卵焼きとウインナー
暑い……そして重い……
なんでこんなに息苦しいんだろう。
何かの拷問?いや、結構普通に生きてきたつもりだし、たいして悪いこともしてないはず。なのに、体が動かない!それにだんだん息苦しく……
「はっ!!」
よかった、夢だった。よくないことと言えば、楓と真紀が私の上に乗り、私は身動きが取れないということだ。
「せーのっ!!…………。」
「せーーーのっ!!!…………。」
……。無理だった。人間サンドイッチがこんなにキツいとは……。
「起きろ!楓!真紀!学校あるんだよ!」
だが2人ともピクリとも動かない。このままだと窒息死するかも……。考えろ……考えろ私!
「早く起きないとアニメ始まっちゃうよ!!」
2人とも待ってましたとでも言わんばかりのように起き上がった。
「真紀!早く降りなさい!始まっちゃうよ!」
「楓こそ早くしてよ!」
そんなやりとりをしながら2人が階段を駆け下りていく音が家中に響く。一応ここ、私の家なんですけど。
「お母さんおはよう。」
「あ、千紗、おはよう。というか、なんでそんなグッタリしてるの?」
「ちょっと訳ありです……。」
私はボソボソっと答えた。
「それにしても楓ちゃんと真紀ちゃん朝から元気よねぇ。しかも朝っぱらからアニメなんて。よっぽど好きなのねぇ。」
一度母にも私と同じ経験をさせてあげたい。
「さぁさぁ、アニメ見ながらでいいから早く朝ごはん食べてね。学校遅れちゃうから。」
「「はぁぁい!」」
2人揃って緩い返事をした。
「私にはやっぱりわからないなぁ、アニメの良さが。」
ボソッとつぶやいたつもりだったが、2人にはハッキリと聞こえたようだ。2人が顔を合わせると意思疎通したかのように、お互いコクリと頷いた。
「千紗!今日もアキバ行くよ!」
「え?」
「千紗には絶対アニメの良さを分かってもらわなきゃ!」
私をこれ以上あそこに連れて行かないでぇ!!
「うぅ……ううぅ……。」
「そ、そんなにアニメを嫌いにならなくても。」
「いや、そうじゃないんだけど。なんか洗脳されそうで2人が怖いよぉ。」
だって学校の通学時もアニメの話なんて、ついていけるわけないじゃん。
「ち、千紗ごめんて。強制しないから安心して?ね?」
「うん。」
「もー!空気が重いよー!朝なんだから元気に行こうよー!」
「うん、ごめん!」
なんだかんだで合わせてもらっているのは私だ。だから2人に謝っておいた。
「てか、今日も保健室行く?先生がどうなったかも聞きたいし。」
「あ、そうだねっ!じゃあ5時間目からサボろっか。」
「楓、サボりじゃないでしょ!腹痛よ?」
「あ、そっか!」
そんなこんなで私たちは今日も昼からサボることになった。
でもなぜだろうか。昼からサボろうって決めると、なぜか午前の授業を長く感じる。古典、数学、化学、世界史……。一応苦手ではなく、苦痛な授業でもないが、はてどうしたものか。やっとこさで4時間目まで来たが、私は限界に達してしまった。
「せんせー!吐きそうなんで保健室行ってきまーす!」
「メチャメチャ元気じゃん!てか吐きそうならトイレ行けよ!」
先生のそんなツッコミを聞き流して、弁当を持って、私は保健室に向かった。
「失礼しまーす。」
「あ、やっぱきたよ。」
「あちゃー、千紗も耐えきれなかったかぁ!」
驚くべきかそうでないかわからないが、保健室のベッドの上には楓と真紀がいた。
「なにしてんの2人とも?」
「いやー、千紗と同じく授業耐えきれなくて。」
真紀が苦笑いする。
「そーいえば今日康太くん日本に戻ってくるんでしょ?何時くらいなの?」
楓が聞いてきた。
「んー、多分6時間目あたりくらいだと思うけど、まだわかんないかな。下手すりゃ夜になるかもって言ってたし。」
「そりゃまたアバウトだねぇ。」
真紀が乗ってきた。
「それより先生は?昨日の話聞きたいんだけど。」
辺りを見回したが、先生の姿はなかった。
「あ、先生、アップルティー切らしたからって買いに行ったよ。」
真紀が答えた。
「アップルティーって……。ホント自由な先生だよね。」
「まぁ、あれはあれで苦労してるみたいだし、見守ってあげようよ。」
あれって、モノかよ!!
「ただいまぁ!あれ?千紗ちゃん増えてんじゃん。予想より早かったね。」
「千紗ならもうちょっと粘ってくれると思ったんですが……。」
なんだろう。私賭けにでも使われていたのだろうか。
「そんなことより先生。昨日どーなっか聞いてないんだけど?」
「あ、ちょっと待って真紀ちゃん。アップルティー入れるから。」
いろいろ言っていたが、いい香りが漂ってくる。
「おまたせー。えっと、どこから話せばいいんだっけ?」
「昨日帰ってからの話です!」
「あぁ、あのあとね?家入ったら急に抱きつかれてさ、おぉぅ!ってなったのよ!」
「ほうほう、それで?」
「で、じゃあ、片付けようかって言われて片付け始めたんだけど、やっぱ2人でやると早いのよねぇ。一瞬で片付いちゃったの。それで私が彼に話しかけたら、まだ机の上が終わってないだろ!って言うのよ。さっき片付けたのになぁって思ってたけど、とりあえず机に目をやったのよね?そしたら何があったと思う?」
「ケーキ!」
真紀ちゃんが即答!絶対違うと思うけど。
「あー、真紀ちゃん惜しい!」
え、惜しいの!?
「あ、わかった!離婚届!!」
ふざけてるのだろうか。
「おぉ!もっと近くなったよ!」
へ?近くなったの?
「んー、ダメだ!わかんない!」
「先生答えは?」
「正解は結婚指輪でしたー!」
え?結婚指輪?どっか惜しい要素ありましたっけ?
「彼ったらそれを私が見た後俺たち結婚しようとか言っちゃってさ!もう嬉しくて嬉しくて。また泣いちゃったわ。」
私の疑問を払いのけるかのように先生が話し続ける。
「え?いつ入籍するんですか?」
「今日の朝してきたわよ。」
急すぎるでしょ!え?なに?昨日結婚決めて今日入籍ですか。
「わぁ、先生おめでとうございます!結婚式の時は呼んでくださいね!」
楓も真紀もかなり興奮していた。話についていけてないのは私だけなのだろうか。
ピロピロピロ……ピロピロピロ……
急に静まり返る。まさか今電話が来るとは。でも早すぎる気が……。
「千紗!早くでないと!」
「そうだよ!ついでに入籍しちゃえ!」
私は2人を無視して電話を耳に当てた。
「もしもし、康太くん?」
「あ、千紗?もう東京着いちゃったよ。」
「え?ホント?なんか予定より早くない?」
「いや研究施設のみんなが、早く彼女に会いに行ってこい!って言うからさ……。早いやつに乗って帰ってきた。」
ハハッと笑って康太は言った。
「まぁ、とりあえずマンション戻るわ。大家さんにも挨拶しときたいし。」
「あ、うん!また後で。」
そう言うと私は電話を切った。
「なんか今日の電話は淡々としてたね。」
「これは破局の危機かな。」
「なんでそんな縁起でもないこと言うの!?」
先生が慌てて間に入る。
「まぁまぁ、電話できてよかったじゃない。」
「まぁ、そうですけど。」
私の顔がムスッとなっているのが、自分でもわかる。
キーンコーンカーンコーン
4時間目終了のチャイムがなった。
「あー、お腹空いたぁ。そーいえば今日、千紗のお母さんが弁当作ってくれたんだよね。」
そーいえばお母さん、随分と張り切ってたな。
「わぁ!見て真紀!この弁当凄くない?」
弁当の中には……肉!肉!肉!!
母はどこで2人が肉好きだということを知ったのだろうか。
「「ごちそうさまでした!」」
2人揃って食後の挨拶。え?私まだ食べてないんですけど?
「あれ?千紗たべないの?」
「あ、ホントだ!じゃあ私が食べてあげるよ。」
そう言いながら手を伸ばす真紀の手に端を一刺し。真紀は急な出来事に驚き、ベッドから転げ落ちた。
「千紗!なにすんのよー!」
「いや、真紀の手が悪いことしそうだったからしつけしただけだけど?」
「か、勝手に決めないでよ!」
誰がどう見ても決まっていただろ、あれは。
「えいっ!」
私と真紀の口論?の間に楓が私のおかずをとった。
「しまった!」
気付いた時には遅かった。私のステーキは楓の口の中に入っていた。
「ヤバウマヤバウマ!千紗のお母さん様々だねこりゃ。」
私の……私のステーキが……。
「そんなわかりやすい顔しないでよ千紗。まだあるんだしさ、それにダイエットと思えばいいじゃん!」
「え?私そんなに太ってる?」
「そーいえば少し丸くなったよね?ちょっと減量しないと康太くんに会った時にガッカリされるんじゃない?」
私にとってこの言葉は一番効いた。この瞬間、私にダイエットの神が降りてきた感じがした。
「私、痩せるわ。」
「あ、じゃあこの肉肉弁当食べれないね?」
え?
そう言うと楓と真紀は勢いよく私の弁当を食べ始めた。
ちょ、ちょっと待ってよ!少しくらい……少しくらい……。
「「ごちそうさまでした!」」
この2人には良心というものがないのだろうか。30秒ほどで平らげてしまった。
「ば、バカァ!」
私は2人に向かって叫んだ。私の…私の肉肉弁当がぁ!!
「あ、千紗ちゃんが泣いてる!そんなに嬉しかったのかな?」
どこに嬉しい要素があるんですか!
「はいはい、喧嘩しない。先生の少しあげるから。」
そう言うと先生は私の弁当箱に卵焼きとウインナーを置いてくれた。
「せ、せんせー!」
「まぁ、昨日のお礼だから遠慮しないで。」
この時だけ、この人が先生に見えた気がした。
「い、いただきます!……ゴフッ!」
辛っ!いや、なんか塩と醤油混ぜて飲んでる感じがする。
「それ美味しいでしょ?3日醤油に漬けておいて、塩に塗したウインナーと、その塩と醤油を全部使って作った卵焼き。私やっぱ料理の才能あるかも。」
今日入籍した先生の相手がかわいそうに思えてくる。
「先生、レシピ通りに作るようにした方がいいと思います。」
「千紗ちゃん何言ってるの?自分で何かを始めなきゃ、新しいものは生まれないでしょ?」
限度があるのよ限度が!!
「え?私は美味しいと思うけどなー。」
楓が横で呟く。とりあえず病院に連れて行ってあげたい。
「あ、ホントだ!先生才能ありますよ!」
真紀も珍しく先生を褒めた。
「千紗もしかして味覚障害なんじゃない?」
え?私が味覚障害なの?
「あ、そうかも…。今度一緒に病院行ってあげるよ。」
「あ、いや、大丈夫だから!私も美味しいって思うし。」
そう言いながら私はとてつもなく辛い卵焼きを口へ運んだ。




