興奮気味な楓さん
家へ着くのに、そう時間はかからなかった。私はタクシーのドアを開けると、楓に財布を渡した。
「ごめん楓!お金払っといて!」
「ちょ!千紗待ってよ!」
楓は慌てていたが、私は気にする余裕もなかった。一刻も早く家がどうなっているか見たかった。
「お父さん!お母さん!!」
私は大声で叫んだ。近所迷惑になるのはわかっていたが、気にできなかった。
「お母さん!お母さん!!」
「え?千紗!?」
奥から驚いた顔で母が出てきた。
「千紗、帰るの早すぎじゃない?今出たばっかりなのに。」
母は何もなかったかのように私に話しかけた。
「お父さん…お父さんは!?」
父の姿が見当たらない。
「お父さんなら寝室で寝てるわよ?昨日仕事で遅かったから。」
私は急いで寝室へ向かった。
ドアを開けると、そこにはイビキをかいて寝ている父の姿があった。
「千紗、お父さん疲れてるんだから、起こしちゃダメよ。」
「で、でも……」
「こんにちは〜」
玄関から楓の声がした。
「あら楓ちゃん一緒に来てたの?」
「こんにちはおば様。今日も天気がいいですわね。」
「あらやだ。楓ちゃんてホント面白い子ね。ここで話すのもなんだし、千紗の部屋に行きなさい。お菓子持って行くから。」
そういうと母は台所へ向かって行った。
「あのさぁ…」
急に楓の声が低くなった。
「あんたの財布、500円しか入ってなかったんだけど……。」
「え?」
カバンの中を見ると、普段使う財布はカバンの中にあり、楓に渡したのは非常用の財布だった。
「それで?」
楓と部屋に入った私は、会議という名のガールズトークをしていた。
「さっき、お母さんの携帯を見たんだけど、着信履歴に入ってなかったんだ。」
「じゃあ、男の正体は未だ行方知れずか。」
「……楓、なんか楽しんでない??」
私がそう思いたくなるほど、楓の口角が上がっていた。
「それよりさ、どこの誰かやっば気にならない?」
楓が目を輝かせて言った。
「そりゃ、やっぱ気になるけど。」
「じゃあ、もう一回適当にかけてみようよ!」
「え、でも……。」
「貸しなさい。」
そういうと楓は私から携帯を取り上げ、適当な番号をかけた。
「ちょ!大丈夫なの!?」
「いざという時はまた切れば大丈夫でしょ!」
楓の荒い息遣いが聞こえる。相当興奮していた。
「もしもし。」
例の男の声だった。
「あ、あの、私、この携帯の持ち主の友達なんですけど、どんな番号にかけてもやっぱりあなたにかかってしまうんです。」
男の笑い声が聞こえた。
「あ、そうなんだ。それは会社に言わないとね〜。」
「それでですね、これはあなたがこの携帯に何かしたんじゃないかって私は思ってるんですよ。」
「…はい?」
「もし、自分の個人情報全てを私たちに言えば、警察だけは勘弁してあげますけど、どーしますか??」
そうかっこいいこと言ってる楓だが、興奮はますます激しくなっていた。
「ちょっと待てよ!俺今年高校生になったんだぞ?しかも携帯も最近買ったし……。携帯にどうこうできるわけねぇだろ!」
「え?あなた今年から高校生なんですか?じゃあ、私たちと一緒ですね。」
「僕のこと信じてくれたかな?」
「そんなわけないじゃないですか。」
楓は当然のことのように言う。
「大事なのは証拠なの!あなたどこに住んでるか言いなさい!」
楓は将来警察にでもなるのだろうか?だが、かなり楓のペースで進んでいる。
「はぁ……わかったよ!でも絶対俺の個人情報悪用すんなよ?」
「わかってるわよ!」
楓の目が一段と輝きを増した。
「名前は坂口康太。東京の○○地区のAKマンションに住んでる。親元離れて一人暮らしだよ……。」
私と楓は顔を見合わせた。
「AKマンションて、ここの近くじゃない!今から行きましょう!いいわよね、坂口さん!?」
「それで俺の罪がなくなるならね。202号室だから、着いたらノックしてよ。」そう言うと康太は電話を切った。
「走って15分くらいね。門限には余裕で間に合うし、今から行くわよ!」
私は楓に腕を引っ張られ家から出た。