ごもりながら楓が言った。
「なんで?別に顔合わすくらいどってこと……」
「くらいって何よ!康太くんと付き合ってる千紗の顔なんかみたら、普通でいたくてもいられるわけないでしょ!」
突然楓が怒鳴った!
「逆の場合を考えてみてよ。自分が初めて好きになった人が、一番との友達の彼だなんて……。耐えれるわけないじゃん!」
そこまで言うと、楓は泣き出した。
「私だって……私だって千紗や真紀と一緒にいたいよ!徹夜したりアキバ行ったりしてさ、ザ、女子高生みたいな感じでいたかったよ!でも無理だよ!私には無理!」
「か、楓……。」
「ごめん……やっぱ千紗とは一緒にいられないかも……。それじゃ……。」
そう言うと楓は電話を切ってしまった。
「ちょ!楓っ!!」
「え?楓?」
真紀が部屋に入ってきた。
「あ、私の携帯……。」
「ごめん、声かけたんだけど聞こえてなかったみたいで……。」
「いや、いいんだけど、楓と話せたの?」
真紀が私の前にゆっくりと座った。
「う、うん……もう一緒にはいられないだって……。」
「そっか……。」
二人とも黙ってしまい、空気が重くなる。
「まぁさ、こういうのは時間が解決してくれるよ!私らまだ高校生だしさ、大学生になったらいくらでも恋愛できるし!そのうち楓にも彼氏の一人や二人くらい出来るって!」
「う、うん。そうだよね……。」
「ほらっ!元気だしなよ!それに明日もマンションに入ってみるんでしょ?そんな顔で康太くんに会うつもりなの?」
真紀が私の前に鏡を差し出す。
「……ひどい顔だね……。」
「なら口角上げてスマイルだよ!」
真紀が私にお手本を見せる。私も真似てみた。
「今日一日、ずっとそれでいなよ。」
「いや、さすがにきついよー。」
「じゃあアニメでも見て笑いますか!」
真紀は私の腕を掴むとリビングに向かい出した。
真紀の生活は本当にアニメとゲームとご飯だけで成り立ってるな……。そう言っても過言でないほど、確かに成り立っていた。
「じゃあ、ママさんが撮っておいてくれたこれ見よっか!ずっと気になってたんだよね!」
テレビをつけながら真紀が言った。
…………………………。
「お、おぉ!そこいい!いけっ!!うぉ!」
アニメより真紀の声に気が言ってしまう。どれだけアニメの世界に入っているのだろうか。
「いいアニメだったねぇ!来週も見なくちゃ!」
いつもの真紀に戻っていた。
「千紗、面白くなかった?」
「いや、面白かったけど、真紀の声には敵わないかな。」
理解できていないのだろうか。真紀は頭を傾けた。