ラブラブオムライス
うぅ……まだウインナーと卵焼きの、味が舌に染み付いている感じがする。それほどに強烈な味だった。
「千紗ー?おーい?大丈夫ー?」
真紀が私の前でぴょんぴょん跳ねているが、私の神経がそのように伝達していないのだろうか。その真紀を素通りするほどに私は疲れていた。
「あ!無視した!無視したよ千紗!」
なんで真紀はこんなにテンションが高いのだろうか?
「それじゃ私らこっちだから。」
「え?私らもしばらくそっちにお世話になるんだけど。」
楓の言うことが全く耳に入ってこない。楓にそう言うと、私は自宅方へゆっくりと歩き出した。
なぜ私はこんなに疲れているのだろう。あぁ、ヤバイなんかふらふらする……。
気が付いた時には私は自分の家の部屋で寝ていた。
「あ、千紗目さましたんじゃない?」
「あ、ホントだ!おーい千紗!わかるー?」
真紀と楓の声が聞こえる。
「あれ?私なんでここに?」
「なんかフラフラしてたからさ、追いかけてみたら道で倒れてるからびっくりしたよ。」
あぁ、多分塩分の取りすぎなのだろう。
「とりあえず明日は学校休みなよ。今は熱も引いてるけど、また上がったら行けないし。」
いや、先生の弁当さえ食べなければ大丈夫だと思うんだけど。
「そうとなれば決まりだね。いいですかおばさん?」
「えぇ、いいけど、親御さんには連絡したの?」
「「勿論です!」」
えっと……話が読めないのだが。
「私ら今日もここに泊まっていいって。まぁしばらく泊まるつもりだったから、荷物もあるしいいでしょ!」
この人らは私に休む暇を与えてくれないのだろうか。
「ちょい電話借りるね!」
真紀はそう言うと、私のカバンから電話を取り出した。
「あ、もしもし康太くんですか?千紗の友達の真紀です。千紗が今日倒れちゃって、死にそうなんです!助けてください!」
「ま、真紀!やめ……」
楓が私の口を押さえる。その顔は不気味なほどニンマリとしていた。
「康太くん、なんとかなりませんか?」
私が楓に口を押さえられている間に康太くんにあることないこと言われた私は、顔が真っ赤になる。
「はい、千紗。康太くんが代わってくれって。」
真紀はニヤニヤしながらわたしに携帯を渡す。
「も、もしもし?」
「千紗!大丈夫なのか!心臓移植するって本当なのか?」
いったい真紀は何を言ったんだ!
「お、大袈裟すぎだよ康太くん!ただ倒れただけだって。」
「え?通り魔に会って心臓刺されて心臓移植するんじゃないのか!」
なんでそんなこと吹き込んだの!てか、信じるの!?
「ま、真紀得意の嘘だから安心して。多分塩分取りすぎなだけだから。康太くん挨拶したの?」
「な、なんだ嘘かよ。心配して損した。あぁ、大家さん、元気にしてたよ。」
アメリカ行きのお客様、ゲートが開きますので、お乗りください。
「ん?康太くん、どこにいるの?」
「あ、聞こえた?」
「うん、アメリカがなんちゃらって……。」
あちゃーっ……康太がそう声を漏らした。
「秘密にしておきたかったんだけどな。タイムマシン、もう少ししたら使えるかもしれない!」
「え?どーゆーこと?」
「アメリカから電話あったんだけどさ、ついさっき外部から何らかの素材みたいなものが研究所に送られたんだって。それ、タイムマシンの研究に役立つもんだったらしいんだ。それ利用したらタイムマシン出来たから帰ってこい!って言われたんだ。」
「お、おぉ!」
「それってあれじゃない?ほら先生の彼氏……いや、旦那さんか。旦那さんがアメリカに渡したっていうあれ!」
「え?でも先生の旦那さん今こっちにいるよ?」
「多分あれよ!別の時間にいる旦那さんが渡したのよ!」
考えて言っているつもりだったが、わけがわからなくなってきた。
「じゃあ、その天才ってのはやっぱり康太くん?」
「あ、私康太くんから中学の時科学雑誌のネイチャーに論文乗ったって聞いたよ!」
「じゃあやっぱ康太くんじゃん!てか、それすごすぎでしょ!」
「あ、あの、話が読めないんだけど。」
オドオドした康太の声が聞こえてきた。
「康太くん!」
「な、何?」
「早く来てよ。待ってるんだから!」
「あ、ああ!わかってる。じゃあ行ってくるわ。」
そう言うと康太は電話を切った。
「やったね千紗!とうとうこの日が来たんだよ!」
近未来の物にしては早すぎる気もするけどね……。」
まぁ、なんにせよ、あとは康太くんが来るのを待つだけだ。
「千紗、顔がニヤニヤしてるけど?」
「え?そんなことないよ!」
「真紀、やめてあげなって。しょうがないよ。やっと康太くんがこれるかもしれないんだから。」
珍しく楓がフォローしてくれる。
「でもさでもさ!なんか見ててイライラするじゃん!?」
そうストレートに言われるとなんか傷つく。
「じゃあ明日千紗をアキバに連れて行けるならそれ以上文句言わない?」
なんでアキバが出てくるのよ!てか私、明日学校休むつもりだったんだけど?
「よし!じゃあ明日は学校休んでアキバに決定っ!」
「ちょ!ダメに決まってるでしょ!それにうちのお母さんも許すわけ……。」
「いいわよ?」
そう言いながら母が部屋に入ってくる。この人はホントに学生の親なのだろうか。
「まぁ、私たちには先生がついてるし、大丈夫よ!」
こうして私たちはまたアキバに行くことになったのであった。
「わぁぁ!平日の昼でもアキバ人いっぱいだね!」
平日の真昼間にまさかアキバに来るとは……。
「で?今日は何買うの?」
私がそう言うと……何かのキャラクターだろうか。真紀がピースをしながら私にウインクした。
「甘いな千紗!アキバと言えばやっぱりメイドカフェでしょ!」
「え?メイドカフェって女の子も行くの?」
それは初耳だ。
「やっぱ客は男性が多いけど、女性もいるんだよ。」
「あー、一回真紀と行ったねー。萌え萌えドッキュン!とかめっちゃ感動したよ!」
え?萌え萌え……なんだって?
2人の顔が恐ろしく興奮している時の顔になっているのを見て、私は逃亡体制を取った……が時すでに遅し。腕をガッチリ捕まれ、メイドカフェに引きずり込まれた。毎回こういう展開になるんだ……。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
入ってみると多くのメイドが出迎えてくれた。
「じゃあ、今日は千秋ちゃんよろしくー!」
真紀がロングヘアの可愛らしい子を選んだ。
「わかりましたご主人様!」
千秋は私たちを開いている席に案内してくれた。
「ご主人様、今日のオススメはラブラブオムライスです!」
「ラブラブオムライスって何?」
私はコッソリ楓に聞いた。
「なんだかんだで普通のオムライスよ。」
「違いますよ!」
急に千秋が私に顔を近づけた。
「ラブラブオムライスは私たちメイドの愛が詰まっているんです!そこらのオムライスと一緒にしちゃダメですよ!」
これは営業だからやっているのだろうか。もし本気で言っているのなら即病院行きだ。私はそう思った。
「じゃあラブラブオムライス3つちょうだい。」
「かしこまりましたご主人様!」
そう言うと千秋は下がっていった。
「案外悪くないでしょ?休日に来たら、私らくらいの子も結構いるのよ?」
最近の日本はどうなっているのかと思ったが、私がこの時代についていけてないだけではないのかと少々心配になってきた。
「お待たせしました、ご主人様!」
千秋が器用に3つのオムライスを運んできた。
「あ、なんか美味しそう!」
私がそう言うと千秋は嬉しそうに笑う!
「ご主人様、まだまだ美味しくなりますよ。では魔法の準備をお願いします!」
そう言われるとすぐに真紀と楓は胸の前に手でハートの形を作った。
「ではいきますよー!」
「「「美味しくなーれ!美味しくなーれ!萌え萌えドッキュン!」」」
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私の頭の上にハテナが10くらい浮かんだかもしれない。
「ほら!千紗さんも一緒に!」
「え、なんで私の名前知ってるの?」
私がそう言うと、千秋は慌てて口を押さえた。
「な、なんでもありませんご主人様!ど、どうぞ召し上がり下さい!」
「千秋ちゃん、なんか私に隠してない?」
「な、何も隠してませんよ!がっこが一緒だなんてそんなわけないじゃないですかぁ!」
「あー!クラスメイトの千秋ちゃんだぁ!!」
「ひゃぁ!!」
私が大きな声を上げると千秋が飛び上がる。
「あ、ごめん千秋ちゃん。でもなんでここいるの?学校は?」
「え?千秋ちゃんって私らと同じ学校だったんだ。」
どうやら真紀も楓も知らなかったようだ。
「ご、ごめんなさい。黙ってるつもりはなかったんですけど、やっぱこういうのって言いにくいじゃないですか。それにあんまり学校のみんなにも知られたら恥ずかしいし。学校は熱ってことで休みました。」
「えー!もったいないなぁ。」
「ホントだね。私らからしたらホント英雄みたいなもんなのにね、
」
多分あんたら2人だけだと私は思うけどね。
「まぁ、千秋ちゃん。先生とかみんなには黙っとくから頑張ってよ!」
「ありがとう真紀ちゃん!私頑張るから!」
そういうと千秋は他の客の相手をしに行った。
「同級生とは思えないね。」
「千紗の彼氏こそ、同い年には思えないんだけど。」
楓が言った。
「あぁ、やっぱラブラブオムライスいいねぇ!愛を感じるよ!」
まだ一度も付き合ったことのない真紀に愛が何かわかるのだろうか。